歌舞伎役者の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「歌舞伎役者」とは
日本の伝統芸能である「歌舞伎」を演じ、文化を後世へと受け継ぐ存在。
歌舞伎役者は、日本の伝統芸能である歌舞伎を演じる人のことをいいます。
日本舞踊、立ち廻り、発声、礼法といった基本を日々の稽古で身につけ、舞台で観客を楽しませます。
また、無名のうちは旦那と呼ばれる師匠にあたる人の身の廻りのお手伝いもします。
歌舞伎役者は原則、世襲制をとっており、芸名は名跡(みょうせき)と呼ばれ代々受け継がれます。
ただし、国立劇場に付属する伝統芸能伝承者養成所で2年間修業するか、歌舞伎役者に弟子入りを志願して相当な努力をすれば、外部から歌舞伎役者になることも不可能ではありません。
収入は人によって異なりますが、看板クラスの役者は1回の歌舞伎公演で500~700万円を稼ぎ出すといわれています。
歌舞伎界は今、深刻な人材不足に直面していることから、今後は歌舞伎の家以外の生まれの役者にもチャンスが広がる可能性があります。
「歌舞伎役者」の仕事紹介
歌舞伎役者の仕事内容
日本の伝統芸能である歌舞伎を演じることが歌舞伎役者の仕事です。舞台に出るのはもちろんのこと、稽古も大切な仕事のうちです。
稽古内容としては日本舞踊、立ち廻り、発声、礼法が基本となり、演目、配役決定後は台本の読み合わせから始まり、実際の動きをつけた立ち稽古へと進む、演目稽古を行います。
無名のうちは旦那と呼ばれる師匠にあたる人の身の廻りのお手伝いもします。
楽屋口でのお出迎えをはじめ、稽古中には飲み物や飴などを入れた岡持ちという容器を持ってついてまわります。
衣裳の着付け、小道具の点検といったお役の準備はとくに重要な仕事です。
もちろん並行して自分の舞台も勤め、本番の舞台で万が一にでも失敗する事がないように日々稽古も欠かさず行います。はじめのうちは立廻りと呼ばれるアクションシーンに出演し、経験を積みます。
そして時間が空くと黒衣を着て舞台袖の幕溜りで舞台をとにかく観て何か事故があれば対処できるように待機します。これを常後見といいます。
役者として経験を積んでいくと、舞台の演出等に関わることもあるようです。
歌舞伎役者になるには
歌舞伎役者は原則、世襲制をとっており、芸名は名跡(みょうせき)と呼ばれ、代々受け継がれます。
名跡は実子が継ぐ事がほとんどですが兄弟や愛弟子が継ぐこともあります。
歌舞伎とは無関係の生まれから役者を目指すのはかなり狭き門ですが、国立劇場に付属する全日制の伝統芸能伝承者養成所で2年間修業するか、歌舞伎役者に弟子入りを志願するかして相当な努力をすれば不可能ではありません。
養成所の応募資格は中学卒業以上23歳までの男子となっており、公募は2年に1度、1月から3月の間ですが、募集人員は若干名としか公表されていないことからも入門が容易ではないことが分かるでしょう。
4月上旬に行われる試験では簡単な実技と面接、健康診断を行います。その後、研修が開始し、6カ月以内に適性があると判断されれば正式な合格となります。
研修で歌舞伎の基礎を学んだ後、日本俳優協会に入会し、台詞もない端役から舞台出演をすることになります。
その1年後、部屋子と呼ばれるベテラン俳優の弟子となり、さらに実力をつけます。
部屋子から名題というさらに上のクラス進めるのは約25%しかおらず、たとえ名題になっても大きな役がもらえることはほとんどないのが現状です。
しかし最近では世襲だけでは歌舞伎を維持していくのが困難であるとの向きが強まっており、養成所出身者を集めた舞台も上演されています。
歌舞伎役者を志願している人は養成所への入門を目指しながら、日本舞踊や三味線の稽古、ボイストレーニングなどをしておくとよいでしょう。
また最近では有能な子役を歌舞伎役者としてスカウトし、育成していくプロジェクトもあるため、一般の芸能事務所に所属して表現力を磨くという方法もあります。
歌舞伎役者の給料・年収
江戸時代から売れ筋の歌舞伎役者は年に千両を稼ぐ役者という意味で千両役者と呼ばれます。
現代の貨幣価値に換算すると1両はおよそ10万円になるので、千両役者は年収1億円ということになります。
最後に発表された2004年の長者番付を見ると歌舞伎界でトップだったのは市川海老蔵で、4970万円という納税から推定される年収は1億4100万円。次いで松本幸四郎の推定年収は1億1800万円でした。
実際に千両役者は存在しているということが分かります。
しかしこれはほんの一握りにも満たないトップスターだけの話です。千両とはいかないまでも看板クラスの役者は1回の歌舞伎公演で500~700万円を稼ぎ出すといわれています。
公演期間はおよそ1ヶ月なので日当にして20万円以上、推定年収4000万円~9000万円ほどということになります。
人間国宝クラスの役者になると1日の出演料は50万円あたりまではねあがりますが、その分毎日の出演ではなく特別出演という場合になることが多いようです。
ほとんどの歌舞伎役者は配給会社である松竹と専属契約をしているため、松竹から給与を支払われています。
主な収入源は歌舞伎やその他演劇公演、映画やテレビ、CM、イベント等への出演料になります。
それ以外にもタニマチと呼ばれるいわゆる後援会からのご祝儀があり、人気役者ともなると相当な額になるようです。
また毎月、出演料の3割程度が専属契約保証金として支払われています。そして多くの役者が踊りの弟子を抱えているため、お稽古代の収入もあります。
こう考えると歌舞伎役者はかなりの高給取りといえそうですが300名前後いるうちのほんの一部の話にすぎません。
初任給で手取りはだいたい月収20万円前後、経験に応じて役柄も多様化していくことで収入を伸ばし、月収40万円ほどの層が厚いようです。
歌舞伎役者の現状と将来性・今後の見通し
江戸時代に起源を持ち、400年間磨き上げられてきた伝統芸能である歌舞伎ですが、その愛好家のほとんどが年配の人たちです。
したがって今後新たな顧客を開拓できなければ、歌舞伎を維持し続けていくことはできないという懸念があります。
この現状を打破すべく、人気アニメを題材とした演目を上演するスーパー歌舞伎なるものが登場し、劇場には小さな子どもの姿も多く見られ、新たなファン層を獲得しています。
ちなみにスーパー歌舞伎は養成所の出身者をメインキャストに据えていることでも注目されています。
また役者の世代交代、裏方の後継者の有無なども大きな問題です。
深刻な人材不足に直面する歌舞伎界が今、力を入れようとしていることの一つが、子役の発掘です。
一般の芸能事務所に所属する有望な子役をスカウトし、育成していくプロジェクトが始まっています。
養成所も3年に一度、10人だった募集を、2013年から2年に一度に改め、より多くの人材を歌舞伎界に輩出していこうとしています。
長く世襲制だった歌舞伎界ですが今や全体の3割を占める養成所出身の俳優なくしては、興行は成り立ちません。
今後は歌舞伎の家以外の生まれの役者が活躍できる場が増えていくことが予想されます。
歌舞伎役者に向いている人・適性
華やかに見える歌舞伎の世界ですが、基本は日々の地道な稽古です。
努力を重ねて初めて華やかな舞台が仕上がることを理解し、鍛錬を積める精神力がまずは必要でしょう。
舞台ではマイクを使うことはありません。加えて立ち廻りなど激しい身体の動きが要求される場面が多い上、一度公演が始まると一月近く休みがないため、体力がなければつとまらない仕事であるといえます。
体調を崩したり怪我をしたりすると舞台に穴を空けてしまうことになるので徹底した自己管理も求められます。
また、一つの舞台を作り上げるには役者をはじめ多くの人の力が必要です。
ワンマンな考えでは舞台を成功させることはできません。周囲と気持ちを合わせて一つの目標に向かっていこうとする協調性も歌舞伎役者には必要不可欠であるといえるでしょう。
歌舞伎役者の就職状況・雇用形態
ほとんどの歌舞伎役者は歌舞伎の興行を手がけている松竹株式会社と専属契約を結んでいます。そのため、舞台公演はもちろん、テレビ出演なども全て松竹を通して実現します。
松竹は歌舞伎役者にマネージャーを付けないため、役者自身が個人事務所を持ったり他の芸能プロダクションに所属したりしている例があります。
これはかつて番頭さんといわれるマネージャー的な立場の人間を俳優個人が雇ってスケジュール管理や対外窓口にしてきたという経緯から起こることで、今でも松竹社員ではないマネージャーを俳優各自が雇っているということを意味しています。
ただしマネージャーの仕事として最も重要な仕事の決定権や出演料、仕事内容の交渉権は松竹が握っています。
歌舞伎役者として松竹に所属するにはまず日本俳優協会に入会する必要があります。これは養成所の課程を修了するか会員2人以上の推薦を得ることが必須条件です。
歌舞伎役者の勤務時間・休日・生活
歌舞伎の公演は1回につき25日間行われ、期間中は休演日はありません。歌舞伎役者の休日は公演のない期間ということになるため、25日間連続してとれることになります。
しかしこの間、他のメディアに出演したり、稽古をしたりするので実際には飛び石連休といった形になります。
1年のうちに10公演に出演するとして、休日は1ヶ月あるかどうかといったところです。
歌舞伎の公演は1日2部制が基本で、同じ演目を2回行うのではなく、それぞれ違ったものが上演されます。
上演時間は演目にもよりますが、昼の部は10~11時から15時すぎまで、夜の部は16時半から21時頃までの4~5時間で3~4つの演目が披露されます。
演目の合間には幕間(まくあい)と呼ばれる休憩が入り大道具などの入れ替えが行われます。出演しない演目の間は休憩をとりながら次の出演に備えます。
1回の公演が終わると翌日からは次の公演に向けた稽古が始まります。
数ある演目のうちよく演じられるのは100種類ほどだといわれており、自分が出演していなくても見たことがあったり、過去に演じたことがあったりして型や台詞の覚えが早かったりするので舞台稽古は平均して4、5日程度と意外と短く済むようです。
演目と配役が決まると、まず出演俳優や裏方など関係者が一堂に集まり、「顔寄せ」と呼ばれる台本の読み合わせを行います。
そのあと立ち稽古と呼ばれる、実際の動きを加えた稽古に二日間ほど費やします。
そして本番さながらのリハーサルを稽古場で一回、実際の舞台上で一回行い実際の公演に臨みます。