生物工学とは? 大学で学ぶことや就職先は?
生物工学の概要・理念
人類は古来から生物の働きをさまざまな食品に活用してきました。
たとえば酒や醤油の醸造は、細菌の働きによる発酵作用を利用しています。
このように、生物の働きや機能を人間の暮らしに生かし、産業や医療といった方面で役立てるための研究を行うのが生物工学です。
近年では、遺伝子や細胞といったレベルで生物を研究し、がんの原因になるとされる細胞の発見や、iPS細胞(人工多機能性幹細胞)を利用した再生医療の研究といった分野で研究が進んでおり、ゆくゆくは人類の平均寿命伸長にも大きく影響を及ぼすと考えられています。
生物工学では、遺伝子組み換えやクローン技術といった、遺伝子に人為的な操作を加える研究も行われます。
そのため、倫理面や宗教的な問題とも向き合う必要がある、デリケートな一面を持っています。
私たちの暮らしをより安全で豊かなものにするための研究が進む一方で、生物への畏敬の念や自然環境への配慮といった意識も求められる研究分野と言えます。
生物工学で学ぶこと
生物工学はバイオテクノロジーとも呼ばれており、本来は幅広く生物の働きについて研究し、産業・医療などへの応用を目指す学問です。
ただし、近年は主に遺伝子工学と細胞工学に注力する研究者や大学が多くなっています。
遺伝子工学はDNAについて研究を進め、遺伝子組み換え技術やクローン技術といった最先端の技術を応用する手法について探究していきます。
細胞工学では、産業・医療において有用な物質を微生物に生産させる方法や、細胞の性質に変化を加えて特定の機能をより効果的に活用する方法などを研究します。
このほか、生物の働きを活用して水質や土壌の質を改良する環境分野への応用など、生物の持つ可能性を引き出すための研究が多方面で行われています。
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生物工学の大学での授業科目の例
細胞工学
細胞に人為的な操作を加えることで、細胞が持つさまざまな機能を改変したり、より効果的に活用したりする手法について学びます。
免疫工学
生物が持つ免疫に関する機能を研究し、メカニズムを明らかにするとともに、工業的な応用を目指します。
発生・再生工学
生物の発生や機能の再生について遺伝子レベルで研究し、その能力を工業的に応用する方法を探究します。
生体高分子工学
タンパク質に代表される生体内の高分子物質について解明するナノテクノロジーと呼ばれる分野の研究を行います。
ゲノム工学
ゲノム解析による構成遺伝子の解明や、遺伝子情報の取り出しや編集を行う手法について学びます。
生物工学のレポート・テーマの例
生物工学では、生体が持つ特定の物質や機能に着目し、工業的に応用への可能性を摸索していきます。
そのため、レポートにおいてもある物質や機能を取り上げ、工業的な応用を見越したテーマが設定されることが多いのが特徴です。
- ・タンパク質の立体構造と機能
- ・微生物資源を利用した有用物質の生産
- ・生物由来接着タンパク質の構造と機能
- ・チーズホエーを原料としたバイオエタノール生産
- ・キトサンを用いた創傷被覆材の作製
生物工学と関連する学問
生物工学は生物学を工学技術として応用する学問ですので、生物学の知識に立脚して研究が進められており、深い関連を持つ学問といえます。
また、生命科学では生命倫理なども含む生命全般について広範囲にわたる研究を行うのに対して、生物工学では産業に応用できる技術の開発に注力しているという違いがあります。
農学ではバイオテクノロジーの知見を応用して農作物をより効率よく生産する方法を考案することがありますが、このとき用いられている技術の多くは生物工学で研究されたものですので、生物工学の研究成果が農学で活用されているといえます。
生物工学を学んで就職に有利な業界・仕事
バイオテクノロジーに関する専門知識を持つ人材は、産業界においてさまざまな方面から高い需要がありますので、生物工学を学んだことで就職時に有利になる可能性は十分にあるでしょう。
たとえば、食品メーカーや製薬会社、化粧品や化学繊維の開発を行っている会社であれば、研究職や技術職として活躍することができます。
とくにin vivo(生体内での実験)の研究に取り組み豊富な知識を持つ人材は不足する傾向があるため、大学でこうした研究に取り組んだ実績があれば、就職時に企業から注目されることでしょう。
また、環境負荷の低い製品やシステムの開発を進めている企業やバイオ燃料の研究に乗り出している企業など、環境・エネルギー分野においても生物工学の知識が求められています。
こうした分野で研究職として活躍するには、一般的に修士課程以上を修了していることが条件となります。
そのため、生物工学で学んだ知識や技能を活かして就職したい場合、大学院への進学を前提としてキャリアプランを組み立てておく必要があります。
生物工学の知識は人生でどう役立つ?
バイオテクノロジーの研究は近年急速に進んでおり、ヒトゲノム情報の解読が完了するなど、未知の領域が次々と明らかになるとともに、工業的な応用についても進められている段階です。
しかし、生物にはまだまだ未知の可能性が数多く隠れています。
生物工学は現在もなお発展途上の学問であり、これから取り組むべき課題や着手するべき分野も少なくありません。
こうして得られた研究成果は、私たちの暮らしに直接関わる身近なところで応用されることもありますので、将来的に自分が研究に取り組んでいたことが暮らしをより便利で安全なものにするために役立てられる可能性は十分にあります。
食糧や環境、医療といった人命に関わる問題を解決する方法を考え、研究に取り組んだ経験は、人生において貴重な財産となるに違いありません。
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