自分がいいと思うものを、自分のやり方で伝える。

(読了時間:4分53秒)

テレビプロデューサー石原 真さん

岡山県出身。法政大学 経済学部経済学科(1981年卒)。大学卒業後、日本放送協会に入局。ディレクターを経て、現在エグゼクティブプロデューサーとして活躍中。
座右の銘:くよくよするな

いまの仕事内容を教えてください。

僕は、32年間テレビ制作一筋でやってきました。ディレクターを15年、プロデューサーになって16年経ちますが、ここ10年間は音楽番組を担当しています。レギュラーでは、NHK総合で毎週日曜日の18:10から放送の「MUSIC JAPAN」という若者向けの番組。また、単発の企画番組も作ります。たとえば、ここ数年の音楽界ではアニメソング、いわゆる「アニソン」が熱く、それらをガッツリ特集した番組や、アーティストに密着した番組なども作ります。

さらに、もっとも気合いが入るのが、大晦日の「NHK紅白歌合戦」です。これにもプロデューサーの一人として毎年関わっていますが、だいたい夏を過ぎると紅白に向けての打ち合わせが始まります。NHKが総力をあげて作る番組ですから、気が抜けない日々が続きます。

一日はどんな流れで進むのですか?

僕の仕事に決まった流れはまったくないんですよ。毎日自分の仕事に合わせて動きます。たとえば、今日は朝11時から社内で2本打ち合わせをしたあと、外で「AKB48」のスタッフと次週のロケについての打ち合わせをして、戻ってきたところです。

外での打ち合わせというのは、レコード会社の人や事務所の人とのやりとりが中心ですね。もちろん、ロケに同席することもあります。

プロデューサーの仕事はルーティーンワークではありませんが、強いて特徴をあげるとすれば、「365日、勤務時間も仕事内容も違う仕事」ということでしょうか。ただ、その根底にあるのは、僕の場合「音楽」ということですね。

テレビの世界に入るきっかけは何だったのでしょう?

僕は、小学生の頃からメディアの仕事がしたいと思っていました。本や新聞を読むことが好きで、小学校の卒業文集には「新聞記者になりたい」と書いた記憶があります。小説家になれるような才能があるとは思っていませんでしたが、とにかくメディアの仕事がやりたくて。

また、僕が青春時代を過ごした1970年代というのは、「8mmフィルム」を使った自主制作映画が花盛りでした。いまでは当たりまえのように流し見ているテレビCMも、最新映像技術を使ったりして、ものすごいブームになっていたんですね。

僕自身も映像に夢中になりました。就職活動ではマスコミしか受けず、内定が出たのがNHKと某新聞社だったので、テレビの世界を選びました。

プロデューサーになるまでの経緯は?

NHKは、基本的に新卒局員のほとんどが地方局勤務になります。僕も大学卒業後すぐNHKに入局して、まず鳥取放送局で5年間ディレクターとして働きました。それから東京で10年働き、プロデューサーになってから福岡放送局で3年間単身赴任をしました。そして、東京に戻っていまに至ります。

いまはJ-POP一筋ですが、これまでドキュメンタリーからドラマ、バラエティー、科学番組など、ほぼ一通りのジャンルを制作しました。

メディアの中で、NHKのように全国展開をしている会社は珍しいですよね。地方勤務は嫌だという人もいるかもしれませんが、僕は仕事をしながら色々な場所で経験を積めるというのは、いまから思うととてもいいことだなと思いますね。

仕事での苦労や、やりがいについてのエピソードを教えてください。

世の中には、なかなかテレビに出てくれないアーティストが存在します。たとえば「B'z」。僕は何年も何年もアプローチを続けていました。あるとき、とりあえずNHKのカメラで密着OKとなり、結果的に僕が担当したNHKスペシャルの特番として完成しました。取材期間も半年という期間を要しましたが、実はそこにいたるまでの時間が何倍もあったという苦労エピソードです。

僕は土日も関係なく足しげくライブに通い、事務所スタッフと挨拶し、メンバーとも話し…といったことを日々繰り返しています。人脈作りは、プロデューサーに必須です。「石原さんのところになら出ます!」と言ってもらえるのは、プロデューサー冥利に尽きますね。

テレビ制作の現場はやっぱり休みがないのでしょうか?

正直に言って少ないですね(笑)。ゴールデンウィークやお盆などは関係なく動いていますし、年末年始も「紅白歌合戦」が終わって元旦の朝方に自宅に帰り、翌日にはその視聴率が発表されるので会社に行きます。

いつも週末を使ってアーティストのライブに行きますし、地方ロケが入ることも。一年のうちに丸一日休めた日は…ちょっと思い出せないくらいですね。もうずっとこんな生活ですからある意味慣れましたが、決して楽でないのはたしかです。

プロデューサーには、どんな人が向いていると思いますか?

「好き嫌いで判断しない」人ですね。もちろん、音楽でも映画でも、自分の好みはあっていいです。ただ、それが訴えようとしていることや、「なぜ、売れているのか?」といったことを複眼的に考えることが、プロデューサーに必要な視点です。

売れているものには何かしら理由があります。たとえば、「アイドルには興味がない」とバカにするのではなく、本当の意味で「どんなジャンルでも好き」と言える人が向いていると思いますね。僕も、新譜CDは聴きまくり、週刊誌は毎週全誌チェック、テレビドラマの1話目は全て録画して観る…といったことを、何年も繰り返しています。メディアに関わる身として、最低限必要なことかなと思います。

将来の夢や目標はありますか?

僕が目指しているのは、一見「何もしない」プロデューサー。そう言うと語弊がありますが、プロデューサーがうるさく指示を出さなくても現場が回る…これは、難しいことです。きちんとやれる部下を育てることや、いい環境作りするのが、僕の目指す「超一流」のプロデューサー像です。

また、この仕事で「何をもって成功とするか?」というと、「自分に達成感があるか」だと思っています。自分がいいと思うものを伝えるのが僕らの仕事。もちろん、「視聴率が低い=見られていない」ので喜ばしくはないですが、視聴者に媚びてはいけないなと。これからも、僕が伝えたいと思ったことを伝えていきます。今後、もし自分のセンスに自信がなくなったときは、僕はこの仕事を辞めます。いまのところ、まだ当分やれそうですが(笑)。

テレビプロデューサーを目指す人にメッセージをください。

僕は、メディアの基本を学ぶには本と映画をオススメします。どちらも19世紀、20世紀の文化の中心でしたし、とても高級なメディアです。しかし、ある一定量を読んだり見たりしないと自分の判断基準や感性が磨かれないので、学生のうちにこれでもかというほど量を浴びてください。映画なら、年間100本が最低ラインですね。

テレビ制作の現場は、皆さんが思っているよりもずっと忙しいです。僕もこの歳になるとクタクタ(笑)。それでも、やればやるだけのリターンは必ずある仕事ですよ。

(取材:石原 桃子)