通信の大学院にはどんなものがある?

大学院は通学して研究に取り組むのが一般的ですが、通信制の大学院もあることをご存知でしょうか。

文部科学省(当時の文部省)は1998年3月に通信制大学院を制度化し、通学しない形での大学院の設置が認められることになりました。

さらに2003年からは通信制の博士課程を設置することもできるようになりました。

通信制の大学院にはどのようなものがあるのでしょうか。

また、通信制大学院を利用するメリット・デメリットはどういった点にあるのでしょうか。





通信制大学院とは?利用するメリットとデメリット

通信制の高校や大学があることは比較的知られていますが、通信制の大学院についてはよく知らない人も多いのではないでしょうか。

そこで、まずは通信制の大学院とはどのような仕組みになっているのか確認しておきます。

また、通信制の大学院を利用する主なメリット・デメリットについて見ていきましょう。

通信制大学院とは?

従来、大学院で研究に取り組むためには大学院へ通う必要がありました。

しかし、自宅から通学できる範囲に希望する大学院が設置されているとは限りません。

また、社会人になって仕事を続けながら大学院に通う場合、時間的な制約を伴うことは避けられないのが実情です。

こうした事情を抱えつつも大学院で学びたい人は一定数いることから、通信制の大学院が認可されることになりました。

通信制大学院の授業は、主に次の4つの方法で行われます。

授業の方法 研究の進め方
書籍などの教材 自宅に送付される教材を研究資料として活用
放送授業 講義が放送され、視聴しながら研究を進める
面接授業 定期的に通学して指導教授と対面で研究を進める(スクーリング)
メディア授業 ビデオ通話などを活用して指導教授とコンタクトを取る

通信制である以上、基本的には放送やメディアを介した授業となりますが、修士論文や博士論文の指導にあたっては面接授業が行われることもあります。

通学型の大学院と同様、修士課程は2年以上、博士課程は3年以上の在学と、必要な単位数の取得および論文審査への合格が修了の基本的な要件となっています。

通信制大学院を利用するメリット

仕事や育児と両立して研究に取り組むことができる

近年、リカレント教育(学び直し)が注目されています。

健康寿命が伸びたことで現役で働く期間が長くなり、大学で学んだ知識・技能が古くなってしまうケースが増えていることが一因といわれています。

そのため、社会人になって再び大学院で専門性の高い研究に取り組みたいという需要が高まりつつあります。

しかし、社会人は1日時間の大部分を仕事に費やすため、研究のために使える時間帯は限られてしまいます。

また、育児と研究を両立したい人にとっては、大学院に通うための時間を十分に確保できないことも考えられます。

通信制大学院であれば、基本的には自宅で研究に取り組むことができますので、仕事や育児と両立しやすいメリットがあります。

大学院に通学する場合と比べて学費が抑えられる

大学院に通学する場合、研究に必要な施設や設備を整備する必要があるため、学費が高額になる場合があります。

これに対して、通信制の大学院は基本的に施設・設備を必要としないことから、通学型の大学院と比べて学費を抑えられる傾向があります。

また、通学型の大学院では研究室に指導教授が常駐している必要がありますが、通信制大学院ではその必要がないことから、人件費の面でもコストを抑えやすい特徴があります。

こうした理由から、通信制大学院の学費は一般的な通学型の大学院と比べて低く設定されているというメリットがあります。

通信制大学院を利用するデメリット

選べる学部が限られる

通信制大学院での研究は、基本的に自宅で行われます。

そのため、実験や実習など大規模な設備が必要になる研究は扱いにくく、学部(研究科)そのものが設置されていない大学院がほとんどです。

施設や設備が必須の分野で研究に取り組みたい場合、通信制ではなく通学型の大学院に通う必要があります。

また、通信制大学院は2020年の時点で27校と、通信で受講できる大学院そのものが多くないのが実態です。

このように、通信制の大学院にこだわるのであれば選べる学部が限られてしまうというデメリットがあります。

研究に対するモチベーション維持が容易でない

通信制大学院での研究は場所や時間の自由度が高い反面、研究そのものは自分一人で進めるのが基本となります。

指導教授と適宜コンタクトを取り、研究に関する相談をすることは可能ですが、研究自体は自力で進めなくてはなりません。

また、通学型の大学院とは異なり、同じ研究室で研究に取り組む仲間と出会う機会もほとんどないといえます。

そのため、研究に対するモチベーションを維持するには並々でないモチベーションが求められます。

どうしても追究したい研究テーマや必ず達成したい目標を掲げるなど、自分一人でも意欲をもって研究を続けられるだけの目的意識を持つことが求められます。

通信制大学院の種類と特徴

通信制大学院には具体的にどのような種類のものがあるのでしょうか。

2020年現在、北海道地方を除く全国に通信制大学院があります。

大学院名と、各大学院で設けられている学部・学科をまとめました。

通信制大学院ではどのような研究に取り組むことができるのか確認しておきましょう。

通信制大学院と学部・学科

通信制大学院27校の学校名と、各大学院で学べる研究内容は下記の通りです。
※令和2年12月現在

所在地 通信制大学院名 学部・学科
宮城県仙台市 東北福祉大学通信制大学院 社会福祉学専攻
福祉心理学専攻
東京都町田市 桜美林大学大学院通信教育課 アドミニストレーション研究科
東京都板橋区 帝京大学理工学部情報科学科
通信教育課程
理工学研究科情報科学専攻
東京都豊島区・中野区ほか 帝京平成大学通信教育課程 環境情報学研究科 修士課程
東京都豊島区 東京福祉大学大学院通信教育課程 社会福祉学専攻 博士課程前期
児童専攻 修士課程
臨床心理専攻 博士課程前期
東京都文京区 日本女子大学大学院通信教育課程 家政学研究科(家政学専攻)
東京都千代田区 日本大学大学院総合社会情報研究科 総合社会情報研究科
東京都千代田区 ビジネス・ブレークスルー大学大学院 経営管理修士・経営学修士(MBA)
東京都西東京市 武蔵野大学通信教育部 人間社会研究科人間学専攻
人間社会研究科実践福祉学専攻
仏教学研究科
環境学研究科
東京都日野市 明星大学通信教育部通信制大学院 教育学研究科(教育学専攻通信課程)
神奈川県横浜市 星槎大学大学院通信制課程 教育学研究科(教育学専攻修士課程)
埼玉県さいたま市 人間総合科学大学大学院 人間総合科学研究科 心身健康科学専攻
人間総合科学研究科 臨床心理学専攻
人間総合科学研究科 健康栄養科専攻
千葉県松戸市 聖徳大学大学院通信教育課程 児童学研究科
千葉県千葉市 放送大学大学院 文化科学研究科 文化科学専攻
岐阜県岐阜市 岐阜女子大学大学院文化創造学研究科(通信教育課程) 文化創造学専攻(日本文化研究分野)
デジタルアーカイブ専攻修士(文学
初等教育学専攻修士(文学・教育学)
愛知県岡崎市 名古屋学院大学通信制大学院 外国語学研究科(英語学専攻)
愛知県知多郡 日本福祉大学大学院 社会福祉学研究科(社会福祉学専攻)修士課程
和歌山県伊都郡 高野山大学院通信教育課程 密教学専攻(修士課程)
京都府京都市 京都産業大学大学院通信教育課程 経済学研究科
京都府京都市・
東京都港区
京都芸術大学通信制大学院 芸術研究科(通信教育)芸術環境専攻修士課程
京都府京都市 佛教大学通信教育課程 文学研究科(仏教学専攻・文学専攻・歴史学専攻)
教育学研究科(生涯教育専攻・臨床心理学専攻)
社会学研究科(社会学専攻)
社会福祉学研究科(社会福祉学専攻)
京都府南丹市 明治国際医療大学大学院通信教育課程 鍼灸学研究科修士(鍼灸学)
兵庫県神戸市 神戸親和女子大学通信教育部 発達教育学部(児童教育学科)
岡山県高梁市 吉備国際大学大学院(通信制) 修士課程連合国際協力研究科
修士課程保健科学研究科(理学療法学専攻・作業療法学専攻)
岡山県倉敷市 倉敷芸術科学大学大学院通信制修士課程 芸術研究科(美術専攻)
産業科学技術研究科(機能物質化学専攻)
機能物質化学専攻人間文化研究科(人間文化専攻)
山口県下関市 東亜大学通信制大学院 修士課程法学専攻
宮崎県延岡市 九州保健福祉大学大学院 社会福祉学研究科 修士課程
連合社会福祉学研究科 博士後期課程
保健科学研究科 博士前期課程
保健科学研究科 博士後期課程
医療薬学研究科 医療薬学専攻 博士課程

通信制大学院の特徴

通信制大学院は設置されている研究科が限られており、中には単独の研究科のみ設けているケースも見られます。

そのため「どのような研究をしたいか」を決めておき、その研究科が設置されている通信制大学院を探すという手順で大学院選びを進めることになるでしょう。

学びたい内容の研究科を持つ通信制大学院が居住地域のすぐ近くになかったとしても問題ありません。

なぜなら、通信制大学院の授業は基本的に遠隔で行われるため、住む場所や学ぶ場所を選ばないからです。

ただし、定期的に通学(スクーリング)が必要な場合がありますので、その際には出向くことができるかどうかを考えておく必要があります。

とくに修士論文や博士論文の指導を受ける時期になるとスクーリングの頻度も高くなりますので、通学の回数の目安について事前に確認しておくことが大切です。

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通信制大学院を利用する場合の注意点

住む場所を選ばず、時間的な自由度も高いことから、通信制大学院は働きながら研究に取り組みたい人にとって便利な大きなメリットがあります。

ただし、通学型の大学院とは異なる面が多々ありますので、通信制大学院の特徴を理解した上で利用することが大切です。

通信制大学院で研究に取り組むことを検討する場合には、とくに次の2点について注意しておく必要があります。

研究に充てる時間の確保について十分な計画性が求められる

通学型の大学院であれば、少なくとも講義のある日や担当教授から指導を受ける日には研究室へ出向くため、必然的に研究に充てる時間や研究を進めるペースがつかみやすくなります。

一方、通信制大学院では必要に応じて教授に質問することはできても、基本的に研究は自分一人で進めることになります。

研究の進捗状況や論文執筆に向けた準備の状況についても、自分で計画を立て管理していくことが求められます。

周囲の学生がどの段階まで研究を進めているかなど、自分以外の状況がほぼ全く見えないのが通信制の特徴です。

とくに働きながら研究に取り組む場合には、研究に充てる時間の確保と「いつまでに何をやっておくべきか」といった計画性が厳しく問われます。

不明点や疑問点を質問できる機会が限られる

通信制大学院では、Eメールやビデオ通話などを通じて指導教授に質問できる仕組みになっているケースがほとんどです。

ただし、質問できる環境が用意されているとはいえ、通学型の大学院と比べると質問できる機会はどうしても限られてしまいます。

常に指導教授がすぐ近くにいて、いつでも質問できる通学型大学院の環境とは全く異なります。

聞きたいことや確認しておきたいことをまとめて漏れなく質問したり、質問内容の要旨を端的にまとめたりする能力も問われることになります。

不明点や疑問点を質問できる機会は限られており、貴重な機会となることを認識しておく必要があるでしょう。

また、自分で調べられることはできるだけ自己解決できるよう、調査や資料集めの能力が問われることになると考えておくべです。

この記事のまとめ

通信制大学院は制度として認可されて20年強と、新しい部類に入る研究機関です。

しかし、年齢や生活環境によらず「研究に取り組みたい」といった思いを実現できる機会を創出する意味において貴重な制度といえます。

通学型の大学院と比べて自由度が高いぶん注意しておくべき点もありますが、うまく活用すれば働きながら大学院に通うことも可能です。

取り組みたい研究テーマを扱っている大学院があれば、通信制大学院の活用を検討してみるのも1つの方法です。

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