刑務官の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「刑務官」とは
刑務所など法務省管轄の刑事施設に勤務し、施設の運営や警備、受刑者の指導を行う。
刑務官とは、刑務所や拘置所など、法務省管轄の刑事施設に勤務する国家公務員のことです。
各種施設の運営管理と保安業務を担当し、収容者の適切な生活管理・教育指導を通じて、平穏で秩序ある施設内の生活を手助けします。
また、各種教育や訓練によって、受刑者の速やかな社会復帰と更生を手助けする職業です。
刑務官には、公的な任務に携わるための良識や人間性、一定の知識教養と運動・身体能力を所持していることが期待されます。
刑務官採用試験で筆記試験や人物試験などを受けて、合格し、採用された人だけが刑務官として働けます。
定員を超える受刑者を抱えている刑務所もあり、刑務官は男女問わず需要のある職業といえます。
ただし心身ともにハードな仕事であるため、目指すには強い使命感や覚悟が必要です。
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「刑務官」の仕事紹介
刑務官の仕事内容
受刑者のスムーズな社会復帰をサポートする
刑務官とは、刑務所や拘置所、鑑別所などの運営や警備に携わり、受刑者が更生し社会復帰するための指導などに携わる国家公務員のことです。
刑務所における仕事内容は多岐にわたります。
・受刑者の健康管理や刑務作業の監督・技術指導
・面会所や作業所への引率
・収容されている房の巡回
・各種事務手続き など
刑務官は、受刑者がスムーズに社会復帰できるよう、その生活全般をサポートします。
刑務所での生活を通して、受刑者に規律正しい生活態度や責任感を身につけさせることは、刑務官の大事な役割の一部です。
もし職業訓練も兼ねた刑務作業中に規律違反を犯す者がいれば厳しく指導しますし、やる気がある受刑者には資格や免許取得のサポートをおこなうこともあります。
生活指導やカウンセリングに携わることも
受刑者にはさまざまなバックグラウンドをもつ人がおり、その年齢もまちまちです。
ときには受刑者の悩みを聞き、相談に乗ったりカウンセリングをおこなったりするのも刑務官の大事な役割です。
とくに少年刑務所や鑑別所などで未成年を相手にする場合は、精神的なケアや教育の比重が大きくなります。
また、拘置所では、まだ刑が確定していない被疑者や被告人を相手にするため、逃亡や証拠隠滅を阻止すること、裁判所へ護送することがおもな仕事になります。
刑務官になるには
男女別の刑務官採用試験を受験するのが一般的
刑務官になる方法はいくつかありますが、最も一般的なものは「刑務官採用試験」を受験することです。
刑務所では男女別々の施設に受刑者が収容されているため、採用試験は男性を対象とした「刑務A」と、女性が対象の「刑務B」に分けて実施され、配属先も性別によって異なります。
通常の試験の年齢要件は「17歳以上29歳未満」ですが、「刑務(社会人)」区分の年齢要件は受験年の4月1日時点で「29歳以上40歳未満」です。
刑務官採用試験に合格すると「採用候補者名簿」に名前が載り、各施設で面接が実施されて採用が決定する運びです。
なお、刑務官としての採用後は、まず「初等科研修」によって刑務官としての基本的な職務常識や法令の知識、矯正護身術などを身につけ、その後、各施設へ配属されます。
その他の採用ルート
刑務官採用試験では、男女ともに剣道または柔道の有段者を対象とする「武道」の採用枠もあります。
このルートで採用された人は、武道訓練の指導者や要員としての働きを期待され、警備隊に入ることが多いです。
このほか、「国家公務員総合職採用試験」を受けて法務省に配属され、法務省職員から刑務官になる道も考えられます。
しかし、この場合は基本的に幹部候補として採用されるため、現場で勤務することはほぼありません。
刑務官の学校・学費
刑務官は学歴が問われない
刑務官採用試験は、受験資格として年齢要件があるものの、学歴についての制限はありません。
試験の難易度は「高校卒業程度」ですが、年齢を満たしていれば中卒でも受験できます。
したがって、さまざまな学歴の人が刑務官になっていますし、学校でどのような勉強をしてきた人でも、刑務官採用試験に合格できる可能性があります。
刑務官採用試験の難易度は、ほかの公務員試験と比べると易しいほうとされ、しっかりと試験対策をしていれば、独学でも十分に合格可能です。
予備校などに通って専門の対策を講じる必要性はあまりないといえるでしょう。
刑務官の資格・試験の難易度
きちんと対策をすれば合格できる
刑務官採用試験は、ほかの公務員と比較しても、そこまで難しいものではないといわれています。
とはいえ、全体の合格倍率は5倍から10倍前後ですし、受験する地域によっては高い倍率になるため、事前に情報を集めてきちんと対策しましょう。
採用人数は男性のほうがかなり多くなっていますが、受験者数も男女で異なるので、採用倍率に男女間の差はほとんどありません。
なお、社会人区分で受験する場合は、男女ともに一般の区分と比べて採用枠が非常に少ないため、より成績上位での試験突破を目指す必要があります。
身体測定や運動能力検査の準備もしっかりと
刑務官採用試験では、第1次試験で教養試験と作文試験が、第2次試験では面接による人物判定や身体測定、運動能力検査などが実施されます。
筆記試験の成績がいくらよくても、持久力や瞬発力などの項目がどれか一つでも基準に満たないと不合格になってしまいますので、勉強はもちろん、しっかりと体力づくりにも励みましょう。
また、健康的であることも求められるため、日頃から健康管理に注意しておくことが大切です。
刑務官の給料・年収
国家公務員の公安職としての俸給表が適用される
刑務官の給料は、国家公務員の「公安職俸給表(一)」が適用されます。
この俸給表では、職務の特性上、事務などに携わる行政職の職員よりも12%程度高めに設定されています。
実際の給料は勤続年数や階級によって異なりますが、刑務官全体の平均年収は600万円ほどとされており、ベテランになると年収800万円を超える人も出てきます。
ほかの国家公務員と同じように、長く勤務すればするほど少しずつ昇給し、安定した給料が得られるのが特徴です。
また、刑務官は国家公務員としての手当(扶養手当、住居手当、通勤手当、期末・勤勉手当、超過勤務手当など)が支給されるほか、国家公務員共済組合に加入することで、さまざまな給付を受けられます。
待遇は充実しているといえるでしょう。
努力次第で大きな収入アップも望める
刑務官の職場は階級社会であり、採用後、初等科研修を修了すると「看守」という階級に任命されます。
その後は昇進によって階級が上がっていきます。
昇進の条件は勤続年数や勤務成績のほかにも、「中等科研修」や「高等科研修」などを修了することや、昇進試験に合格することなど、いくつかの方法があります。
基本的には年功序列ではあるものの、本人の熱意と努力次第でさらに大きく階級を上げることができ、収入アップにもつながります。
刑務官の現状と将来性・今後の見通し
時代を問わず必要とされている職業
法務省の調べによれば、刑務所と拘置所に収容されている人数は1日平均で約5万人です。
刑務所の過剰収容は一時に比べれば緩和されたものの、依然として定員を超える受刑者を抱えている刑務所は数多くあります。
刑務官の人数が不足している施設も存在し、刑務官一人ひとりの業務負担が課題となっています。
受刑者と向き合う職務の特性を見ても、刑務官の仕事は心身ともに非常にハードであることは間違いありません。
若手刑務官の離職率も高めとされているため、今後も新規の刑務官が採用されるチャンスは十分にあるでしょう。
ただし、この仕事を目指すのであれば、使命感や責任感はもちろん、厳しい状況にも屈しない強い心が求められます。
刑務官の就職先・活躍の場
活躍の場は全国各地にある
日本には全国に69箇所の受刑者施設、8箇所の拘置所があり、17,000人ほどの刑務官が勤務しています。
「初等科研修」と呼ばれる研修を終えた新任刑務官は、本人の意向や各施設の欠員状況などを踏まえて、受験した地域にあるいずれかの刑務所や拘置所などに配属されます。
なお、刑務官は「法務省に所属する国家公務員」の身分にあたるため、引っ越しを伴う隔地転勤が発生します。
受刑者や同僚との癒着・馴れ合いを防ぐためにも、刑務官として働いている間は、数年単位で別の地域の施設への異動を繰り返すケースが一般的です。
刑務官の1日
24時間勤務する日もある
刑務官の1日の流れは勤務先の施設によって若干の違いがありますが、基本的に日勤の「昼間勤務」と、当直にあたる「昼夜間勤務」を繰り返します。
一例として、昼夜間勤務の1日を紹介します。
刑務官のやりがい、楽しさ
犯罪者を更生に導く社会的意義の大きな仕事
受刑者と向き合う刑務官は、治安維持のための非常に重要な役割を担っています。
いくら警察が必死の捜査で犯人を捕らえ、司法が適切な刑罰を与えても、刑務官が受刑者の更生に失敗してしまったら犯罪者は再犯を繰り返すことになり、社会の治安は一向に改善しません。
警察・検察・裁判の努力を無駄にしないためにも、受刑者をなんとかして立ちなおらせることが刑務官の指名です。
社会的な意義・責任を背負い、厳しさもある仕事ですが、その分だけ大きなやりがいがあるといえるでしょう。
刑務官のつらいこと、大変なこと
刑務官一人あたりの負担が大きくハードワーク
刑務官の仕事は、一般の人から見ると特殊なもので、しかも精神的な負担が大きいです。
罪を犯した者と向き合い、常に監督していかなければならないプレッシャーは、想像以上に大きなものとなります。
ときには刑務所内で事件を起こす受刑者に出会うこともありますし、たとえ自分が望まなくても、仕事のために受刑者に厳しい指導や懲罰を与えなくてはならない場面にも出会うでしょう。
精神的な厳しさと同時に、刑務官は肉体的な負担も抱えがちです。
夜勤も入りますし、配属先によっては数多くの受刑者を抱えており、刑務官一人当たりの負担が非常に重くなっているのが現状です。
心身ともにタフでないと、なかなか続かない仕事といわれています。
刑務官に向いている人・適性
厳しい縦割り社会になじめる人
刑務官は、自衛隊や警察官などと同じく、保安・警備・秩序維持を担う職種の一つです。
このため、刑務官の組織文化は軍隊などと非常に似通った部分があり、階級や年功序列による「縦割り社会」の風潮が強くあります。
刑務官になる人は武道経験者や運動部出身者も多く、体育会系特有の上下関係の厳しさに似た厳しさを感じる人もいます。
こうした職場環境になじめるかどうかは、刑務官として働いていくうえで非常に重要です。
刑務官は、人によってはっきりと向き不向きが分かれる職業といえるでしょう。
ミスマッチをできるだけなくすためにも、事前に刑務官の仕事や職場環境について、できるだけ情報を集めておくことをおすすめします。
刑務官志望動機・目指すきっかけ
間違いを犯した人の手助けをしたい
刑務官を目指す人の多くが、「受刑者の更生を手助けしたい」といった思いを抱いています。
一度間違いを犯してしまった者に「やり直す機会」を提供する仕事だからこそ、自分自身が挫折した経験をもつ人、心に迷いを抱えたことがある人なども、刑務官の仕事に興味をもつことがあります。
また、武道経験があるなど、体力を生かせる仕事がしたいと考えて刑務官を目指す人も少なくありません。
目指すきっかけは人それぞれですが、刑務官という仕事に対する熱意、覚悟をしっかりと伝えられるように準備しておくことが大切です。
刑務官は決して華やかでも楽な仕事でもないため、採用試験でも、ハードな職場に耐えられるだけの精神力があるかどうか、言い換えれば「すぐに辞めそうでないか」が厳しく見極められます。
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刑務官の雇用形態・働き方
数年ごとの異動がある
刑務官は、法務省矯正局の国家公務員として働きます。
刑務官に特有の事情として、階級によって転勤する頻度と転勤先に変化が生じる点が挙げられます。
新人や若手の下級職員は8年~10年おきに異動するケースが一般的で、国家公務員のなかでは転勤する回数はかなり少ないといえます。
転勤先についても前勤務地の近辺や同管区内が多く、引っ越しなどの負担は軽めです。
しかし、幹部や上級職員になると、異動は2~3年ごとの短いスパンとなり、転勤先についても管区に関係なく全国の施設が対象になります。
ベテランになるほど、たびたび生活スタイルが変わるなど大変な思いをしている人もいます。
刑務官の勤務時間・休日・生活
シフト制で日勤と24時間当直にあたる
刑務官の勤務時間は、他の公務員と同じように1週間につき38時間45分と定められていますが、日によって「昼間勤務(日勤)」と「昼夜間勤務(当直)」を繰り返すスタイルが一般的です。
昼間勤務の場合の勤務時間は通常7:00~17:00、昼夜間勤務の場合は7:30~翌日の7:30となり、途中に休憩を挟みながら業務にあたります。
なお、どちらの勤務体系でも、勤務中は休憩時間であっても施設の外に出られません。
休日については週休2日制です。
勤務日は、刑務所などの閉鎖的な空間で長時間過ごしてストレスが溜まりやすい分、休みの日は趣味に没頭したり、家族と楽しく過ごしたりと、しっかりとリフレッシュしている人が多いです。
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刑務官の求人・就職状況・需要
求人数は毎年安定している
現在、日本全国の受刑者施設で働く刑務官の数は、17,000人ほどです。
時代が変わっても受刑者数が大きく変わることは考えにくく、また刑務官が不足している施設もあることから、刑務官は今後も安定した需要が見込めるでしょう。
実際、毎年の新規採用人数は、男女合計1,000人前後で安定的に推移しています。
ただし、刑務官の採用は「関東甲信越」や「東北」「近畿」といったエリア別に実施されるため、地域によって採用人数にはかなりばらつきがあり、競争倍率も異なります。
人事院が毎年6月頃に発表する受験案内を参考にして、採用人数の多いエリアを受験することも、刑務官になるための有効な手段といえるかもしれません。
刑務官の転職状況・未経験採用
社会人を対象とした採用枠も若干ある
刑務官採用試験の刑務Aおよび刑務Bの区分は、「18歳以上29歳未満」であることが条件となっており、年齢が範囲内に収まっていれば、民間企業などから転職によって刑務官になることも可能です。
また、それ以上の年齢であっても、「39歳未満」であれば「社会人」という区分の刑務官採用試験を受験できます。
ただし、社会人区分の採用人数は29歳未満対象の枠と比べると圧倒的に少なく、非常に高倍率となることが多いです。
刑務官に転職するなら、20代のうちに決断したほうがチャンスは大きいでしょう。
女性でも刑務官になれる?
女性の刑務官のニーズも大きい
刑務官は、女性も多数活躍しています。
受刑者の収容施設は男女別となっており、女性の収容施設には、基本的には女性刑務官が勤務します。(一部、男性刑務官も勤務します)
近年は受刑者の女性比率が上がっていること、また、性別の観点から男性刑務官では対応できないケースもあるため、女性刑務官の需要は以前よりも増しているといえるでしょう。
女性が刑務官を目指す場合には、刑務官採用試験の「刑務B」区分を受験します。
基本的な試験内容は男性と同様ですが、採用枠は男性よりも小さく、また体力検査の最低基準が男性より低く設定されているなどの違いがあります。
したがって、女性だからといって採用試験で不利になることはありません。
ただし、刑務官の職場は閉鎖的なので、そこに女性特有の人間関係のトラブルが加わると、居心地の悪さを感じてしまう人もいます。
刑務官の階級の種類・「看守」とは?
刑務官は一人ひとり階級が与えられる
刑務官の世界は、警察や自衛隊などと同じように、厳しい階級社会で成り立っています。
階級は上から、管理職に該当するのが「矯正監」「矯正長」「矯正副長」「看守長」で、一般職に該当するのが「副看守長」「看守部長」「主任看守」「看守」です。
つまり、「看守」という階級は、刑務官のなかでは最も下に位置づけられます。
もっと詳しくいうと、刑務官に採用されて初等科研修を修了した人が、最初に任命されるのが看守です。
看守から次の介入である「主任看守」に昇任するには、10年ほどの勤務年数が必要とされています。
その後、一定の条件を満たしていくことで、階級を上げていけます。
階級を上げる要件は勤続年数以外に、勤務成績や特定の研修を修了すること、上長からの推薦などさまざまです。
一般職クラスから管理職クラスに上がるときには、昇任のための試験を受け、合格しなくてはなりません。
管理職にならない人は、看守部長もしくは副看守長の階級で退役することが多いです。