女性騎手のキャリアパス・結婚後の生活
女性騎手のキャリアパス
もっとも有名な増田(牧原)由貴子騎手
日本の女性騎手で、もっとも有名なのは増田由貴子(旧姓牧原)さんでしょう。
増田さんは、JRA競馬学校を卒業するとき、もっとも優秀な卒業生に贈られる「アイルランド大使特別賞」を受賞しています。
同期には、現在も人気騎手の一人である福永祐一騎手がいましたが、競馬学校在学中から乗馬技術の高さで注目されていました。
1996年、細江純子さん、田村真来さんとともにJRA初の女性騎手としてデビューします。
デビュー戦のダイワアサヒ(中山競馬場)で4着に入ると、その2週間後のアラビアンナイト(中山競馬場)で初勝利をあげ、デビュー年には9勝をあげました。
その後も、騎乗数が少ないながら勝利を重ね、JRAのテレビCMにも出演する有名騎手となりました。
デビュー3年目に落馬事故に巻き込まれ、1年以上休養するというアクシデントもありましたが、デビューから9年で34勝をあげ、競馬界で存在感を示しました。
現在も10人近くの女性騎手が活躍
2013年に、増沢さんが引退して、JRAには一時女性騎手がいなくなりましたが、2016年に藤田菜七子騎手が誕生しました。
藤田騎手は2018年に増沢さんが持っていたJRA女性騎手の最多勝利数を更新する35勝目をあげました。
快進撃は続き、2020年4月にはJRA通算100勝を達成しています。
現在JRAに在籍している女性騎手は藤田騎手ただ一人です。
かつては、全国の女性騎手を招待して女性騎手だけのレースも行われていましたが、それも2011年以後は開催されていません。
それでも地方では、ばんえい競馬も含め、10人近くが活躍しています。NAR(地方競馬全国協会)グランプリの騎手部門に「優秀女性騎手賞」があり、毎年表彰されています。
競馬界は、男性の多い社会で、少し前まで弟子入りして育ててもらうことが当たり前の世界でした。
そのため、女性の進出や地位は高いといえず、女性騎手の場合、なかなか騎乗機会に恵まれないという問題があります。
たとえば、騎乗技術が高いと評判だった増田さんは、デビューから3年間の騎乗回数が146回(9勝)、177回(11勝)、144回(3勝)でしたが、同期の福永祐一騎手は518回(53勝)、692回(62勝)、635回(52勝)と大きな差がついていました。
女性騎手への負担重量優遇制度
21世紀になって、一般社会や他の公営ギャンブルでも女性の進出が進んでいますので、競馬界でも、少しずつ意識改革は進んでいます。
地方競馬場には、女性騎手に対して、レース時の負担重量を減量する特典を与えているところもあります。
重賞レース以外で、平地競走では1キログラム、ばんえい競馬では10キログラムが優遇されています。
中央競馬にも、2019年から女性騎手の負担重量優遇制度が誕生しました。
女性の見習い騎手は50勝以下だと4kg、100勝以下は3kgの減量があり、男性と比べても優遇の度合いが高くなりました。
さらに、見習い騎手ではない女性騎手にも2kgの減量が設けられています。
こうした制度は、現在活躍中の藤田菜七子騎手を後押しするだけでなく、今後JRAを目指す女性騎手にとっても良い効果を与えそうです。
20代で正社員への就職・転職
女性騎手の結婚後の生活
結婚後の女性騎手は、家庭を支えるために現役引退する人が多いものの、決してそれ引退以外の選択肢がないわけではありません。
たとえば、名古屋競馬場で騎手として活躍している宮下瞳さんは、2005年に名古屋競馬場所属の小山信行騎手と入籍を発表しました。
その後も騎手として活躍を続け、2009年には通算 600勝を達成します。
活躍の場は名古屋だけにとどまらず、2009年には短期免許を取得し韓国へ。
翌2010年には40勝をあげて、韓国のリーディングジョッキーランキングで総合11位相当になるなど活躍されました。
2011年に地方通算626勝という輝かしい成績と共に引退し、2012年に第1子となる長男、2014年には次男を出産しました。
ふたりの子育てに奔走していた宮下さんですが、3歳になった長男から「ママが馬に乗るのを見たい」と言われて、復帰を決意します。
厩務員として競馬場の戻り、馬の世話をする傍らで、調教に騎乗して感を取り戻す作業を始めます。
家事と厩務員としての作業の傍らで騎手免許試験のための勉強をしたという宮下さんの当時の睡眠時間は2~3時間だったそうです。
努力が実を結び、2016年に5年ぶりに現役復帰。
引退した女性騎手が復帰するのは日本で初めての出来事でもありました。
2019年には地方競馬通算800勝を達成し、翌2020年には日本の女性騎手初となる、地方通算1万回騎乗を達成しました。
一度目の引退前に5度受賞していた、NARグランプリ優秀女性騎手賞も2017年、2018年に2年連続で受賞するなど、活躍は続いています。