貿易事務の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「貿易事務」とは
貿易を行う企業において、輸入・輸出に関する際に必要な書類作成や調整業務を担当する。
貿易事務とは、海外から物品を輸入したり、日本から物品を輸出したりする際のさまざまな事務手続きや調整業務を担当する仕事をする人のことです。
輸出入では、法律に基づく通関書類の作成や関税処理が求められており、貿易事務は専門知識を生かして、取引がスムーズに行えるようにサポートします。
このような定型業務に加え、取引先との納入日や納入品数の調整の役割を担うこともあります。
貿易事務は事務職ではあるものの、貿易に関する専門的な知識を習得していかなくてはなりません。
一般的には大学卒業後、メーカーや商社、海運・通関業者、船会社・航空会社などに就職し、研修や実務を通じて貿易事務の業務を習得していきます。
輸出入が盛んな日本では、安定して需要が大きな職業のひとつとなっています。
「貿易事務」の仕事紹介
貿易事務の仕事内容
海外との輸出入取引に携わる専門的な事務職
貿易事務とは、海外から物品を輸入したり、日本から物品を輸出したりする際に必要な通関手続き、書類作成などに携わる仕事をする人のことです。
貿易事務は、大きく分けて「輸入業務」と「輸出業務」があり、輸入業務では輸入元が発行したインボイス(明細)に基づき、通関の手配や関税処理、納入された商品の保管の手配をします。
輸出業務では、インボイスを発行し、通関書類を作成して、通関手配や請求書の作成を行います。
このような定型的な業務に加え、「コレポン」と呼ばれる、取引先との納入日や納入品数の調整業務も重要な業務です。
貿易取引をスムーズに進めるために不可欠な職種
貿易事務は広く見れば事務職に分類できますが、輸出入に関わる法律、通関、船積みや外国為替といった知識が求められる専門的な要素が強い職種です。
商社やメーカー、通関業者、船会社・航空会社、またNVOCC・フォワーダーという荷主と輸送業者の間をとりもつ仲介業者など、さまざまな場で活躍しています。
貿易取引をスムーズに進めるための実務のエキスパートとして、重要な業務を任されることが多くなっています。
貿易事務になるには
貿易ビジネスが多く行われている企業への就職を目指す
貿易事務になるために、特別な資格や学歴は求められません。
商社やメーカー、海運・航空会社、倉庫業者など、貿易ビジネスが多く行われている企業への就職を目指すことが、貿易事務になるための第一歩です。
大手企業では貿易事務として採用するところもありますが、一般事務として採用された人が、その後の配属によって貿易事務を担当することもあります。
大手企業を目指すのであれば、大学に進学しておくほうが就職先を選びやすくなるでしょう。
貿易事務になるために身につけておくべき資格・スキルは?
貿易事務に関連する資格として、国家資格の「通関士」や、民間資格の「貿易実務検定」などがあります。
これらを取得してると就職の際に有利になることがありますが、通関士はとくに難易度が高いため、簡単に合格できるようなものではありません。
また、企業によっては貿易事務は中途採用が中心で、新卒からの採用が難しい場合があります。
その場合でも、国内ビジネスでの受発注業務や経理業務、また英語での調整業務など、貿易事務につながりそうな事務経験をしておくと、転職時に優遇される可能性があります。
英語や中国語などの語学ができる人も歓迎されやすいです。
貿易事務の学校・学費
大手企業への就職を目指すなら大学進学がおすすめ
貿易事務に就くために、必ず通わなくてはならない学校はありません。
新卒採用の場合、大手商社や大手メーカーでは「大卒以上」の学歴を求めることが多く、有名大学の学生が多数入社を希望するため、高学歴のほうが有利になりやすいです。
中小企業では、大手ほど学歴を気にしないところもあります。
学部・学科の制限はありませんが、貿易事務としての業務は専門的なルールや用語も多く、下知識がないとはじめは苦労することになるかもしれません。
商学部や経済学部で、早いうちから貿易事務や商慣習を学んでおくのもよいでしょう。
また学生時代に英語や中国語などの語学力を高めておくと、貿易実務では役立ちます。
貿易事務の資格・試験の難易度
「通関士」は貿易関連の国家資格
貿易事務に関する資格はいくつかありますが、代表的なのが国家資格の「通関士試験」と、民間資格の「貿易実務検定試験」があります。
通関士は、輸出入の際の税関手続きに関わる資格です。
通関書類の審査と審査後の記名捺印は、通関士資格所有者でないとできないため、輸出入に関する部署がある企業では、重宝される資格です。
国家資格としての権威性もありますが、難易度は高めで、合格率は毎年10%~20%程度です。
業界特有の税関や輸出入に関する専門用語や、法律用語も多々出てくるため、基礎からじっくりと勉強していく必要があります。
貿易実務検定試験は業界内ではメジャーな資格
貿易実務検定は、日本貿易実務検定協会が実施している試験で、業界内ではメジャーな資格です。
難易度が高いものから、A級、B級、C級の3段階に分かれています。
C級では貿易実務の基本業務のための一般的な知識が問われ、A級ではケース別に対応できる柔軟性や、専門的な知識が問われます。
C級の合格率は60%~70%前後で、独学でも真剣に勉強すれば合格している人はいます。
貿易事務の給料・年収
一般事務職よりもやや高水準の収入が望める
貿易事務の平均年収は、民間各社の調査データを基に見ていくと、400万円前後がボリュームゾーンと考えられています。
実際の給料・年収は勤務先や経験、スキルなどによっても大きく変わってきますが、税関や輸出入等に関する専門知識が求められる職種のため、一般事務職よりもやや高水準です。
実務経験が重宝されるため、貿易事務としてのキャリアを積み、専門性を高めていくことができれば、他の事務職よりも収入は上げやすいでしょう。
「貿易実務検定」や「通関士」など業務に関連する資格を取得することでも、収入アップを目指せます。
残業代に関しても事前によく確認を
貿易事務は正社員のほか、派遣社員やパートなどの形態で募集されることがあります。
非正規雇用の給料は時給制が基本で、勤務地域や企業の規模、個々の経験・スキルに応じて、時給に差がつくことが多いです。
なお、貿易事務の仕事では、取引先の海外企業との時差や輸出入スケジュールの都合によって、日常的に残業が発生することがあります。
平均残業時間数や、残業代の支給状況などを事前に確認しておくとよいでしょう。
関連記事貿易事務の年収・給料はどれくらい? 初任給やボーナス、統計データも解説
貿易事務の現状と将来性・今後の見通し
経験豊富な貿易事務の重要性は増している
経済活動のグローバル化に伴い、日本の輸出入の貿易総額は大きな伸びを見せています。
2018年の日本貿易総額は約164兆円に達し、アメリカ、中国、ドイツに次ぐ世界第4位の貿易立国として、多くの物が輸出入されています。
また、最近ではインターネット通販の拡大により、国内外によらず物の売買がさらに活発化しています。
大手のメーカーや商社はもちろん、中小企業や個人でも積極的に海外ビジネスを展開する機会が増えているため、貿易事務へのニーズはますます高まっているといえるでしょう。
ただし、輸出入に関わる書類作成などの定型業務に関しては、AIをはじめとするIT技術によってコンピュータが担えるようになりつつあります。
この先、業務効率化にともなって貿易事務の求人は若干減っていくことも考えられます。
今後の貿易事務には、より高いレベルでの調整能力や語学力を生かした活躍が期待されると考えておいたほうがよいでしょう。
貿易事務の就職先・活躍の場
メーカーや商社をはじめ、通関業者など幅広い活躍の場がある
貿易事務職の主要な勤務先や活躍の場には、以下のようなものがあります。
・商社やメーカー
・通関業者
・NVOCCやフォワーダー
・船会社や航空会社
各職場で、貿易事務が担当する業務内容や範囲に若干の違いが出てきます。
メーカーの貿易事務は、どちらかといえば製品の輸出業務がメインとなりますが、商社の場合は輸出と輸入の双方に関わることが多いです。
通関業者とは、メーカーや商社などから依頼を受けて、通関業務(輸出入の際の関税の計算や、関税支払を申告する業務など)を請け負う会社で、ここで働く貿易事務は通関業務に特化した仕事をします。
また、NVOCCやフォワーダーとは荷主と輸送業者の間をとりもつコーディネーター、あるいは仲介業者のことで、より広範囲の貿易事務能力を生かした仕事をします。
船会社や航空会社では、積み込みや荷下ろし、輸送スケジュールの調整、運賃の見積もり、入金、入港する港との交渉、荷主との対応などに携わります。
貿易事務の1日
海外の時差を考慮して仕事を進めることも
貿易事務は、関係先とやりとりをしながら、スムーズに商品が輸出入できるように事務処理や調整を行います。
基本的には社内の就業時間に基づいて働きますが、海外の取引先とやりとりをする場合は、相手との時差を考慮しながら仕事をすることになります。
貨物の到着遅れなどイレギュラーな事態が発生した場合は調整をすみやかに行う必要があるため、残業が発生することがあります。
ここでは、商社勤務の貿易事務の1日の例を紹介します。
関連記事貿易事務の1日のスケジュール・勤務時間や休日についても解説
貿易事務のやりがい、楽しさ
専門的なスキルを生かし、変化のある事務の仕事ができる
海外とのモノのやりとり、貿易が盛んに行われている日本において、貿易事務は非常に重要な役割を担います。
勤務先が大企業の場合は、一度の手続きによって何千トン、何千万円という規模の製品や資材を動かすこともめずらしくありません。
自分が携わる業務によって大規模な取引が行われることに、責任と同時にやりがいを感じることができるでしょう。
また、貿易事務の仕事をするには、業界特有の専門用語や法律を覚えていかなくてはならず、慣れないうちは大変かもしれません。
しかし、身につけた知識が増えれば増えるほど、それらは実務で生かせる貴重な財産となり、貿易事務を求める多くの職場でも歓迎されます。
一般的な事務職よりも専門性のある仕事がしたい人にはおすすめです。
また、担当する業務によっては語学力が生かせたり、営業担当者や取引先との調整業務も多く発生するため、単なるルーティンワークとは異なる、アクティブな業務にやりがいを感じられるでしょう。
貿易事務のつらいこと、大変なこと
海外関係機関との調整に苦労することもある
貿易事務の仕事では、外国企業との頻繁なやりとりが発生します。
複数の国を経由して、商品を無事に納品するまでは、倉庫や輸送機関、税関など、さまざまな関係機関を通過させなければなりません。
納期や申請期限などを確実に把握し、それに間に合うように、膨大な種類の書類をミスがないように正確に処理する必要があります。
しかし国によって商慣習は異なり、時間の考え方、交渉の進め方なども含めて、日本のビジネススタイルで進めようと思ってもうまくいかないことが多々あります。
これまでの常識が通用しない場面にも遭遇しますが、大きなトラブルにつながらないよう、こまめな意思疎通や確認が必要です。
なお、貿易事務は専門的な業務を担当し、海外と頻繁にやりとりするため、一般的な事務職と比べても残業時間は増えがちです。
貿易事務に向いている人・適性
ビジネス現場を支える専門的な事務仕事がしたい人
貿易事務の仕事では、見積書や受発注書類の作成、またデータの端末入力、伝票処理といったデスクワーク主体のルーティンワークもあります。
一方、船や航空便などの輸送業者の手配や倉庫の確保、関連工場や販売代理店との出荷・納期調整など、関係先との調整業務も任される場合があります。
一般的な事務処理能力に加え、ビジネスコミュニケーション力が必要になってくるため、「ただ言われたことだけを黙々とやっていたいという人」にはあまり向いていません。
むしろ、貿易に関する専門的な知識をどんどん身につけ、それを生かしてビジネスの場で活躍したいという意思がある人に向いています。
海外との取引が多いため、英語を使った国際的なコミュニケーションへの興味が強い人にも適性があるといえるでしょう。
関連記事貿易事務に向いている人とは? 適性や必要な能力を紹介
貿易事務志望動機・目指すきっかけ
語学力が生かせる専門的な事務職としての魅力
事務職で、かつ語学力を生かせる仕事がしたいと思ったときによく候補に挙がる職業のひとつが、貿易事務です。
貿易事務は、書類作成やデータ入力などの一般的な事務的な業務を担当しますが、加えて貿易関連の専門的な知識が求められるため、一般事務よりも難易度の高い仕事がしてみたいという人が貿易事務を目指すことも多いようです。
実務経験や知識を積み、将来的には「通関士」の国家資格を取るなどのスキルアップの道もあり、将来性を感じてこの仕事を目指す人もいます。
海外とのコミュニケーションに興味がある人、グローバルビジネスに関わりたい人にも人気があります。
関連記事貿易事務の志望動機と例文・面接で気をつけるべきことは?
貿易事務の雇用形態・働き方
正社員のほか、派遣社員やアルバイトとして働く人も
貿易事務は、「正社員」「派遣社員」「アルバイト」のいずれかで雇用されるケースが一般的です。
正社員はフルタイム勤務となり、書類作成や受発注の中継ぎなどの定型業務のほか、取引先との調整業務などでのイレギュラーな事態への対応なども含めた業務全体を任されます。
ほかの働き方に比較すると職務上の責任・権限も大きいため、やりがいを感じやすいでしょう。
ただし、職場によっては激務で残業時間が多くなることがあります。
派遣社員も基本的にはフルタイムで働き、即戦力となれる経験者が求められることが多いです。
正社員が不足している職場では重宝されますし、ベテランになると正社員のように重要な業務を任されることもあります。
アルバイトの場合は、派遣ほどの実務経験やスキルが求められない場合も多く、未経験から挑戦しやすいのが魅力です。
ただし、一般的な事務や雑用まで担当することがあります。
貿易事務の勤務時間・休日・生活
トラブル時や繁忙期には残業時間が増えることも
貿易事務として働く人の勤務時間は、勤務先の就業時間に沿ったものとなります。
9時から18時前後で働くことが多いですが、業務の特性上、取引先との時差などによって勤務時間が調整されることもあります。
休日については、土日祝日や年末年始などは比較的きちんと休みをとれることが多いです。
一方で、日本では大型連休中であっても、取引先の海外企業が休みでなく通常稼働している場合には、出勤して対応することもあります。
残業時間は職場によってかなり幅があり、人員不足の職場では常に多忙で、残業時間が慢性的に増えがちなところもあるようです。
期日に合わせて進めなくてはならない業務も多いため、日によってはどうしても忙しくなります。
貿易事務の求人・就職状況・需要
地域によって求人数には差がある
日本は資源の大部分を海外からの輸入に頼り、食料品や日用品も外国製を多く輸入しています。
また、日本からはおもに工業製品を海外に輸出しており、貿易が経済に占める割合は非常に高いです。
グローバル化が進むなか、貿易事務のニーズもますます拡大しており、安定した求人数が出ています。
ただし、求人を出す企業は地域によって偏りがあり、商社が集中する東京をはじめとする大都市部、またメーカーや工場のひしめく地方都市、主要港湾がある横浜、神戸での求人も比較的多くなっています。
一方、これら以外の地方では、なかなか求人が見つからない場合があります。
また、経験者を対象とした中途採用の求人や、派遣社員の求人が比較的多いため、新卒でいきなり貿易事務として入社できる企業を見つけるのに苦労するかもしれません。
貿易事務の転職状況・未経験採用
未経験の場合は秘書や事務からステップアップを
貿易事務は、転職者向けの求人も多数出ていますが、雇用形態に関しては派遣社員が目立ちます。
正社員としての求人も出ていますが、その場合は経験者でないと採用されにくいことがあります。
正社員登用前提での派遣社員採用も多く見られるため、まずは派遣社員として経験を積み、そこからステップアップして正社員を目指すのもよいでしょう。
また、貿易事務に転職するには、雇用形態に関わらず、ある程度の英語力と事務経験がないと不利になるケースもあるため、自分で準備をしておくことがおすすめです。
TOEICなどの語学系の資格取得も、未経験からの転職には有利になる可能性があります。
まずは募集の多い営業事務や一般事務を経験して、そこから貿易事務へ転職する人も多いです。