JICA職員の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「JICA職員」とは
独立行政法人「JICA」に勤務し、開発途上国の支援プロジェクトの進行管理等を行う。
「JICA(日本国際協力機構)」とは、国から供与されるODA(政府開発援助)を使用し、開発途上国を支援する独立行政法人です。
この組織で働くJICA職員は、語学力と専門性を生かし、開発途上国支援プロジェクトのマネジメントに携わります。
JICAでは新卒採用と社会人採用が行われており、どちらの試験も難関で、就職先としては狭き門となっています。
平均年収は800万円と高水準ではあるものの、海外長期勤務が必須であり、異動も頻繁に行われます。
なお、近年では日本の財政状況の悪化から、ODA(政府開発援助)の予算が削減される傾向です。
JICA職員は、開発途上国支援に深く関わるやりがいのある仕事ができますが、限られた予算のなかで業務の合理化や、高い成果を出すことが求められるなど、厳しい面も多々ある仕事です。
「JICA職員」の仕事紹介
JICA職員の仕事内容
開発途上国の支援プロジェクトを管理する
JICA(日本国際協力機構)は、国から供与されるODA(政府開発援助)を使用し、開発途上国を支援する独立行政法人です。
ここで働くJICA職員は、開発途上国支援事業のマネジメント業務に従事します。
具体的には、各国の政府要人や日本の各省庁、あるいは現地で事業を担当する専門家など、支援事業のさまざまな関係者を結びつけ、プロジェクトの進行を管理します。
JICA職員の役割はあくまでも「マネジメント」であり、プロジェクトの現場で実働することは、基本的にはありません。
さまざまな分野のプロジェクトがある
JICA職員は、東南アジアや中東、中南米など、担当地域内で担当事業を進めます。
プロジェクトの分野は、教育や保健医療、水資源・防災、平和構築、貧困削減、資源・エネルギーなど多岐にわたり、それぞれに対する専門知識が求められます。
援助先政府高官からのヒアリングや交渉のため、頻繁に海外出張をする職員も多いです。
また、JICAの国内拠点で海外研修員の受け入れをコーディネートする職員や、一般企業と同様、人事、経理、広報といった管理系の業務を担当する職員もいます。
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JICA職員になるには
まずはJICAの職員採用試験を受験する
JICA職員になるには、JICAの職員採用試験を受けて採用される必要があります。
採用試験は「新卒採用」と「社会人採用」の2種類が行われており、新卒採用は年1回、社会人採用に関しては不定期です。
新卒採用(2022年度採用)の応募資格として、一定期間中に、短期大学、大学、大学院(修士、博士)のいずれかの課程を新規に卒業もしくは修了している必要があります。
採用フローは、ステップ1としてエントリーシートの提出とWebテストがあり、ステップ2が一次面接と論文試験、その後、二次面接、最終面接を経て内々定となります。
採用後は研修や海外赴任で知識を習得
新卒採用は、職種を問わない「総合職」のみの募集です。
入構語は新入社員研修を受け、社会人としての基礎知識や、JICAで求められる多様な知識を学びます。
また、1年目には、新入職員全員が開発途上国に数ヵ月赴任します。
おおむね2~4年のローテーションで本部、国内機関および海外への異動があり、多様な業務を経験しながらキャリアを磨いていきます。
JICA職員の学校・学費
新卒採用では短大卒以上の学歴が必要
JICA職員採用試験を新卒採用の枠で受験するには、「短大、4年制大学、大学院修士課程、大学院博士課程のいずれかを卒業見込みであるか、卒業後3年以内であること」が条件となります。
学部・学科についてとくに定めはありません。
JICAの業務が、分野をまたいで広範なフィールドに及んでいることから考えても、特定の専攻分野が有利・不利になることはないでしょう。
ただ、JICAは学生にとって人気の就職先であり、全国的に有名な私立大学や国公立大学の学生も多く志望します。
JICAで働くことに対して強い意欲や熱意をもつ人が多いため、自身が興味のある分野に関しては、しっかりと学んでおくことが望ましいです。
海外経験やボランティア経験は積極的にアピールを
JICA職員は開発途上国を支援するという業務の特性上、学歴そのものより、ボランティア経験や海外経験などが役に立つといわれています。
選考試験の面接でも、学生時代に何を学んだのかや、どのような経験をしてきたのか、そしてJICAを志望する動機と採用後のビジョンなどが問われます。
JICAでは経済や産業、医療問題などのプロジェクトマネジメントを行っているため、そういった分野に関する専門知識や経験があれば、採用試験の際の大きなセールスピントになるでしょう。
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JICA職員の資格・試験の難易度
採用試験に合格する人は数少ない難関試験
JICAは、その組織としての社会貢献度の高さや、国際的なプロジェクトに関わっていけることから、非常に人気の就職先となっています。
新卒者採用には毎年1万人前後のエントリーがあり、採用倍率は200倍から300倍になることもめずらしくありません。
試験自体も難易度が高く、エントリーシート提出と同時に実施されるWebテストは、「玉手箱形式」といわれる専用の対策が必要になる難関試験です。
とくに英語は、TOEICでハイスコアを取れる人でも制限時間が足りなくなるレベルであり、できる限り早い段階から対策しておくことが重要です。
その後の面接も重視されているため、JICA職員として何を目指すのか、どう貢献したいのかなどを、真剣に考えておく必要があります。
JICA職員の給料・年収
経験を積めば年収1000万円に達することも可能
JICA職員の給料は、35歳で年収約680万円、45歳で年収約1000万円というモデルケースが提示されています。
実際には、同じ年齢でも役職やキャリア、配偶者や子どもの有無・人数などによって違いが出てきますが、この数字を見る限り、高めの給与水準となっていることがうかがえます。
職員全体の平均年収も800万円前後となっており、民間企業の平均年収よりもだいぶ高めです。
JICA職員として働くには、高い語学力と専門性、技術性が不可欠であるため、こうしたスキルを備えている優秀な人材を確保するために、JICAは待遇面を充実させているようです。
手当や福利厚生についても手厚い
JICA職員は海外駐在をする機会が多いです。
海外で仕事をする期間については、月額給与にさらに「海外勤務手当」が上乗せされ、平均年収は1200万円前後に達します。
このほか、手当としては住居手当や通勤手当など、福利厚生としては社会保険完備、財形貯蓄、産休・育児休業制度、各種クラブ活動などがあり、手厚い内容です。
また、能力を向上させていくための支援制度も豊富であり、たとえば、外部の学校やセミナーおよび通信教育の補助制度を活用して、積極的にスキルアップや資格取得に励むことが可能です。
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JICA職員の現状と将来性・今後の見通し
国家財政の悪化がJICAにも影響する
JICAは、国の税金であるODA(政府開発援助)を資金源としていますが、日本国内の景気低迷や財政状況の悪化から、予算は年々削減される傾向が続いてきました。
2016年以降は徐々に回復しているものの、1997年のピーク時に比べれば、約半分ほどになっているのが実情です。
こうした厳しい状況のなか、現在のJICA職員には、これまで以上に予算の使い道を明確に「見える化」し、ムダなくプロジェクトを運営していくことが求められており、業務の難易度はより増しているといえます。
ただし、JICA職員は開発途上国を支える重要な役割を担っており、その仕事がまったくなくなることはないでしょう。
援助マネジメントのプロフェッショナルとして、高度な専門性やリーダーシップ、技術力、マネジメントスキルなどを備えた人材は、高く評価されて長く活躍できるものと考えられます。
JICA職員の就職先・活躍の場
海外拠点に勤務する可能性もある
JICAは、本部の東京のほか、国内拠点が14カ所、海外拠点が96ヵ所あり、これらいずれかで勤務します。
基本的には本部内の部署での配属が中心ですが、2~4年に1回程度の人事異動があり、さまざまな業務を経験しながらキャリアを形成していきます。
海外勤務については、20代で1回、30代で1回ほど割り当てられるのが通例であり、1回の海外勤務は3年が目安です。
勤務地や配属部署については、基本的に自分で選ぶことはできません。
ただしJICA職員は年に一度、自身のキャリアについて異動先の希望を出すことが可能です。
希望を考慮しつつ、本人の能力を伸ばして組織に生かすための配属先の異動・転勤が計画されます。
JICA職員の1日
打ち合わせや会議をする頻度が高い
JICA職員のスケジュールは担当業務によってさまざまですが、ここでは技術協力プロジェクトにたずさわる職員の1日をご紹介します。
マネジメント業務が主であるため、関係各所との調整に大半の時間を費やします。
<JICA職員の1日>
9:00 出勤・メールチェックやスケジュールの確認
9:30 プロジェクトメンバーで会議を行い、現状の課題を共有
10:30 相手国側の日本大使館に連絡し、進捗状況などを報告
12:00 休憩
13:00 派遣予定の専門スタッフと渡航期間や業務内容について打ち合わせ
15:00 スタッフの海外派遣費用などを計算して見積もりを作成
18:00 翌日のスケジュールを確認後、退勤
JICA職員のやりがい、楽しさ
開発途上国で暮らす人々のために働く
JICAは、独立行政法人として政府からODA(政府開発援助)を供与されて活動しており、日本の開発途上国支援政策の中枢を担っている存在です。
手掛けるプロジェクトは大規模なものが多く、いずれも途上国で不便な生活を強いられている人々の役に立つものばかりです。
支援国のニーズを見極めるところからアフターケアまで継続的に支援を行っていくため、その過程で少しずつ目に見える結果が出たときには、達成感が得られます。
また、ひとつの課題に対して、資金協力や技術協力、人間開発など、多角的なアプローチを行えることも、組織の大きいJICAならではの魅力です。
自身が身につけた専門知識を生かし、支援国の政府中枢層や各分野の専門家と密に関わりながら働けることも、やりがいといえるでしょう。
JICA職員のつらいこと、大変なこと
出張が多いこと、開発途上国に長期間滞在すること
JICAは、開発途上国の支援を目的とする組織であるため、海外赴任先のほとんどは開発途上国です。
言葉や文化、生活習慣が異なるうえ、インフラ面や衛生面も日本より大きく劣る環境で数年間暮らすことには、数多くの苦労と困難が伴います。
自分一人だけでも大変ですが、家族がいる場合は、家族を同伴するかどうかの判断にも非常に悩むでしょう。
単身赴任するにしても、家族と共に暮らすにしても、決して軽くない負担を強いることになります。
また、国内拠点で勤務する場合も、担当地域への出張が頻繁に入るケースはめずらしくありません。
長距離移動は心身ともにハードですし、それでいて高度な専門性や成果が求められるため、大きなプレッシャーやストレスを感じる人もいます。
JICA職員に向いている人・適性
高い理想があり、進行管理能力が高い人
JICA職員の業務には、日本の省庁関係者、海外政府関係者、外部専門家、ボランティアなど大勢の人が関わるため、それらの調整作業に多くの時間を費やします。
また、海外出張する頻度もかなり高く、ときには十数時間のフライトを短いスパンでこなさなければなりません。
調整作業や移動時間などの合間を縫って、書類作成など大量のデスクワークを行うことが求められるため、JICA職員には、同時並行で複数の業務を進められるタイプの人が向いています。
また、難易度の高いプロジェクトに関わるからこそ、「自分の力で開発途上国に貢献する」という高い理想を掲げ、強い熱意や情熱をもち続けられることも大切です。
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JICA職員志望動機・目指すきっかけ
国際的な支援活動に関わりたい思いがきっかけに
JICA職員を志望するのは、「開発途上国を支援したい」という思いがある人ばかりです。
学生時代に国際的なボランティア経験があったり、途上国が抱えるさまざまな問題を学んだりしたことがきっかけとなって、JICAの役割に興味を抱く人も少なくありません。
JICAの採用試験では、筆記試験のほか、面接も重視されています。
当然、志望動機も問われることになりますが、曖昧な内容や憧れの気持ちだけで合格するのは難しいです。
「キャリアプランをどう考えているか」「あなたの専門分野を通してどうJICAに貢献できるか」などまで深く問われる可能性を考慮して、具体的な志望動機を考えておきましょう。
また、国際協力を手掛ける組織が複数あるなかで、JICAでなければできないことは何か、という切り口で考えることも有効です。
JICA職員の雇用形態・働き方
常勤で働く正職員もしくは期限付きの職員
JICA職員には、大きく分けて「正職員」と「期限付きの職員」の2通りの雇用形態があります。
正職員は、新卒採用や経験者採用のいずれかで採用される職員で、期限の定めはなく、常勤で勤務します。
一方、期限付きの職員として、専門嘱託やアルバイトの形態での募集が不定期にて出されることもあります。
職務内容に応じて経験が問われないものもあれば、専門的な知識や実務経験が求められるものもあるなど、さまざまです。
なお、JICAでは実際の職員の働き方を知るための「インターンシップ・プログラム」が用意されています。
書類選考などを経て現地スタッフとして採用されれば、数ヵ月にわたって途上国に派遣されることになり、現場の雰囲気を肌で感じられます。
頭の中で思い描いていた想像と現実のギャップを埋めていくことで、採用試験に役立てられることはもちろん、国際協力とは何かを改めて見つめ直す契機にもなるでしょう。
JICA職員の勤務時間・休日・生活
採用人数は年度によって上下する
JICAの勤務時間は、9:30~17:45で、休憩時間の45分を除いて実働7時間30分と定められています。
休日は完全週休2日制(土・日)で、祝日も休みですが、出張の場合は休みを使って移動などが入る可能性もあります。
休暇制度については、年次有給休暇(4月採用の場合初年度20日)、夏季・年末年始・特別休暇などがあります。
残業時間については部署による差が大きく、忙しいところでは深夜まで業務に追われることもめずらしくありません。
なお、国内事務所よりも在外事務所のほうが、不測の事態に対応するため手厚く人員が配置されている分、一人あたりの業務量は少なくなる傾向にあるようです。
JICA職員の求人・就職状況・需要
採用人数は年度によって上下する
JICAでは例年「総合職」としての新卒採用を実施しており、その採用人数は30名~50名前後で推移しています。
新しい大型プロジェクトが立ち上がるなど、JICA組織内で人数が必要になった場合は、やや多めに募集されることがあります。
ただし、日本の厳しい財政状況を受けてODAが年々削減傾向にある状況を勘案すれば、今後は求人数が減少する可能性もあります。
JICAは学生の就職先として人気が高く、応募倍率が200倍~300倍ほどになる年度もあります。
応募のみ行って実際に試験を受けない人もいるものの、内定を得るのは決して簡単とはいえません。
新卒で内定を得られなかった場合は、まず民間企業などへ就職して専門的な知識・スキルを身につけ、働きながら社会人採用に再チャレンジする人もいます。
JICA職員の転職状況・未経験採用
不定期で実施される社会人採用も高倍率となる
JICAでは、不定期ながら社会人を対象とした職員採用試験も実施しており、募集があるときは15名~20名ほどまとまった採用が行われます。
雇用形態は正職員もしくは契約職員で、正職員は総合職で期限なしの採用ですが、契約職員は拠点限定の勤務で、原則2年の有期雇用です。
中途採用には毎回400名~500名前後の応募があり、新卒採用ほどの高倍率ではないものの、厳しい競争であることに変わりはありません。
転職には関連する分野の知識や経験が必要
JICAの社会人採用には、民間企業等で培った経験や知識、スキルを生かしたいと応募してくる人が大半です。
このため、いずれかの事業領域に関係する専門知識、またマネジメントスキルがないと、内定を得ることは難しいでしょう。
英語力も必要で、原則としてTOEIC860点相当以上またはTOEFLiBT100点・PBT600と、高いレベルが求められます。