樹木医の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説

「樹木医」とは

樹木医の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説

樹木のお医者さん。環境汚染や病害虫によって病気にかかった樹木の診察・治療を行う。

樹木医とは、文字どおり、病気になった木を治療する樹木のお医者さんです。

人間を診る「医師」のような国家資格はないものの、「樹木医」と名乗るには造園業などで7年以上の実務経験を積んで、財団法人日本緑化センターが主催する資格試験に合格しなければなりません。

また、高校卒業後に所定の大学や専門学校で農学などを学ぶことで「樹木医補」になり、さらに1年以上の実務経験を積んで樹木医の試験を受ける道もあります。

現状、樹木医としての求人はそこまで多くなく、造園業や林業などに従事しながら、樹木医としての知識・スキルを生かして活躍するケースが目立ちます。

しかし、日本各地には天然記念物に指定されている巨樹・古木や地域の住民に愛されているシンボルツリー、身近な街路樹などたくさんの樹木があり、それらを的確に処置し、後世に残していくために、樹木医は重要な役割を担います。

「樹木医」の仕事紹介

樹木医の仕事内容

樹木の診断や治療を行う専門家

樹木医は、樹木など植物の病気を治療する仕事です。

人間が体の調子を悪くするのと同じように、樹木も排気ガスなどによる環境汚染、病害虫などから病気になってしまうことがあるため、専門的な知識を持った樹木医が治療を行います。

樹木の仕事はおもに「診察」「分析」「処置」の3種類に分けられます。

樹木の発病にも人間の病気と同じようにさまざまな外的要因があり、多くの場合いくつかの要因が複雑に絡み合って病気へと至ります。

まずは樹木の状態をじっくりと診察・分析をしたのち、専門器具などを使って検査を行い、必要に応じて肥料や薬剤などを使って病気を治します。

もしも原因を見誤ったり、不必要な検査をしたりすれば、樹木に負担がかかりるだけでなく、経済的な損失を発生させることにもなるため、非常に責任のある仕事です。

樹木を守り、育てていく活動にも携わる

樹木医は、病気になった樹木を診るだけでなく、新たな樹木を植えて育成していく仕事に関わることもあります。

緑地を造成する場所の気候や地形を加味し、どのような種類の樹木を、どのくらい育成するかを検討するような、都市計画に携わっていくこともあります。

また、人々に樹木の役割や大切さを伝えるワークショップを開いたり、普及活動に取り組んだりする人もいます。

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樹木医になるには

樹木医補から樹木医を目指すルートも

「樹木医」の資格試験を受けるためには、最低でも7年の実務経験を得る必要があります。

このため、まずは学校卒業後に造園会社などに就職し、樹木に関わる知識と経験を積み重ねていくのが一般的です。

最近では若手樹木医の活躍が期待されていることから、特定の大学等で樹木学等を学んでいれば試験が受けられる「樹木医補」の資格も誕生しました。

樹木医補の資格を取得すれば、1年以上の実務経験を経たのち、樹木医の資格試験が受けられます。

樹木医補資格養成機関に指定された学校に通う場合には、まず樹木医補になり、そこから樹木医を目指すほうが近道といえるでしょう。

独学で樹木医になれる?

樹木医を目指すにあたって、必ず通わなくてはならない学校はありません。

一般的な高校や大学を卒業後、造園会社などへ就職して現場で7年以上の経験を積めば、樹木医試験の受験資格が得られます。

現場で学べることはたくさんあるため、日々の仕事に前向きに取り組みながら、樹木医になるための勉強をすれば問題ありません。

一方、先に樹木医補を目指すのであれば、樹木医補資格養成機関に認定されている大学や専門学校への進学が必要です。

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樹木医の学校・学費

樹木医補を目指せる大学や専門学校がある

樹木医になりたい人におすすめの進学先は「樹木医補資格養成機関」に認定されている大学や専門学校です。

こうした学校は日本全国に60校あり(令和元年9月現在)、在学中に、樹木学や植物病理学、森林生態学などの知識を習得できます。

学部でいうと、農学部や生命環境学部などが中心ですが、詳しくは、以下の一般財団法人日本緑化センターのページで確認してください。

樹木医補資格認定制度 登録大学等一覧と分野別科目対応表

ただ、これ以外の大学や専門学校から造園会社などへ就職し、実務経験を7年以上積むことで樹木医の資格取得を目指すことも可能です。

樹木医の資格・試験の難易度

樹木医試験に合格することが必要

かつて樹木医は国家資格でしたが、現在は一般財団法人日本緑化センターが認定する民間資格となっています。

なお「樹木医」は商標登録されているため、「樹木医」という看板を掲げて仕事をするためには、同センターが実施する樹木医認定試験への合格後、登録することが必要です。

樹木医試験の受験資格は下記の通りで、どちらかを満たす必要があります。

(1)造園業などの実務経験を通算7年以上積むこと
(2)樹木医補の認定を受けた後1年以上の実務経験を積むこと

上記を満たした場合、毎年1回、夏に研修受講生を選ぶ試験に参加でき、その試験で選出された人は研修を受けて、受講生の中から最終的に合格者が決定します。

合格率は20%程度とやや低め

樹木医研修後の審査に合格すると、同センターが作成する樹木医登録名簿に記載され、この名簿をもとに仕事の依頼がもらえるようになります。

樹木医資格審査の合格率は20%ほどと低めです。

造園や農林などの経験者ばかりが受験することを考えると、樹木医資格の取得は難関であるといっても過言ではないでしょう。

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樹木医の給料・年収

勤務先や働き方によって収入には差が出やすい

樹木医は、この仕事を専業として働く人はそこまで多いわけではありません。

樹木や植物に関わる他の仕事に就きながら、樹木医としての専門的な知識を生かして活躍するケースが大半となるため、どのような組織で働くのかによって給料にも違いが出ます。

民間各社のデータをもとにみていくと、民間の造園会社に勤める場合の平均年収は250万円~500万円ほどと考えられます。

造園系の仕事は技術職の要素も強いため、個々の実力や経験によっても収入に差が出やすくなっているようです。

勤務先によっては、樹木医の資格を取得していることで毎月の給与に手当がついたり、より難易度の高い業務を任されて昇進しやすかったりすることあります。

研究機関や自治体で働く場合の給料

造園業以外では、大学などの研究機関において、樹木の生態の研究に従事する人もいます。

大学では役職が上がるほど収入はアップし、講師であれば平均年収は720万円ほどですが、教授にもなれば1000万円を超える人も出てきます。

このほか、自治体の公務員として林業や緑地造成などの仕事に関わりながら、樹木医資格を生かす場合もあります。

自治体で働く場合はほかの公務員と同じ扱いとなり、国家公務員または地方公務員として定められた待遇が適用されます。

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樹木医の現状と将来性・今後の見通し

自ら活躍の場を広げる努力が必要

日本には、全国各地に巨樹や古木が多くあり、その樹種もさまざまです。

こうした樹木は海外からも注目を集め、自然環境保護や生物多様性の保全の観点からも、樹木を保護することへの関心が高まっています。

このような背景のなか、樹木医の需要は徐々にですが大きくなっています。

2020年現在、全国で2,834人が日本緑化センターの「樹木医登録名簿」に登録され、樹木医として活躍しています。

このうち女性は356人で、少しずつ女性の割合が増えてきているようです。

ただ、現状では樹木医としての求人があまり多くないため、資格を取得すれば安泰なわけではありません。

樹木のスペシャリストとしてどのような活動をしたいのかをよく考え、自ら活躍の場をつくり出す姿勢も必要でしょう。

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樹木医の就職先・活躍の場

造園業や林業、研究機関などで活躍

現状の日本では、まだ樹木医の認知度が低めで、需要も決して多くないため、この仕事や資格だけで生計をたてることは非常に困難です。

このため、樹木医のほとんどは樹木や植物に関わる仕事をしながら、樹木医として身につけた知識・スキルを生かしています。

樹木医の有資格者が多く働いている場としては、まず造園業や植栽管理業などが挙げられます。

このほか、国・地方公共団体の農林・緑化関係職員として働くケース、また、大学および研究所の教職員となって森林を保護したり研究したりする仕事に就く人もいます。

さらに林業の従事者や、農林高校や専門学校の教職員として働きながら、樹木医の資格を生かしていく人もいます。

このように樹木医の専門知識を有する人が活躍できる場は多岐にわたります。

樹木医の1日

働く場によって1日の流れは変わる

樹木医のほとんどは専業ではなく他にも仕事をもっており、樹木医は本業を充実させるための資格として取得している人がほとんどです。

このため、樹木医といっても人によって活動スタイルは異なります。

造園や農林などの仕事に携わる場合には、基本的には屋外での作業が多く、日が出ている間に診断や処置を行います。

数多くの樹木がある場所では、何日かかけて、診断を行っていくこともあります。

ここでは、樹木の所有者から依頼を受けて、樹木の診断を行う樹木医のある1日の過ごし方を紹介します。

9:00 現場入り・あいさつ
10:00 調査、診察開始
12:00 昼食
13:00 診断書の作成・写真撮影
16:00 片付け・現場撤収
17:00 事務所へ戻り事務仕事・翌日の準備
20:30 仕事終了・帰宅

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樹木医のやりがい、楽しさ

病気の原因を探って樹木が元気な状態になること

樹木の診断・治療を行う樹木医が最もやりがいを感じるのは、自身で下した判断によって、樹木の状態がよりよいものになっていくことです。

樹木は、人間や動物のように痛みや症状を訴えることはありません。

そのため疾病の原因を探ったり治療方法を検討したりするには長い期間を要することもあり、心身ともに疲弊することもあります。

目の前の樹木がどうして弱っているのか原因を探り、適切な治療を施した後、その効果が目に見えてわかったときには、大きな達成感が得られます。

また、樹木医の仕事には、その樹木の長い歴史に携わっていく醍醐味があります。

自然遺産や天然記念物に指定されているような、太古の昔から守られ続けている貴重な樹木に関わる機会もあり、なんとも感慨深い気持ちになります。

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樹木医のつらいこと、大変なこと

樹木を処分しなくてはならないことも

樹木医としてつらいことの一つは、やむなく該当の樹木を伐採したり処分したりしなくてはならないときです。

樹木の疾病状態によっては、周囲の環境への影響を懸念して伐採する決断を下すこともあります。

樹木医として樹木を助けるために仕事をしていながら、このような決断を下さざるをえないときは、心を痛めることもあるでしょう。

また、樹木医の仕事は屋外で行うことが多く、季節や天候によっては体に負担がかかりますし、作業中には害虫に刺されるなど被害を受けることもあります。

毒や棘のある植物に触れることもあるため、十分に気をつけて仕事を進めていかなくてはなりません。

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樹木医に向いている人・適性

樹木や自然とずっと向き合い続けられる人

医師が人間を診るように、樹木医は多くの樹木を相手にする仕事だからこそ、樹木が好きであることは必須です。

樹木はどれも同じように見えるかもしれませんが、その状態を細かく観察していけば、一つひとつ異なります。

樹木にとって負担が少なく、よりよい処置を行うためにも、樹木にどれだけ興味をもてるかどうかが重要になってきます。

また、樹木医は自然の中で働くため、昆虫や菌類、動物などに抵抗がないことも大事です。

そして、ときには高所作業も行うため、高いところがまったくムリという人には厳しいかもしれません。

一日中自然の中で働くことをいとわない人が樹木医に向いているといえるでしょう。

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樹木医志望動機・目指すきっかけ

樹木や植物が好きで、専門的な知識を身につけたい

樹木医を目指す人は、趣味でガーデニングをしていたり、植物学や生物学に興味があったりと、もともと植物や樹木が好きだったという人がほとんどです。

大学や専門学校で植物や農や植物について学ぶなかで樹木医という職業を知り、この仕事を志す人もいます。

また、樹木医の資格を得るには実務経験が必要なことから、ふとしたきっかけで造園業や林業など樹木に携わる仕事をするうちに、樹木医になることを決める人もいます。

樹木医は非常に専門的な仕事であるため、「なんとなく」というよりは「樹木医としてこういう仕事がしたい」という強い意志をもっている人が多いです。

樹木医の雇用形態・働き方

樹木や植物に関わる仕事をしている人が多い

樹木医になるためには、7年間の実務経験が必要です。

このため、現在活躍している樹木医のほとんどが、もともと造園や森林などに関わる仕事をしながら資格取得に向けた勉強をします。

樹木医として独立開業するケースや、樹木医として専業で働ける場所は現状多くないため、樹木医の資格取得後にも、引き続き同じ会社や機関で勤務している場合が多いようです。

通常の仕事は造園業など、樹木医の業務そのものとは少し異なるものである場合も珍しくありません。

しかし日常的に樹木を取り扱う業種で働いていれば、その業務の一環で、樹木の診断・治療にあたることは可能です。

また、造園や林業に関わる団体、その分野を担当する公務員が樹木医資格を取得するケースも多く見られます。

樹木医の勤務時間・休日・生活

年末年始と年度末は多忙になりがち

樹木医の勤務時間や休日は、勤務先の企業などによって異なります。

樹木の診断や治療は日が出ている昼間に行うことが多いため、夜勤のようなものは通常ありませんし、休みも決まった日程で取得しやすいです。

なお、樹木医の仕事がとくに忙しい時期は、年末年始と、3月の年度末です。

節目の時期となる年末や年度末の時期に、庭の手入れと平行して仕事の相談が舞い込むことが多いためです。

また、お客さまが冬に向けての準備をしていたり、冬を越した後の手入れをしていたりするなかで樹木の異変や病気に気がつき、診断の依頼が来ることも多くあります。

この時期以外は、担当業務にもよるものの、特別忙しくなることはあまりありません。

ただ、樹木の生育が盛んな夏場は、樹木の健康状態もよいため仕事が少なくなる傾向にあります。

樹木医の求人・就職状況・需要

樹木や植物に関わる仕事に就くことが足掛かりに

日本では、樹木医として専業で仕事をしている人はほとんど存在しません。

樹木医の業務はコンスタントに依頼されるものではなく、一般的な造園業務の間に、必要に応じて入ってくることが多いです。

単発の依頼も多いため、なかなか安定的に樹木医としてだけで生計を立てるのは難しいところがあります。

こうしたことから樹木医としての求人はほとんどないのが実情です。

「樹木医」や「樹木医補」の資格を持って造園業の企業などへ就職したとしても、必ずしも樹木医としての仕事ができるとは限りません。

ただ、資格があることが業務範囲を広げることにはつながります。

いずれにしても、樹木医資格は実務経験を積まない限り取得できないため、まずは造園業や林業などの仕事に就き、樹木医の受験資格を得ましょう。

樹木医の転職状況・未経験採用

樹木医になってからのキャリアもイメージしておくことが重要

樹木医として働くには、造園業などで7年間の実務経験を積むか、指定の大学や専門学校で所定の単位を取得し「樹木医補」として認定された後、1年間の実務経験を積むかのいずれかが必要です。

どちらの道を選んだとしても、長いスパンで考えなければなりません。

費用や年齢なども考慮すると、社会人が樹木医への転職を目指すのは、決して楽な道ではないことを理解しましょう。

また、樹木医の資格を取得したからといって、必ずしも樹木の診断や治療などの業務だけに携われるとは限りません。

造園業や林業と、樹木医を両立させて働く人も多いため、異業種からの転職であればなおさら、自身のキャリアをきちんと考えておくことが大切になってきます。

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