私が会社員を辞めてダンサーになった理由
この記事を読んでいる方は進路を迷われているかもしれません。
やりたいことと仕事の折り合いをどうつけるか悩んでいるのかもしれません。
私自身、20代は悩みの連続でした。
ダンサーになる前は金融業界で働いていました。
そんな自分の体験:会社を辞めてダンサーになった経緯をご紹介します。
本当は何がしたいの?
きっかけは就活がなかなかうまくいかず、面接の相談をした先輩に言われた一言でした。
「お前は、本当は何がしたいの?」
ハンマーで頭を殴られたような衝撃を受けて、何も答えられませんでした。
就活の時期が来たからマニュアルに沿って志望動機を作り面接を受けていましたが、本当にやりたいことはなかったし、真剣に考えたこともありませんでした。まだダンスには出会っていませんでした。
案の定、面接では表面的に取り繕った志望動機を見透かされたかのように、ほとんど一次で落とされました。
父親が銀行員、兄が保険会社だった影響もあり、金融系を中心に面接を受けてなんとか証券会社から内定をもらいましたが、その問いは心の奥に深く突き刺さったまま離れませんでした。
入社してまずは本店営業部に配属。
自分のやりたいことがわからないもどかしさを抱えながらも一生懸命仕事をこなし、国際営業部を経てアメリカのコーネル大学にも社費でMBA留学させてもらいました。
外から見たら順風満帆なエリートコースかもしれません。
でも心の中にはぽっかり穴が開いていました。何かが欠けていました。
情熱があるかどうか
足りなかったもの、それは一言で言えば、情熱です。
その答えは、偶然見たダンス(フラメンコ)にありました。
それは学生が踊る発表会でしたが、なぜか涙が出てきて、直感的にこれだ!と思いました。
それまでもサルサを踊ることはありましたが、それはあくまで趣味で、ダンスを職業にしようという発想は微塵もありませんでした。
ただ、フラメンコを見た瞬間、「舞台に立ちたい! そしてスペインに行きたい!」という想いがふつふつと湧いてきました。
当時すでに社会人3年目で、すぐには決断できないまま留学試験に受かって、MBA留学を選択しました。
ただ留学してみて、ひたすら出世と金儲けを追い求めるクラスメートとの決定的な価値観の違いを感じて、ここは自分の生きる世界ではないと思いました。
決断をする時
とはいえ、すんなり決断できたわけではありません。
全く知らないし、縁もなかった世界。
そもそも20代で始めてプロになれるのかどうかもわかりません。
仮にプロになれたとしても年収は今の10分の1になるかもしれません。
ダンサーという職業が市民権を得ているとは言い難い日本では、リスクが高すぎるし、将来の保証もありません。
常識的に考えたら、会社員のまま趣味で楽しむのが普通でしょう。
両親からも猛反対されました。
でも悩んだ末、一度きりの人生、自分の直感と情熱を信じて学校を中退(会社も退職)して、20代の後半にして人生を一からやり直すことにしました。
それからまたお金を貯めてスペインに留学をして、帰国後も長い修行期間を経て、30代半ばで国内の賞をいくつか受賞してようやくプロとして一人前として認められました。(フラメンコはかなり特殊技能を要するので一般的なダンスに比べてプロになるまでに時間がかかります)
40代となった今はダンサーとして活動する一方で、映像制作や公演のプロデュースも手掛けています。
収入は、会社の同期と比べたら数分の一です。
正直に言えば、ダンスで稼ぐのはどうしてこんなに大変なのだろう、と痛感します。
金融の世界は動くお金の量が莫大なので手数料で簡単に稼げます。
その代わりお金の感覚も麻痺してきます。
公演の場合は入場料があって、その何割かをお店や経費に払って、残りを出演者で割るので完全に日銭の肉体労働者ですし、その金額もたかが知れています。
一方で、お客さんから直接感謝され、感動してもらえる嬉しさがあります。
また今はフラメンコを通じていろんなプロジェクトやコラボに挑戦する楽しみもあります。
人生で大事なこと
結局は何を大事にするか、に尽きるのかなと思います。
情熱を追いかけ続けるのは簡単なことではありません。
踊りたいから業界に入っても現実的には食べられないのでレッスンプロになって、気づいたらそれがメインの活動になっていることもよくあります。
ステージだけで食べられる人は本当に一握りで、ほとんどの人は働きながら踊る、というのが現実です。
とはいえ、自分の体一つで、お客さんの前に立って感動してもらえる、普通の会社員ではめったに味わえない緊張感を日常的に感じられるのはお金に替えがたい貴重な体験です。
少なくとも20代であれば、挑戦してダメなら他の道もあるし、ダンスを追求していく中で、新しい道が見えてくることもあると思います。
今の時代、他の業種とコラボする方法もいろいろあると思います。
僕もずっと続けていく中で、人との出会いから活動の幅が広がり、新しい世界が開けることがしばしばありました。
こればかりは頭でいくら考えても、行動してみないとわかりません。
もし情熱があるのであれば迷わず飛び込んで、動きながら考えて見るのが良いと思います。
「あの時決断していれば…」そんな後悔だけはしたくないと思って、僕は20代後半で金融から正反対のダンスの世界に入りました。
高年収の同期を見るとすごいなと思うことはあっても、自分の決断を後悔したことはありません。もちろんその時の決断は正しかったなと思っています。