ビール業界(読了時間:12分55秒)

ビール業界とは

ビール業界とは、ビールだけではなく、ノンアルコールビールや発泡酒、いわゆる新ジャンルを製造・販売する企業全体のことを指します。

日本国内では、アサヒ、キリン、サントリー、サッポロの大手4社がビール市場のほとんどのシェアを占めていると言われています。

世界シェアで見るとベルギーのアンハイザー・ブッシュ・インヘブやオランダのハイネケンなどが台頭しており、これら世界シェア上位のメーカーの多くは買収により事業を拡大している状況です。

そして、近年は若者のビール離れや、ビール需要が高かった世代の高齢化などによって国内におけるビールの市場規模は減少傾向が続いており、サントリーによるアメリカのビーム社買収など、国内メーカーにおいても海外市場へ活路を見いだそうとする動きが高まっています。

また、麦芽比率などで異なるビール類の酒税を2026年までに一本化する調整も進められているため、販売価格に応じた商品開発なども課題となっています。

ビール業界における職種としては、原料調達、製造、研究開発、マーケティング、営業などが代表的です。

ビール業界の役割

ビールに限らず酒類全般にいえることですが、お酒は古来から世界各地で人々のコミュニケーションツールや楽しみのひとつとして親しまれ、また、宗教儀式になどにも用いられてきており、今後も人々の生活に密接に関わり続けるものであるといえます。

一方で、未成年者の飲酒や飲酒運転、大量飲酒によるアルコール依存症など、お酒を原因とする社会的な問題が発生している現実もあり、その原因となっているお酒を販売しているメーカー側にもまた一旦の責任があると言わざるを得ません。

そのため、ビール業界では、人々の生活を豊かにするため、品質や価格などより消費者のニーズに合った商品の開発を行うことと同時に、適切な飲酒方法の啓蒙や、ノンアルコールやローアルコールビールのさらなる開発など、不適切な飲酒を防ぐための社会的な取り組みも求められています。

ビール業界の企業の種類とビジネスモデル

国内大手メーカー

日本のビール市場では、アサヒ、キリン、サントリー、サッポロの4社がシェアの約99%を占めており、残りの約1%を沖縄県を本社にもつオリオンビールが占めている状況です。

なお、オリオンビールについては沖縄のビール市場では約半数以上のシェアを誇ると言われています。

各社が取り扱う商品はビールのほかに、発泡酒、新ジャンル、ノンアルコールビールがあります。

酒税が高く製造コストもかかるビールをいわゆる「プレミアムビール」として展開したり、糖質オフといった健康志向の新ジャンルを展開するなど、各社ともに縮小傾向にあるビール市場の中でシェアを伸ばすためにさまざまな商品展開をしている状況です。

国内では、各商品の用途別のシェアとしては、スーパーマーケットなどの小売店で販売される家庭用が約80%、居酒屋など飲食店で販売される業務用が約20%となっており、自社の商品を扱ってもらえるよう、営業担当者はこれらの販売店に営業を行います。

また、海外事業においては、買収したメーカーに自社の経営方針やノウハウを伝えたり、経営戦略を打ち出すなどしながらメーカーの企業価値を高め利益に繋げたり、自社ブランドの商品を現地で販売するなどの展開を行っています。

地ビールメーカー

1994年4月の酒税法改正まで、ビールの年間最低製造数量は2,000キロリットル以上とされており、事実上ビールの製造は大手メーカーのみ可能でした。

しかし、酒税法改正によってビールの年間最低製造数量が60キロリットルとなり、伝統的な製法や原料に地域特産品を使うなどのオリジナリティのあるビールを製造する小規模なメーカー、いわゆる「地ビールメーカー」が登場し始めました。

現在、全国に存在する地ビールメーカーは200社以上にのぼるとも言われており、各社は自社販売のほか、スーパーやコンビニエンスストアでの販売、飲食店向けに出荷するなどの展開を行っています。

なお、地ビールメーカー内での出荷量としては全国初の地ビール醸造所として知られるエチゴビールと「常陸野ネストビール」で知られる木内酒造が他社を大きく引き離している状況です。

ビール業界の職種

ビール業界では、原料の調達や店舗への営業など、タイプの全く異なる幅広い職種が存在しています。

以下では、そんなビール業界特有の職種についてご紹介します。

マーケティング

市場調査やさまざまな分析を行い、新商品の開発や既存商品の仕様変更、ブランディング戦略の立案などを行います。

商品の味だけに限らず、パッケージやネーミングなど全ての開発に携わるため、会社の内外を問わず多くの人と関わる仕事です。

開発した商品が自社の顔となるため、いわゆる花形職種である一方、商品によっては自社のブランドイメージを大きく変えるため、非常に責任のある職種でもあります。

研究開発

商品の評価や分析を行い、時に原料となる大麦やホップなどの品種を開発したり、製造工程における技術の開発などにも携わる職種です。

担当する仕事によっては分析機器によるチェックだけではなく、試飲など自らの感覚で分析を行う場面も多く、自身の体調にも気を遣う必要があります。

マーケティングによって立案された商品を具現化するため、マーケティングチームとの関わりも多い部署です。

原料調達

商品を作る上で必要な原料を求め、世界各地に赴いて買い付けを行います。

また、原料の買い付けだけではなく、品質の安定化を図るため、自社の契約農家に栽培方法を指導する場合もあります。

質の良さを求めることも重要ですが、価格の変動などもある中でコスト面も考慮しながら、商品を調達する必要があり、高い情報収集能力やコミュニケーション能力が求められる職種です。

製造

マーケティングや研究開発によって設計されたものと同様の商品を、実際に市場に流通させるために大量に製造する仕事です。

醸造過程においては、単に設計されたものを大量に製造すれば良いというわけではなく、原料や酵母の品質にはばらつきがあるため、同じ味の商品を製造するためにはさまざまな調整を行う必要があります。

また、パッケージングの過程においては、醸造された商品の品質を落とすことなく容器に充填する技術や、徹底した品質管理体制が求められます。

営業

スーパーなどの小売店や飲食店へ自社の商品を売り込む仕事です。

取引先との商談はもちろんのこと、売り場に出向き、売り場づくりの提案を行ったり、実際に売り場作りを行うこともあります。

ビール業界は4〜5社間でシェアを争う厳しい世界ですが、自身の頑張り次第で売上が数字となって表れ、さらにメーカー全体の業績にもつながるため、やりがいを感じやすい職種であるといえます。

ビール業界のやりがい・魅力

多くの人に選ばれる商品に関われる仕事

国内におけるビール市場は縮小傾向にあるといわれるものの、それでもやはりビール業界が展開するビール、発泡酒、新ジャンル、ノンアルコールビールは、私たちの生活に密接に関わっているもののひとつです。

そのため、自社の商品を購入している人や、お店で注文する人を見掛けることも多く、日常的に自社の商品が選ばれていることを実感できる点がビール業界の大きな魅力です。

高給との定説もある待遇面

一般的に、食品業界の中でもビール業界は高給といわれており、社員の会社に対する満足度は高く、比離職率も低い傾向にあります。

アサヒ、キリン、サッポロ、サントリーの大手4社の場合、平均的な年間給与は900万円前後となっており、40代の年間給与が1,000万円超、50代で1,200万円超といったケースも珍しくないようです。

時代のニーズに応える業界

発泡酒や新ジャンルの登場など、ビール業界は時代のニーズに応えるための努力を常に続けている業界であるといえます。

例えば、糖質を気にする人が増え始めたと同時に「糖質オフ」の商品を打ち出したり、最近ではコストパフォーマンスが重視される時代の流れに乗っていわゆるストロング系の商品を発売し「安く早く酔いたい」という人からの支持を得ています。

若者のビール離れが囁かれる昨今ですが、今後はどんな商品で時代のニーズに応えるのか、常に新しい切り口が期待されている業界です。

ビール業界の雰囲気

お酒をお扱う業種ということで、やはりお酒好きの人やお酒の席が好きという人が多いようです。

そのため、所属する部署や地域によって差はあるようですが、業界全体の傾向として社内での懇親会や飲み会の機会も多い印象です。

また、特に営業系の職種の場合は仕事の延長として社外の人とお酒を飲む機会があったり、市場調査としてお店にお酒を飲みに行くこともあります。
このように、仕事内容によってはお酒が強い人の方が向いている職種もありますが、お酒に強くないと働けないというわけではありません。

ただ、お酒に関わる機会が多いだけに、お酒が全く飲めない人にとってはつらく感じることもあるかもしれません。

飲み会など、社員同士のコミュニケーションがとりやすい環境であるがゆえに、業界全体としては活気があり風通しのよい雰囲気です。

ビール業界に就職するには

就職の状況

国内大手ビールメーカーでは、アサヒ、キリン、サントリー、サッポロ、オリオン全ての企業で例年新卒採用の募集が行われています。

総合職として一括で採用を行い、入社後に配属先が決定される仕組みをとっている企業もあれば、事務系職種、技術系職種など、大まかな職種の枠をあらかじめ決めて募集を行っていたり、さらに細かい職種別に募集を行っている企業もあります。

いずれの企業も知名度が高く、特にアサヒ、キリン、サントリー、サッポロの4社においては待遇面の評判の良さが知られているため、いずれの企業も採用率倍率は約50~100倍以上と高倍率の傾向にあるようです。

なお、地ビールメーカーでも新卒採用を行っている企業はあるものの、大手ビールメーカーと比較するとその数は非常に少ない状況です。

就職に有利な学歴・大学学部

大手ビールメーカーでの就職を希望する場合は、基本的には大卒または大学院卒であることが条件となります。

ただし、メーカーによっては高等専門学校の専攻科を卒業している人や、短大卒、専門学校卒を対象としているケースもあります。

事務系や営業系職種を希望する場合、基本的に学歴は全学科が対象となります。

一方、技術系職種のうち商品開発や研究系の職種では、生物・化学系学科、農学系学科、薬学系学科などが対象となっています。

また、エンジニアリング系の職種では、工学系学科、理学系学科、電気工学系学科、電子工学系学科、機会工学系学科などを対象としていることがほとんどです。

このほか、国内外問わず転勤が可能なこと、普通自動車免許を持っていることも条件としている企業もあります。

就職の志望動機で多いものは

ビール業界を志望する人は、やはりビールが好きであったり、お酒が好き、お酒の席が好きといった人が多いといえます。

また、大手ビールメーカーはいずれも知名度が高く、企業としてのブランド力や安定感、待遇面の良さ、働きやすさなども志望理由として多く見られます。

さらに、サントリーの創業者、鳥井信治郎の口癖であり、現在の企業理念でもある「”やってみなはれ”の精神」のように、大手ビールメーカーではそれぞれに企業理念が明確に打ち出されており、そういった企業の考えに惹かれ、志望する人もいるようです。

国内でビールメーカーでの就職を希望する場合、基本的にアサヒ、キリン、サントリー、サッポロ、オリオンのいずれかを志望することになります。

そのため、志望動機を考える際には「なぜ他社ではないのか」という点を明確にすることが必要です。

ビール業界の転職状況

転職の状況

キャリア採用や契約社員採用という形で中途採用枠の募集を行っているメーカーもありますが、募集数としては少ない状況です。

これには、大手ビールメーカー各社における離職率の低さが関係していると考えられます。

なお、アサヒビールの中途採用については応募者が自らのキャリア情報を「MIIDAS」と呼ばれるサービスにあらかじめ登録し、応募者に適したポジションがあった場合にはオファーが受けられる、という体制がとられています。

転職の志望動機で多いものは

新卒の場合と同様に、転職の場合もやはりビールが好き、お酒が好き、お酒の席が好きといったことが基本的な志望動機となります。

その上で、転職の場合は、ビール業界の待遇面の良さや離職率の低さなども志望動機に大きく影響していると考えられます。

中途採用でビール業界を目指す場合、新卒の応募者よりも社会人経験が長く、ビールとの関わりも長いため、社会人として過ごしてきた中でのビールとのつながりをより強くアピールすることもできるでしょう。

転職で募集が多い職種

ビール業界においてはそもそもの求人数が少ない中途採用枠ですが、募集職種は営業系や事務系、マーケティング系、エンジニア系、製造系など、その時々によってバラつきがあるようです。

そのため、例えば研究系など特定の職種でのみビール業界で働きたいという場合は、就職活動が長期にわたる可能性もあります。

ビール業界で中途採用枠での就職を希望する場合は、アサヒビールのような採用システムを利用したり、日頃からコーポレートサイトや転職サイトなどをチェックする習慣をつけておくことをおすすめします。

どんな経歴やスキルがあると転職しやすいか

新卒採用では総合職や事務系職種、技術系職種といった大枠での募集となりますが、中途採用の場合は各メーカーともに職種をかなり限定して募集を行うことがほとんどです。

そのため、例えば募集職種が「外食コンサルタント」であれば飲食店での一定期間の現場経験が求められますし、「機械系エンジニア」であればエンジニアとしての実務経験があったり、危険物取扱者などの業務に関連した資格保有者が歓迎されます。

なお、いずれの職種においても基本的には転勤可能な人材が求められています。

ビール業界の有名・人気企業紹介

アサヒビール

1889年創業、2011年設立。売上高9,072億1,800万円(2018年12月時点)、従業員数5,960人(2018年12月時点)。

1949年に大日本麦酒株式会社の分割により設立されました。

1987年に発売した「アサヒ スーパードライ」は、それまで日本のビール市場にはなかった「辛口」というオリジナリティから大ヒットし、現在もなおロングセラー商品として多くの人から支持されています。

アサヒビールホームページ

キリンビール

1907年創業、2007年設立。売上高6,993億8,200万円(2018年12月時点)、従業員数5,041人(2019年1月1日時点)。

歴史が長く、日本におけるビール事業の草分け的存在です。

「キリンラガービル」や「キリン一番搾り生ビール」「麒麟淡麗〈生〉」など、多種類の商品を発売しており、2000年までの47年間は常にトップシェアを独走していました。

キリンビールホームページ

サントリービール

1899年創業、1921年設立。売上高2兆7,341億9,100万円(連結・2017年12月時点)、従業員数712人(2018年10月1日時点)。

1928年にビール事業に進出するも、1930年には撤退し、1963年に再び市場へ進出しました。

1994年に発売した発泡酒「ホップス」のヒットが、現在の発泡酒市場を作るきっかけとなっています。

「ザ・プレミアム・モルツ中瓶」は国産ビールで初めてモンドセレクション最高金賞を受賞しました。

サントリービールホームページ

ビール業界業界の現状と課題・今後の展望

競争環境

国内においては、今後も主にアサヒ、キリン、サントリー、サッポロの大手4社によるシェア争いが続くことが予想されます。

しかし、日本のビール市場は縮小傾向にあるため、新製品の開発などによる国内でのシェア争いは継続しつつも、今後はさらにM&Aや輸出を含む海外における事業展開が加速するでしょう。

国内でこそ圧倒的なシェアを誇っている国内のビールメーカーも、現状海外におけるシェアはまだまだ低いため、現在業績が好調な東南アジアを中心に、海外メーカーとの競争も避けられない状況です。

最新の動向

ビールの開発には味覚や嗅覚など人間の感覚が非常に重要ですが、試作ビールの開発には熟練した技術が必要となるため、現状は時間的・人的に大きな労力を要しています。

そんな課題を解決すべく、キリンは三菱総合研究所と共同でビールの商品開発の技術者を支援する人工知能(AI)の開発に着手しており、将来的には試作ビールの開発期間の短縮化が可能となる見込みです。

また、アサヒビールでは製造過程で発生する消費電力やCO2排出量を削減するために「PIE煮沸法」という煮沸システムを導入し、省エネを実現。

多様化するニーズへの対応や環境への配慮など、各方面で最新のテクノロジーが利用されています。

業界としての将来性

国内でのビール市場は縮小傾向にあるものの、プレミアムビールや健康を意識したビール、クラフトビールなど、ビールの多様化は進んでおり、今後はさらにさまざまなニーズに応じたビールが開発されることが予想されます。

また、アサヒ、キリン、サントリー、サッポロの大手4社については、食品や飲料、サービスなど、ビール事業以外の事業も多方面に展開しており、例えばビール酵母を使用したサプリメントのように、他領域との複合的な開発も期待できます。

さらに、海外においてはまだまだ事業拡大の余地があるため、海外で業績を伸ばす可能性も十分に考えられるでしょう。

職業カテゴリー