警察事務の仕事とは? 年収や向いている人、 大卒・高卒の違いについて解説
「警察事務」とは
警察官の業務が円滑に進むように、警察組織全体を支える仕事
警察事務は、地域住民の安全な暮らしを行政面から支える仕事です。
警察本部もしくは警察署に勤務し、地域住民と直接関わる窓口業務や、第一線で働く警察官の業務が円滑に進むように組織全体を支える仕事を行います。
公安職である警察官と違って犯人の逮捕や取り締まりをすることはありませんが、幅広い仕事に携わり、そのすべてが地域社会の治安維持につながる重要なものです。
立場は事務職ですが、当直勤務もあったり上下関係や規則が厳しかったりなど、一般企業の事務職とは異なる部分も多いでしょう。
警察事務は公務員であるため、就職するには公務員試験である「警察事務職員採用試験」を受験し合格しなければなりません。
採用試験は都道府県単位で実施され、筆記試験や面接、適性検査などが行われます。
そして試験合格後は警察学校に約1か月間入校し、警察学校卒業後に具体的な配属が決定されます。
最初の配属以降も定期的に異動があり、総務課、会計課、施設課などさまざまな部署でキャリアを積んでいく仕事です。
「警察事務」の仕事紹介
警察事務の仕事内容
警察本部または警察署に配属され、各部門で活躍する
警察事務は警察学校を卒業後、警察本部または警察署に配属され、それぞれの部署で勤務することになります。
仕事内容は多岐にわたりますが、ここではその一部をみていきましょう。
警察本部での仕事内容
警察本部では、会計課や総務課、情報管理課をはじめ各部門の所属で活躍します。
たとえば会計課に配属された場合は、予算の編成・執行、決算、各種契約事務、監査、物品の管理などを担当します。
また厚生課に配属された場合は、職員の福利厚生や職員住宅の管理を行うなど、職場環境の改善が業務のおもな目的となるでしょう。
そのほかにも情報管理課、鑑識課、施設課などさまざまな部署があり、本人の希望や特性などを考慮しながら数年ごとに人事異動が決定されます。
警察署での仕事内容
警察署においても、警察本部と同様に各部門に所属しそれぞれの業務にあたります。
「民間企業における総務の役割を担う」とイメージするとよいでしょう。
刑事課に配属された場合であれば、管内で発生した犯罪に関する統計の確認などを担当します。
また交通課に配属された場合は、運転免許証の更新や住所変更、道路使用許可、車庫証明などの窓口業務を担当します。
こちらも本人の希望や特性などを考慮したうえで配属が決定され、すべての職員が安心して警察活動に取り組めるよう、警察官と一体となって業務を行なっています。
警察事務になるには
各都道府県で実施される「警察事務職員採用試験」に合格する
警察事務になるには、各都道府県で実施される「警察事務職員採用試験」に合格する必要があります。
試験の名称は都道府県によって異なり、警察事務を「警察行政職員」と表す場合もあるので注意しましょう。
採用試験は大学卒業程度を表す「Ⅰ類」と高校卒業程度を表す「Ⅲ類」に分かれており、都道府県によっては「上級」や「初級」などの名称が使われることもあります。
受験資格は基本的に年齢制限のみであり、大学を卒業していなくても「Ⅰ類」や「上級」の区分は受けられます。
具体的な試験内容についても都道府県ごとに微妙な違いがありますが、ここでは例として警視庁(東京都)警察事務職員の試験内容をみてみましょう。
まず「警察行政職員Ⅲ類(高校卒業程度)」の試験内容がこちらです。
・一次試験:教養試験(一般教養についての五肢択一式)、作文(600字以上1,000字程度)
・二次試験:個別面接・身体検査・適性検査
一方「警察行政職員Ⅰ類(大学卒業程度)」の試験内容は以下のとおりです。
・一次試験:教養試験(一般教養についての五肢択一式)、専門試験(職務に必要な専門知識についての記述式)、論文(1,000字以上1,500字程度)
・二次試験:個別面接・身体検査・適性検査
そして一次試験・二次試験ともに突破すれば最終合格となり、その後は警察学校に約1か月間入校します。
警察学校卒業後に具体的な配属が決定され、晴れて警察事務としてのキャリアがスタートします。
警察事務の学校・学費
予備校や通信教育などに通う人が多い
警察事務になるには「警察事務職員採用試験」を突破しなければなりませんが、受験資格は基本的に年齢制限のみです。
学歴は不問とされているため、警察事務になるために必ず通わなくてはいけない学校はありません。
採用試験では法律面に関する知識が問われることもあるため、大学を選ぶ際には法学系の学部・学科に進んでおくと若干有利になる場合もあるでしょう。
とはいえ大学の勉強だけで採用試験の突破は難しいため、どの学部であっても予備校や通信教育などを利用して試験対策を行うのが一般的です。
予備校に通う場合の期間については各スクールによってさまざまですが、学費については30〜50万円程度が相場となっています。
警察事務の資格・試験の難易度
試験の難易度は、採用予定者数と受験者数によって左右される
都道府県ごとに実施される「警察事務職員採用試験」に合格することで警察事務になれますが、試験の難易度はその年の採用予定者数と受験者数によって大きく左右されます。
ここでは例として、警視庁(東京都)の警察事務採用試験(大学卒業程度)における過去3年間の合格倍率をみていきましょう。
・平成29年度:受験者数816名、合格者数119名、倍率6.9倍
・平成30年度:受験者数540名、合格者数13名、倍率41.5倍
・令和元年度:受験者数417名、合格者数65名、倍率7.2倍
平成29年度と令和元年度の倍率は7倍前後ですが、平成30年度は41.5倍と一気に難化しています。
このように、その年の採用予定者数と受験者数によって合格のしやすさがまったく違うのが警察事務採用試験の特徴です。
なお、採用予定者数はその年度の募集要項に記載されているため、必ず確認しておきましょう。
警察事務の給料・年収
都道府県によってもらえる給料には違いがある
公務員である警察事務の給料は、法律に準じて決定されます。
ただし基本給にプラスして「地域手当」が支給されるため、都道府県ごとにもらえる給料には違いがあります。
地域手当とは、勤務する地域によって生じる生活費の違いを調整するために支給されるものです。
たとえば神奈川県警察に警察事務として採用された場合の初任給は、大卒程度区分で約20万9,000円、高卒程度区分で約17万1,000円です(令和2年度)。
一方、群馬県警察に採用された場合の初任給は、大卒程度区分で約18万8,400円、高卒程度区分で約15万7,700円となっています(令和2年度)。
このようにもらえる給料は地域によって差があるため、自分の希望する地域はどうなのか募集要項などでよく確認しておくとよいでしょう。
また地域手当以外にも、一定の条件により住居手当・扶養手当・宿日直手当などがあり、ボーナスにあたる期末・勤勉手当は年2回(合計で4.45か月分)支給されます。
さらに大学院を卒業している人や民間企業の勤務経験のある人、もしくは採用後に優秀な成績を収めた人などは、一定の基準により増額される制度もあります。
警察事務はほかの公務員と比べて高給取りというわけではありませんが、民間企業の事務職と比べて各種手当などは充実しているといえるでしょう。
警察事務の現状と将来性・今後の見通し
日本の平和を維持するために欠かせない仕事
警察事務は日本の平和を維持し、人々が安心して生活できる社会を守っていくために欠かせない職業です。
日本全体の経済状況が今後大きく変わったとしても、警察事務の仕事自体がなくなるといったことは考えにくいでしょう。
また一般企業であれば景気に応じてリストラなども考えられますが、公務員である警察事務は不祥事などを起こさない限りそういったリスクもほとんどありません。
このように雇用環境は安定している一方で、少子高齢化にともなう税収減により、日本の財政はひっ迫している現状があります。
今後も税収が大幅に増えることはあまり期待できないため、その点は警察事務を含めた公務員の給料に影響してくる可能性があるでしょう。
警察事務の就職先・活躍の場
都道府県ごとに設置された警察本部もしくは警察署に所属
警察事務の就職先は、都道府県ごとに設置された警察本部もしくは警察署です。
各都道府県で実施される採用試験に申し込み、試験を突破することで警察事務として働くことができます。
なお、試験合格後は警察学校に入り、警察学校を卒業後に具体的な配属が決定されるという流れです。
最初の配属以降も定期的に異動がありますが、転勤は原則採用された都道府県内に限られます。
その際には、本人の居住地や介護の有無といった家庭環境なども考慮しながら人事異動が行われます。
警察事務の1日
窓口対応をこなしながら連絡業務や事務手続きを進める
警察事務の1日は、配属される部署によって大きく異なります。
ここでは落とし物の受理・返還などを行う、「警察署の会計課」で働く警察事務の1日を紹介します。
警察事務のやりがい、楽しさ
すべての仕事が地域の治安に直接結びついていること
警察事務は各都道府県の警察本部や警察署に配属され、さまざまな分野で活躍しています。
おもな仕事内容としては、警察運営に必要な予算管理、情報管理、施設管理、福利厚生、広報などの業務が挙げられます。
事務職という立場上デスクワークが主体となりますが、そのすべてが地域の治安に直接結びついている大切な仕事であり、大きなやりがいを感じられるでしょう。
また警察官と比べて人数が少ないため、一人ひとりがこなすべき仕事の幅が広く、多くの業務に携われる点に楽しさを感じる人もいます。
警察事務のつらいこと、大変なこと
緊急性を要する仕事もたくさんあること
「警察事務」という名前から一般企業の事務職と同じようなイメージをもつ人もいますが、警察事務の勤務先は警察本部や警察署であり、そこでは緊急性を要する仕事もたくさんあります。
迅速な対応が求められることも多く、場合によっては夜間や休日に勤務しなければならないケースもあります。
警察事務に対して「日中勤務」「デスクワークのみ」といったイメージを持っていると、就職後に大きなギャップを感じてしまうでしょう。
また警察署での窓口対応や電話対応で間違ったことを伝えないように、法律や規則などをしっかり頭に入れておかなければならないのも大変な部分です。
警察事務に向いている人・適性
警察官や地域住民のために真摯に業務を遂行できる人
警察事務は物品や施設、警察職員の福利厚生などの管理を行うだけでなく、警察組織が円滑に運営できるように施策の企画立案なども行います。
そのため「社会をより良くしたい」という強い気持ちをもち、ともに働く警察官や地域住民のために真摯に業務を遂行できる人が警察事務に向いているでしょう。
また必要に応じて、情報処理技能検定や危険物取扱者、外国語技能検定などの資格を取得することもあります。
異動を繰り返しながらさまざまな部署で働く可能性があるため、新しい分野を学び続ける姿勢のある人が活躍できる仕事です。
警察事務志望動機・目指すきっかけ
警察組織を行政面から支えたい
警察事務を目指す人のなかには「身近に警察署で働いている人がいた」などのきっかけで、幼い頃から警察組織に憧れを抱いていたケースが多くみられます。
そして自分自身の適性を見極めた結果、警察組織のなかでも現場で働く警察官より、行政面から組織を支える事務職のほうが適していると考える人が警察事務を志望しています。
また警察事務は都道府県単位での採用となるため、「自分が生まれ育った地域に貢献したい」「県民のためになる仕事がしたい」といった気持ちをもって働いている人も多いでしょう。
警察事務の雇用形態・働き方
基本的に正職員のみ
警察事務になるには各都道府県で実施される「警察事務職員採用試験」を受験しなければなりませんが、この試験に正規職員以外の区分は基本的にはありません。
警察事務は契約職員やアルバイトなどではなく、正職員として働くことになると考えておきましょう。
このように契約職員などの区分はありませんが、採用試験は大学卒業程度を表す「Ⅰ類」と高校卒業程度を表す「Ⅲ類」に分かれているケースが多くみられます。
それぞれ受験できる年齢や試験の難易度が異なるため、どちらの区分で受けるべきか募集要項をよく確認しておくとよいでしょう。
警察事務の勤務時間・休日・生活
勤務時間は原則として1日あたり7時間45分、休日は土日祝日
警察事務の勤務時間は原則として週38時間45分、1日あたり7時間45分と定められています。
警察署の窓口時間が8:30から17:15までとなっているため、基本はその時間に合わせて働くと考えておくとよいでしょう。
ただし遺失届や落とし物の受理については窓口が閉まっているときにも対応できるよう、交代で当直勤務を行う場合があります。
休日については土日祝日が休みとなりますが、こちらも担当業務の内容に応じて休日出勤を命じられることもあります。
警察事務の求人・就職状況・需要
募集人数は年度や地域によって変わる
警察事務の募集状況は、年度によって大きな差があります。
たとえば、警視庁(東京都)の警察事務採用試験(高校業程度)における、過去3年間の受験者数と合格者数は以下のとおりです。
・平成29年度:受験者数857名、合格者数25名、倍率34.3倍
・平成30年度:受験者数406名、合格者数5名、倍率81.2倍
・令和元年度:受験者数219名、合格者数29名、倍率7.6倍
上記のとおり平成29年度は25名、令和元年度は29名採用していますが、平成30年度についてはたったの5名しか採用しておらず、それにともない合格倍率も極端に高くなっています。
また年度に加えて地域によっても倍率は変動するため、受験先は戦略的に選んでいくのがよいでしょう。
警察事務の転職状況・未経験採用
公務員試験さえ突破すれば未経験での転職も可能
警察事務は公務員試験さえ突破すればなれる職業であり、受験の条件にも実務経験や資格などはありません。
そのため警察事務の業務内容や職業としての安定性などに魅力を感じ、一般企業から警察事務への転職を目指す人も少なくありません。
転職を考える際には、仕事の合間をぬって公務員試験の対策を進めておく必要があるでしょう。
ただし採用試験には年齢制限があり、都道府県によって多少異なる可能性がありますが、受験できるのは「35歳未満」までとなっています。