ヨガは「生活するための仕事」を超えた、自分のライフワーク
ヨガインストラクター鈴木 伸枝さん
指導者養成の講師としても活躍し、1000人以上のインストラクターを輩出。講師育成や、全国のイベント出演、雑誌監修など、活動は多岐にわたる。鈴木伸枝パーソナルヨガスタジオ-Releace Space-主宰。「自分を生かすYOGA」をモットーに、「ココロ」と「カラダ」双方の健康を目指し、ひとりひとりが「自分らしく生きていく」サポートを、ヨガを通して行うことをライフワークとしている。
鈴木さんは、学生時代からヨガインストラクターをめざしていたのですか?
いいえ、もともとヨガのことは名前程度しか知りませんでした。
体育大学に進学したのでスポーツはずっと身近なものだったのですが、私の社会人デビューは会社に就職するのではなく、いきなりフリーランスだったんです。
当時、「ダブルダッチ」という、2本のロープを使うパフォーマンスで生活していこうと考えていました。
好きなことを仕事にする喜びを実感していた反面、次第にフリーで働く厳しさを味わうようになりましたし、ダブルダッチはものすごく体力を使うので、40歳を超えて続けられるものではないなと考えるようになって。
そこで別の仕事を探し始めたときに、一度は会社勤めをしてみたいという気持ちが出てきまして。
とはいえ、もともと職人気質なところがあり、いわゆる事務や営業の仕事は正直楽しめないと思ったんですね。
そのなかで「これだったら」と思えるものの職業の一つに、ヨガインストラクターを見つけたんです。
そこからどのような道をたどって、ヨガインストラクターになったのでしょう?
まずはヨガの資格を取りに行きました。
日本にはヨガの国家資格がないのですが、民間のスクールが発行する資格はいくつかあります。
無事に資格を取得し、そのまま通っていたスクールを運営する会社へ正社員として就職しました。
就職活動はスムーズに進みましたか?
当時、ヨガインストラクターとして正社員で働ける場は、いま以上に少なかったと思います。
たいていは業務委託の形で、「1レッスンあたりいくら」で働くのが一般的とされていました。
ですが私は正社員になることを目的としていたので、スクールの先生にしょっちゅう「就職情報をください」とアピールしていたんです。
そのおかげか、会社で人が足りなくなったタイミングで声をかけていただき、運よく正社員として就職することができました。
会社員時代は、どのような日々を送っていらしたのですか?
就職先の企業はベンチャー、さらに私が入社したのは会社が事業を大きくしていこうとしているタイミングだったこともあって、朝から夜遅くまでとても忙しく働いていました。
レッスンのインストラクターだけでなく、資格取得のためのスクール講師、顧客管理や売上管理、さらにヨガインストラクターの評価制度や授業のカリキュラムの作成など、早い段階から責任ある仕事を任せていただくことができました。
ハードな日々ではありましたが、私はどちらかというと人に命令されて動いたり同じことを繰り返したりするのが苦痛なタイプなので、自分で考えて、仕事を動かしていけることはやりがいでもありました。
ただ、「インストラクターをめざす人にヨガを教える」という役割を担う以上、自分自身がヨガの勉強も深くしていかなくてはならず、最初の1年間はほとんど寝られない日々を送っていました。
その後、どういうきっかけで独立にいたったのでしょう?
就職した会社では、6年働かせていただきました。
独立したきっかけは、次第に事業が育って会社が安定してきたのと、私自身の業務の大半がヨガを伝えることからマネジメントに移り変わってきたというのが大きかったです。
「世の中の人々に、私自身が直接ヨガを伝えていきたい!」という気持ちが強くなってきて。
会社の重要なポジションで働くことも楽しかったのですが、もっとわかりやすい形でヨガを通じて目の前にいる人を笑顔にしたい。それが私の幸せなんだなということに気付いたんです。
そのような想いがきっかけとなり、会社を辞めてフリーランスに戻りました。
独立されてからは、どういった活動をされてきたのですか?
独立当初からパーソナルレッスンはやりたいと考えていました。
そんななかで、会社を退職する2日前、偶然ダブルダッチ時代にお世話になった方から連絡をいただき、お話する機会があったんです。
そこで私の近況もお話したところ、その方の知人が立ち上げた事務所で私の活動をお手伝いいただけるという話になりまして。
トントン拍子で事務所への所属が決まりました。
ただ、事務所に所属とはいっても、私はあくまでもフリーランスの立ち位置で、事務所には基本的に自分がしたいことに対して手を貸していただくことや、お金の管理や事務作業などのバックオフィス業務を担当していただいています。
現在のパーソナルレッスンも、はじめは出張でやろうと考えていたのですが、事務所の出資を受けてスタジオ開設が実現しました。
自由度は高いのですが、すべての事務所がこういうスタンスなわけではありませんので、私はだいぶ恵まれているほうだと思います。
現在、パーソナルレッスン以外には、どのような活動をされているのでしょうか?
いろいろなことに取り組んでいます。
私自身、一カ所に固定されて働くのが苦手というのもあって、たとえば企業に呼ばれて従業員の方にヨガをお伝えしたり、外部のスタジオ等を借りてレッスンを行ったり、昨年までは専門学校の講師も務めていましたよ。
いまの私の目標は「できるだけ縛られない働き方」をすることです。
安定と自由の両方を得るのは難しく、縛られないということは不安定ということでもあります。
ですが、私は自由のほうをより求めたいと考えていますので、レギュラークラスを持つなど、スケジュールが固定されてしまう仕事を現在はあまり入れないようにしています。
ヨガをライフワークにしていこうという考えにいたったのは、どのタイミングでしたか?
おそらく、会社に入社して2~3年目くらいだったと思います。
資格取得のためにレッスンを受けていたときは、正直、自分の身体のメンテナンスのためにヨガに取り組んでいました。
若い頃にやっていたダブルダッチはコンクリートの上でアクロバットをするなど動きもハードで、18歳でぎっくり腰になるほどボロボロの状態だったんです。
ですから当時の私にとってのヨガは、身体のメンテナンスのためであり、エクササイズ感覚でした。
でも、いま私がヨガで大切にしているのは「自分と向き合う」という、心のあり方の部分。ヨガを深く知れば知るほど、私自身がそこを極め、たくさんの人にヨガが持つ本質的な力をお伝えすることをやっていきたいと思うようになりました。
なるほど。「ヨガの哲学」といわれる部分でしょうか。
そうですね。もともと、私自身がそういうのってちょっと宗教っぽいと思っていたところがあって。
単に身体が動いて健康的だったらいいのかな、と。体育大っぽい考え方だったのですが(笑)
でも、ヨガインストラクターを育てるという立場になると、哲学も含めて総合的にヨガを伝えなくてはならず、その役割上、私自身がヨガを深く実践して学んでいく必要がでてきま
した。
そこで、呼吸法をはじめ、ありとあらゆることを勉強していったのですが、最初にびっくりしたのはお客さまの変化でした。
「何十年間も肩が重かったのに、先生のレッスンを一回受けたらそれがなくなったんです!」といわれることもあって。
正直、私自身がヨガってそんなに効果があるのかと驚いてしまったほどでした(笑)
でも実際、私も真剣にヨガと携わるようになって身体の変化だけでなく、少しずつ心の状態が変わるといいますか、内面的な変化が出始めたことを実感していました。
ヨガで感じられる「心のあり方」というものを、もう少し詳しく教えていただけますか?
ヨガには「自分自身を大切にする」というメッセージ性があると考えています。
自分自身を大事にすることは、他人のことを大事にするということにも繋がります。
よく、日本人は頑張り過ぎといわれますよね。よかれと思って頑張っても、結局、自分がいっぱいいっぱいになって人を傷つけてしまった…なんていうことは、けっこう多くの人が経験しているのではないでしょうか?
キツキツに詰まっているより、ゆとりがあるほうが心も落ち着くものです。
一生懸命、力を入れてやることだけが術ではなく、いまの自分にとって何をする必要があるのか、何を食べる必要があるのかというのは、自分の身体が誰よりもよく知っています。そこに気付いてもらいたいと思っています。
ですが、日々に忙殺されているとなかなか自分自身と向き合うことは難しいので、私はヨガを通して「自分に目を向けて、自分を知り、大切にする」ということを伝えています。
私が目の前の方の人生を直接的に変えられるわけではありませんが、ここでレッスンをしていると、食べるものを含め、生活そのものが変わってくるというお話をされる方もいます。
パーソナルレッスンはプライベート空間なので、とくに自分との向き合い方が深くなるのだと思います。
なるほど。皆さん、最初はどういった目的でレッスンに通われているのですか?
ただ技術を身につけたいとお考えの方もいるのですが、パーソナルレッスンの場合やはり自分自身と向き合う時間が多くなるので、違和感なく心のあり方に興味を持たれる方が多いように思います。
何となく心身の調子が悪く、でも病院に行くほどではなくて…というような方も多いですね。
ヨガは、何も考えない状態を作り出すことができます。本来、それは瞑想が最終的な方法論になるのですが、その準備段階としてヨガのポーズが入ってくるんです。
ちなみにヨガの世界では、「考え」というのは自分が扱うべき道具なので、それ自体が自分を振り回し始めるのは違うという風にいわれます。
ですが、人間はどうしても考えなくていいことまで考えてしまうものなので、ヨガによって考えなくてもいい状態を作り出すトレーニングをするんですね。
いまの仕事のやりがいは、どのようなところにありますか?
私にとってヨガを深めることは、もはや「生活するための仕事」を超えたところにある、重要なライフワークになっています。
やりたいことを追求していることが、自分の仕事に直で還元されている実感があるので、すべてがありがたいですね。
やりたいことをやり、お金を頂戴して、なおかつ感謝される。これは幸せなことだと思っています。
生徒さんが変化していく様を目の当たりにすることができるのも、「ありがとう」と言葉をいただくことも、仕事を通じたさまざまな出会いもやりがいです。
ヨガインストラクターという職業に、向き・不向きはあると思いますか?
身体的にはとくにありません。もともと身体が柔らかい人がやるものではありませんし、結果として柔らかくなったとしても、それがヨガの目的ではありません。
ヨガが好きであることは、仕事を続けていくうえでは大事だと思います。
「見た目がきれいでなくてはならない」と考える方もいるようですが、それは一つのアピールポイントでしかないと思います。
コミュニケーションを一生懸命にして、相手に沿う気持ちがあれば問題ありません。
さほどポーズが上手でなくても、魅力的な人柄で生徒さんを集めて仕事ができているインストラクターもいます。
「教え方が上手」「笑顔が素敵」など、生徒さんを惹きつけるポイントはいろいろあると思うので、こうでなくてはならないという風に考える必要はないと思います。
喋ることや人前に立つのが得意な人のほうが最初はうまくいきやすいかもしれませんが、そうでない人でも、1対1のレッスンではうまくできるかもしれません。
本気でヨガに取り組む気持ちがあって、自分自身に合ったやり方を見出せば、どんな人でも力を発揮できると思います。
ヨガインストラクターとして働くうえで、資格は必要なのでしょうか?
国家資格は存在していないので、実質は必要ないかと思います。
講師歴40年くらいのベテランインストラクターで、資格を持っていない方は多くいらっしゃいます。
そういう方もいらっしゃるので、決して資格があるから優れているわけではありません。
それでも、世の中の流れとしては、資格を持っているほうが信頼されやすいというのはありますね。
もし、いまからヨガの勉強を始めるのであれば、最初は資格を持っておくほうが何かと安心材料や強みにはできると思います。
私もたくさんの資格を持っていますが、経験を積み、自信がついてくれば肩書き以外の部分でも勝負できるようになります。
鈴木さんの、今後の目標を教えていただけますか?
より多くの人にヨガを伝えていくことです。
いま、まったくヨガに触れていない人が、ヨガを始めるきっかけを作り出したいですね。
そのためにも、たとえば音楽、食事、美容といった異なるジャンルとコラボレーションしたイベントに出る機会を増やしてみたいと考えています。
休日の過ごし方を教えてください。
休日は決まっているわけではなく、依頼いただく仕事に応じて、自分自身で日々計画を立てながら動いています。
忙しいときですと丸一日の休みがとれない月もありますが、レッスンの間などにスキマ時間は作りやすいです。
リフレッシュ方法としては、近隣の大きな公園を散歩して自然を感じたり、静かに本を読んだりすることもあります。
こういった自分と向き合う時間は、ヨガを始めてから大事にするようになりました。
最後に、ヨガインストラクターに興味を持つ若者に、メッセージをいただけますか?
私はヨガをお伝えしていくなかで、自分をあまりにも過小評価している方が多いことに気付きました。
「自分はダメだ」と思い込んでしまい、本来持っている能力を発揮できなくなるのはもったいないことだと思います。
これから就職を考える方にお伝えしたいのは、失敗しても決して自分がダメ人間というわけではなく、あくまでも経験の中の一つと捉えてほしいということです。
失敗から学んで成長できることは多々あるので、自分はこうだと決めつけず、恐れずにやりたいことに挑戦してみてほしいですね。
もしヨガに興味を持っているのなら、まずは軽い気持ちでもいいのでぜひ触れてみてください。
私自身も「ヨガが大好き!」という気持ちでスタートしたわけではありませんが、結果的にはライフワークになっていますから。
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