【布作家】「楽しいから、時間を忘れて仕事をする」自給自足の生活をしながら自分を表現する 早川ユミさん

好きを仕事にしてる人を紹介するインタビュー記事。
今回は、布の歴史を尊敬しながら、自分らしさを表現している布作家・早川ユミさんからお話を伺います。

布作家の活動内容

「布作家」とはどのような職業でしょうか?

布をつかって、衣服やかばん、小物を自分らしい表現でつくっています。

また、「布作家」とは、布の歴史を踏まえて、衣服などの実用的なものばかりではなく、布を自由に表現する仕事だと思っています。

私は布が好きで、旅をしながら布を集めてきました。

布集めに限らず、染めや織りもしていました。

その経験から、アジアの山岳少数民族の手織りの布や藍、黒檀(コクタン)やラックなどの草木染めアフリカの泥染めなど、力強く根源的な仕事をしている布が大好きです。

いまでも、自分で柿渋や松煙や墨や弁柄(べんがら)で染めた布もつかいます。

布作家の具体的な活動内容について教えてください。

1. 展覧会
全国のギャラリーで一年に10~20回ほど開催します。

2. ちくちくワークショップ
ワークショップでちいさなものつくり、縄文バッグやちくちくまえかけ、旅かばん、野生パンツなどをみなさんとお話ししながらちくちくつくるワークショップです。

全国のギャラリーや本屋で開催します。

3. 雑誌の連載
扶桑社月刊「天然生活」にフォトエッセイ「くらしがしごと しごとがくらし」、農文協の雑誌季刊「うかたま」に「早川ユミのちくちくしごと」を連載しています。

4. 本つくりのしごと
文章や絵を書いています。

いままでにもアノニマ・スタジオスタジオから6冊、PHP出版社や自然食通信社や天然ブックスから本を出版しています。

5. NHKのテレビへの出演
「ハンドメイド」「緑遊人」に出演して、私の作品のちくちくもんぺやまえかけつくり、鍋つかみなどの作り方を教えました。

また衣服や食べもの、はちみつなどの小さな自給自足のお話をしました。

6. お話し会
東京の青山ブックセンターや蔦屋書店代官山、西荻窪のプラサード書店、京都の恵文社、北京の本屋さん、上海の無印良品にて「種まきびとの谷相暮らし」スライドをみながらお話し会を開催しました。

これらの活動が現在の収入に結びついているのでしょうか?

はい。

わが家は夫婦別姓でしごとをしています。

税金申告も別々に、家のお金も半々にしていますので、布作家としての仕事で収入を得て暮らしています。

布作家になったキッカケ

一日のスケジュールについて教えてください。

天気でしたら、お弟子さんふたりと午前中は畑仕事やご飯の仕事。

お昼から夕方は、必ず作品つくりをします。

夜は文章を書く仕事、絵を描く仕事をします。

なぜ、布作家への道に進もうと思ったのでしょうか?

資本主義の社会の中では、多くの人は競争社会に取り残されています。

学生のころから、こういう社会に搾取されない生き方を探しては、いつも取り残されたような、疎外感を抱いていました。

「もっといい生き方・働き方はないのか…」と探していたときに、ものをつくって表現することで生きていく人になりたいと思いました。

それが作家を志したキッカケです。

私の連れ合いは焼き物をつくっています。

器と同じように、衣服もギャラリーで展覧会できればと思い、いままでずーっと続けてきました。

いまではギャラリーで作品をつくって発表する作家が当たり前になりました。

ただ、私がデビューしたころは、布作家をしている人もいなかったし、ギャラリーでの展覧会も絵や彫刻や陶芸くらいだったはず。

私の知る限りでは、「布作家」はそんなにいなかったと思います。

ものづくりの仕事の中から、「布作家」を選んだ理由は?

布には素晴らしい歴史があること、そして私の母が衣服を手づくりしていたことが理由でしょうか。

原始のころから糸を紡ぎ、布を織る仕事は人間の営みの中にありました。

仕事が暮らしとひとつながりだった時代は、誰もが手で糸を紡ぎ、布を織り、身につける衣服をつくっていました。

また、古代の中国では衣服は着るお薬でした。

いまでも「薬を服用する」という言葉があります。

漢方とおなじで草木の薬を飲むだけではなくて、着て治すものでした。

薬草の草木染めなどの布で体を治していたのです。

そんな衣服も、いまでは流行を象徴するものとなっています。

ファストファッションが主流で、衣服は買うことが当たり前に。

しかし、ほんの50年前、私の母は家族の衣服をパンツから帽子まで手づくりしていました。

誰かが誰かのために手づくりされていた時代には、家庭は生産の場でした。

いまでは家庭は食べることも含めて、消費する場所になっています。

私の衣服は家庭でつくられる衣服のように、麻や木綿やウールなど天然自然の布をつかってつくります。

かつての歴史のなかの衣服のように、誰かのためにつくりたいと思い、布作家をしています。

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布作家の楽しさ、つらさ

布作家の活動の、どのような場面で楽しさを感じていますか?

つくることが、楽しいです。

布はやわらかくて、平和を感じる素材です。

そんな好きなことだから、夢中になって、つい時間を忘れて休みなしで仕事をします。

しかし、社会の中で使われていくものをつくっているので、できるだけ長く使っていただけるようにつくります。

作品は人に繋がるものです。

責任も伴うため、私だけが満足すればいい、自分だけが楽しめば良いというわけでもありません。

そのため、作品つくりだけでなく、お直しも引き受けています。

30年も展覧会をひらいていますので、親子で長く着てくださる人が増えたから。

お直しはお金をいただかず、ぶつぶつ交換で、引き受けていますよ。

逆につらいな、大変だな、と思うことはありますか?

苦労した、大変だ、と感じたことはあまりないですね。

もともと好きすぎるくらい布が好きですし、好きなことしかしていないですから。

ものつくりは自分のイメージを作品にできるときと、なかなか形にできないときがあります。

だからといって、つらいと思うことはありません。

自分の中の集中力を高めるために、畑へ行ってバジルの葉っぱに触れたり、なにかしら自然に触れたりすると、自分の中の何かが開き、ちくちくがするするとできるようになります。

ただ、人を育てている中、途中で辞めていく人、布作家から離れていく人が少なからずいます。

そういうときは、悲しい気持ちになりますね。

10年ほど前から若い人を育てたい、次のものつくりする世代を育てたいと思いはじめ、20代のお弟子さんたちをひき取りました。

最初はわが家で一緒に暮らし、そのあと、村の中で家を探しました。そして、ひとりに対して3年くらいは、布作家になるためにさまざまなことを伝えていきます。

それ以外にも、自給自足の生活をするための、ごはんつくりや、畑しごとなども教えていきます。

人を育てるというのは大変なことではあるのですが、若い人たちが来てくださると、逆に生きがいを感じたりして元気がでるので不思議です。

布作家としての目標

布作家の活動を続けているのには、どんな想いが一番強いのでしょうか?

私のつくったものが、誰かの手にわたり、人の暮らしの中にするりと忍び込んで、人の喜びや悲しみなどの気持ちに寄り添い、夢を育て、魂を揺さぶるようになれたらと小さな希望を持っています。

今後、布作家の活動を通して目指していることを教えてください。

これからは海外での展覧会もしていきたいです。

いままでは日本のギャラリーでの展覧会が多かったのですが、台湾や韓国や中国でわたしの本が訳されて出版されてから、台湾や中国でも仕事がくるようになりました。

私の手しごとが、多くの人の目に触れて、自由な表現で、魂を揺さぶるようなことができたらいいなと思います。

資本主義の社会は生きにくいですが、いつか人々が共生できる社会へと布のものつくりが社会を変えるという夢を叶えられるかもしれないという想いで、布作家を続けていきます。

好きを仕事にしたい人に向けてメッセージを

最後に、好きを仕事にしたい方へメッセージをお願いします。

誰か好きな人や、「ものづくり」に憧れる人は気になる作家がいたら、会いに行くと良いと思います。

私は学校に行かず、染め織りの作家や現代美術の作家のお手伝いをしながら学びを深めていました。

日本だと、まず学校に行くことを優先されますが、学校の先生は、あなたの仕事に関わる人でも、作家でも何でもなく、先生が仕事なのです。

なので、仕事に対する本当に大切なことを学校の先生は教えてくれません。

でも、日本では弟子をとる人もいます。

好きな人に憧れて、そういう人に近づくためには、その人のすぐそばで仕事を手伝いながら、考え方や動き方を学ぶことが、自分のなりたい人になる近道です。

早川さんが手掛けた作品お気に入り3選

1. にっぽんのもんぺ

ちくちくしごとのはじまりは、畑しごとをするときに着るものをつくるところから。

いままでで、いちばんたくさんつくってきたものが、「もんぺ」です。

体が動きやすく、あたたかくて、洗ってすぐ乾くような「生活着もんぺ」が私の仕事の中でも、いちばんの人気です。

2. チベット族ワンピース

チベットを旅するとチベット人とよく間違われました。

三つ編みをしていて着物のような襟の衣服を着ていたからです。

チベット人の美しい有り様は、その衣服にあります。

チベット僧もチベット人の女の人のワンピースも同じえんじ色の布でつくられているからです。

インドの聖地ダラムサラでチベット族のおばあさん三人に出会い、彼女たちのワンピースを見せてもらってつくりました。

裏側にめいめいの想いの花柄の布を使ってつくられていました。

その心が好きです。

3. 野生と生きるためのジャケット

ジャケットをインドのカンタやミャンマーのカチン族の手織り布でつくります。

詩のように、言葉をつくり、ジャケットをつくってみたら、私の全体がひとつになったような気持ちでした。

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