杜氏の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「杜氏」とは
日本酒の醸造工程を行う職人たちを仕切る仕事
杜氏(とうじ)とは、酒造りを行う蔵元で、日本酒造りの現場を取り仕切る人のことです。
蔵元が使用する米や麹(こうじ)を見極め、希望する味や風味を実現するために、蔵元で働く職人(蔵人)たちに指示を与え日本酒造りを行います。
実際に杜氏が酒造りを行うことは少なく、現場を取り仕切る監督業という役割が強い仕事です。
日本酒造りは数人から多ければ数十人単位でチームを組み行われます。
ひとつの日本酒を作り上げるには年単位で時間がかかるため、長期間さまざまな工程を円滑に行っていくためには、チームのコミュニケーションや人間関係も重要です。
そのため、杜氏には日本酒造りの知識や技術が求められるだけでなく、現場を取り仕切りリーダーシップが必要です。
日本には「三大杜氏」と呼ばれる高度な技術を認められた代表的な杜氏がいます。
兵庫県篠山市周辺を出身地とする「丹波杜氏」、新潟県中南部を出身地とする「越後杜氏」、岩手県花巻市を拠点とする「南部杜氏」で、それぞれ地域によって酒造りの手法や特徴が異なります。
杜氏になるためには、特別な資格や、一定の経験がなければならないといった決まりはありません。
実際、若い杜氏が活躍している蔵元もあり、近年では女性が活躍するケースも多く見られます。
「杜氏」の仕事紹介
杜氏の仕事内容
日本酒を製造し販売する
杜氏は、酒造りの最高責任者です。
酒造りをする職人をまとめて「杜氏」と呼ばれることもありますが、基本的に当時は一つの酒蔵に1人しかいません。
杜氏のもとで働く人は蔵人(くらびと)とよばれ、杜氏は蔵人たちを取りまとめながら、日本酒造りを行います。
大手の酒造メーカーでは、醸造方法が確立されており機械化されているため、蔵人や杜氏が仕事をすることはほとんどありません。
しかし、全国各地にある蔵元では、杜氏と蔵人によって伝統的な日本酒づくりが行われています。
杜氏は自分の好きなお酒を造っているわけではなく、蔵元(蔵の経営者)が求める味や風味のお酒を作り出すことが求められます。
蔵元が用意した米や麹、水などから、決められた質のお酒を、求められた量、納期までにつくらなくてはなりません。
麹を使用した日本独特の醸造法は、科学的に解明されていないことも多く、発酵状態などを日々確認し、分析をしながら管理していくのは非常に重要な仕事です。
さらに長年の経験と勘から酒造りの計画をたて、蔵人たちに指示を出し、適切な醸造を行う、いわば監督や工場長のような役割も果たします。
日本酒造りは数人から数十人のチームで行うため、適性を見極め的確に人員配置をしたり、コミュニケーションをとったり、ときにはトラブルを解決したりとリーダーシップを発揮することも大切です。
そのほか、酒造りに関する書類の作成や、税務署での手続き等の事務作業など、非常に多種多様な仕事を担っているのが杜氏です。
杜氏になるには
酒蔵に就職するか、大手の酒造メーカーに就職する
杜氏になるために、特別な資格や経歴は必要ありません。
現在活躍している杜氏の経歴は、高卒後そのまま酒蔵に就職し修業をはじめたという人、大学で醸造学をまなんだという人、社会人から転職した人など実にさまざまです。
就職先としては、酒蔵に就職する方法がメジャーです。
酒蔵が求人を出すことはありますが、酒造が盛んに行われている岩手や新潟、兵庫などの酒蔵を実際に訪れたり酒を飲んだりすることで、希望の酒蔵を見つけ、そこで修業をするのが杜氏への道のはじまりです。
また、醸造科のある大学などでしっかり知識を身につけ、その後大手の酒造メーカーに就職して経験を積み、知識を増やして杜氏を目指すという方法もあります。
ただし「杜氏」という求人はなく、就職してもすぐになることはできません。
まずは蔵人として酒造りをしながら経験を積み、蔵元や周りの蔵人から認められることで、はじめて杜氏の仕事を任されるのです。
杜氏は、もともと酒造りを行う冬期間だけ契約を結んで仕事をしていましたが、近年では酒造メーカーの社員が杜氏となったり、蔵元(経営者)が杜氏を兼ねたりなど、新しい働き方も生まれてきています。
なお、古来酒造りは女人禁制とされ、女性は杜氏になることができませんでしたが、近年では女性も酒造りをすることができるようになり、女性の杜氏も増えてきています。
杜氏の学校・学費
大学や専門学校で醸造について学ぶ
杜氏を目指す際の進路としては、農学や食物学、醸造学などを大学・短大・専門学校で学ぶ方法があげられます。
かつて、酒造りの技術は各地の蔵元や杜氏による集団のなかで伝えられてきましたが、近年は科学的な観点から醸造や発行を学び、知識を身に付けてから就職するという人も多いです。
大学のなかには酒造と協力して研究開発を行い、実際に日本酒を製造しているところもあります。
2020年には、北海道の帯広畜産大学が日本で初めて大学構内に酒造を構えたことで話題となりました。
酒蔵で1から修業する道も考えられますが、進学して知識を身に付けたい場合は、こうした大学や短大、専門学校を選択するとよいでしょう。
杜氏の資格・試験の難易度
資格は必要ないが杜氏組合に所属する人は多い
杜氏になるために特別な資格は必要ありません。
ただし、酒造りの技術を磨いていくなかで、各地にある杜氏組合や協会の会員となる人が多く、ここでは経験に応じた定期的な講習や、独自の資格試験が行われています。
試験の内容はさまざまで、知識だけでなく、利き酒などの実技が行われることもあります。
試験に合格すると晴れて杜氏として認められるという流れですが、こうした組合や協会に所属していない杜氏もいますし、こうした資格試験を受けなくても杜氏になることはできます。
また、必須の資格ではありませんが日本酒の製造に関する技能を認定する「酒造技能士」の国家資格を取得すると、知識や技術の証明になるでしょう。
杜氏の給料・年収
蔵元や酒造メーカーにより違いがある
杜氏の給料は、勤務している蔵元や酒造メーカーによって異なります。
杜氏の給料に関しては明確なデータはなく、公開しているところもほとんどないため、酒造メーカーの給料などから推測すると、500万から700万円ほどがボリュームゾーンだと考えられます。
長年経験を積んだ杜氏の場合は1000万円ほどとなることもあるようです。
蔵人になりたての場合は、月給は10万~20万円という低めの水準となることもあり、とくに未経験者の場合は年収が200万円ほどと苦しい生活を強いられることもあります。
決して給与水準がいいとはいえませんが、経験を積むと徐々に仕事を任される量も増え、年収がアップしていきます。
酒造の業界で高年収を目指すのであれば、やはり杜氏を目指すのが一番の近道です。
さらに収入をアップさせたい場合は、杜氏自らオーナーとなり酒造を経営する道もあります。
自らが蔵元となれば給料は収入の分だけ上がっていきますし、実際に蔵元と杜氏を一人で行い、実績を上げている酒造も見られます。
杜氏の現状と将来性・今後の見通し
新しい形の杜氏が増えつつある
杜氏は、かつては出身地ごとに各地で仕事をしてきましたが、こうした伝統的な杜氏とは違い、新たな働き方をする人も増えてきています。
蔵元自らが杜氏となり、自分の好きな酒を造る「オーナー杜氏」や、大学で醸造を学び、そのまま杜氏となるケースなどです。
杜氏といえば伝統的な手法を守り、代々技術が受け継がれてきたものですが、近年はこうした杜氏が増えることで新しい酒造りにチャレンジするところも増えてきました。
また、酒造りも機械化や効率化がなされたことで、これまでは避けられがちだった女性でも杜氏を目指す人が増えてきています。
日本酒の人気が高まり酒造りも多様化しつつあるなか、杜氏のあり方にも変化が訪れているといってよいでしょう。
杜氏の就職先・活躍の場
酒蔵の従業員として働く
杜氏になりたい場合は、蔵元や酒造メーカーに就職するのが一般的です。
ただし、就職したからといってすぐに杜氏になることはできません。
蔵元で酒造りを経験し、周囲から認められてはじめて杜氏になれるというケースが大半です。
杜氏となるには、少なくとも7年から10年の酒造りの経験が必要としているところが多く、当時になるためには長い年月がかかるということを覚悟しておきましょう。
一方で、近年は醸造系の大学を卒業していれば、数年の実務経験でも杜氏になれたり、社長やオーナーから指名されて杜氏になれたりするなど、新しい道も生まれはじめてきています。
杜氏の1日
酒造りの工程によって一日の流れは変わる
酒造りは秋から冬にかけて行われることが多く、杜氏はこのシーズンが一番忙しくなります。
一日の流れは酒造りの工程によって大きく変わるため、早朝や深夜まで働くことも珍しくありません。
杜氏のやりがい、楽しさ
日本酒が無事完成したとき
杜氏が一番やりがいを感じるのは、やはり日本酒が無事に完成したときです。
日本酒は長い時間をかけてつくるもののため、最後までどんなトラブルがあるか予測できません。
万が一のミスや災害などで日本酒がだめになってしまう可能性もあり、数ヶ月から一年の工程を経て無事に酒が完成したときは、感動もひとしおです。
また、自分が思うような味や風味が実現できた時も大きな達成感を感じます。
日本酒は基本的には米や麹、水といったシンプルな材料からできており、作る人や場所、技術によって味が全く変わります。
それだけ日本酒の世界は奥深く、いい酒ができたと感じたときには、また新しい酒をつくろうというモチベーションにもなります。
杜氏のつらいこと、大変なこと
杜氏になるまでが大変
杜氏になるまでには大変な苦労を伴います。
蔵人として仕事を始めても、最初は出荷や瓶詰めといった作業からはじめ、実際に酒造りに関われるようになるまで時間がかかることは珍しくありません。
また、実際に酒造りに着手してからも、杜氏となれるのはごくわずかで、最低でも数年から10年の経験が必要だといわれます。
杜氏として働きたいという強い信念とモチベーションがなくては、そもそもなることができないのです。
また、杜氏は酒造りの現場を仕切るため、蔵人同士のトラブルを解決したり、蔵元との交渉を行ったりと、酒造り以外の仕事も非常に多いです。
酒造に関する事務作業も多く担うため、実際に酒造りに専念できない一面もあるのは、この仕事のつらいところでしょう。
杜氏に向いている人・適性
リーダーシップやマネジメント能力が必要
杜氏になる人は、リーダーシップがありマネジメントが得意な人が向いています。
杜氏は実際に酒造りをすることはほとんどなく、酒造りをする蔵人たちに指示を出したり、酒造りの計画をたてたりするのが主な仕事です。
人の上に立つ立場として、リーダーシップがあることや、工程を管理するマネジメント能力がある人には最適です。
また、蔵人や蔵元とのトラブルをいさめたり、杜氏同士で交流や意見交換をしたりすることも多いため、器が大きく、コミュニケーション能力のある人が向いているでしょう。
若手や女性が参入しつつあるとはいえ、酒造りの現場はまだまだ職人気質が根強いため、こうした世界に入っても動じない人は存分に力を発揮できます。
杜氏志望動機・目指すきっかけ
お酒に関心がある人がほとんど
杜氏を目指すきっかけとしては、もともとお酒が好きで酒造りに興味があったという人が大半です。
自分がお酒を飲むのが好きな人の場合、酒造りをする際には利き酒や味をチェックすることも多いため、舌が肥えていればそれだけ杜氏に向いているでしょう。
また、地元で酒造りがさかんだったり、自宅が酒蔵だったりと、幼いころから酒造りに親しみを持っていたことで、この仕事をはじめたという人もいます。
高校や大学で発酵や醸造について学ぶこともできるため、こうしたきっかけで日本酒造りに興味を持ったという人もいます。
なお、飲酒ができないため味見をすることはできませんが、高校生や高校卒業後でも酒造りの仕事を始めることはできます。
杜氏の雇用形態・働き方
季節労働者から通年雇用へ
杜氏として働く場合は、蔵元や大手酒造メーカーの社員として雇用されるのが一般的です。
かつては杜氏や蔵人は季節労働者とされてきました。
日本酒は腐敗を避けるために秋から冬場にかけて集中的につくられるため、夏場は仕事がなく、農業や漁業が行われていない時期に人が集められ、出稼ぎとして日本酒造りをする人も多かったのです。
しかし昭和に入り雇用が安定すると、出稼ぎの仕事が減少し杜氏も後継者不足や高齢化に悩むようになりました。
こうした状況を打破するため、現在多くの蔵元では杜氏を正社員として通年雇用しています。
近年では、フリーランスとしてさまざまな蔵元を転々とする杜氏もいる一方、冬季限定で杜氏を故郷から招く伝統的な杜氏文化が守られているところもあります。
杜氏の勤務時間・休日・生活
酒を仕込む冬場は休みなく働く
杜氏の働き方は、酒造りをしている冬場とそれ以外で大きく異なります。
酒造りを行っている間は、朝も夜もなく働くことが多く、決められた勤務時間では仕事が収まらないことがほとんどです。
早朝から深夜まで働くことも珍しくありませんし、トラブルや工程の調整をしなければならないときには、何日も休みなく対応することもあります。
秋から冬にかけて猛烈に忙しい仕事であるため、変形労働制をとっているところもみられ、この時期に限って手当てを手厚くしているところも多いです。
一方で、夏場など酒造りが行われていないときにはゆったりと休みを取ることもできますし、旅行などに出かける人も多いです。
杜氏の求人・就職状況・需要
「杜氏」としての求人はない
蔵元や酒造メーカーなどで求人が出されることは珍しくありませんが、「杜氏」としての求人は基本的にありません。
杜氏は酒造りに従事し経験を重ね、周囲から認められた人にしかなれないため、杜氏を雇うときには蔵元が指名したり、コネクションを使って探したりするのが一般的です。
そのため、まずは「日本酒製造」「蔵人」といった求人を見つけるところからはじめなくてはなりません。
こうした求人は酒造りの盛んな地域でよくみられるため、自分の好きなお酒を造っている蔵元や杜氏について調べ、情報を集めるとよいでしょう。
なお大手酒造メーカーに就職した際には、必ず日本酒造りに関われるとは限らないため注意が必要です。
杜氏の転職状況・未経験採用
転職希望者は多いが道は険しい
転職で杜氏を目指す人も少なくなく、実際に全く別の仕事から杜氏になったという人もいます。
ただし、いきなり杜氏になる人はなく、ほとんどの人は蔵人からキャリアをスタートします。
酒造に関わる仕事も求人は少ないため、自ら積極的に求人情報を集めたり、蔵元に掛け合ったりする行動力が必要でしょう。
そもそも蔵人の求人が少ない理由としては、長く務める人が多いこと、大量採用を一切しないことなどがあげられます。
そのため、蔵元によっては中途採用の年齢制限をしていたり、経験者のみの採用としていたりすることも多いです。
まったくの未経験から転職を希望するのであれば、出来るだけ早いうちから動き出すことが大切です。
「杜氏」と「蔵元」「酒蔵」の違い
蔵元は経営者、酒蔵は製造所を指すことが多い
「杜氏」とは、酒造りの現場を仕切るトップにいる立場の人です。
そのため、ひとつの酒蔵には杜氏は一人しかおらず、杜氏の経験や技、職人たちからの信頼が日本酒の味を決めるといっても過言ではありません。
「蔵元」と「酒蔵」はどちらも酒造りをする人や場所を指すことがですが、「蔵元」は酒蔵の経営者のことを指し、家族で蔵元を経営している場合は、家族全員が蔵元と呼ばれる場合もあります。
また製造元(メーカー)のことを「蔵元」と呼ぶこともあり、これは日本酒だけではなく焼酎や醤油の製造元としても使われます。
一方、酒蔵はお酒を醸造し貯蔵するための蔵のことで、日本酒をつくる製造所を指すことが多くなっています。