歌い手の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「歌い手」とは
「歌ってみた」で楽曲を自分のカラーに
「歌い手」というのは、もともと歌をうたう人のことを指す言葉です。
国語辞典を見てみれば、「歌い手」と「歌手」が同義として扱われているのがわかるでしょう。
しかし、インターネットの世界のなかでの「歌い手」というのは、一般的な歌手のことではありません。
ボーカロイドを使って制作された曲を実際に歌ってみて動画を投稿する人のことを、「歌い手」と呼んでいます。
自分の声や歌い方などの個性で、楽曲をどれだけ魅力的に聴かせることができるのか。
それが歌い手にとっての腕の見せ所といわれています。
「歌い手」に明確な定義はなく、自分自身が「歌い手」と名乗れば誰でもなることができます。
学生が趣味の延長線上の活動として投稿していることもあれば、この仕事を本業として生計を立てている人もいます。
プロとアマチュアが入り交ざっているのが実態といえるでしょう。
年齢層もさまざまですが、10代や20代の若者が多いのが特徴です。
歌い手の世界では、一般人がひとつの動画の投稿をきっかけに人気者になるケースは珍しくありません。
CDを発売したり、楽曲を配信したり、ライブ活動をしたりと、本物の歌手と同じように活動を展開できることもあります。
音楽業界で仕事をしてみたいという人にとって、無限のチャンスが広がっている世界ともいえます。
「歌い手」の仕事紹介
歌い手の仕事内容
カバーした歌をレコーディングして投稿
歌い手の仕事は、ボーカロイドの曲を自分の歌声でカバーしてインターネット上に投稿することです。
シンガーソングライターのように、自分自身で作詞や作曲をしてオリジナルの曲を作るわけではありません。
ボカロPが作った楽曲を、歌い手のセンスや歌唱力でどれだけ魅力的に聴かせることができるのか。
それを追求するのが歌い手の使命です。
仕事の流れとしては、まずは機材を準備するところから始めます。
パソコン、マイク、マイクスタンド、オーディオインターフェイス、ヘッドフォン、DAWソフトなど、必要なものを揃えましょう。
次に、たくさんの音源のなかから自分がカバーする楽曲を決めます。
人気のボカロPが作る曲が注目を集めやすいですが、そのぶんさまざまな歌い手がカバーするので、埋もれやすいという一面はあります。
また、人気のある曲に自分の声質や歌い方が合うとも限りません。
曲選びは大切なので、曲の魅力と自分の個性の両方を引き出せるように慎重に選びましょう。
音源を流しながらマイクに向かって歌を吹き込む作業は、カラオケのようなものを想像するとよいでしょう。
この歌声を専用のDAWソフトで録音して書き出す作業をします。
完成したらYoutubeやニコニコ動画などの動画投稿に投稿します。
ただ投稿するだけでは多くの人に見てもらいにくいので、SNSのアカウントを作って告知をすることも大切です。
日頃からファンや他の歌い手と交流していると、情報を拡散してもらいやすくなります。
歌い手になるには
再生回数と反響こそが命
歌手を目指す人の一般的なルートは、歌手発掘のオーディションやコンテストに出場することです。
最近はテレビ番組のカラオケ選手権も多いので、こういった番組に積極的に応募する人もいます。
あるいは芸能事務所や音楽レーベルに自分を売り込んだりする道もあるでしょう。
自分をプロデュースしてくれる存在を見つけることが、歌手としての活動の近道だからです。
一方、歌い手を目指す人の一般的なルートは、ネットにコツコツ動画を投稿することになります。
歌い手の場合は、楽曲選びからレコーディング、動画の投稿からSNSの告知まで、全て自分でやらなければいけません。
とにかくさまざまな曲にチャレンジし、知名度を上げ、再生回数を増やしていくことが夢への近道となります。
最初のうちはほとんど動画が再生されず、反響もないかもしれません。
しかし、一つでもヒットする動画ができると、一気にアカウントのチャンネル登録者やフォロワーが増えることがあります。
また、歌い手どうしでコラボしたり、映像とコラボしたりすることも大切です。
仲のよいボカロPができると、歌い方に関するアドバイスをもらうこともできるかもしれません。
SNSで積極的に人間関係の輪を広げて、チャンスを増やすことが、可能性を広げてくれます。
音楽の専門学校に通ったり、ボイストレーニングのレッスンに通ったりする人もいます。
音楽的な知識や感性、歌唱力がなければ活躍することができないので、こうした勉強は必ず役立つでしょう。
歌い手の給料・年収
この仕事だけで生活していけるのは一握り
歌い手の収入は、基本的には「歌ってみた」などの動画の再生回数によって左右されます。
再生回数が多いと広告収入がたくさん入りますし、再生されなければ当然のことながら広告収入は入りません。
こうした仕組みは、基本的にYoutuberやVtuberと同じです。
パソコンやマイクやヘッドフォン、DAWソフトなどの経費のぶん赤字になるという人もいます。
一般的な歌手が、芸能事務所や音楽レーベルから給料や契約金をもらうのに対して、歌い手の収入は非常に不安定です。
こうした理由から、ほとんどの人は趣味の延長として活動しているのが実態です。
飲食店やコンビニなど、歌とは関係のないアルバイトをしながら生活している歌い手も少なくありません。
「歌だけで生計を立てられるほど稼いでいるのはほんの一握り」だということを知っておきましょう。
そのうえで、トップクラスの知名度を誇る歌い手は年収1000万円以上の高収入を得ていることも事実です。
動画の再生回数に伴う広告収入。
自主製作のアルバムをコミケなどのイベントで販売した売り上げ。
音楽配信サイトで楽曲を配信したときの売り上げ。
ライブを開催したときの観客からのチケット代。
企業とのコラボなどで支払われる報酬。
こうした収入を合算すると、一般的なサラリーマンを上回る金額になるのです。
歌い手は、まさに実力や人気が全ての世界です。
稼げるか稼げないかはあくまでも自分次第だと考えておくとよいでしょう。
歌い手の現状と将来性・今後の見通し
歌い手ならではの無限の可能性
ひと昔前までは、ボカロPや歌い手の人気はネットのなかで完結するのが当たり前でした。
動画投稿サイトを見ている人にはよく知られた存在であっても、それ以外の場面ではほとんど目にする機会がなかったのです。
しかし最近では、実力のある歌い手が多方面で活躍するようになっています。
たとえば、2019年に放映された人気アニメ「ポケットモンスター」の主題歌は、「そらる×まふまふ」さんという有名な歌い手の二人が担当しました。
2020年の話題アニメ「呪術廻戦」の主題歌を歌った「Eve」さんも、ニコニコ動画の歌い手をしていたシンガーソングライターです。
歌い手がテレビアニメの主題歌を歌うことは今や珍しいことではありません。
CDの販売や楽曲の配信をする人も増えています。
これからもネットの世界だけにとどまらず、自由自在に活動の幅を広げていくことが期待されています。
歌い手の1日
アルバイトをしながら活動する人も
歌い手として活動している人は、ほとんどの人が趣味の活動として動画を投稿しています。
この仕事で生計を立てていくことは考えておらず、学業や仕事の合間に、自分のペースで歌を楽しむという感じです。
しかし、一部の歌い手はこの仕事だけで食べていくことを目指しています。
もちろん、そうはいってもよほどの売れっ子以外は収入は不安定なので、バイトをしながら活動することが多いようです。
ここでは、そんな歌い手の一日のスケジュールをご紹介します。
歌い手のやりがい、楽しさ
好きな歌を自由に表現する楽しさ
歌手として活動している人たちは、一般的には、芸能関係の事務所や音楽レーベルなどと契約しています。
そのため、歌手としてのイメージや売り上げを伸ばすための戦略など、他者からのオーダーに耳を貸さなければいけません。
ときにはテレビに出演したり、メディアの取材を受けたりすることも必要でしょう。
しかし、歌い手の場合は基本的に個人で活動していることが多いので、自由があります。
楽曲を投稿するサイトで歌ってみたい曲を探し、自分なりのアレンジや歌い方を工夫する。
それを好きなタイミングで歌って投稿して、視聴者からダイレクトに反響をもらえる。
そんなことが可能なのです。
制約が少ないぶん自由に音楽活動ができるのが、歌い手の魅力です。
「好きな歌を好きなだけ楽しみたい」という人にとっては天職となるでしょう。
歌い手のつらいこと、大変なこと
自分だけの個性を求めて
歌い手にとって一番苦しいのは、自分だけの個性を発揮できないときです。
人気のあるボカロPが作った楽曲は、多くの歌い手に注目されます。
そうすると動画投稿サイトには「歌ってみた」があちこちに溢れるようになります。
同じ曲をたくさんの人が歌うわけですから、厳しい目で比較をされることになるのは当然の流れです。
特別な歌唱力がある人、アレンジが巧みな人、独特の個性がある人。
そんな人しか、視聴者の心を掴むことができません。
再生回数や反響が伸びなければ、広告収入にもつながらないので、仕事としてやっていくことは厳しいでしょう。
歌い手のなかには、自分だけの個性を求めて悩み苦しんでいる人もいます。
光るものがなければ、仕事として続けていくことができないのが歌い手の世界です。
歌い手に向いている人・適性
歌唱力とセンス、オリジナリティーが不可欠
ボカロPや歌い手の存在は、世の中に広く認知されるようになってきました。
最近では、老若男女さまざまな人たちが歌い手として活動しています。
そのようななかで、トップクラスの歌い手として人気を集めるのはどのような人でしょうか。
まず、歌唱力が必要なのはいうまでもありません。
しかし、歌のコンテストやコンクールで順位を決めるわけではないので、技術よりも個性が重視されます。
「楽曲の世界観に合っている」「聞いていて心地がよい歌声」「感情がこもっていてメッセージが伝わってくる」。
そんなことが視聴者の心を掴むことが多いようです。
音楽的な才能があるのはもちろんのこと、オリジナリティのある歌声をもつ人が歌い手には向いています。
歌い手志望動機・目指すきっかけ
大好きな楽曲を自分だけの表現方法で伝えたい
歌い手を目指すのは、もともと音楽や歌が大好きな人ばかりです。
子どもの頃から合唱を習っていた、歌手を目指してボイストレーニングをしていた、カラオケが大好きで週に一度は通っていた。
そんな人たちがインターネットに歌の動画を投稿する歌い手の存在を知り、自分もなりたいと思うようになることが多いようです。
好きなことを仕事にできるのは幸せなことですし、事務所やレーベルに所属する歌手に比べると自由度が高いのも魅力的です。
さらにトップクラスの歌い手になると、日本中どころか世界中からたくさんの反響が届くようになります。
ライブも開催できますし、広告収入はもちろん、自主制作のCDや配信の売り上げなども高い金額になります。
こうした成功を夢見て、多くの歌い手がコツコツと投稿を続けています。
歌い手の雇用形態・働き方
バイトと両立させる人も
歌い手として活動している人の多くが、個人事業主として働いています。
芸能事務所に所属したり音楽レーベルと契約したりするミュージシャンとは違い、固定給や契約金などはありません。
収入は不安定になることが多いですが、そのぶん自由度が高いというのが大きな特徴です。
雇用契約に縛られないからこそ、好きな楽曲を好きなときに歌えるのです。
スケジュールも自分で組むので、自分のペースで仕事をすることができます。
その一方、この仕事だけでは生活していけないという場合は、アルバイトをしながら歌い手として活動することもあります。
飲食店やコンビニ、事務作業や肉体労働など、その業種はさまざまです。
音楽教室やボイストレーニングの教室で講師のバイトをしながら歌い手をしている人もいます。
歌い手の転職状況・未経験採用
仕事にできるかどうかは実力次第
社会人として働きながら、趣味の延長戦上の活動として歌い手をしている人は珍しくありません。
こうした人たちが「歌い手に転職したい」と考えたとき、どうすればよいのでしょうか。
まず考えておかなければいけないのは、歌い手のなかで歌の仕事だけで食べていける人はほとんどいない、という厳しい現実です。
今の時代、歌が上手い一般人は星の数ほどいますが、彼らが歌でお金を稼げるかというとそうではありません。
インターネット上で誰もが名前を知るレベルのトップクラスの歌い手にならなければ、安定した収入を目指すのは厳しいでしょう。
ですから、歌い手への転職を目指すのであれば、いきなり今の仕事をやめるのはリスクが高いといわれています。
仕事の合間にコツコツと投稿を続け、動画の再生回数やチャンネル登録者数などが伸びてから思い切って転職をするのが現実的です。
学歴や職歴は一切関係ないので、興味がある人は誰でもいつでもチャレンジできるのが歌い手です。
焦らずしっかり準備してチャンスを掴みましょう。
歌い手になるのに必要な機材・ソフト
レコーディング環境を整えることが大切
歌い手としてデビューしてみたいという人は、どのような機材を揃える必要があるのでしょうか。
まず絶対に必要なのは、パソコンとDAWソフトです。
パソコンはデスクトップでもノートでもかまいません。
DAWソフトというのは楽曲を制作するためのソフトで、これを使うと自分で録音ができるようになります。
レコーディング機能があるものであれば作業は可能ですが、フリーソフトよりは有料のソフトのほうが多機能です。
予算に余裕があるのであれば最初から有料のものを用意するとよいでしょう。
次に、マイクと周辺の機器を用意します。
周辺の機器というのはマイクスタンドやケーブル、息の音を防ぐためのポップガードなどです。
ポップガードはなくても構いませんが、ノイズを取り除いて綺麗な音にしたいのであれば必要です。
部屋のなかの反響音が気になる場合は、リフレクションフィルターも役立ちます。
この他に、パソコンとマイクをつなぐためのオーディオインターフェイス、自分の歌声を聴くためのヘッドフォンやスピーカーなども揃えましょう。
さらに、人によっては音程を確かめるための楽器を使うこともあるようです。
本格的なピアノである必要はなく、卓上に置ける小型のキーボードでかまいません。
鍵盤楽器が手元にあると何かと重宝するでしょう。
もちろん、こうした機材を最初から全部揃えるとなると数十万単位の資金が必要になります。
まずは最低限のものだけを用意して、活動するなかで徐々に揃えていくという方法もあります。
ボカロPと歌い手の違い
楽曲を作る「ボカロP」と歌う「歌い手」
歌い手とは切っても切り離せない関係の存在として、ボカロPがいます。
ボカロPというのは、自分の作った楽曲をボーカロイドのソフトによって歌わせているプロデューサーのことです。
ボカロPは、楽曲を動画の投稿サイトなどで発表します。
その楽曲の音源を使って、自分の歌声でカバーして「歌ってみた」動画を投稿するのが、歌い手です。
ボカロPは作曲家、歌い手は歌手というイメージで考えるとよいでしょう。
ボカロPの作った楽曲が、人気のある歌い手の動画投稿によって一気に世間に広まることがあります。
逆に無名の歌い手が、人気のあるボカロの曲をカバーしたことで注目されることもあるのです。
人によってはボカロPと歌い手を兼任している人も/ub]います。
トップクラスの男性歌い手として知られるまふまふさんも、歌い手とボカロPの両方でマルチに活躍しています。