南極観測隊の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「南極観測隊」とは
南極に滞在し、自然環境などの観測・研究を行う
南極観測隊とは、南極に滞在して自然や環境などを観測する仕事です。
国立極地研究所の一機関で、一年間滞在する「越冬隊」と、夏場のみ滞在する「夏隊」の2種類があります。
気象庁、海上保安庁、国土地理院などさまざまな機関から選抜され、隊員は基地での生活を維持するための「設営部門」と、研究や観測を中心に行う「観測部門」の2つにわけられます。
限られた人数や土地のなかで長期間生活しなくてはならないため、各専門知識が必須であるとともに、隊員同士の協調性やコミュニケーション能力が求められる仕事です。
また厳しい環境のなか働くため、寒さに対応できる体力や、心身共に健康であることが重要なポイントとなります。
国や専門機関などから研究を託されることも多いため、未知の分野で活躍したい人や国や世界のために働きたい人などに向いているでしょう。
南極観測隊の募集は国立極地研究所で行われますが、基本的には国立極地研究所をはじめとする政府機関の研究員や職員です。
しかし、一般に公募される職種もあり、設営や観測の知識や技術があれば、専門機関以外からでも参加できる可能性があります。
ただし求人は不定期で、機械や調理、医療や観測支援などそれぞれの分野における採用もごくわずかです。
「南極観測隊」の仕事紹介
南極観測隊の仕事内容
観測部門と設営部門に分かれて仕事を担当する
南極観測隊は、南極の自然環境などを研究するために南極に滞在する仕事です。
隊員は越冬隊が約20名、夏隊が約40名で、多いときには約60名で生活をしながら研究や観測を行います。
南極では5~7月が冬であるため、11月にオーストラリアに異動し、そこから南極観測舟に乗り込み南極へ渡ります。
12月~1月に南極圏内に入り、そこから昭和基地などに向かいます。
観測隊は観測部門と設営部門があり、観測部門はほとんどが大学や専門機関、気象庁などの研究者です。
観測部門では、気象や宇宙、生物や大気、地表、雪氷などについて観測、研究を行います。
昭和基地から約1000キロの場所にある「ドームふじ基地」では、南極の古い氷を採掘することで、過去の大気の状況や数万年前の成分を研究しています。
また、南極は非常に多くの隕石が見つかることで知られており、日本は南極観測隊が多数の隕石を発見したことから惑星科学が非常にすすんでいます。
こうした南極観測隊の観測業務により、さまざまな科学の発展が期待されているのです。
設営部門は、基地の維持や生活に必要な仕事を担当し、建築、機械、電機などのプロフェッショナルや、医師が参加しています。
冬場は寒さのため機械が正常に動かなかったり、雪により大規模な修繕が行えなかったりするため、夏場に集中的に仕事を行います。
南極は非常に過酷な環境であるため、観測部門も設営部門も体力が必須です。
南極観測隊になるには
国立極地研究所などの研究機関の研究員になる
南極観測隊になるには、いくつ可能方法があります。
まずは、国立極地研究所などの研究員になる方法です。
南極観測隊を募集しているのは国立極地研究所で、観測隊員の大半はこうした機関の研究員や政府機関(気象庁など)の職員です。
多くは、大学院博士課程などで大気科学・海洋学・地質学・生物学・雪氷学などを学び、南極に関する研究をしている人ばかりです。
まずは大学や大学院でこうした学問を学び、関係機関の研究員になるのが近道でしょう。
なお、会社員が勤務先から派遣される場合は、出向等により一時的に公務員とされたり、大学院生の場合は任期付きで、大学の教員扱いとなったりします。
また、国立極地研究所では技術系職員も募集しており、採用されれば設営部門として南極観測隊に参加できる可能性もあります。
そのほか、観測部門・設営部門共に、公募があり、一般からでも参加できる可能性があり、南極観測隊で活かせる専門分野で功績を残していれば、大学院生や会社員でも観測隊に参加できます、
そのほか、南極観測隊とは異なりますが、専門要員としてさまざまな企業から出向者が参加しています。
実際に、基地設営のためにミサワホームなどの住宅メーカー社員が参加したり、衛生設備保守のためにKDDIの社員が参加したりしています。
また報道記者が年に1名ほど選抜され、隊員に帯同し現地からの様子を伝えています。
南極観測隊の学校・学費
大学院卒業程度の知識が必要
南極観測隊になるために特別な学歴は必要ありませんが、南極観測隊に選ばれるためには、基本的には大学院の博士号程度の研究成果が必要だとされています。
実際に、大学院生が南極観測隊に参加したという例も過去にあります。
南極観測隊の観測部門では、主に気象や宇宙、生物や大気、地表、雪氷などを研究しているため、大気科学・海洋学・地質学・生物学・雪氷学などを学んでおくとよいでしょう。
また、地理学、環境学、環境工学などを生かすこともできるでしょう。
設営部門を目指す場合は、電機や機械、医療など各専門分野での実績が必要なため、学歴よりも実際にどのような仕事をしたか、功績を残したかのほうが重要視されるでしょう。
南極観測隊の資格・試験の難易度
資格は必要ないがさまざまな条件がある
南極観測隊に参加するために特別な資格は必要ありませんが、各部門でさまざまな条件が規定されています。
観測部門の場合は、観測機器に関する取扱い経験やコンピューターに関する一般的な知識があること、フィールドワークの経験があることなどが設定されています。
また、南極観測隊に応募するためには、現在の職場の代表者、所属長もしくは上司が作成した推薦書が必要です。
資格よりも、仕事上の功績や人望が大切だといえるでしょう。
また公募に選考されても身体検査や冬季総合訓練があり、健康上の理由や観測隊員としての適性がなくては参加することはできません。
南極観測隊の給料・年収
所属先によって給料は異なる
南極観測隊の給料は、それぞれが所属する機関や職種で違いがあり、平均すると30~40万円程度となります。
国立極地研究所で採用されている場合は研究員としての給料が、気象庁から派遣される場合は国内の研究者と同様の給料が支払われます。
法令によると、それにプラスして南極観測隊に選ばれた場合は極地観測等手当が1日につき1,800円から4,100円支払われます。
越冬期間中は3割増しとなります。
その代わり、残業手当は支払われないことになっており、夜間勤務をしたり長時間調査をしたりした場合も、ほかの隊員と一定の給料が支払われています。
一方で、南極観測隊として勤務する間は生活のすべてが税金で賄われており、お金を使うことは一切ありません。
南極観測隊の現状と将来性・今後の見通し
日本の南極観測はますます発展していく
日本の南極観測隊は、これまでオゾンホールの発見や、南極隕石の採取、古代の大気を研究するための氷床深層コアの掘削など、非常に多くの功績をあげてきました。
近年は地球全体の気候変動や環境問題に注目が集まる中で、南極における観測の重要性はますます高まっていくと考えられます。
だからといって南極観測隊の人数が急速に増えるとは考えにくいですが、2034年頃には「しらせ」に続く次期観測舟就航を軸に将来構想が組まれています。
日本の南極観測は今後さらに発展し、南極観測に携わる人も徐々に増えていくでしょう。
また、これまでになかった空路での移動や荷物の空輸についても考えられており、南極での暮らしもより充実したものになっていくと考えられます。
南極観測隊の1日
基本的には日勤者と同じ
南極観測隊の生活リズムは、研究で夜間に観測をする隊員を除き、基本的には日勤と同じリズムです。
南極観測隊のやりがい、楽しさ
他の人にはできない貴重な体験ができる
南極観測隊の一番のやりがいは、ほかの地域では絶対にできない貴重な体験や研究ができることです。
たとえば、世界で初めてオゾン層に穴が開いていることを発見したのは、1982年の日本の南極観測隊の研究の結果です。
また、オーロラをはじめとした超高層の大気の観測は、南極でしかできないものです。
もちろん極地での作業や研究のために危険を伴うこともありますが、観測結果や採集したサンプルが世界を揺るがす大発見につながることも非常に多いです。
過酷な環境で任務に当たることができるのは、こうした貴重な経験を通し、地球に関する謎に迫り、科学の進展に寄与することができるからでしょう。
南極観測隊のつらいこと、大変なこと
世界から隔絶された場所で働く
南極観測隊の大変なところは、限られた物資や地域の中で集団生活をしなくてはならないところです。
とくに越冬隊の場合は、14カ月ほど帰国できません。
いまは基地にもインターネットや個室が完備されており、しっかりと生活の保障はあるものの、世界から隔絶された場所で文明を離れて暮らすことは大きなストレスでしょう。
また、一度上陸すると補給はほぼないため、何かが壊れても自分たちで直さねばならなかったり、具合が悪くなっても治療の手立てがなかったりといった不便な生活を強いられます。
こうした大変さや不便さを受け入れながら、それでも南極で働きたいという人のみが、南極観測隊になれるのです。
南極観測隊に向いている人・適性
コミュニケーション能力が高い人
南極観測隊に向いている人は、コミュニケーション能力が高い人です。
決められた人と同じ場所で長時間共同生活しなくてはならないため、誰とでもコミュニケーションをとれる人でなくては、仕事をすることができません。
基地では自分の専門外の仕事を手伝ったり、逆に手伝ってもらったりすることも珍しくないため、協調性が高いことも大切です。
また、南極では天候の悪化や機器の故障など予期せぬ事態が起こっても助けてくれる人は誰もいません。
自分たちだけですべてを解決しなくてはならないため、トラブルなど突発的な事態が起きても冷静に対処できる人、問題解決能力が高い人は力を発揮できるでしょう。
南極観測隊志望動機・目指すきっかけ
南極への興味関心が多い
南極観測隊になる際の面接では、志望動機を聞かれます。
志望動機はさまざまですが、もともと南極などの極地で仕事をしてみたかったという人や、研究をしているうちに、南極で観測をしてみたくなったという人が多くなっています。
近年では、南極観測隊の経験者がテレビや雑誌などのメディアに登場したり、ブログや本を書いたりしていることも多く、こうした者に触れて南極観測隊に興味を持ったという人もいます。
ただし、単なるあこがれや興味関心だけでは、南極での過酷な暮らしを乗り切ることは非常に難しいです。
志望動機を話す際には、南極で具体的にどんなことがしたいのか、自分はどのように貢献できるのかなどをしっかり話せるようにしておくことが大切です。
南極観測隊の雇用形態・働き方
毎年採用があり公募もある
南極地域観測隊は、1957年に1次隊が昭和基地を設立してから現在に至るまで、60年以上にわたり観測を続けています。
年次により内容が変わりますが、定期的に求人が行われています。
基本的には関連機関からの推薦ですが、一般公募も行われており、観測部門と設営部門でそれぞれ募集があります。
とくに設営部門は、電気技術者、車両整備技術者、雪上車技術者、設備技術者、発電機技術者など多様な職種が公募され、とくに調理師や医師などは希望が多い人気職種であることで知られています。
どの職種も狭き門ではありますが、南極観測隊のホームページを見ると、各隊員の所属や役割などが見られるようになっているため、参考にするとよいでしょう。
南極観測隊の勤務時間・休日・生活
一般的な仕事と同様
南極観測隊の勤務時間は、夏場は基本的に8:00~17:00までで日曜のみ休み、冬は9:00~17:00までで土日休みとされています。
ただし、これはある程度個人にゆだねられており、例えば夜間オーロラの観測をする場合は、隊員同士で日勤と夜勤のシフトを組み、交代で勤務するようになっています。
休日には自由に過ごす時間があり、個室でゆったりと体を休める人や、ボードゲームやスポーツなどを楽しむ人などさまざまです。
なお、観測隊には任務以外にも生活に必要な雑務をこなす必要があり、これは休日にも行われます。
たとえば食事の盛り付けや配膳の手伝い、風呂屋トイレ、共用部の掃除とゴミの処理などは、担当を決めたり手の空いた人が手伝ったりするようです。
南極観測隊の求人・就職状況・需要
人数は少ないが毎年チャンスはある
南極観測隊は、人数は少なく狭き門ながらも毎年求人があるため、国立極地研究所にある採用情報をチェックしておくとよいでしょう。
毎年求人される職種が異なるため、自分の研究領域や専門分野の公募があるまで何年もかかるという人もいます。
また、各機関から推薦される場合も同様で、希望したからといって南極に派遣されるとは限りません。
南極観測隊を目指す場合には、長い時間がかかることを覚悟しておきましょう。
南極観測隊を目指す人は、大半がその道のプロフェッショナルで、専門分野で功績をのこしていたり、仕事で評価されたりした人ばかりです。
採用の際はこうした人たちと席を争うため、普段からしっかりと経験を積んでおきましょう。
南極観測隊の転職状況・未経験採用
一時的に公務員の身分となる
南極観測隊は、一時的な期限付きの職業であり、一生働ける職業ではありません。
そのため、国立極地研究所の研究員以外はすべて転職で参加することになります。
隊員は研究員や政府機関の職員などが大半ですが、一般企業の会社員や大学教授などの場合は、一時的に公務員の身分となり、転職したとみなされることが多いです。
ただし、隊員が研究のために申請を行えば、観測隊に同行できる「同行者」が認められる場合があり、この場合は公務員ではなく一般人の身分となります。
観測隊が帰国した場合、もともといた機関や大学、企業などに戻る場合が多いですが、南極観測隊の経験をきっかけに、別な仕事を始めたり、転職したりする人もいます。
女性の南極観測隊員はいる?
南極観測隊には、1987年に初の女性隊員が認められてから、これまでも何人もの女性が参加しています。
毎回女性は数名程度参加しており、2006年にはこれまでに最多の7名が参加しています。
近年では、初めて女性で副隊長兼夏隊長に就任した海洋研究開発機構の原田尚美さんや、一般公募の調理隊員として越冬隊に参加した渡貫淳子さんが話題となりました。
ただし、昭和基地の医療体制では妊娠の経過観察や出産ができないため、妊婦は隊員になることが認められていません。
女性隊員は砕氷舟が帰国する段階で妊娠の検査を受け、万一妊娠が発覚した場合は、日本に帰国することが決められています。