【鬼師】「お客さまの幸せを考えながら瓦作品をつくる」アイドルを辞め、鬼師を目指した伊達由尋さん

(読了時間:7分36秒)

好きを仕事にしてる人を紹介するインタビュー記事。
今回は、建造物の瓦屋根などに設置される装飾の総称「鬼瓦」をつくる鬼師(おにし)・伊達由尋さんからお話を伺います。

鬼師の仕事内容

「鬼師」とはどのような職業なのか、教えてください。

「鬼師」を簡単に説明すると、手作りで鬼瓦や飾り瓦などを制作する人です。

私が所属する『伊達屋』では、それ以外にも瓦でいろいろな小物を作っています。

例えば、瓦の素材を使った傘立てや灯篭、名前のプレートなど。

特に、「ネームプレートや表札を手彫りで作って欲しい」という依頼がよく来ます。

ほかにも、マンションでは鬼瓦は無縁かもしれませんが、玄関先のお守りとして置いていただく鬼瓦をつくることもあります。

身近に感じてもらえるようなデザインやサイズ、インテリア性を大切にしています。

一つの鬼瓦をつくるのに、どれくらいの日数が必要なのでしょうか?

まず、鬼瓦をつくる大まかな工程として、「粘土を練る」「粘土で作品をつくる」「乾燥する」「焼く」があります。

制作時間は商品によって違うのですが、「粘土で作品をつくり」お客様へ見ていただくまでの期間は大体1週間取らせていただいています。

そこから、「乾燥」に約1ヵ月、「焼き」は約1週間と計算して制作しています。

これまでに制作した作品数、代表となる作品について教えてください。

芸術家ではないため、商品をつくると販売してしまうので、手元に残っている作品は数点しかありませんが……制作した作品はたくさんあります。

代表作は、“カエズ型”という種類の鬼瓦に手彫りで日本の縁起の良いお花を貼り付けた『華やぎ』という作品。

中国の上海芸術博覧会に出品した『手まり灯篭』という作品です。

タイトル:華やぎ

鬼師を知ったキッカケ

「鬼師」の仕事を知ったキッカケについて教えてください。

私の母の実家である愛知県高浜市は昔から瓦産業が盛んでした。

また、代々鬼師の家系で育ってきました。

立派な鬼師の方をたくさん知っていたことから、「鬼師」という職業は自然と親しんできたように思います。

特に、私の高祖父(曾々祖父)に当たる「浅井長之助」がこの町では天才鬼師と呼ばれていました。

いまでも、高祖父の作品が美術館に飾られています。

高浜市に飾られている大きな観音像や大たぬき像は町を見守っています。

初めて「鬼師」の体験をしたのはいつ頃でしょうか?

中学2年生のとき、学校の職業体験で実家の仕事を体験したのが初めてですね。

当時は、特にやりたい職業もなかったことから、家の仕事を希望し、鬼瓦に触れました。

それがキッカケとなり、夏休みや冬休みなど長期のお休みに家のお手伝いをするようになりました。

そこから、高校を卒業してすぐに家の仕事に就職しました。

伊達さんは、高校を卒業して「地域アイドル」の活動もされていたんですよね。

はい。

4歳のときからバレエを始め、舞台で踊り、拍手をもらうことが好きでした。

そのため、アイドルという職業への憧れがあったのです。

高校を卒業して、いまの仕事を始めた頃に近所のショッピングセンターにアイドル募集のポスターを見つけ、オーディションを受けたところ見事合格。

地域アイドルということだったので、地域の貢献に役に立てることが大変嬉しかったのを覚えています。

ところが、仕事との両立がどんどん難しくなっていき、どちらか一つと選択するとなったとき、アイドルの道を諦めて鬼師の道へ進みました。

鬼師への憧れの方が強くなったからです。

18歳で仕事を始めた当初、道具の使い方を教えてくれた師匠である神谷錬一さんと毎日お話ししながら鬼瓦造りのコツや鬼瓦の楽しさを教えてもらったこと、そのタイミングでさまざまな鬼師さんのつくった作品を見たことです。

自分の力で一から鬼瓦をつくり上げてみたいと思うようになりました。

そして、20歳から歌舞伎座の『唐破風』をつくった石川智昭さんのもとで修行をさせていただきました。

タイトル:手まり灯篭

鬼師になるまでの道のり

修行ではどのようなことをされていたのでしょうか?

最初は師匠が瓦をつくっているところを見たり、師匠の手掛けた瓦の仕上げ作業をしたりしていました。

そのうち、自分でオリジナルの瓦製品をつくってみるように言われ、制作しながらコツを丁寧に教えていただきました。

師匠がまだ鬼師の弟子だった頃は「最初は職場の掃除から始めろ」「技は見て盗め」と言われていた時代だったそうですが、それだと何年も修行を積まなければなりませんでした。

その経験から、師匠は「今はそんな時代じゃない。最初から丁寧に教えれば余分な修業期間を短縮して、すぐに現場で働ける職人が育つ」と分からないことは丁寧に教えてくださったんです。

23歳で鬼師の試験に合格してからは『経ノ巻』という社寺仏閣で使われる鬼瓦をつくっている鬼師の伊藤秀樹さんに『経ノ巻』や『鬼面』の鬼瓦の作り方を教わりました。

分からないことや困ったことがあると相談に乗ってくれる鬼師の方たちがいるので、高浜市という町全体が自分にとって師匠なのかもしれません。

鬼師になるまでに苦労や挫折を感じた経験はありますか?

女性は、男性と比較すると力がないため、大きな鬼瓦をつくることが困難です。

なので、女性の鬼師は男性の鬼師と同じ仕事ができるわけではありません。

鬼師は昔から男性の活躍する仕事場だったため、女性は男性鬼師の補助役だったのです。

出る杭は打たれるのごとく、女性が鬼師として頑張ると「生意気だ」と言う人は少なからずいました。

特に、メディアで取り上げていただき、目立てば目立つほど、つらい言葉を聞くことも多くありました。

それでも、周りの鬼師さんたちが優しい言葉をかけてくださったり、多くの人から応援の言葉をいただいたりして、私らしい作品づくりを頑張っていこうと思うことができました。

鬼師のやりがい、つらさ

鬼師の活動をする上で、どのようなやりがいを感じていますか?

難しい作品ほど、できあがったときの達成感はひとしおです。

また、お客さまからの感謝の言葉をいただいたときは、大きなやりがいを感じます。

逆につらいな、大変だな、と思うことはありますか?

大きく3つあります。

1つ目に、真夏の作業です。

鬼瓦の素材である粘土は少しの気温差や風で乾燥が早まってしまうため、エアコンが使えない上に、窓を開けることができません。

唯一の涼を取る手段は足元に扇風機を当てることです。

2つ目に、筋肉がついてしまうこと。

粘土製品は水分を多く含むため、見た目よりかなり重く、女性の力では動かすことが困難なときがあります。

なので、気づいたときには、かなり筋肉がついてしまうのです。

肩や腕の筋肉で、かわいいブラウスがパンパンになってしまい、女の子らしい服が着られなくなります。

3つ目に、真冬の粘土を練る作業。

真冬は水分を含んだ粘土が氷のように冷たくなります。

指の感覚がなくなり、痛みを感じながら仕事をすることもあります。

さらに、粘土は表皮の油を取ってしまうので、指先がカサカサになったり、しもやけやあかぎれができてしまいます。

粘土で作品をつくる作業

鬼師としての目標

どのような想いを持って鬼瓦を手掛けていますか?

鬼師は家の守り神や縁起物などをつくる神聖な仕事だと思っています。

そのため、購入してくださったお客さまの幸せを願いながらつくるように努めています。

また、鬼瓦は大変高級な品です。

高いお金を払ってでも価値ある品であるとお客さまに思っていただけるよう、丁寧に美しくつくることを心掛けています。

今後、鬼師の活動を通して目指していることを教えてください。

こちらも大きく3つあります。

1つ目に、多くの方に手に取っていただく商品をつくること。

いままで、屋根にしか需要がなかった瓦製品をインテリアやガーデニング、日用雑貨にも取り入れていきたいです。

多くの方たちが気軽に手に手に取って使っていただける商品をつくっていけたらと思います。

2つ目に、海外への展開。

日本の伝統工芸である三州瓦(愛知県で生産されている粘土瓦)の需要を海外に増やせていけたらと考えています。

3つ目に、若い人たちを含め、幅広い方たちへ興味を持ってもらうこと。

これまで、若い方たちには瓦製品を身近に感じていただける機会がありませんでした。

なので、日本の文化であるアニメとコラボさせるなど、幅広い年代の方にも理解いただき、興味を持っていただける製品づくりを頑張りたいと思っています。

好きを仕事にしたい人に向けてメッセージを

最後に、好きを仕事にしたい方へメッセージをお願いします。

まずは、周りへの感謝を大切にしましょう。

好きな仕事ができるのは、周りの人の支えがあってこそだと思っています。

そのため、私は常に、周りの人たちに感謝するようにしています。

同時に、自分も感謝される立場になりましょう。

自分自身も誰かの助けになり、感謝されるような人間になることができれば、もっと自分の好きな仕事に繋がっていくと考えています。

好きなことを仕事にできるのは、とても幸せなことです。

それを常に感じながら仕事をすると、より一層、仕事に対して好きな気持ちが生まれていきますよ。

タイトル:和柄灯篭

伊達さんが手掛けた瓦作品お気に入り3選

1. 華やぎ
“カエズ型”という種類の鬼瓦に手彫りで日本の縁起の良いお花を貼り付けた作品です。

展示会に出品しました。

2. 手まり灯篭
中国の上海芸術博覧会に出品した作品のため、日中友好の願いを込めて制作しました。

3. 和柄灯篭
灯篭に火を灯した時に和柄がとても綺麗に引き立つところが気に入っています。

※写真は本文中に掲載されています