畜産農家の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「畜産農家」とは
家畜を飼い、肉や卵、乳などを生産する
畜産農家は、乳製品や肉、卵、皮革をとるために牛や豚、羊、鶏などの家畜を飼育または肥育する仕事です。
放牧をしている農家は牧畜農家と呼ばれます。
酪農家と混同されることもありますが、酪農家は、畜産農家の中でも牛を飼い、乳を得ることを目的とする農家のことです。
畜産農家が育てる動物の肉や乳などは私たちの生活に欠かせないものであり、日本の食文化を支える仕事です。
製品として出荷するためには、動物の特性を知り、成長具合や健康状態をコントロールしながら、生育環境を整えていかなくてはなりません。
動物たちはストレスや暑さ寒さに弱く、仕事を怠ると病気になってしまったり味が落ちてしまったりするため、毎日休みなく動物に向き合うことが大切です。
専門的な知識や技術が必要となるため、まず農業や酪農系の学校に進学するか、実際に就職して1から学んでいく方法があります。
動物に関する知識はもちろん、どのように出荷しどのように製品化するのか、どのように利益を得ていくかなどの経営の知識も求められます。
かつては家族経営の畜産農家が大半でしたが、近年は畜産会社、観光農園、酪農会社など企業や団体として畜産をしているところが多く、経営スタイルにも変化が現れつつあります。
「畜産農家」の仕事紹介
畜産農家の仕事内容
家畜を飼育して提供する
畜産農家の主な仕事は、家畜を飼育することです。
飼育する動物は牛、鶏、豚などさまざまで、品種もそれぞれ異なり、その動物の特性をよく知り、適切な飼育環境を整えることが大切です。
一般的にはあまり知られていませんが、養蚕や養蜂、毛皮獣や実験用動物等の飼育も畜産農業に含まれます。
具体的な仕事内容は、えさやりや畜舎の掃除・消毒、飼料の配合やえさの準備、動物の体調管理、出荷業務などです。
そのほか、肉や乳を出荷するためにブランディングを行って価値を高めたり、自分自身で加工まで行ったりする畜産農家もいます。
肉牛の場合は、母牛に子牛を生ませて育てる「繁殖牧場」と、市場で買った子牛を大きく育て出荷する「肥育牧場」の2つのスタイルにわかれます。
大規模牧場などでは、この繁殖と肥育の両方を一貫して行っていることも多いです。
動物相手の仕事であるため、一日の大半を動物と向き合う必要があり、休みを取るのが難しい職業です。
兼業農家のスタイルがなかなかとれない仕事でもありますが、地方では農業と畜産業を兼業で行っているところもあります。
また、近年は家族経営から企業経営へと経営スタイルが変わってきており、農家の数自体は減っているものの、一戸あたりが扱う家畜の頭数は増えてきています。
畜産農家は高齢化がすすみ、後継者不足が懸念されている分野です。
今後は作業の機械化や効率化など、新しい技術を取り入れていくと考えられます。
畜産農家になるには
大学などで畜産を学ぶか、働きながら1から学ぶ
畜産農家になりたい場合に、一番簡単な方法は、大学などで畜産を学ぶことです。
畜産は動物を相手にするため、まったく知識がなければ1からはじめるのは難しい仕事です。
大学などを卒業後、農業法人や畜産を行う企業に就職します。
これらはハローワークなどで見つけることができますし、畜産を扱う大学に求人が来ることもあります。
また畜産が盛んな地域では、移住や住み込みでの仕事を募集していることも多いです。
この場合は、未経験者でも歓迎していることも多く、1からのスタートでも働きやすいでしょう。
その他の方法としては、畜産ヘルパーになる方法があります。
農家の休日などに農家に代わって動物の世話をする仕事で、えさやりや清掃などの仕事を行います。
さまざまな畜産農家の現場を見ることができるため、畜産をはじめたい人にとっては、良い経験となるでしょう。
また、経験を積むと動物や農地、畜舎や設備を自分自身で整え、畜産農家として経営をすることもできます。
ただし、独り立ちするには資金も必要ですし、地域で畜産をする人たちからも受け入れられるような人間性も重要となります。
もともと実家が畜産農家であるなど、親の動物を引き継いで畜産農家になる人もいますが、1から新規参入するのであれば、長い年月がかかると考えておきましょう。
各都道府県には新規就農相談に乗ってくれる部署があるため、将来自分で農場を経営したいという人は早めに相談しておくとよいでしょう。
畜産農家の学校・学費
畜産について学べる学校がある
畜産農家を目指すのであれば、まずは畜産に関する専門的な知識や技術を学ばなくてはなりません。
農業系の学校に進学し、畜産学、生物資源学、生物生産学、環境学、生物学などを学ぶのが一般的です。
また、獣医学や酪農学を学んでから畜産を志す人もいます。
農業系の学校では、家畜の飼育の方法やそれに関する技術を学べるほか、乳搾りや食肉の加工法などの研修も受けることができます。
ただし、まったくの未経験から畜産をはじめることは不可能ではなく、畜産農家で働きながら、知識や技術を学ぶという方法もあります。
畜産は未経験者、無資格者も比較的受け入れられているため、まったくの別分野から畜産に携わる人も少なくありません。
畜産農家の資格・試験の難易度
仕事内容に応じて取得していく
牛や豚などの家畜を生育する畜産農家になりたい場合、都道府県による公的資格(免許)が必要です。
免許を取得するには、各都道府県が毎年1回開催する家畜商講習会の全課程を修了しなくてはなりません。
そのほか、家畜人工授精師の資格を持っていると、牛の人工授精、受精卵の移植を行うことができます。
これは所定の講習を受け、修了試験に合格すれば取得できます。
その他、トラクター等の農業機器を扱うことが多いため、普通自動車免許や大型免許を持っていると、就業後スムーズに仕事をすることができるでしょう。
これらは学生時代のうちに取得しておくというよりも、実際に仕事を始める際に必要に応じて取得していくというスタイルが多いようです。
畜産農家の給料・年収
経営規模や飼育頭数によって違いがある
畜産農家は経営規模もまちまちであり、保有している動物の種類や頭数が違うため、平均値を出すことが難しいのが現状です。
2018年の農林水産省農業経営統計調査によると、酪農の全平均年収は1463万円、100頭以上層で4138万円です。
また繁殖牛で376万円、肥育牛で801万円、養豚では全平均1876万円、2000頭以上層で4472万円となっています。
個別経営(法人経営を除く)の家族労働一時間当たり農業所得を他産業の単位時間当たりの給与(一般企業での時給相当)でみてみると、酪農では、全国平均2509円、北海道では平均3050円と非常に高い水準です。
肉牛の場合も、繁殖牛1457円、肥育牛2517円、養豚では、平均2554円、2000頭以上層5531円となっており、こちらも一般企業と比べても高い数値になっています。
これだけ見ると非常に高収入のように思えますが、ここから収入の7割がエサ代などの生産費として使われるので、実際に手元に残る金額は300~650万円ほどとなることが多いようです。
さらに、機器や施設のリース料金や用地のローンなどを抱えている人も多いため、決して高給とは言えない現実があります。
ただし畜産農家の中には、他の農業などと兼業して収入を得ている人も多く、収入は人によって大きく異なってきます。
また家畜や飼料の市場価格によって変動するため、同じ頭数を出荷しても前年と収入が全く異なるということも珍しくありません。
畜産農家の現状と将来性・今後の見通し
ロボットやITなどの活用が期待される
近年、畜産農家の集約が進み大規模化することによって、その規模に応じた設備や労働力などの負担が問題となっています。
とくに人手不足は深刻な問題で、畜産農家の魅力を多くの人に知ってもらい、担い手になってもらうことが急務となっています。
一方で、ロボットやITなどの最先端機器を畜産に活かし、少ない労働力で多くの動物の面倒が見られるようにしていく努力もなされています。
日本の安全・安心な食卓を守るためには、畜産農家は欠かせない存在となっています。
そのため、国を挙げてこうした問題に取り組み、日本の畜産農家が安定して経営できるようさまざまな制度や環境が整えられていくことが期待されています。
畜産農家の就職先・活躍の場
畜産を行う企業に就職する
畜産農家は、家族経営をしているところと、企業や団体として経営しているところに分かれます。
かつては家族経営が一般的でしたが、高齢化などに伴い廃業する人が増えつつあり、企業として畜産を行うところが増えてきています。
実家が畜産農家でそれをそのまま手伝うという人ももちろんいますが、近年では1から畜産を始める場合は、畜産を行う企業に就職するのが一般的です。
また、畜産農家は休暇をとる際などに「ヘルパー」を雇うこともあります。
畜産農家の代わりに搾乳や給餌などの作業を行いながら、畜産の知識や技術を学んでいく方法で、これをきっかけに本格的に畜産に乗り出す人もいます
畜産農家の1日
毎日同じ仕事をこなす
畜産農家のスケジュールは、飼っている動物の種類や頭数によって違いがあります。
ここでは乳牛を飼育している畜産農家の1日を例に紹介します。
基本的には年間を通して大きな変化はなく、毎日同じ仕事を行います。
畜産農家のやりがい、楽しさ
動物と触れ合いながらの生活
畜産の仕事は朝も早く、肉体労働が多いためつらいというイメージを持つ人も多いですが、動物を相手にする仕事のため、動物が好きな人には非常にやりがいを感じる仕事です。
またたいていの牧場は自然のなかにあり、四季や動物の成長を感じながらゆったりと生活をすることに魅力を感じている人も多くいます。
牧場の横に自宅を併設している人も多く、出勤のわずらわしさがない、常に動物と触れ合いながら生活できることも大きな魅力のひとつでしょう。
さらに、独立して自分の牧場を経営したり、法人化させたりする人も多く、「いずれ自分の牧場をつくりたい」という目標のある人にも向いています。
畜産農家のつらいこと、大変なこと
自由に休みがとれない
畜産の仕事は動物が相手のため、365日休みがありません。
長期休暇をとったり、長期間旅行に行ったりすることは難しいと考えたほうが良いでしょう。
ただし近年は「ヘルパー」とよばれる派遣型のスタッフが農家の仕事を手伝ってくれることも多く、畜産農家は休みが全く取れないということはありません。
また、体力勝負の仕事でどろにまみれたり、動物の糞尿を処理しなくてはならなかったりなど汚い仕事もあるところは大変なところです。
まだまだ肉体労働も多くはありますが、近年は機械化や省力化が進み、ITを取り入れるところも増えてきています。
体力に自信のない女性でも安心して働くことができるよう、環境が整いつつあります。
畜産農家に向いている人・適性
動物が好きで動物のために努力を惜しまない人
畜産農家は動物を相手にする仕事のため、まずは「動物が好き」という気持ちが一番大切です。
動物の命に係わる仕事でもあるため、途中で投げ出したりせず、最後まで責任をもって仕事をやり遂げられる人が向いているでしょう。
動物は言葉を話せないため、相手が動物だとしてもしっかりと相手を思いやる気持ちを持ち、ときに病気や出産など突発的な事態が起きてもあわてずに対処できる人も向いています。
また、畜産農家の日々の仕事は動物のえさやりや清掃など、同じことを繰り返すものも多いです。
そのため、毎日同じ仕事でもこつこつと努力できる人や、根気のある人に向いているでしょう。
畜産農家志望動機・目指すきっかけ
身近に畜産があったことがきっかけ
畜産農家を目指す理由としては、実家が畜産農家であったり、地域で畜産がさかんだったりと、畜産が身近なものであったということが多いです。
そのほかとしては、学校や大学で研修を行ったり、畜産農家を実際に見学に行ったりして興味を持ち、畜産農家を志すようになったという人もいるようです。
またもともと動物が好きで動物に関わる仕事がしたかったという人や、地域でつくられているブランド牛乳やブランド肉などを守りたい、もっと魅力を知ってほしいという思いで畜産農家になる人もいます。
もともと農業を経営していた人がさらに収入の幅を広げたいと畜産をはじめ、兼業するという人も少なくありません。
畜産農家の雇用形態・働き方
雇用は多いがなり手は少ない
畜産農家は、主に家族で経営しているか、企業として経営しているかのどちらかに分かれます。
畜産農家はほかの農業と比べると常勤で人を雇っていることが多いです。
これは、畜産が重労働であることや、季節によってあまり作業量に変動がないことからです。
ただし、若い男性が多く、どうしても給料の安さや労働の大変さなどにより離職が少なくなく、労働力不足になりやすい傾向にあります。
雇用があるにもかかわらず、人が集まらない、後継者がいないといった理由で外国人をやとったり、外国人留学生を受け入れたりしているところも少なくありません。
また、「ヘルパー」という形でさまざまな畜産農家に派遣され、作業の手伝いをしたり休みの日の作業を担当したりする働き方もあります。
畜産農家の勤務時間・休日・生活
休みは基本的になし
畜産農家は動物が相手の仕事であり、基本的には365日休みはありません。
動物は1日様子を見なかっただけで病気になってしまったり、えさをあげなかったばかりに肉質が悪くなってしまったりと、目が離せないのです。
暑さ寒さにも弱く、環境の変化がストレスに感じてしまうため、こまめなケアが必要です。
しかし、まったく休みがないわけではなく、従業員が多い大規模農家などでは、シフト制で休みをとることができます。
近年では週休2日や長期休暇も取得できるようなところも増えてきています。
それ以外にも、スポットで畜産農家に派遣される「ヘルパー」を利用し、その間に休みをとるという人もいます。
畜産農家の求人・就職状況・需要
高齢化により深刻な人手不足
畜産農家の求人は非常に多いです。
畜産業は、担い手の高齢化や後継者不足に伴う離農の増加等により、どの分野においても減少が続いており、深刻な人手不足に陥っています。
そのため、一戸当たりの飼育頭数が年々増えており、家族経営のような小規模の畜産から、企業や法人が手掛ける大規模な畜産へと経営の仕方が変わりつつあります。
これから畜産農家になりたいという人には、働くチャンスが非常に多くあり、成功すれば莫大な収入を得ることができるといえます。
ただし、牛乳や乳製品の消費が減少していたり、海外から安い肉が輸入されたりなど、これからの畜産業に不安要素がないわけではありません。
畜産農家の転職状況・未経験採用
農家との兼業は多い
もともと農家だった人が畜産業へ転職する、また農家と畜産農家を兼業するという人は多いです。
物を育て出荷するというプロセスは農業も畜産業も同じであるため、仕事の内容は違えど生活はあまり変わりないでしょう。
また、サラリーマンなど全く畑違いの業界から転職するという人も非常に多くみられるのが特徴です。
自然の中で生活したい、動物と向き合って生活したいなど理由はさまざまですが、1から畜産について学ばなければならないため、一人前になるには長い年月がかかります。
ただし、畜産農家以外の業種を経験することで、その経験やノウハウを活かして販路を開拓したり、売上を伸ばしたりと畜産に新たな風を吹かせる人も多いです。