相手の立場に立ち、働く環境を改善!
社会保険労務士平井 千鶴さん
1977年生まれ、千葉県袖ヶ浦市出身。短大卒業後、出光興産に入社。潤滑油を扱う営業研究所に10年間勤務。在職中に社会保険労務士の国家資格を取得し、30歳の時に株式会社グローバル・ネットワークに社会保険労務士として転職、現在に至る。特定社会保険労務士の資格も保持。
担当しているのはどんな仕事ですか。
会社で働く従業員が加入する社会保険の申請書類作成・届出・給付、給与計算などの事務手続き全般を行う仕事です。
社会保険には健康保険、厚生年金保険、雇用保険などさまざまな保険があり、従業員が入社してから退職するまでの全期間に渡ってお手伝いをする仕事になります。
会社の税金に関することなど「お金にかかわる仕事」は税理士さんが担当しますが、社労士は「人にかかわる仕事」とよく言われます。
ただ「事務手続き」と言ってもデスクワークが中心ではありません。担当している企業に出向いた際に、社長さんや人事部の担当者の方から人事制度や労務管理などに関するさまざまな相談を受け、それに対してアドバイスをすることも多いですね。
なぜ、社労士になろうと思ったのですか。
実は前職はある大手石油会社の研究所にいて、潤滑油の試験の仕事をしていました。
短大の欧米文学科を卒業して事務職として入社したのですが、試験部門に配属になり、楽しく働きながらも「このままずっとこの仕事なのかな?」と疑問に思うことがありました。
すでに入社6年目。研究所務めという特殊な仕事でもありましたし、自分が結婚したり転居したりして環境が変わったときに、「ずっと続けられる仕事だろうか?」と考えることも多く…。
そんな時、近所の本屋さんに会社帰りに立ち寄ったとき、手にした職業紹介の書籍の「社会保険労務士」の項目を読んで、「これだ!」と思いました。
そこには「国家資格で、企業の人事・労務のお手伝いをしながらいろいろな人に会える仕事」というようなことが書いてあったと記憶しています。
それからすぐに行動に移したのですか。
ところが、国家資格である社労士の試験の合格率が8%と言うのを知り「私にはとても無理」と思いました。その一方で「『会社』がある限り、社労士の仕事はなくならない…」と単純にそう考えた自分がいました。
悶々と悩む日々が続きましたが、「落ちても勉強したことは無駄にならないんじゃない」と母が背中を押してくれたこともあり、一念発起して社労士資格取得のための専門学校に通うことにしました。
毎週土曜日の午後、5時間ぐらい勉強し、学校には約2年間通い続けました。社労士の試験は3回目でようやく合格できましたが、最後の受験前の1年間は会社から帰ってきても毎日3~4時間勉強していましたね。
試験に合格したのは29歳のときです。
社労士の勉強はどうでしたか?
社労士になるには、労働基準法という法律はもちろん、労災保険、雇用保険、保険料の徴収法、健康保険、国民年金、厚生年金など幅広い分野の知識が必要です。
私は文化系の短大ですし、その後は理系の研究職でしたので、こうした知識はほとんどなかったうえ、恥ずかしながら社労士の存在さえ知りませんでした。
学校に行き始めた当初は「なんでこんな法律の勉強をするんだろう…」と苦痛を感じることもありましたが、諦めずに学んでいくうちに、いままで漠然と給与明細を見るだけでよく分からなかった社会保険の仕組みや会社生活でのさまざまな仕組みが分かってきて、だんだんと興味が湧いてきたんです。
それにしても研究所での勤務から全く異なる仕事への転身とは思い切りましたね。
今までつとめた会社で資格を生かした部署への異動希望も出していました。しかし、結婚して引越をすることが決まっていたため、通勤することが難しく、残念でしたが退職しました。
社労士は、資格があるからといってすぐに就職先が見つかるわけではありません。ですが、私の場合は国家試験に合格してから、試験勉強のときに知り合った友人を介して今の会社とつながっている方と偶然知り合い、募集していることを教えていただきました。
これも何かの縁だと思って、すぐに今の会社に転職することにしたんです。 初めはわからないことばかりでしたが一から教えていただき、お客さまからの相談にのれるまでに成長しました。
その後子どもができたこともあり、育児休業を取得し、出産、子育てをしながら働いてきました。
会社に復帰してからは子供を保育園に預けて、仕事と育児を両立させています。いまは週に3日勤務ですが、私が会社のときは主人が保育園に子供を送っていってくれるのでとても助かっています。
社労士の仕事のやりがいをどこに感じていますか。
社会保険の手続きや制度に関して、企業の方からの疑問に答えたり、まだ知らない情報などをお伝えして喜んでいただけた時に大きなやりがいを感じます。
たとえば、今は働く女性が多く、出産や育児のために「育児休業制度」を設けている会社が増えています。実は育児休業の期間中は健康保険や厚生年金保険の保険料は免除されるんです。
このように企業にとっても従業員さんにとっても役に立つ情報を提供し、実際にその手続きを代行してお役に立つことができるのが、この仕事の醍醐味だと思います。
制度を知らないと損することもありますし、大げさな言い方をすれば、正しい人を救い上げるというか、がんばっている人が報われるような手助けができる仕事です。
そのためには日々の勉強もかかせません。法律はよく変わりますから。勉強が続くという意味では、社労士は資格をとってからがスタートと言えるかもしれませんね。
社労士になってよかったことはありますか?
社会保険や給与、会社生活を中心としたいろいろな仕組みが分かったことは自分にとっても大きな財産になったと思います。
たとえば、以前の職場で働いていたときは、年末調整をするときは何も分からず教えられた通り書類を提出するだけでした。ですが今は、しっかりと仕組みと意味を理解したうえで社労士として給与計算などにかかわっています。
難しくて敬遠していたことでも実際に勉強してその意味を知ると、意外に面白いというか興味を持てるということは自分にとっても新たな発見でしたね。
また、いろいろな企業の方、同業の方、税理士さんなど他士業の方など、たくさんの出会いがあり世界が広がったことはとてもよかったと思っています。
どういう人が社労士に向いていると思いますか。
気遣いができて、相手のことを思いやることができる人が向いていると思います。
というのも、社労士をやっていると企業のトップや人事担当者から相談されることが多いのですが、単に頼まれたことに対して答えるだけでなく、それぞれの企業が抱える課題や問題点などを想像したうえでアドバイスをすると、大変感謝されることが多いからです。
社労士になるための知識は、がんばって勉強すれば身に付けることはできます。私もそうでしたが、法律が好きでなくても大丈夫です。
ですが、「人事」という人にかかわる仕事のため、相手の立場で考えられる人でないとこの仕事は難しいかもしれません。
今後、社労士の仕事はどうなっていくと思いますか。
在宅勤務の導入など、従業員の「働き方」が多様化する中で新たな人事制度や給与体系などを作る必要性が出てきています。
そうした際に、私たち社労士の「出番」は増えるだろうと予測しています。
また、中小企業の中には、いまだ社会保険制度が未整備の会社もあります。そうした会社に対して、きちんとした制度の構築に向けたアドバイスなどをしていくことも社労士の大切な役割だと考えています。
特に、少子高齢化などが進展し、社会保険の財源が厳しくなっていることもあり、制度の健全な発展に向けて社労士として果たす役割は決して小さくないと思っています。
今後の目標は何ですか。
実は会社を退職して、独立開業することを決意しました。最初から独立を考えていたわけではないのですが、まわりで独立する人も増えて、自分もやってみよう!と思ったんです。
5年も務めた事務所を辞めるのは自分としては大きな決断だったのですが、思い切って新たな一歩を踏み出すことにしました。
ゼロから顧客開拓をすることになるので大変だと思いますが、家族の協力も得て、がんばっていきたいと思っています。
社労士を目指す人にメッセージをお願いします。
社労士は、従業員の皆さんの働く環境を整えるサポートをする仕事で、従業員とその家族の皆さんに安心を与える役割があります。いろいろな企業や人に出会える素晴らしい仕事なので、ぜひチャレンジしていただきたいと思います。
主婦になって子どもができてからも長く続けられる仕事ですので、ぜひ女性の方にも社労士を目指して欲しいですね。
(取材・文:高見 和也)
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