【万華鏡作家】「持ち主の幸せを願って制作する」宝石を使った万華鏡を生み出す小林綾花さん

好きを仕事にしてる人を紹介するインタビュー記事。
今回は、元ジュエリー作家で現在は宝石を使った万華鏡を制作している万華鏡作家・小林綾花さんからお話を伺います。

万華鏡作家の活動内容

万華鏡作家の活動内容について教えてください。

高品質な万華鏡の制作・販売を行っています。

【天然石・宝石の万華鏡 CRYSTAL SCOPE】というオンラインショップを運営し、作品販売を主な仕事としています。

以前はギャラリーや百貨店での展示、店舗への委託も積極的に実施していましたが、オンラインショップのオープンをキッカケにネット販売中心へシフトしました。

カットを施した宝飾用の天然石をメインに使用した万華鏡を制作しているのですが、使用する宝石の種類をお客様のご要望に沿った“オーダーメイド”での受注制作の割合が高いです。

お客様が使わなくなったジュエリーから石を取り出し、万華鏡としてリメイクするという依頼をいただくこともあります。

近年はCDジャケットや本の表紙、フライヤー、コンサートの映像演出などで万華鏡映像を提供させていただく機会も増えています。

『SUQQU(化粧品ブランド)クリスマスコフレ2018』のパッケージに万華鏡映像を使用していただいたときは、反響が大きかったです。

また、企業からのご依頼で普段とはまた違う万華鏡制作に取り組むこともあります。

昨年は『金久保製作所(精密機械の部品加工・組立を行う会社)』さんと共同で長野県JR野辺山駅に設置する万華鏡を制作しました。

ほかにも、天然石を使った万華鏡のワークショップを定期的に開催しています(現在は新型コロナウイルス感染拡大の影響により休止中)。

作品づくりのスケジュール

これまで、どれくらいの作品数をつくられてきたのでしょうか? また、代表作も教えてください。

たくさん制作してきたので正確な数字は分かりませんが、習作を含めると2,000本くらいにはなるかと思います。

以前は今よりも制作本数が多かったのですが、現在は一作品にかけるこだわりが増してしまい、年間の制作本数は少なくなりました。

その分よりクオリティの高い作品になるよう、一つひとつ丁寧に心を込めて制作しています。

代表作は万華鏡制作当初より改良を重ねつくり続けてきた『Twinkle』シリーズですね。

研究を深めつつ、今後もつくり続けていきたいと思う作品です。

一つの作品の制作スケジュールについて教えてください。

万華鏡制作の工程をざっくり分けると、「①金属の加工」「②ミラーシステムの組み立て」「③映像のもととなる宝石(オブジェクト)の選定」「④全体の組み立て」になります。

それぞれの工程の中にもいくつもの工程があるので、一度に数本を同時進行することも多いです。

月に数十本制作することもあれば、一つの作品にかかりきりになる場合もあります。

それでも一日のスケジュールは割と安定しています。

朝は飼い猫と一緒にぼーっと過ごす時間をたっぷり取り、内観のような時間をつくっています。

午前中に仕事内容の確認、メールの返信や作品発送の準備など事務的な仕事を済ませ、昼から夜に作品制作の時間を取ります。

また、万華鏡に使用する宝石類の多くは自分の目で見て選び仕入れをするため、年に1~2度は海外へ買い付けにも行きます。

現地では11時過ぎから19時頃まで石探しの日々を送りますよ。

タイトル『神聖幾何学』

作家を目指した理由

万華鏡作家になる前はジュエリー作家ということですが、幼少期の頃から宝飾品がお好きだったのでしょうか?

はい、大好きでした! 特にキラキラのルース(原石から研磨されたもの)が大好きで、物心ついた頃にはジュエリー広告の石部分のみをハサミで切り抜いてコレクションしていました。

いつもお祭りの屋台で売っているイミテーション(模造品)の宝石リングを「綺麗だな~欲しいな~」と憧れていましたし、眺めているだけでワクワクしました。

同じように物語やゲームに登場する魔法のアイテムにも憧れがありました。

私の創作の原点・目標は神秘的でワクワクする「伝説のレアアイテム」かもしれません。

今、私が制作する作品はだいぶ大人向けですが、幼い頃のドキドキやワクワクを思い出してもらえるようなアイテムでありたいと思いながら創作活動をしています。

「好き」だった気持ちから、「アーティスト」を目指すようになったのはいつ頃でしょうか?

明確に作家を志したのは大学在学中です。

大学で金属工芸を学んでいたのですが、学費や生活費を教育ローン・奨学金・バイト代でまかなっていたため、「学んだことは活かさなければ」「自分に投資した分は絶対に回収しなければ」と考え、在学中からコンペや展示会などに参加するようになりました。

万華鏡も幼いころからお好きだったのでしょうか?

万華鏡も熱心に覗いていました。

みなさんもご存知かと思う、和紙タイプの万華鏡ですね。

変化していく映像が美しくて好きでしたし、なぜ形が変わるのか不思議で夢中になっていました。

その結果、目を近づけすぎて覗き穴のフィルムと本体の間に睫毛を挟んで痛い思いをしていました。

万華鏡を覗きたい気持ちと、また痛い思いをするぞという気持ち、どちらもよく覚えています。

万華鏡作家になったキッカケ

なぜ、ジュエリー作家から万華鏡作家へ転身したのでしょうか?

20代半ばの頃、本格的なアートとして万華鏡と出会ったのがキッカケです。

私は国内外問わず旅が好きで、あるとき旅先で初めて万華鏡専門店に入りました。

そこで、今はすでに引退されてしまったアメリカの万華鏡作家によるオイルタイプ(オイルが入った万華鏡)の作品と出会い、美しさに衝撃を受けました。

「曼荼羅だ!宇宙だ!」と感動したとともに「万華鏡をつくりたい!!」という衝動で胸がいっぱいに。

美しくて不思議な幾何学の世界に夢中になってしまいました。

「こんな素敵な世界をポケットに入れて出かけてみんなに見せることができたらどんなにいいだろう」
「万華鏡の中に最高級のダイヤモンドやアクアマリン、オパールなどの宝石を入れたらどんなに美しいだろう」

そんな世界を見てみたい、そう強く思い、宝石を使った持ち運べるサイズの万華鏡をつくると決意。

独学で制作を始めました。

転身しよう!と決意した瞬間はなく、万華鏡に夢中になってしまい、四六時中万華鏡をつくるようになったからというのが理由ですね。

いつ頃からアーティストとして生計を立てることができたのでしょうか?

万華鏡作家になった初期のころから割と収入を得ていました。

ジュエリー作家時代の実績や繋がりがあったため、展示会の予定やギャラリーの紹介をいただけることも。

金属工芸の技術を持っていた土台があったこと、当時は天然石や宝石を使った万華鏡が珍しかったことから、お声がけいただく機会も多く、販売がどんどん増えていきました。

タイトル『Wisdom』

万華鏡作家のやりがい、つらさ

万華鏡作家の活動をする上で、どのようなやりがいを感じていますか?

万華鏡をお求めいただいた方に喜んでいただけたときは、とてもうれしく、やりがいを感じます。

「癒された」「感動した」「涙が出た」「人生観が変わった」…さまざまな感想をいただきます。

オーダーをくださったお客様から「小林さんの作品はセンスを含めて信頼しています」とメッセージをいただいたときも、とても嬉しかったです。

オンラインで作品を購入するのは、ある種ギャンブルに近いと思っています。

本当にちゃんとした商品が届くのか不安に思われる方も多いはず。

なので、私はオーダーをくださったお客様の気持ちを絶対に裏切らないよう、写真以上の本物の美しさをお届けしています。

その結果でいただけた“信頼”という言葉に胸がいっぱいになりました。

また、万華鏡を制作するときは映る映像の完成形を切り取ってイメージしていますが、完成後は一瞬一瞬で映像が変化します。

実際は覗いてみないと分からない楽しさがあるのです。

思いもよらない想像以上の美しさに映ったとき、自分でもうっかり見入ってしまいます。

映像のもととなる宝石の選定以外にも、正確な角度で、傷をつけないよう慎重に鏡を組み立てる必要があります。

非常に難しい作業だからこそ、美しく決まったときは最高の気分です。

逆につらいな、大変だな、と思うことはありますか?

オンオフの切り替えですね。

以前は徹夜して制作することもありましたが、最近は変わってきました。

自分の場合、たくさん寝て、しっかり休んで、心身万全の状態で制作することこそ、良い作品が生まれると思っています。

オフの時間を取る重要性を感じています。

万華鏡は心を豊かにするアイテムだと思うので、まずは自分の心を豊かにすることから、と考えています。

万華鏡作家としての目標

どのような想いを持って作品づくりをしていますか?

「持ち主となる方が幸せになりますように」という想いを一番大切にしています。

心を込めてつくったお料理が「美味しい」と言われるのと同じように、想いが形に宿るのであれば、持ち主となる方の幸せを願って制作しています。

あとは、単純に万華鏡・幾何学・宝石が大好き!という気持ちでつくっていますね。

私は万華鏡を通して、世界はこんなにも美しいと強く感じたので、同じように感じてくれる方がいたらうれしいです。

今後、万華鏡作家の活動を通して目指していることを教えてください。

より美しく最高級のクオリティの宝石万華鏡を追求したいです。

万華鏡に魅了されて以来、万華鏡だけをつくり続けてきました。

ですが、ここ最近は原点に立ち還り、ジュエリー寄りの万華鏡作品に取り組んでみたいと思い始めました。

そして、この活動の中で幾何学の持つ力をもっと広く知ってもらいたいと思っています。

色彩心理学があるように色の持つ力は当たり前のように知られていますが、幾何学も同じで種類によって得られる心理効果が変わってきます。

そういった幾何学の魅力をもっとお伝えできるようにしていきたいです。

また、私は旅も好きなので、旅先の工芸や産出される石・素材を使って万華鏡制作をする『旅する万華鏡』というプロジェクトの始動を予定していました。

しかし、これも新型コロナウイルスの影響で実現が難しくなってしまって……

また自由に国内外の各地を往来できるようになったら、旅立とうと思います。

好きを仕事にしたい人に向けてメッセージを

最後に、好きを仕事にしたい方へメッセージをお願いします。

好きなことはどんどん追求してほしいです。

「好きなことを夢中になってやり続けていたら、いつの間にか仕事になっていた」という方に時々お会いしますが、みなさん総じて「好き」のエネルギーが強い。

一方で、私も含め多くの人は「常識」という枠に囚われがちです。

好きなことをしていても、悩んだり上手くいかなかったりすることもあると思います。

そんなときは、「好きなこと」と「得意なこと」を思いつく限り組み合わせてみてください。

幅が広がり、世界で唯一の「自分の価値」に気づく可能性があるのではないでしょうか。

私の場合、美術の中でも「万華鏡」、万華鏡の中でも「宝石」とさまざまな要素をつけ足しています。

もっとつけ足すと「万華鏡 + 宝石 + 最高級 + 癒し + 旅 + 覚醒 + 占星術 +考古学 + スピリチュアル + ゲーム…」という感じ。

このように文字にしていくと、少しずつ自分の世界観や価値が見えてきませんか? 誰でも世界で一人の貴重な存在なので、こじつけでも自信を持つ、自分の価値を信じてください。活躍したい業界で「価値」を武器にポジションを取りに行くことが大切です。

そして、出会った人とのご縁を大切にすること。

すべての仕事は人との繋がりで成り立つものです。

また、心の安定を大切にすること。人間は常に心配を探してしまう生き物ですが、今目の前にあるものに目を向けてみてください。

家がある、服を着ている、食べ物がある…些細なこと、身の回りにあるものに目を向けると感謝が増え、心が安定していきます。

思考がポジティブになって、さまざまな良いアイデアや縁に巡り会えるのではないでしょうか。

タイトル『Twinkle』

小林さんが手掛けた作品お気に入り3選

1.『神聖幾何学』

黒地の中央に万華鏡映像が浮かぶ「2ミラー」というタイプで制作しました。

この幾何学は神秘的な印象で、覗いていると瞑想しているかのような心地になると思います。

原石とカットされた宝石を組み合わせ、金箔を封入した作品です。

2.『Wisdom』
私は制作の際にテーマに合った音楽を流すのですが、この万華鏡は「音」からイメージして制作した万華鏡です。

日本語でも外国語でもない「宇宙語」と言われる、私には理解できない言語を聴きながら得たイメージを万華鏡にした思い出深い作品です。

3.『Twinkle』
六角形は調和の形と言われ、幾何学の中でも特に心を落ち着かせてくれる形だと思います。

六角形とブルーの宝石の組み合わせの万華鏡は「抜群の癒し効果がある」と人気です。

私もリラックスしたい時に覗いています。

写真は本文中に掲載されています

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