「何も起こらない1日」が、最高の成果。空の安全を守り続ける
航空管制官加納 雅之さん
1988年8月11日生まれ。高校卒業後、航空保安大学校・航空管制科へ入学。2年間の研修を経て、東京航空局成田空港事務所に赴任。2015年現在、現職7年目。
座右の銘:有言実行
航空管制官を目指したきっかけを教えてください。
高校在学中、学校で配られた職業紹介に関する冊子で、航空管制官という職業があることを知りました。
もともと、子どものころから飛行機に見るのも乗るのも好きだったのですが、詳しい仕事内容を調べていくうちに、この仕事に就いてみたいと考えるようになりました。
そこから、どのような過程を経て航空管制官になったのですか?
私の場合、高校3年次に航空保安大学校・航空管制科の採用試験を受け、合格となり、当時、羽田空港近くにあった同学校へ入学しました。1年後、同学校の移転に伴い、大阪のりんくうタウンで1年間、合計2年間の研修を受けました。
航空保安大学校は一般の大学とは異なり、国の機関であるため、入学者は全員が国家公務員の扱いになります。
つまり、給料や諸手当をもらいながら研修を受けて、一人前の航空管制官になるために学んでいくのです。
ちなみに、現在は、2年間の研修を受ける航空保安大学校の航空管制科は閉科されており、航空管制官になるためには、まず航空管制官採用試験を受けて合格し、採用される必要があります。
そして、この試験に合格した人は、航空保安大学校で1年間の研修を受けることになっています。
航空保安大学校で学び終わるとすぐに、空港で働くことになるのですか?
2年間の研修を受け終わると、この成田空港事務所に赴任となりました。しかし、そこからすぐに業務ができるわけではありません。
航空管制官は、空港ごとに飛行場で働くための資格を取る必要があるため、そこからは現地での訓練を約1年間受けて、資格を取得しました。
2年目からは、他の管制官と同じように第一線で管制業務に就きました。
普段のお仕事内容について教えてください。
私のいる成田空港事務所では、9~10人の航空管制官がチームを組み、管制塔という場所で、それぞれのチームが、主に以下の4種類の管制席を交替しながら行っています。
1つめの仕事は、航空機がA空港からB空港へ飛行する際に、「こういう経路、高度で飛行したい」というパイロットからの要求に対して管制承認を伝達する仕事です。
スポット(駐機場)にいる航空機と管制官は、無線を用いて交信します。
2つめは、航空機がスポットを離れ、地上走行を開始してから滑走路に向かうまでの走行経路の指示を出し、適切に誘導していく地上管制の仕事です。
3つめは、滑走路に離着陸する航空機に対して、順序を決めて、離着陸の許可を発出する飛行場管制の仕事です。
4つめは、直接パイロットとは交信せず、他機関と調整を行ったり、他の業務に就いている人の補助を行う仕事です。
これらに加え、成田の場合は2つの滑走路があるため、地上管制と飛行場管制の担当がそれぞれもう一人ずつ配置されています。
さらに、両滑走路の離着陸を見ながら、東京空港事務所(羽田)にあるターミナルレーダー事務所の管制官と、連絡を取り合う管制官が1人います。
これらの業務を、1チームあるいは2チームで回しています。
勤務時間はどのようになっているのですか?
成田空港事務所の航空管制官は、主に「早番、遅番、夜勤」の時間帯に分かれて24時間をカバーしています。
早番の場合、出勤時間は7:45です。そこから15分ほどかけて、当日の気象状況や滑走路の運用、誘導路の閉鎖や工事状況等に関する情報を集めます。
8:00になると「ブリーフィング」というミーティングのようなものが始まり、集めた情報をチームで共有します。
8:15から管制塔業務がスタートし、そこからは45分間ごとに交替し、先ほど挙げた業務を全員で回していきます。
45分間の仕事を何度かこなすと、どの席にもつかない時間(休憩)が45分間入るので、そこで昼食をとります。
こうした流れで15:00まで管制塔業務を行い、そこから勤務終了となる16:00まで、訓練をしたり、規定類を見たり、「デブリーフィング」(その日にあった事例を共有したり話し合ったりすること)を行います。
遅番、夜勤のスケジュールについても教えてください。
遅番は12:00に出勤し、管制塔へは13:30に上がります。夜勤は19:30に出勤し、ブリーフィング後、管制塔に上がります。
勤務サイクルは基本的に「早番→早番→遅番→夜勤→明け→休み」となっていますが、夜勤がないサイクルの場合もあります。
残業はあるのですか? また、休日の状況はどのようになっていますか?
私たちの仕事は、すべてその場で行うため「仕事を溜める」という考え方がありません。したがって、ほとんど残業になることはありません。
また、比較的休日はとりやすい環境だと思います。夜勤のないサイクルのときは、最大で3日休みが続く場合もあります。
仕事のやりがいはどんなところにありますか?
航空管制官の仕事は、事故が起きなくて当たり前の世界です。
1日の業務が終わった後、「今日も何もトラブルなく、効率的に仕事が終わったね」とチーム全員で話し合っているときはホッとしますし、最もやりがいを感じる瞬間です。
毎日一緒に働くチームはメンバーが決まっているのですか?
はい。同じ時間に2つのチームがいることもありますが、基本的には同じチームのメンバーで動いていきます。
ちなみに、私は自分のチームの中では一番年齢が若いのですが、上は50代後半の方もいますし、他のチームには60歳を超えている方もいます。
成田空港事務所には現在70人弱の管制官がいますが、別の場所にある「東京コントロール」といわれる東京航空交通管制部には、300人以上もの管制官が所属しています。
仕事をしていて苦労を感じるのは、どのようなときですか?
緊急時に、即座の判断が求められることです。
トラブルが起こると、まずはその状況を周囲に共有するために、声を挙げて何が起きたかを知らせます。
そこからは、チームメンバー全員で協力して対応していきますが、緊迫した状況のなか、いま何が必要で、どのような優先順位で物事を進めていくべきか、という予測を瞬間的にしなくてはなりません。
そこで最適な判断をするためにも、日頃の訓練は欠かせません。
具体的に、どのようなトラブルがあるのか教えていただけますか?
たとえば、着陸を控えたパイロットから「航空機のタイヤがパンクしている」という情報が入ってくるとします。
そうすると、管制官はいつ、どのようなタイミングで着陸させるかを考えて、何が必要になるかをパイロットから聞き出し、適切に行動の指示を出す必要があります。
そのほか、エンジンが片方動かなくなったり、急病人が出たり、小さな装置が動かないといったことで、出発予定機がスポットに戻ってくることもあります。
軽微なトラブルも含め、パイロットからの第一報は管制官に入ってきますから、そこで適切な判断を下さなくてはなりません。
私たちは、こうしたトラブルにもきちんと対応できるよう、シミュレーターを使いながら、常にチームとして動く訓練を行っています。
加納さんの今後の目標を教えてください。
私はまだ成田での仕事しか経験していないため、今後はより広い空域を扱う羽田のターミナルレーダー管制所での勤務をしてみたいですし、東北地方から中国地方までを管轄する東京航空交通管制部でも働いてみたいと思っています。
多様な業務を経験することで、もっともっと器の大きな管制官になりたいです。
転勤を伴う異動もあるのですよね。
はい、国家公務員である航空管制官は、全国へ転勤の可能性があります。いつ転勤になるかは決まっていませんし、実際、人によってだいぶ異なります。
4~5年程度で転勤している人もいれば、1つの場所で10年くらい勤務している方もいます。国家公務員は2年ほどで異動することも多いのですが、それに比べると航空管制官は異動が少ないほうです。
航空管制官には、どのようなことが求められると思いますか?
航空業界全体にいえることですが、技術的な進歩が非常に早く、普段使うシステムがどんどん更新されたり、運用方法が変わるケースは珍しくありません。
また、航空機の数も年々増えています。ですから、たとえ1年目の訓練が終わったとしても、更新や改正があるたびに頭をアップデートする必要があるのです。
また、別の勤務地に異動になれば、一からその空港で働くための訓練を受けなくてはなりません。常に勉強が必要な仕事なので、そういうことに前向きに取り組めることが大切だと思います。
英語力も必要になるのでしょうか?
業務では、英語をベースとした専門用語を使っています。これらは航空保安大学校で学びますが、管制官になってからも3年ごとに英語の試験があり、それをクリアしなければ業務ができません。
ですから管制官である限り、英語もずっと勉強し続ける必要があります。
ただ、スタートの時点では決して高い英語力が求められるわけではありませんし、留学経験なども求められません。
同時に、よく必要だといわれる空間把握能力に関しても、仕事をするうちに自然と習得されていくものだと思いますので、今から過度に心配する必要はないと思います。
働くうえで大切にしていることはありますか?
何でも口に出すことです。私たちの仕事では、ほんの些細な言い間違いが、人の命に関わる重大な事故を引き起こす可能性があります。
そのため、たとえ相手が上司であっても、業務に関連する指示等を言い間違っていたらハッキリと誤りを指摘しています。
また、航空機の便名が「1便」と「11便」といったように似ているようなことがあれば、他の人にも先に伝えるようにし、チームとしてエラーを事前に防ぐことを心がけています。
リフレッシュ方法や、お気に入りの休日の過ごし方はどのようなものですか?
身体を動かすのが好きなので、夏はプールや海に出かけたり、冬はランニングをしています。走ることは、完全に一人の世界になれるので、いい気分転換になりますね。
また、職場の人とキャンプに行ったり、バーベキューをしたりすることもあります。チームメンバーとは何でも話せる関係で、とても仲が良いです。
航空管制官には、どのようなタイプの人が多いと思いますか?
さまざまな方がいますが、外部の人からは「職人みたい」とも言われることがあります。
ひとつの業務を一生かけて極めていく点、経験がモノをいう仕事である点は、たしかに職人的かもしれません。
この仕事は、一年目でどれだけ頭が良い人や要領の良い人でも、1年上の先輩と比べれば大きな差が出ます。
絶対敵わないなと思うような大先輩もいますし、一生勉強のつもりでいなければならないなと感じています。
女性の航空管制官もいるのでしょうか?
はい、成田空港事務所でも、3~4割程度の管制官は女性です。結婚・出産を経て復帰する方は多いですし、国家公務員ですから育児休業等の制度もしっかりしています。
航空管制官は、男女関係なく活躍できる仕事です。
航空管制官になって良かったなと思う瞬間はありましたか?
自分自身、プライベートで空港へ行ったり、飛行機に乗ったりしたときに、あらためて自分の仕事の責任の重さに気付くことがあります。
飛行機は多くの人の力によって飛んでいますが、自分もその役割を担う一人なんだなと実感できた瞬間は、とても感動しましたね。
航空管制官を目指す人に向けて、メッセージをお願いします。
航空管制官は、世間でいわれるほど特殊な能力を求められる仕事ではないと思っています。
働くうえで必要な知識やスキルは、訓練を受けて徐々に身に付けていくことができますから、この仕事に少しでも興味を持っている方は、ぜひ前向きな気持ちで目指してほしいです。
自分の学生時代を振り返ってみると、元々飛行機が好きだったこともあり、「航空管制官ってどんな仕事なんだろう?」ということをよく調べていました。
そうするうちに、仕事に対する興味がどんどん湧いてきて、そのワクワク感が、勉強をする原動力になったと思っています。
そういう風に、自分の気持ちを盛り上げながら、将来「こうなりたい!」というイメージを膨らませて勉強を頑張ってください。
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