和裁士の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「和裁士」とは
反物を使った和服の「仕立て」や、寸法やほころびなどの「直し」を専門に行う職人。
和裁士とは、一枚の長い反物から和服を仕立てる人、また和服のお直しをする人のことです。
和裁士になるおもな方法としては、「大学や専門学校で和装の技術を学ぶ」「和裁所に見習いとして入所する」「個人教室で和裁を学ぶ」などがあります。
技術を身につけた後は、和裁所の正社員として就職したり、フリーランスとして独立したりするのが一般的な働き方です。
和裁士には「和裁技能士」という国家資格があり、資格取得することで就職時に有利になったり、収入アップにつながったりします。
和服の需要が減る現代の日本では、和裁士を取り巻く現状はやや厳しいといえるでしょう。
しかし、仕立てが早くて丁寧な人や、難しいお直しができる人は、和裁所でも高く評価されています。
また、昨今はネットを活用し、フリーランスでオンラインで和裁の受注をしたり、別の仕事をしながら着付け教室や出張着付けサービスを副業にしたりと、工夫をしながら活動を続ける和裁士も増えています。
「和裁士」の仕事紹介
和裁士の仕事内容
反物を手縫いして着物に仕立て上げる仕事
和裁士とは、和服(いわゆる「着物」)を仕立てたり、お直しをしたりする人のことです。
一枚の長い布から成る「反物」を扱い、それを人間が着られるよう立体的な形にしていきます。
なお、着物は洋服のようにミシンで縫うことができないため、基本は一つひとつ手縫いで仕上げます。
専門的な技術を身につけて、その技術を駆使して仕事をする「職人」のような仕事といえるでしょう。
和裁士のお客さまとなるのは、茶道や日舞などの芸事をしている人から、日常的に着物を着ている人、あるいは成人式や結婚式などのハレの日に着物を着用したいと考える人などです。
和裁士の仕事内容の種類
和裁士の仕事内容は、大きく「仕立て」「お直し」「指導」の3つに分けられます。
「仕立て」は、上記でも紹介したように、反物から和服を仕立てることを意味します。
「お直し」は、和服のサイズを調整したり修復したりすることです。
和服は長く大切に着続ける人が多いため、加齢による体型の変化、あるいは経年劣化による生地のほころびなどに応じた、お直しのニーズも大きいです。
「指導」は、和裁士としての後継者を育てるために、見習いの人に向けて教室などで和裁の指導をすることです。
和裁士になるには
まずは和裁の知識・技術を学ぶ方法を考える
和裁士になるには、まずは「和裁」の知識・技術を学ばなくてはなりません。
和裁を学ぶ方法は、大きく以下の3通りが考えられます。
・大学や専門学校の和裁専門コースに入学する方法
・和裁所に「見習い」として入社し、現場で技術を習得する方法
・個人教室に通って指導を受ける方法
このように何通りかの方法がありますが、学習期間や内容、費用はそれぞれ異なるため、自分の目的に合った学習方法を選ぶとよいでしょう。
なお、和裁士は社会人になってから目指す人も多く、高齢になってからでもスタートできるのが魅力です。
見習いや弟子入りで技術を身につけていく人もいる
和裁士になったばかりの人は、まず「和裁所」と呼ばれる会社に勤めることが一般的です。
専門学校などで和裁をしっかりと学んだ人は、すぐに正社員として採用される可能性もあります。
一方、多くの和裁所には「見習い制度」があり、未経験者は見習いの立場で、実務を経験しながら技術を学んでいくことができます。
また、個人で仕立てをしている和裁士に弟子入りする方法もあります。
師匠とマンツーマンに近い形で接するため、技術をじっくりと見て覚えられることも大きなメリットです。
ただし、一般的に見習い期間の給与は非常に低いため、あくまでも「修業中」の意識をもっておくことが必要です。
和裁士の学校・学費
和裁を学べる大学や専門学校がある
和裁を学ぶための学校は、いくつかの種類があります。
まずは大学です。和裁専門コースは、女子大学や芸術大学の服飾関係学科にコースが設けられているのが一般的です。
大学では和裁について体系的に学び、幅広い知識を有した和裁のエキスパートを目指せます。
次に挙げられるのが専門学校です。
専門学校は「和服専門学校」や「きもの専門学校」などが候補となり、「和服」や「和装」に特化した勉強ができることが魅力です。
修学年数は2年制もしくは4年制が多いですが、師範学科(指導者を育てることを念頭に置いた学科)だと、5年制というところもあります。
こんほか、個人で和裁教室を開講している和裁士の下で技術を学ぶ方法もあります。
ただし、個人の教室は「趣味で和裁を楽しみたい人向け」のところが多いため、職業として和裁士を目指すには、やや不向きと考えておいたほうがよいでしょう。
和裁士の資格・試験の難易度
和裁士の国家資格「和裁技能士」
和裁士に関連する資格には、国家資格「和裁技能士」があります。
和裁技能士は難易度が高いほうから「1級」「2級」「3級」の3つのレベルに分かれています。
和裁士になるために、この資格取得が必須というわけではありません。
しかし和裁所の求人では、1級もしくは2級和裁技能士資格を持っていることを条件とする場合があります。
また、目安として1級和裁技能士を取れるくらいの技術とスピードがなければ、和裁士として独り立ちはできないといわれています。
資格取得を目指すことで、和裁士の求人に応募する際に有利なったり、顧客からの信頼を得やすくなったりといったメリットが考えられるでしょう。
3級や2級は所定の学校で学べば取得できる
和裁技能士のうち、1級に関しては、受験資格として「7年以上の実務経験」や「2級合格後、実務経験が2年(例外あり)」といった条件が掲げられています。
したがって、未経験から和裁技能士を目指すのであれば、まず「3級」もしくは「2級」を取得することになります。
3級は「半年以上の実務経験または所定の学校にて学科修了」、2級は「2年以上の実務経験または所定の学校にて学科修了」の条件を満たせば受験可能です。
和装系の専門学校のなかには、在学中に2級取得を目指したカリキュラムが組まれているところもあります。
和裁士の給料・年収
見習い時代は収入が低め、経験を積みながら収入アップを目指す
和裁士の給料・収入は、一般的には低めといわれています。
また、和裁士は固定給をもらっている人はそこまで多くなく、「着物を仕立てた分だけ報酬をもらう」というスタイルが一般的です。
そのため、収入を上げていくには経験を積み、技術を高め、短時間で多くの仕事を手掛けられるようになることが必要になってきます。
まだ経験が浅い和裁士は月収15万円前後となることもしばしばありますが、実力を高めていくと月収50万円ほどに達する人もいるといわれます。
和裁所で雇われる場合には、「和裁技能士資格」を取得することで手当がついたり、基本給が上がったりすることがあります。
なお、「見習い時代」は勉強しながら働くといった考え方になるため、簡単な和服を縫えるようになっても、月に数万円程度の収入になる可能性が高いと考えておいたほうがおいでしょう。
フリーランスの和裁士の収入は厳しい
フリーランスとして和裁士の仕事をする場合は、自ら1枚あたりの仕立て代・お直し代を設定します。
独立すると、お客さまからの依頼をどのように受けるかや、仕事をどのように増やしていくか、といったことも考えなくてはなりません。
着物の値段や仕立て代の相場はあまり変化しておらず、和服業界自体が縮小傾向にあり、今後も急激に収入を上げていくのは難しいでしょう。
年収150万円以下となり、他の仕事を掛け持ちで行っている人もいるのが現実です。
和裁士の現状と将来性・今後の見通し
現状は厳しいが、考え方によってはチャンスもある
和裁士という職業は、和服を着る人がいるからこそ成り立つものです。
海外での着物ブームなどもあって着物の魅力が見なおされつつある近年ですが、全体としては和服を着る人は少なくなっています。
「晴れの日」のために和服を購入する人もいますが、現在はレンタルが主流になっており、1から仕立てをするケースは減っています。
また、仕立てにしても、コストの安い海外工場への外注が増えており、和裁士を取り巻く状況は非常に厳しいと言わざるを得ません。
しかし、着物は日本が誇る文化のひとつであり、日舞やお茶などの芸事をする人にとっては、和服は不可欠なものです。
今後も和裁士の需要がゼロになることはないでしょう。
最近では、高齢で技術のある和裁士が次々と退職しているため、若手にとってはチャンスともいえます。
厳しい競争のなか、仕立てが早くて丁寧な人、難しいお直しができる人など、プラスαの付加価値を備えていくことが大切です。
若者が好む斬新なデザインの和服を仕立てられるなど、現代にふさわしい「オリジナリティ」も強みになるかもしれません。
和裁士の就職先・活躍の場
和裁所や呉服店に勤めるか、個人で仕事の依頼を受ける
和裁士のおもな勤務先は、和裁を専門に行う「和裁所」や「呉服店」などです。
各企業や店舗に正社員などの形で雇われる人もいますが、この職業は「個人事業主」、つまりフリーランスとして活動する人も多いことが特徴です。
フリーランスの場合、和裁所や呉服店、デパートなどと契約を結び、店舗や事務所を持たずに在宅で仕事をしている人も少なくありません。
インターネットなどで個人のお客さまを見つけて、直接仕事を引き受けるケースもあります。
また、仕立てやお直しの仕事をする傍ら、和裁教室や和裁学校の講師として働く人もいます。
和裁士の1日
雇用形態や働き方によって、1日の流れは異なる
和裁士の1日のスケジュールは、専業か兼業か、あるいは和裁所などに社員として勤めるか独立してフリーランスになるか、などによってさまざまです。
お客さまとの打ち合わせの時間もありますが、縫製の段階になれば、集中力を保ちながら黙々と作業を進めます。
ここでは、個人事業主として、自宅中心で仕事をしている和裁士の1日の様子を紹介します。
和裁士のやりがい、楽しさ
自分が手掛けた着物でお客さまが幸せな気持ちになってくれること
普段の和裁士は、ひたすら反物に向かい、どのような人が着るのかわからない着物をコツコツと縫う仕事をしています。
しかし、和裁士を長く続けていると、依頼人やクライアントと親しくなり、仕事が終わってから「仕立てていただいた着物を着てみました」「着付けがしやすくなり、着物での外出が楽しみになりました」などと感想をいただくことがあります。
自分が気持ちを込めて一針一針縫ったものを、誰かが身に付けてくれたと実感できたときに、大きなやりがいを感じられるでしょう。
また、和裁士は職人的な要素も強い仕事であり、技術力アップのための日々の地道な努力が大事になってきます。
難しい仕立てをきちんと仕上げられたときには、和裁士として一段と成長できた実感が湧き起こり、「さらに頑張ろう!」という気持ちになれるものです。
和裁士のつらいこと、大変なこと
身体への負担の大きさ、経済的な苦労など
和裁士は、一日中座りながら反物に向かい、縫製をはじめとした細かな作業を行う仕事です。
次第に姿勢が悪くなり、慢性的な腰痛や肩こり、目の疲れなどを訴える人は少なくありません。
症状が悪化すれば、身体の痛みや視力低下で和裁を続けることができなくなってしまうこともあり得ます。
こうした事態を防ぐために、日頃から身体のケアをしながら、できるだけムリのないように仕事を続けることが大切ですが、どうしても根を詰めて頑張ってしまう人もいます。
また、経済的な苦労を感じている和裁士もいます。
和裁士の給料は決して高いとはいえず、和裁士の仕事一本だけで食べて生ける人は一握りです。
和裁教室や着付け教室の講師、またはリサイクル和服のショップを経営するなどして、収入を確保している人も少なくないのが実情です。
和裁士に向いている人・適性
手先が器用で細かな作業を苦にしない人
和裁をする上で非常に大事なことのひとつは、「手先の器用さ」です。
和裁士として生計を立てていくためには、できるだけ短時間で、多くの作業を丁寧に進めていくスキルが必要になります。
また、縫製などは細かな作業の連続となるため、手先を動かすことを苦にせず、作業に没頭できるタイプの人に向いているといえます。
また、和裁士は基本的には「一人仕事」となります。
誰かが見ていなくてもさぼらずに、自分でスケジュールを管理しながら働かなくてはなりません。
同じような作業を繰り返しても飽きることなく集中できる人、目の前のやるべき仕事に黙々と取り組めるタイプの人は、和裁士に向いているといえるでしょう。
和裁士志望動機・目指すきっかけ
「和服」の伝統を守り、受け継いでいきたい
和裁士は、着物を作ることができる唯一の職業です。
人々に長く愛され続けてきた着物を扱うこと、和裁の伝統的な技術を守り受け継いでいくことに、大きな魅力を感じている和裁士は少なくありません。
もともと「茶道」や「日舞」などの経験があって、日常的に和装に触れていたという人が和裁士を目指すケースも多いです。
また、和裁士は女性がなることがほとんどです。
女性にとって「手に職」をつけやすい職種であること、経験を積めば一人で自宅でも仕事ができることなどに魅力を感じ、和裁士を志望する人もいます。
和裁士の雇用形態・働き方
企業に雇われるか、フリーランスになるか
和裁士は、和裁を専門とする和裁所などの企業の社員として勤務する人と、独立してフリーランス、あるいは自営業で仕事をする人に分かれます。
前者の場合、雇用形態は正社員のこともあれば、契約社員やアルバイトといったかたちになることもあります。
アルバイトの見習いとして入所し、経験を積むと正社員に登用されるケースも少なくありません。
後者の場合には、和裁所などから仕事の依頼を受けたり、お客さまから直接仕事を受注して働きます。
フリーランスは、自分でさまざまな雑務もこなさなくてはならず、多忙になりがちですが、そのぶん自由度の高いライフスタイルを送りやすくなります。
和裁士の勤務時間・休日・生活
個人で働く和裁士は自分で勤務スケジュールを決める
和裁士として和裁所に勤務する場合、1日の勤務時間は会社によって定められています。
通常、平日の日中8時間~9時間を会社で過ごし、会社のスケジュールに沿って働きます。
休みは多くの場合、週休2日制で、有給や夏期休暇、年末年始休暇、慶弔休暇なども取得できます。
一方、個人で仕事をする場合には、自分で勤務時間などをすべて決定することになります。
働こうと思えば1日何時間でも働けますが、和裁は神経を使う細かな作業のため、集中力が続くのは熟練のプロでも10時間ほどと、作業時間は会社勤めの人と変わらない程度です。
なお、和裁士はもともと和装に興味をもっており、休日は自分でも和装を楽しむという人が少なくありません。
和装を生かすために、自ら茶道や華道、着付けなどを習う人もいますし、呉服店のつてを辿って反物の工場を見学に行ったり、コネクションを作るために和裁士の会合に顔を出したりする人もいます。
和裁士の求人・就職状況・需要
全国各地の和裁所で求人が出る
和裁士の求人は、全国各地にある「和裁所」を中心に出ています。
和裁所とは、呉服屋などから反物やお直しの和服を預かり、和裁の仕事をする会社です。
現在、高齢の和裁士が続々と退職し、後継者が育っておらず和裁士の人数が激減していることから、若い人材のニーズはやや高まっています。
和裁士として一人前になるには時間がかかりますが、「見習いからでもいい」ということであれば、受け入れてくれる会社は見つかるでしょう。
見習いとして入所した場合、一定の勉強期間が過ぎると、社員登用試験を受けて合格すれば社員になれる和裁所が多いです。
フリーランスになる道もありますが、和装所に入ることで、先輩の仕事ぶりを見ながらさまざまな知識・技術を習得できるのは魅力的です。
和裁士の転職状況・未経験採用
まずはどのように和裁の技術を身につけるかを考える
和裁士は、若いうちにこの職業一本で突き進む人もいないわけではありませんが、いったん社会人になってから転職によって目指す人も多いです。
和裁士に年齢制限は設けられていないため、誰でも、何歳からでも目指せる職業といえます。
ただ、まったくの未経験から和裁士を目指す場合、まずは専門学校などで基本的な和裁の知識と技術を身につけたほうがよいでしょう。
未経験者を受け入れる和裁所に「見習い」として入所する方法もありますが、この場合の収入は、一定期間は無給、またはかなり低くなることがほとんどです。
和裁の専門学校のなかには、入学制のほぼ全員が未経験者で、20代以上で通う人が多くを占めているところもあります。
40代や50代から挑戦する人もいるため、まずは学校で和裁を学ぶことを考えてみるとよいでしょう。