めげずに立ち向かえば道は開ける

庭師野村 ゆみさん

1976年京都生まれ。埼玉の大学で管理栄養士の資格を取得後、病院に就職し、管理栄養士として勤務。退社後、千葉大学園芸別科で2年間学び、28歳時に造園会社に就職。1年半の勤務の後、2008年に庭師として独立。
座右の銘:超えられない試練はない

仕事内容を教えて下さい。

庭師として、個人のお客さまを中心に、ご自宅のお庭の「剪定(せんてい)」や「庭造り」をしています。

「剪定」とは、樹木の枝を切るなどして形を整えることです。「庭造り」は、お客さまとどういう庭をつくるかを相談するところからスタートして、ゼロから庭を仕上げるところまでやります。

1日の仕事の流れを教えて下さい。

だいたい6時ごろに起床し、朝8時には現場に到着しています。準備を終えたら、剪定作業を始めます。10時、12時、15時に休憩がありますが、それ以外の時間はずっと作業をしています。

暗くなったら作業ができないので、季節にもよりますが、17時ごろには作業を終えて、片付けをして事務所に帰ってきます。事務所に帰ってきたら、枝や葉っぱのゴミ捨てです。大量にあるので、捨てるのもなかなか大変です。

そのあと事務処理や次の日の準備をして、19時すぎぐらいに1日の仕事が終わります。

一つの現場での作業は何日ぐらいで終わるのですか?

個人のお客さまのお庭の剪定作業は、ほぼ1日で終ります。期間としては半年に1回か1年に1回といったところです。

庭造りの場合は、一つの現場で1ヶ月ぐらいかかることもありますね。

お休みはありますか?

一人でやっていたときは、全然休みが取れなかったのですが、今は2人の従業員がいますので、日曜日をお休みにしています。

ただ、作業予定日の平日に、雨や雪などが降ってしまい、作業ができなかったときには、日曜日に振り替えて作業をすることもあります。

休日も日本庭園協会の勉強会や展覧会に行ったりするので、あまりゆっくりはできていないのですが…。

今後はもう少し自分を見つめたり、静かな時間を過ごしたいと思っています。

庭師になるまでの経緯を教えて下さい。

庭師を目指す前は病院で管理栄養士をしていたんです。父が医者だったということもあり、病院で仕事がしたいなとなんとなく思ってまして。

ですが、医療系の職業は自分にはちょっと合わないような気がしたので、病院の栄養士になりました。

栄養士の仕事もやりがいはあったのですが、作業場が病院の地下でまったく窓がないところだったんです。朝から夕方まで天気もわからないという状態でして(笑)

これはちょっと息苦しいなと思い、辞めてしまいました。それで、本当に好きだと思える仕事を見つけようと思って、半年考えた結果、庭師に辿り着いたんです。

管理栄養士から庭師というのもずいぶんギャップがあると思いますが、なにかきっかけがあったのでしょうか?

両親が石垣島に移住しまして、その家に比較的大きな庭があったんです。父は植物が好きで、よく植木などを買ってくるのですが、それを雑然と置いておりまして。

庭の散らかりぐあいが嫌で、「きれいにして」と言ったのですが、全然変わらなくて(笑)

「こういう庭をきれいにしたい!」と思ったのが、庭師を目指したきっかけです。

もともと植物などの生き物が好きだったというのも大きな理由です。

それから学校に入学したのでしょうか?

はい、千葉大学の園芸別科という2年制のところで園芸全般について学びました。

生徒は12人ぐらいしかいないのですが、社会人経験者や実家が農家という方が多かったです。

庭師になるためには学校に通うのが一般的ですか?

はい、庭師として一人前になるためには、造園会社に就職して技術を磨いていく必要がありますが、就職前に造園の課程がある専門学校か大学で学ぶルートが一般的です。

大学は関東だと東京農大か千葉大くらいしかないので、専門学校出身者が多いです。農業高校から高卒で就職する人もいますね。

4年生の大学の卒業者は、役所に入ったり研究所に行ったりと、現場以外の就職が多いと思います。

資格は必要ですか?

「造園技能士」など、現場経験なしで取れるものもありますが、この業界は実務経験が必要な資格が数多くあります。

ですので、就職後にスキルアップのために自分が目指す方向性の資格を取得することが多いです。

卒業後は、スムーズに就職できたのでしょうか?

就職先を見つけるのは少し苦労しました。28歳という年齢でしたし、まったくの未経験だったので…。

ですが、なんとか1社、造園会社の内定をいただいて、そこに就職しました。

その会社で修業を積んだのでしょうか?

いえ、最初に入った会社は、ブロックやフェンスを設置する「外構工事」という現場が多く、やりたかったことと違っていたので9ヶ月ほどで転職してしまいました。

造園会社にもいくつかの種類がありまして、設計中心のところや生産、問屋などをしている企業もあるのですが、やはり植物に直接触れ合いたいと思い、2社目は剪定作業ができる会社を選びました。

朝から晩まで毎日仕事をして、一生懸命学び、次第に現場を一人で任されるようになったんです。約8ヶ月ほど修行をし、独立をしました。

2社あわせても1年半で独立というのは、とても早く思えます。

そうかもしれませんね。普通は5〜6年ほど修行をしてから独立する人が多いようです。仕事を任されていたので、「一人でもできるんじゃないか」とちょっと勘違いしていたのかもしれません(笑)

独立のきっかけは、ふとしたことだったんです。仕事が終わって、コンビニのパーキングで一休みしていたときに、独立して働いている同業者の方々に話しかけられまして。

「独立はいいよー。あんたも独立しなよ!」という一言を聞いて、初めて独立をリアルに意識しました。その夜、「自分が独立!」と考えたら、興奮して寝れなくなってしまいました(笑)

経験が少ない中での独立に不安はありませんでしたか?

独立したらお客さんを見つけるために自分で営業しなければなりませんし、仕事がなければお金も入ってきません。でも不思議と不安はなかったですね。

もともと思い切って行動するタイプですし、庭師は独立する人も多い業界ですので。

また、チャンスはすぐにつかむべきと日頃から思っているので、たまたまの一言をきっかけとして独立することにあまり迷いはなかったです。

独立してから苦労はありましたか?

はい、樹木の剪定は前職で経験があったので問題なかったのですが、独立すると庭造りの仕事なども入ってくるため、設計の知識なども必要になってきます。剪定以外の知識が乏しかったので、勉強して力をつけなければなりません。

お客さん集めもがんばりました。ホームページをつくったり、チラシをつくったり。雨で作業ができない日は、高級住宅地に行って、ひたすらチラシを配りました。

でもおかげさまで、今はたくさんのお客さまから仕事をいただけるようになっています。

現在は3人でお仕事をしているとのことですが。

はい、2008年に独立してからしばらくは1人だったのですが、2012年に男性の従業員が2人入りました。ですので、今は3人で現場に行っています。

女性はどうしても力が足りないので、2人が力仕事をしてくれてとても助かってますね。

ちなみにもうすぐ株式会社にする予定です。

事業は順調なようですが、個人としての目標はありますか?

自分を指名してくれるお客さまをもっと増やしたいです。画家やアーティストの方のように、他の人には真似できないような仕事をして、自分のブランドを高めていきたいと思っています。

私を選んでくれて、すべて任せてくれて、満足してもらう。そんな人になりたいです。

でもそのためには努力も必要です。自分ならではのセンスを磨いていかなければならないので、茶道や華道を習ったり、美術館に行ったりして、アートの感性を高めるようにしています。

どの分野においてもそうですが、まったくのゼロから考えることはやはり難しいものです。オリジナルに見えても、どこかで見たことあるものや、ほかの誰かの技術だったりします。

ですが、そこに自分のスパイスをきかせて、自分ならではの感性が光る仕事をしたいですね。

庭師に向いている人というのはどのような人でしょうか?

先ほど言った「感性」も大事ですが、まずは大前提として「自然が好き」ということが条件になると思います。

また「やさしさ」も大切です。「植物は生き物」という意識を持っていなければなりません。日々表情が変わりますし、愛情を持って接することができる人が庭師には向いているのではないでしょうか。

それと「体調管理」ができることも重要です。庭師の仕事は、暑い日も寒い日も外で一日中仕事をしなければなりません。重いものを持つことも多いので、かなりの重労働になります。

体力を使う日々が続きますし、腰やひざを痛めることもありますが、体が資本ですので、休むわけにはいきません。きちんと自分の体調を管理できないと仕事ができない厳しい世界です。

女性として苦労することはありますか?

体力的な問題もあるのですが、この業界は男性中心の社会ですので、女性の立場はまだ確立されていないというのが現状です。設計の分野は女性も増えてきていますが、現場では、まだ女性はほとんどいません。

ですが、仕事の終わりに剪定した枝や花で小さな花束をお客さまに差し上げるなど、女性ならではの心づかいで喜んでもらえることもあります。

男性とは違う感性を活かして、庭造りができるのではとも思っています。

庭師を辞めようと思ったことはありますか? またやりがいを教えて下さい。

今まで庭師を辞めようと思ったことは一度もありません。樹木の剪定も庭造りも、とても楽しいです。

独立してからは、材料を調達して、それを見極めて、下処理してと、すべて自分の責任で庭をつくっているので充実感がありますね。自分のイメージどおりの、いい庭ができると疲れも忘れます。

お客さまから、「図面じゃわからなかったけど、こんないい庭になったんだ!」と言われたときは、すごく嬉しかったですね。

これからの庭師に必要なものは何でしょうか?

建築分野とのコラボレーションが大事になると考えています。現在、建築士と庭師との関係は、それほど密なものではありません。建築士は庭のことをあまり考えず、庭師は言われたとおりに作業をするという現場が多いように感じます。

この状態はどちらにも問題があると思うのですが、庭師に関していえば、建築の知識が足りないのが一つの原因です。

これからの庭師は、言われたことをやるだけではなく、もっと建築の知識を増やして、建築士と対等に意見を言い合える関係を築く必要があると思います。そうしてはじめて、庭師の感性を十分に発揮することができるのではないでしょうか。

個人の庭だけでなく、マンションやビルなどにも植物が取り入れられることが増えてきています。建築士と庭師のコラボが進めば、もっと素晴らしいものが作れると考えています。

最後に庭師を目指す方にメッセージをお願いします。

とくに女性で庭師を目指している方へのメッセージになりますが…。

この業界はいわゆるガテン系の社会です。「女性にはできない」と言われることも多いですし、制度も整っているとはいえません。

マイナスなことをあげていけばキリがないですが、庭師の仕事を本当にやりたいのであれば、めげずに立ち向かっていけば道は開けると思います。

ただし、女性だけでなく男性でも厳しいといわれる世界です。半端な気持ちでは続かないと思いますので、決意が必要です。

とはいえ、私も最初はそこまで決意して、この道を目指したわけではないので、あまり強くはいえませんが(笑)

男女問わず、植物が好きな方には天職になる仕事かもしれないので、少しでも興味があればいろいろと調べてみてください。

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