移植コーディネーターの仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「移植コーディネーター」とは
移植医療の際に、提供者(ドナー)と移植者(レシピエント)の間に立ち、調整する。
移植コーディネーターは、移植医療において提供者(ドナー)と移植者(レシピエント)を調整する仕事です。移植には「臓器移植」「組織移植」「骨髄移植」「死体移植」「生体移植」といった分類があり、たとえば臓器移植において臓器提供病院に出向く「ドナーコーディネーター」は、ドナー評価、家族への説明、承諾書作成、ドナー管理、臓器摘出計画、臓器運搬、移植の立会い、ドナー施設や家族への報告を行います。
ドナーコーディネーターは主として「公益社団法人 日本臓器移植ネットワーク」に所属する人と、日本臓器移植ネットワークから委嘱を受けた「都道府県コーディネーター」の2種類に分けられますが、人数は多くありません。
アメリカに比べて臓器移植の発展が遅れている日本ですが、改正臓器移植法の施行で移植数が激増しているなか、移植コーディネーターの大幅な増員が実現する日も来るかもしれません。
「移植コーディネーター」の仕事紹介
移植コーディネーターの仕事内容
移植する側とされる側の調整を行う
移植コーディネーターの仕事は、移植医療において提供者(ドナー)と移植者(レシピエント)の間を取り持ち、さまざまな調整を行うことです。
臓器移植を行う場合、1件のドナー情報に対して約10人のコーディネーターが関わります。
臓器提供者側で働く「ドナーコーディネーター」は、ドナー評価、家族への説明、承諾書作成、ドナー管理、臓器摘出計画、臓器運搬、移植の立会い、ドナー施設や家族への報告を行います。
また、一般的に医療資格を有する「レシピエントコーディネーター」は、移植を受ける患者さんやその家族の間に立って、両者の支援を行うコーディネーターです。
移植登録、移植希望者の意思決定支援、移植準備支援、移植手術の説明、移植の立会い、移植臓器機能の把握、移植者や家族の精神的サポート、生活・自己管理支援、データ管理までを担います。
移植コーディネーターになるには
福祉の実務経験や医療系国家資格が必要
業務内容は同じですが、おもにドナーコーディネーターを務める移植コーディネーターには2種類あります。
公益社団法人「日本臓器移植ネットワーク」に所属するコーディネーターと日本臓器移植ネットワークから委嘱を受けた都道府県コーディネーターです。
移植コーディネーターになるための研修、セミナー、講習会、認定試験、公募は不定期に日本臓器移植ネットワークが行っています。
応募資格は、医療国家資格保有者(看護師、臨床検査技師など)、または大学卒業者かつ医療福祉分野(臨床心理士、社会福祉士など)の実務経験者です。
さらに普通自動車運転免許保有者、24時間対応や全国への出張、転勤が可能な人に限られます。
以上の条件から、移植コーディネーターを志望する人は、高校在学中から大学入試にむけ、ある程度学部を絞って勉学に励む必要があります。
移植コーディネーターの学校・学費
医療系か福祉系の大学を卒業する
移植コーディネーターになるには、医療系もしくは福祉系の資格を持ち、実務経験がなければいけません。
医師、看護師、臨床検査技師、臨床工学技士、診療放射線技師、薬剤師、臨床心理士、社会福祉士などです。
さらに、学歴は4年制大学卒業以上でなければならないので、ここまででかなり進路は絞られてくると思われます。
上に挙げたような国家資格を取れる大学で、なるべく自分の興味に近いもの、得意科目で勝負できるところを選ぶとよいでしょう。
移植コーディネーターの資格・試験の難易度
求人は不定期かつ応募条件も多い
移植コーディネーターの認定を受けるためには、必要条件がたくさんあり、それを満たす時点ですでに移植コーディネーターになる道のりは長いものといえます。
さらに移植コーディネーターの求人は、日本臓器移植ネットワークからの求人も、都道府県の移植コーディネーターの求人も、不定期かつ求人数も数名と少なくなっています。
そのため就職倍率も必然的に高くなり、そういった意味では採用試験の難易度が高いといえるでしょう。
移植コーディネーターの給料・年収
正職員の手当や待遇は手厚いことが多い
移植コーディネーターの年収は350~450万円程度といわれますが、これに役職手当、地域手当、住宅手当、扶養手当などがつきます。
また、休暇や昇給などの待遇は手厚いことが多いようです。
医療従事者として病院などに勤務しながら兼任する場合もあり、この場合は病院でのポジションによっても給与に差が出てくるでしょう。
また、臓器ではなく組織(角膜、皮膚、心臓弁など)の移植の場合、時給1500円程度で週5日、1日6時間勤務といった非常勤職員がたずさわることもあります。
非常勤職員の場合は、正職員のような待遇は受けられないことがあります。
移植コーディネーターの現状と将来性・今後の見通し
今後さらなる発展が望まれる分野
1997年、脳死移植を認める「臓器移植法」が施行され、国内の移植医療がスタートラインに立ちました。
2010年には「改正臓器移植法」が施行され、提供者本人の意思が不明でも家族が書面で承諾すれば提供可能になるなど、移植数は激増しています。
しかし年間7,000~8,000人のドナーがいるアメリカと比べると、日本の移植分野はまだ遅れているといわざるを得ません。
また移植コーディネーターの増員も検討されるなど、国内の移植医療の発展に期待が高まっています。
現状、専業の移植コーディネーターは全国に70人程度と不足していますが、将来さらに増加していくであろう移植に備え、専業移植コーディネーターの増員は不可欠といえます。
移植コーディネーターの就職先・活躍の場
臓器移植ネットワークに認定を受ける
移植コーディネーターは、「日本臓器移植ネットワーク」に認定を受け、各地の病院に派遣されます。
日本臓器移植ネットワークでは、日本全国を3ブロックに分け、1ブロック当たり4~10人のネットワーク社員コーディネーター、各県に1~3人のコーディネーターを配置し活動しています。
しかし、この人数ではカバーしきれないこともあり、静岡県腎臓バンクでは「院内移植コーディネーター協議会」を発足しています。
県内にたった数名のコーディネーターだけではカバーしきれない業務を、院内移植コーディネーターがほぼボランティアとしてカバーしている現状です。
移植コーディネーターの1日
突発的・流動的な日々
臓器提供が起こるのは突発的であるため、日々のスケジュールも流動的です。
今回は臓器提供の連絡を受けたドナーコーディネーターを例に挙げてみます。
<ドナーコーディネーターのスケジュール>
10:00 医師からの連絡
臓器提供の意思表示をしている人が脳死状態になった時点で、提供者の入院先からコーディネーターに連絡が入ります。
12:00 病院到着
提供者の入院先に出向き、ご家族に臓器提供についての説明をし、正式に提供が決まった時点でドナーの状態をレシピエント側の医師に伝え、移植可能かの指示を仰ぐなど、準備を進めます。
翌日
09:00 臓器摘出
摘出医師が到着し、臓器の摘出手術が始まります。
コーディネーターは、臓器が提供されるまで病院に泊まり込みで待機することもあります。
手術の際はコーディネーターも立会い、手術状況を記録し、レシピエント側の医師に報告します。
09:30 臓器搬送
臓器は心臓から切り離され、血流の絶えた状態で搬送されるため、搬送可能な時間が臓器ごとに定められています。
ドナーコーディネーターの業務はここまでです。
移植コーディネーターのやりがい、楽しさ
提供者と移植者の笑顔がやりがい
移植コーディネーターは、臓器移植が決まると、移植手術が無事に済むまで多忙ながらも、時間勝負のなか全力で職務をまっとうします。
時には何日も家に帰れないこともあり、決して楽な仕事ではありません。
周囲の人々とも連携し、やっと移植手術が済んで、拒否反応も起こさず無事に一人の人の命を救うことができたとき、やりがいを感じることでしょう。
また、提供者のご家族も、つらい心境の中、無事に臓器を提供でき、誰かの体でそれが生き続けることに少しでも笑顔を見いだせたとき、移植コーディネーターも救われた思いになるでしょう。
移植コーディネーターのつらいこと、大変なこと
臓器提供者は突発的な死者が多い
臓器提供者となりうる人(ポテンシャルドナー)は、交通事故などの突発的な要因で脳死状態に至ることが多いです。
しかし臓器をできる限り早く移植するためには、身内の突然の死に面して、いまだ悲しみの癒えないご家族に対して臓器提供の説明をしなければいけません。
さまざまな反応をするご家族がいるのは当然であり、それも全て受け入れる精神的なタフさが必要になります。
そのようなつもりはなくても、1人の命を救うために、亡くなった1人をむげに扱っているように思われてしまうこともあります。
それでも救える命があるならば業務をまっとうせねばなりません。
移植コーディネーターに向いている人・適性
コミュニケーション全般を得意とする人
提供候補者(ポテンシャルドナー)であっても、実際に提供するときにはご家族のあいだでさまざまな葛藤が起きることもあります。
そのようなときも、落ち着いて人の話を聞くことができる人、細やかな気配りを持って接することができる人には適性があるでしょう。
またドナー情報はいつ入るかわかりません。そのため昼夜を問わず、対応する心構えが必要な職種でもあります。
チームワークが重要な職業でもあるため、コミュニケーション能力が高い人も適性があります。
不規則になりがちな勤務形態のなかでもしっかり休むなど、気持ちの切り替えが上手な人も向いているでしょう。
移植コーディネーター志望動機・目指すきっかけ
医療職と兼任している人が多い
現在の日本では、まだまだ移植手術の件数は少ない状況ですが、臓器移植により命が助かったケースも少数ですが存在します。
臓器移植に自分自身や身内が関わることによって、常にサポートをしてくれたコーディネーターという職業に興味を持つ人もいます。
また、病院で医療職として働いている中で、臓器提供手術を行った人を目にしたのがきっかけで、移植コーディネーターの資格を取る人は多くいます。
そのような事情で、看護師などの医療職と移植コーディネーターを兼務している人の割合が多くなっています。
移植コーディネーターの雇用形態・働き方
正社員または臨時社員
移植コーディネーターの雇用形態は正社員または臨時社員ですが、専業でフルタイム勤務の移植コーディネーターは少なく、多くは看護師などの医療職と兼務しています。
フルタイム勤務の場合、9:00~17:30が一応の勤務時間となっていますが、実際はポテンシャルドナーがいつ見つかるか分からず、移植適合検査や手術に合わせた勤務になります。
また、ドナーやレシピエントが必ずしも近隣にいるわけではないので、出張や休日出勤になることもあります。
交通の便が良くない場所であることも想定されるため、運転免許証も持っていなければいけないなど、一度移植手術への業務が始まると、多忙を極めます。
臨時職員の場合でも、提供者は突発的に出現し、組織が死なないうちに搬送・移植しなければならないため、時間外勤務が生じることもままあります。
移植コーディネーターの勤務時間・休日・生活
休日出勤や出張が多く入りやすい
専業フルタイム勤務の移植コーディネーターは、土日祝が休日、9:00~17:30の1日8時間勤務が基本です。
ただ実際のところは、夜間や休日を含めた緊急対応や待機が必要になるため、規定通りの勤務時間になることは少ないかもしれません。
休日出勤で事務作業をしたり、ドナー情報対応のため病院に出向いたり、ドナーファミリーを訪問したり、普及啓発イベントの対応をすることもあります。
また遠方の病院への訪問や勉強会、講義を開催するために出張することもあります。
そのような場合は平日に代休が取れますが、生活パターンは安定しないため、育児しながらの勤務は難しいでしょう。
移植コーディネーターの求人・就職状況・需要
求人は不定期で、求人数も少ない
2010年に施行された改正臓器移植法に基づき、臓器移植の件数は増えていますが、専業の移植コーディネーターは全国で数十人しかいない状況です。
今後さらに臓器移植が普及していくことを考えると、医療職と兼任ではなく、専業の移植コーディネーターの更なる輩出が期待されます。
しかし、現在移植コーディネーターになるには、不定期に募集される日本臓器移植ネットワークに応募しなければなりません。
しかも毎回の募集人数は2~3人と少ない状況なのが現状です。
移植コーディネーターの転職状況・未経験採用
転職・未経験採用ともに難しい
また移植コーディネーターになるにはいくつかの条件があり、未経験でもそれらの条件を満たしており、求人に応募して採用されれば移植コーディネーターになることはできます。
ただ、現在は移植コーディネーターになるための研修やセミナー自体が不定期であるため、未経験採用や異業種からの転職はおのずと難しくなっているのが現状です。
そして、現在移植コーディネーターとして働ける機関は「日本臓器移植ネットワーク」か、そこから委託された都道府県のコーディネーターなど、限られています。
都道府県のコーディネーターも法整備が進んでおらず、求人数も少ないため、転職は厳しいと言わざるをえません。