従業員の健康を守り、誰もが元気に働ける職場を目指す!

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保健師山本 幸奈さん

1987年、山梨県出身。山梨大学医学部看護学科卒。2010年2月に看護師、保健師の両国家試験に合格し、同年4月1日に新卒で富士通株式会社へ入社。保健師として川崎健康推進センターに勤務中。
座右の銘:自分の限界を決めない

まずは「保健師」という職業について簡単に教えていただけますか?

はい。保健師は、病気予防や健康の保持・増進のためのさまざまな保健活動を行う職業です。

おもに「行政」「学校」「産業」という3つの分野で活躍していて、私のように一般企業で働く人は「産業保健師」といいます。

「産業保健師」が日ごろ接するのは企業で働く社員ですが、行政機関などで働く「行政保健師」の場合は、地域にお住まいの乳幼児からお年寄りまで幅広い世代の方と接します。

保健師で⼀番多いのは、この「行政保健師」です。

また「学校保健師」の場合は、児童や学生、教職員が対象となります。

同じ保健師とは言っても、どの分野で働くかによって仕事内容は異なりますし、活躍の場はさまざまな分野に広がっています。

現在は、どのようなお仕事をされていらっしゃるのですか?

私が勤務している川崎健康推進センターでは、事業部ごとなどに一人の保健師・看護師がつく「職場担当制」を敷いており、私は約900⼈の社員を担当しています。

日常の主な業務としては、健康診断結果のフォロー、健康面やメンタル面の相談や、長時間残業をしている社員に対する過重労働対策の⼀環としての面談などがあります。

このような個⼈への支援のほか、会社の健康増進活動にも取り組んでいます。

「⾷事・運動・禁煙」という3本の柱があり、センター内の保健師・看護師がそれぞれのグループに入って、さまざまな活動の企画を行っています。

私はいま運動支援のグループに入っているので、WEB上のウォークラリーを活用しながら、健康増進と職場活性化を促しています。

そのほか、社員の健康診断の結果を、データにまとめて共有するといった統計業務もあります。

日常の仕事は裁量に任される部分が大きいですね。

1日の流れを教えてください。

8時半始業ですが、15分前までには出社しています。午前中は健康診断のフォローが必要な方との面談や打ち合わせが中心。1時間のお昼休憩を挟んで、午後も面談や職場巡視を行っています。

社員からメールで相談をいただいた時はその都度返信をしますし、面談のお約束をするため、こちらから電話やメールを使って連絡をとることもしています。

また、面談や会議が入っていない時間を見つけて、統計業務などのデスクワークも行います。

時期によっては仕事が立て込んでしまうこともありますが、集中して業務を行い、できるだけ残業をせずに上がるよう気を付けています。

山本さんは、いつごろから保健師になりたいと考えていたのですか?

昔から医療関係の仕事には漠然と興味を持っていました。

高校生のころは「保健師になろう」と決めていたわけではなかったのですが、手に職をつけたい気持ちが強かったこともあり、看護を専門的に学べる4年制国立⼤学の看護系学科に進学しました。

当時は保健師の存在自体は知っていましたが、地域で働く行政保健師のイメージが強くて、企業に保健師が関わっていることはあまり知りませんでした。

看護学科での4年間のおおよその流れを教えてください。

1年目は他の学部と同様、一般教養が中心でした。

2年目からは医学部キャンパスに移り、本格的な看護の勉強がスタートし、3年目からは臨床実習が増えてきます。

4年生の前半も実習が中心ですが、後半になると研究を進めて卒論を書き、2月に国家試験を受けて卒業という流れでした。

私が通っていた大学では、必要な単位を取得することで看護師と保健師両方の国家試験の受験資格が得られたので、私も4年生の2月に両方の試験を受けて合格しました。

卒論の執筆、就職活動、国家試験の勉強を同時にしていたので、当時は大変でした。でも、先輩たちみんなが通ってきた道なので、「こういうものだ」と思っていましたね。

看護師になる道も選べる中でなぜ保健師を、特に産業分野を目指したのですか?

大学在学中の臨床実習のとき、病院の各科を回って多くの患者さんの姿に触れたのですが、「病院」という独特の場所で、日常生活や社会背景とは切り離されて、誰もが同じ「患者さん」として扱われている印象を受けたんです。

社長さんも、大工の棟梁さんも、どんな背景を持つ人も一様に「患者さん」。

ですが、私は疾病を抱える方だけに「患者さん」として接するのではなく、もっと広い視野を持って、その方がどんな仕事をしているのかを踏まえたり、健康になりたい方の相談にのったり、⽇常⽣活を意識した環境の中で仕事がしたいと思ったんです。

それで少し悩んでいたときに、企業の中で社員の健康を守る「産業看護」という分野を知りました。

産業分野は一人の方と長いスパンで接することができたり、その方の社会背景を考えながら仕事ができることに魅力を感じました。

また、私自身「療養のケア」よりも、「病気でない人を含めて、健康を守ること」に興味があると気付いて。それを機に、産業の道に進もうと決意しました。

就職先はどのように探したのでしょうか?

実は、新卒の保健師の受け入れ口は決して多くなく、私も就職活動ではとても苦労しました。

看護師は求人も志望者も多いので、一般的な学生さんと同じように就職活動ができるのですが、保健師は前例が少ないため、大学の先生も就活の方法にそれほど詳しくありません。

特に産業分野は募集があまりに少ないので、「ハローワークで探すしかないかも…」と言われてしまうほどで(笑)

では、どのように就職先を見つけたのでしょうか?

「産業保健師になりたい」という想いは日に日に強くなっていたので、卒論は産業看護に関するテーマを選びました。

研究では、地元・山梨の産業看護現場で働いている方にインタビューをするなど、積極的に動いていたんです。

学校の先生にも熱意をアピールし続けていたら、あるとき産業看護分野で活躍されている先生に声をかけていただき、今の会社の求人を紹介していただけて。

どうしても産業保健師の道に進みたかったので、当時は自分でも驚くくらいアクティブにやっていたと思います。

産業保健師になるのは、それほど狭き門なのですね。

産業医と異なり、企業に保健師を置くことが法律で定められているわけではないので、求人数はあまり多くないようです。

特に中小企業の場合には、なかなか自社で教育する余裕がないことから、求人を出すとしてもどうしても即戦力を求める傾向があるので、新卒採用が少なくなります。

当社は社員数が多い会社ですが、それでも新卒の保健師が多いわけではなくて、私は「10年ぶり」に入った新卒社員だったそうです。

ただ、2つ下の代には新卒の子がまた一人入りましたし、大きな企業は保健師の数もそれなりにいるので、求人はゼロではないですよ。

山本さんの職場では、何人の保健師さんが働いていらっしゃるのですか?

現在、保健師が16人、看護師が3人います。一見多く見えるかもしれませんが、このセンター
で担当する社員の数は13,000人以上いるので、決して多い数ではないんですよ。

ここは規模が大きな分、グループ会社も含めた支援を展開する必要があり、時には関係会
社に出向することもあります。

山本さんの入社後のキャリアステップを教えてください。

少し勘違いされやすいのですが、私は保健師でありつつ、富士通の社員でもあるんです。待遇や福利厚生などはもちろん、基本的な社員教育も他の社員と同じです。

ですので、4月1日に入社すると、まず1ヵ月ほど営業やSEといった他の新卒社員と一緒に、ビジネスマナー等の新人研修を受けました。

その後は現場で保健師としての研修が始まります。2年間はトレーナーの先輩の下でカリキュラムに沿って学び、業務をしながら研修課題をこなしていきました。

2年目の終わりには本部長クラスの方々の前でプレゼンし、一連の研修が終了。

別の職種の新卒社員と同じように、社会人としての基礎教育をしっかりと受けられたのは、とても恵まれていたと思います。

仕事の取り組み方や意識など、新人の頃と比べて変化したことはありますか?

4年目になって、ようやく仕事にやりがいを見出せるようになってきました。1年目は目の前のことをこなすのに精一杯でしたし、2年目や3年目は仕事を覚えていく中で、壁にぶつかって悩むことも多かったので。

今年は外部の研修にも参加し、学生時代に学んだ知識が実務上で活かせるようになってきました。また、会社の仕事だけではなく、社会における保健師の役割が少しずつ見えるようになってきました。

後輩も入り、少しずつ責任感が出てきたかなと思っています。

この10⽉からは、新横浜の事業所にも週1.5⽇勤務しています。そちらは規模も小さく、保健室のような役割も持つ場所で働いているのですが、社員とより⾝近に接することで、新たなやりがいも感じています。

2年目の時に感じた「壁」とは、どのようなものだったのですか?

入社したばかりのころは、思っていた以上に社員の方との距離を感じてショックを受けることがありました。

学生時代、身近に産業保健師として活躍している人がいなかったので、リアルなイメージが湧きづらく、「いつでもみんなに必要とされる」という勝手なイメージ像をつくり上げてしまっていたせいだと思います。

病院とは違って、会社では基本的にみなさん元気に働いています。でも、中には健康上心配な面を抱える方がいたり、長時間労働など法律の絡みもあって、どうしても面談しなければならないこともあります。

そんなとき、忙しく働いている方を呼び出そうとしても、なかなか理解が得られにくいことが続いて。お会いするのも目上の方ばかりなので、毎回プレッシャーが大きかったですね。

自分が何のために存在しているのか、わからなくなる毎日でした(笑)

そのようなつらい時期を、どのように乗り越えていったのですか?

今でも忘れられない出来事があります。健康診断で再検査となった部長クラスの方がいたのですが、何度も何度もお声掛けして、ようやく来ていただけたんです。

検査は何事もなく一安心。その方から「面倒だったけれど、検査を受けて何もないとわかったら安心したよ、ありがとう。なかなか目の前の業務が忙しくて、呼んでも来ない人が多いと思うけれど、根気よく声をかけてあげてください」とおっしゃっていただけて。

その言葉がとても励みになりました。

数々の失敗を乗り越えて、今は当時に比べれば「なぜ面談が必要なのか?」といったことも、うまく説明できるようになったかなと思います。

日々のお仕事でやりがいを感じるのは、どんな瞬間ですか?

相手の本当のニーズを理解して対応できたとき。それにより、社員が自分の健康に向き合ってくれた時ですね。

産業保健師の仕事が社会の中でどういう意味を持っているのか。経験を重ねることで少しずつ見えてくることも、やりがいにつながっています。

また、私たちは3年から5年程度は同じ職場を担当するので、社員が次第に名前や顔を覚えてくれて、社内で声をかけてくれるのもうれしいです。

休日の楽しみ、リフレッシュ方法があればぜひ教えてください。

普段、情報の流れが速い中で働いているので、休日はスローな生活を楽しんでいます。

写真撮影が好きなのでカメラ片手に出かけたり、手芸や料理など、ものづくりをすることで心身のバランスをとっています。

一緒に新入社員研修を受けた同期のメンバーとは今でも仲がよくて、一緒に遊びに出かけることもありますよ。自分とは違う職種でがんばっている仲間の話を聞いて、刺激を受けています。

山本さんが思う、産業保健師の仕事の魅力はどのようなものですか?

一般的に、医療職は専門性が高い分、狭い世界に閉じこもりがちな一面があるかもしれません。

でも産業保健師の場合、専門職であると同時に一般企業の社員でもあるので、他職種の人と接して視野を広げながら、社会人としての自分を磨き続けられるのがよいところだと思います。

それともう一つ。私は社会人になるにあたって、いわゆるOLさんのようにスーツを着たりネイルをしたり…といった姿に憧れる面もあったので、それができるのも魅力かなって(笑)

よく「医療職は別世界の人」と思われがちですが、決してそうではないということを、みなさんに理解してもらいたいと思っています。

もちろん、専門分野に関してはプロとしての自覚を持って、日々勉強していますけれど。

今後の目標はありますか?

仕事が面白くなってきたところですし、ステップアップできるように、この調子でがんばります。

長期的な視点で言うと、「保健師」という仕事が社会でもっと認知されるための活動もしていきたいです。

最近は国際学会ができるなど、少しずつ保健師の知名度やニーズが高まっているようですが、私たちの仕事は、まだまだ一般の方に理解されにくいところがあると感じています。

たとえば、健康診断の結果を返しているだけと思われたり、実際に「看護師との違いは何なの?」と聞かれることもあって。

実際、保健師と看護師の違いはどのようなものなのでしょうか?

まず、基本的なところですが、保健師になるためには、看護師の資格を取得した上で、保健師の資格を取得する必要があります。

仕事内容で言えば、看護師が接するのは主に疾病を持つ方なので、「療養上のケア」という視点で個人を見ていくのに対して、保健師はもっと大きな視点で、個々の生活背景や生活習慣から「いかに健康な心身をつくるか?」というように見ていきます。

そして、個人だけでなく、集団に対してのアプローチも必要です。

健康だと思っている⼈でも、生活習慣を見直すことで、さらに人生の満足度を上げる方法があるかもしれません。そういった観点で相談に乗ったり、組織の仕組みづくりに携わるのは、保健師ならではだと思います。

保健師に向いているのはどのような人だと思いますか?

最低条件は「人が好き」であること。いくらメールや電話があっても、面と向かってお話しなければ仕事にならないので、コミュニケーションをとるのが苦手な方だと難しいですね。

あとは仕事の幅が広いので、マルチな対応ができる人。柔軟で、好奇心旺盛な人がいいですね。産業保健師の場合は特に、医療以外のことにも興味を持って知ろうとする姿勢が大切です。

この仕事は、ただ勉強ができればいいというものではないんです。素晴らしい学歴やスキルを持っていることと、人から信頼されることはイコールではないと思います。

また、笑顔でいたり、人を元気にしたりするには、自分の心も豊かであるほうがいいので、「⾃分の生活を充実させよう」という気持ちも大事にするといいのではないでしょうか。

最後に、保健師を目指す方に向けてメッセージをお願いします。

保健師は多くの人の力になれる仕事ですし、人と関わる中で自分を大きく成長させられます。

特に産業保健師の場合、医療以外の世界にも足を踏み入れて、多様な価値観を大事にしながら働けるので、ぜひ興味を持ってもらえたらうれしいです。

とはいえ、まだまだ求人が少ない世界なので、目指す途中には大変なこともあるかもしれません。

私も就職活動では厳しい思いも味わいましたが、自分の限界を決めないで粘り強くがんばっていると、道は開けてくるものです。

もし早くから産業分野に進みたいと決まっているのなら、その世界で活躍されている教員がいる大学に進学して、いろいろと相談するといいと思います。

がんばってください!