葬儀屋になったきっかけ(体験談)
大学卒業後、公務員になる
両親は公務員で、自分自身も大学卒業後はあまり深く考えずに公務員になりました。役所で働きながら、父親と同じように職場で嫁さんでも見つけて、結婚するつもりでした。
ところが、元気だった父が突然病気になったのです。精密検査をしたところ、胃がんと宣告され、緊急手術することになりました。
幸い、手術は成功しましたが、その後にがんが転移していることがわかり、入院して抗がん剤の治療を受けることになりました。それからは、毎日病院通いが始まります。
母親も働いていたので、交代で見舞いに行き、看病を続けました。けれども、父親の体は日に日に弱っていき、あっという間に旅立ってしまいました。まだ63歳でした。
父親の死で、はじめて葬儀屋と接する
がんになってから、半年もしないうちに父が亡くなり、あまりのショックに何も考えられない状態になりました。
母親も泣いてばかりで、冷たくなった父親の体を前に、どうしたらよいのか分からず、ぼんやりとしていました。すると、病院から葬儀社は決まっているかと尋ねられたのです。
何も決めていなかったため、病院に紹介してもらい、初めて葬儀屋の人と会うことになりました。50歳ぐらいの、穏やかな雰囲気の男性が病院に駆けつけてくれました。
すぐに父を自宅に搬送する手続きをとってくれて、葬儀屋さんと一緒に父を自宅に連れ帰りました。
その後の作業は見事なものでした。布団の上にやさしく父を寝かせたあと、ドライアイスで体を保全し、「枕飾り」という簡単な祭壇を取り付けてくれました。
混乱していた中でも、これで父親を供養できると安心したのを覚えています。
葬儀を済ませた後、葬儀屋になろうと決意する
父親が亡くなったばかりで、ショックを受けている中で葬式の準備をするのは、心理的にきついものでした。もちろん、葬式を出すのは初めてで、不安もありました。
しかし、担当してくれた葬儀屋さんは、とても親身になって世話をしてくれました。
葬儀費用についても、資料を見せて分かりやすく説明をしてもらえたので、予算に合わせて無理のない金額で葬儀を出すことができました。
母親と一緒に、葬儀屋さんと打ち合わせをしたときのことは、今でも忘れられません。
もっと事務的に話が進むと思っていたのですが、父親らしい葬式を出せるようにと、生前の父親の話を聞いてくれて、アルバムを見ながらいろいろな話をしました。
葬儀屋さんと話しているうちに、心の中が整理されていき、父親を見送る心の準備ができたのです。泣いてばかりだった母親も、葬儀屋さんのおかげで次第に落ち着き、葬式では取り乱すことはありませんでした。
葬儀を済ませた後、自分の心は葬儀屋さんへの感謝の気持ちでいっぱいになりました。
そして、自分もこのような仕事がしたいと強く思うようになり、公務員から葬儀屋へ転職しました。母親も応援してくれていますし、自分でも今の仕事を誇りに思っています。