努力の結果は、いつでも患者さんの「反応」が教えてくれる。

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カイロプラクター三輪 健彦さん

1970年9月2日生まれ。神奈川県茅ケ崎市出身。大学卒業後、2006年RMIT大学カイロプラクティック学科日本校(現TCC:東京カレッジ・オブ・カイロプラクティック)卒業、同校講師となる。2011年TCC外来部長に就任。

カイロプラクターという職業を目指したきっかけを教えてください。

父が医者だったため、医療職にはもともと興味がありました。

ですが、私がこの道に進んだ直接的なきっかけは、四年制大学を卒業後、会社員として働いていたときに自動車事故に遭ってしまったことでした。

椎間板ヘルニアになり、会社にも行けなくなって。あらためて「人の健康を手助けする仕事がしたい」と思うようになったんです。

それから、どのような経緯でカイロプラクターになられたのですか?

会社を辞めて、まずは整体の学校に通いました。

しかし、卒業後に私が感じたのは、「これくらいの勉強量で患者さんを診てもいいのだろうか」ということでした。

日本の整体の学校の多くは、未経験者でも半年や1年ほどでカリキュラムが終了します。

ですが、本来「人の体を診る」ということは、ものすごく重大なこと。医師のように専門知識や技術の習得にも、相応の時間をかけなくてはならないと思ったのです。

そこでいろいろと調べた結果、整体やカイロプラクティックという仕事は日本では民間資格ですが、カイロプラクティックについては国際基準の勉強ができる学校が一校あるということを知りました。

それが、いま私が働いている「TCC(東京カレッジ・オブ・カイロプラクティック)」の前身校である「RMIT(ロイヤルメルボルン工科)大学カイロプラクティック学科日本校」でした。

そして、しっかりと勉強をし直そうと、その学校へ入学したんです。

カイロプラクティックの学校ではどのようなことを学ばれたのですか?

私が入学した当時は5年制の学校でした。

入学後はまず、医師を目指す人と同じように解剖学や生理学などの基礎医学を2年くらいかけてみっちりと学びます。

もちろん座学に加えて実技も。そしてカイロプラクターとはどうあるべきかという倫理観の話、また、カイロプラクターが法制化されていない日本でどのように働いていけばいいのかといったことまで幅広く学びました。

5年間というのは、ものすごく長い時間のように思えます。

そうですね。現在、当校は4年制になっていますが、合計のカリキュラムは5年制の時と同じ4200時間~4300時間におよびます。

ちなみに、一般の4年制大学では約2600時間といわれています。この数字だけを比較しても、当校ではいかに膨大な量の勉強をするかがおわかりいただけるでしょう。

ですが、それだけ学んで、初めて僕らは人を診ることができるということなんですよね。

日本にはカイロプラクティックの国家資格がありませんから、多くの人は、そこまで難しい勉強をしなくてもいいという感覚があるかもしれません。

でも勉強をするということは、つまり危ない施術をしないか、患者さんの利益を守れる人かということにつながると思います。

世の中にはカイロプラクティックについて学べる学校がたくさんありますが、何が違うのでしょうか。

国際的に見てみると、カイロプラクターの教育については世界保健機関(WHO)が指針を示しており、カイロプラクティックが法制化されている国では、カイロプラクティックは大学もしくは大学院レベルで学ぶことになっています。

そして、カイロプラクティック教育のあるべき姿については「カイロプラクティック教育審議会(CCE)」という国際的な教育認証組織が定めており、その組織から認証を受けた学校を卒業することで、初めて国際的に認められた「カイロプラクター」と呼べるのです。

日本では、その認証を受けた学校、つまり世界的に認められているカイロ教育を受けることができるのは、当校のみとなっています。

なお、WHOに所属している世界カイロプラクティック連合の日本代表団体である「日本カイロプラクターズ協会」の会員の多くは、この学校の卒業生です。

日本で「カイロプラクター」と名乗る人は3万人以上いるとされていますがが、そのうち世界基準での勉強をしている人はほんの数パーセントだと思います。

現在の三輪さんの仕事内容を教えてください。

私は学校を卒業してから、患者さんの治療をする臨床メインではなく、講師としての仕事を中心にやっています。

これまで学んできたことを、後進に伝えていくことが私の役目です。

ただ、当校では治療院を併設していますので、私が患者さんの治療にあたることもあります。

お仕事がある日の、1日の流れを教えていただけますか?

朝は9時や10時頃から授業がスタートします。15時くらいまで授業をして、その後は、併設の治療院で予約が入っていれば患者さんの治療にあたります。

予約がない場合には学校の中の実技室で、練習している学生の手助けをすることが多いですね。

お休みはどれくらいあるのですか?

月曜日から金曜日は授業があり、土曜日は実習室の責任者として出勤するので、完全なオフは日曜日のみです。

春休みなどは授業がありませんが、卒業式など学校運営の準備などの仕事が入ってきます。

開業をしている先生であれば、週に1.5~2日ほどの休みが多いのではないでしょうか。

複数名のカイロプラクターが働いている治療院であれば、店舗は年中無休で、交互に休むスタイルをとっているところもあるようですね。

この仕事のやりがいはどんなところにありますか?

目の前の患者さんから直接「ありがとう」と言われて、人の喜びが自分の喜びになることです。

もちろん、感謝されるためには、相手が納得・満足する結果を出さなくてはなりません。

自分が努力をして勉強した分だけ、知識や技術を習得した分だけ、患者さんに喜んでもらえる可能性は高くなると思っています。

では、仕事をしていて大変だなと感じることはありますか?

「これを続けていればよくなるだろう」と思って治療を開始しても、思うような改善が見られないときは焦ります。

学生時代は自分の知識不足から、そんなことも多かったですね。

カイロプラクターには、最初に患者さんの状態を見極める力と、カイロで改善していけるかを判断する能力が求められます。

そこがカイロプラクターになって、まず難しさを実感するところだと思います。

患者さんに「これでよくなっていきますよ」という声かけができるかどうかは、カイロプラクター側がどれだけ自信を持っているかどうか。自信を持つためにはやはり勉強が欠かせません。

カイロプラクターの学校卒業後は、すぐに独立をする人と、どこかの治療院に就職する人、どちらが多いのでしょうか?

当校に関していえば、もう独立して2店舗目、3店舗目を出している卒業生も多いので、新しい学生の就職先が十分確保できる状態です。

ですので、まず就職して先輩のノウハウを盗み、しばらくして開業という人が多くなっていますね。

ですが、もっと上の世代の人は卒業後に即開業という人も多かったですよ。

三輪さんは、卒業後の開業と就職、どちらを選ぶほうがよいと思われますか?

私は、若い人ならまず就職して、先生らしくなるまで修行をすることを勧めます。

ですが、ある程度の年齢に達している人や社会経験がある人なら、他者とのコミュニケーションの取り方もわかっていると思います。

それであれば即開業をしてもよいかもしれません。

専門知識や技術を学ぶことはもちろん大切ですが、カイロプラクターは「人と人」が深く関わっていく仕事だからこそ、人間としての深みが出てから開業したほうがよいと思っています。

患者さんは、どのような世代の方が多いのですか?

性別問わず、下は小学校低学年くらいから、上は70代や80代の方まで幅広いことが特徴です。

あと治療院の立地条件にもよるでしょう。ここはビジネス街なので、働き盛りの会社員の方が多いですよ。

治療院以外での活躍の場もあるのでしょうか?

カイロプラクターの知識や技術を他の分野と掛け合わせて、人の健康に役立たせることはできると思います。

たとえば、もともと福祉の現場で働いていた人で、別の角度からアプローチがしたいという理由でこの学校に通い、また福祉の現場に戻ったというケースがあります。

ほかには、治療院にヨガのスタジオを併設し、体の動きをカイロで作って、それを維持するためにヨガやピラティスを組み合わせることをやっている人も。

あとはアロマセラピストの資格を取り、治療の際に患者さんに合う香りを提供している人や、鍼灸の資格を取得してからカイロを学び、それぞれの得意な領域を組み合わせている人もいますね。

カイロプラクターはスポーツの分野でも活躍できるのでしょうか?

はい。私自身、世界スポーツカイロプラクティック連盟の日本代表団体である日本スポーツカイロプラクティック連盟の会長を務めています。

カイロプラクターがスポーツチームに帯同して大会期間中のスポーツ選手のケアをしたり、「ゴルファーのためのカイロ」など、特定のスポーツに特化した治療を行うこともできます。

ちなみにリオオリンピック・パラリンピックでは、カイロプラクターは公的な選手村の総合診療所に配置され、日本人も二人参加していたんですよ。

スポーツ分野で活躍しようとする場合、カイロそのものの知識や技術に加えて、救急救命や担架での運び方といったことまで学ぶ必要があります。

こういった専門領域で活躍する人はそう多いわけではありませんが、自分のやり方次第で可能性は広がっていく仕事だと思います。

カイロプラクターに向いている人、向いていない人はどんな人でしょうか。

意外と思われるかもしれませんが、人と話すのは苦手でも大丈夫。

ですが、患者さんの気持ちや状態を理解するためにも、「聞き上手」な人に向いている職業だと思います。

あとは相手の利益を考えられる人、つまり相手にとって何がよいことなのかを思いやれる人は、とても適性があると思いますよ。

患者さんは一人ひとり置かれている環境も、状態も、もちろん懐事情も違いますから、たとえカイロプラクターが「毎日治療に来てほしい」と思っても、自分の都合だけで無理やり治療を受けてもらうわけにはいきません。

相手を思いやりつつ、最善と思える治療の方針を提案できること。それができれば、患者さんからの信頼にもつながります。

逆に向かないのは、人と接するのが怖い人と、絶対的な答えを求める人でしょうか。

人間にはいろんな反応がありますから、「1+1=2」といったような、絶対にこうなるという答えがありません。

予測不可能な部分を、どう前向きに捉えられるかが重要です。

カイロプラクターに体力は必要ですか?

治療中は動き回るので、ある程度の体力はあったほうがいいと思います。

また、人の健康に携わる仕事ですから、自身の健康状態が良好であることは大前提です。

カイロプラクティックでは背骨の治療もしますが、予防のためのエクササイズを提案することもあるため、最低限の体づくりは日ごろからしていなくてはなりません。

女性でも、カイロプラクターとして活躍できるのでしょうか?

「体力勝負=男性の仕事」と思われがちですが、一般的には女性のほうが手は柔らかいですし、思いやりが必要という点でも女性に向いている面がある仕事だと思います。
また、女性の患者さんにとっては女性同士で共有できることもありますし、実際に女性のカイロプラクターに施術してほしいと話す女性患者さんもいます。

ですから、男性が院長の治療院では、女性スタッフを求めているところも多いですよ。

仕事をするのに性別は関係ありませんが、男性にしかできない仕事ということではまったくないです。

ちなみに、私の同期には出産後に一度仕事を離れ、復帰して開業している女性もいます。

これまでに、仕事で感動したエピソードがあれば教えていただけますか?

学校を卒業して最初に診た患者さんとの出来事です。

その患者さんはむち打ちになっており、首にコルセットを巻いて2ヶ月外せないという状態でした。ですが、3週後に剣道の大会に出たいとおっしゃっていたんです。

私は緊張しながらも真剣に治療をしました。すると1週間後、その患者さんはコルセットを外して来院し「おかげさまでよくなりました、ありがとう」と笑顔になってくれたんです。

勉強をしてきてよかったと実感できた最初の瞬間でした。

カイロプラクティック業界の現状や、課題について教えていただけますか?

世の中では、「カイロプラクターの治療を受けて身体の状態が悪くなった」という声もよく聞かれます。

その大きな原因はやはり、十分な勉強をしていない人が、カイロの治療をやろうとしていることにあると思います。

正しい知識を持っていれば治療の結果はある程度予測できます。

しかし、そのためには現代医学における基礎医学は絶対に勉強する必要がありますし、患者さんに接するうえでやっていいこと、やってはいけないことを理解していなくてはなりません。

カイロプラクターの仕事が国家資格化されていない日本だからこそ、大切なのは、この仕事に就きたいと考える人たち自身が、どれだけ「人を診る、人に携わる」ということに危機感を持てるかだと思います。

危機感を持っていれば、正しく学ばなければならないという結論に行きつくはずですから。

カイロプラクターの将来性について、どう考えていらっしゃいますか?

カイロプラクターは、いくらITが進化しても「人」でなくてはできない仕事だと考えています。

医療業界も日々発展していますが、なかには医師の治療ではよくならないという患者さんもいるんです。

だからこそ整体を含めた治療院が増えており、将来性も十分にあるといえるでしょう。

私たちは治療家として、そういう悩みを抱える人たちの受け皿になることが必要だと思います。

「医師」や「柔道整復師」など、人の健康に関わるという点において他の類似した職業や資格との違いを簡単に教えていただけますか?

医師の場合は病気を治療する「ディジーズケア(disease care)」を役目としますが、カイロの考え方は病気予防や健康増進を目的とした「ヘルスケア」です。

もっとわかりやすくいうと、人間の健康状態を見たときに「不健康な状態」から「健康な状態」が一本の線でつながっているとすれば、医師は「健康な状態」に入れば、もうその先は扱いません。

不健康である状態、つまり病気だけを扱うんです。

ですが、カイロプラクターは、つねにその人の健康度合いが今どこにあるかを考えて治療をしていきます。

医師でいえば「健康な状態」にある人のケアもしますし、どこも痛くはないけれどケアをするということはよくあります。

もちろん、患者さんの体がカイロプラクターで扱える状態かということは判断しますが、どんな人もケアできることがこの仕事の特徴であり、強みだと思っています。

いわゆる「ほねつぎ」である柔道整復師も、本来は医師と同じような役割で、捻挫や骨折、脱臼といった怪我を扱う仕事です。リラクゼーションではなく、悪い状態である場合に治療を行います。

三輪さんの今後の目標を教えてください。

今後もしばらくは「教育」に関わっていき、カイロプラクターとして必要なこと、大事なことをこれからの人たちに伝えていきたいです。

教えた学生たちの中から、「教わったことを後輩に伝えたい」という人が増えてくれば、僕もいずれは開業など別の夢を追うかもしれません。

最後に、カイロプラクターを目指す人に向けてメッセージをお願いします。

繰り返しになりますが、人に携わる仕事だからこそ、まずはきちんと勉強をしてもらいたいです。

そして、人に興味を持ってほしい。自分が頑張ったことの答えは「患者さんの反応」という形で患者さんが教えてくれ、それがこの仕事の面白さでもあります。

確かな勉強をして世の中に出れば、それだけ早く多くの人の笑顔に出会えるでしょう。

もうひとつは、人との「和(輪)」を大切にしてほしいということです。

この業界は独立する人も多いですし、専門職なのでどうしても一匹狼になりやすいのですが、患者さんを取り巻く「和(輪)」があってこそ成り立つ職業。

そういう考えを大事にしてもらいたいと思います。