ただの“ものづくり”ではない、“人対人”の奥深い仕事

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義肢装具士原田 健一郎さん

1979年、東京都江戸川区生まれ。建設業界、飲食業界などに勤務し、27歳の時に西武学園医学技術専門学校義肢装具科へ入学。義肢装具士国家試験に合格後、義肢装具の製作等を行う株式会社エヌ・オー・ティーに入社。現職4年目として日々業務に邁進中。

原田さんが義肢装具士になろうと思ったきっかけを教えてください。

僕は17歳で建築の仕事に就いたのですが、腰を痛めてしまって。それからは10年近く飲食店で料理人として働いてきました。

27歳のころ、「別の仕事に挑戦してみよう」と考えたとき、以前腰を痛めた際にコルセットを付けて、すごく助けられたことを思い出したんです。それでいろいろと調べていくうちに、「義肢装具士」という職業のことを知って、興味を持ったのがきっかけですね。

ものづくりが好きでしたし、医療や福祉分野の専門職として人の力になれる仕事という点にも魅力を感じました。

義肢装具士になるには、どのような方法があるのでしょうか?

義肢装具士は国家資格なので、国家試験を受けて合格しなければなりません。国家試験の受験資格を得る方法はいくつかあるのですが、最も一般的なのは、高校を卒業して指定の養成校で学ぶ方法です。

2013年9月現在、義肢装具士の養成校は全国に10校ほどあり、入学するには基本的に高卒の資格が必要です。僕は高校を中退していたんですが、働きながら通信制に通って高卒資格を得ました。

僕が通った専門学校の授業は、1年生のうちから座学に加えて、身体の寸法を測ったり型をとったりといった「作る技術」を身につけるための実習も行います。

2年生になると、より専門的な内容を学びます。年1回、6週〜8週間の臨床実習があり、義肢装具の製作会社等で仕事を経験します。

3年生になると、さらに複雑な製作の実習と、国家試験対策の授業も入ってきます。

学校生活は忙しかったですか? また、どんな人が通っていましたか?

たしかに予習復習、国家試験に向けた自習などは必要ですが、自由な時間がまったくとれないわけではありません。学校の後はアルバイトをしたり、友人と飲みに行ったりもしていましたよ。

クラスは高校を出てすぐ入学した人と、僕のように一度社会人を経験してから入った人が半々くらいでした。

社会人経験者のバックグラウンドはさまざまで、前職がコンピュータ関係だったり、福祉業界だったり、中にはアルバイト生活から一念奮起して入学した人もいましたね。

勉強するのに年齢は関係ないですが、専門的な授業が多いので、この仕事がどんなものか理解し、目標を持っていないと厳しいかもしれません。実際、途中で辞めてしまう人もいましたから。

学校ではいい仲間もできて楽しかったんですが、僕は10代から働いていたので、また早く社会に出て仕事をしたいという思いが強かったですね。

義肢装具士の就職先と、現在のお仕事内容について教えてください。

僕が働いているような義肢装具の製作会社に勤める人が大半で、他にパーツのメーカーで働く人もいます。病院などの医療機関に属するというケースは少ないと思います。

仕事内容としては、決められた病院に行って、先生から「この患者さんには、こういう義肢や装具が必要」といったオーダーを受け、患者さんの型取りを行います。そして会社に帰って製作を行い、完成品を患者さんに納品するというのが基本の業務です。

うちの会社では月~金曜に出勤して、土曜はシフト制で月に1回程度出勤しますが、日曜は完全に休みです。平日に関していえば、僕は週に3日病院に行き、残りの2日程度は社内で作業をしています。

原田さんの1日のスケジュールを教えてください。

病院に行く日の場合、朝9時ごろには病院に到着し、先生に挨拶を済ませてからその日納品する装具などの準備をします。普段やりとりするのは整形外科の先生が大半。他に、形成外科や脳神経外科の先生と関わることもあります。

大学病院だけでなく、市立病院や個人病院に行く日もあります。大学病院では「ギプス室」という部屋で待機し、先生に呼ばれたら話を聞いて、患者さんの型取りをしたり、病棟で患者さんに会ったりします。

何年か前に一度お会いした患者さんの壊れた装具を直すことや、必要に応じて作り変えを行うこともあります。

外来が終わる時間までは病院で仕事をして、何事もなければそのまま帰ります。急ぎの作業があれば会社に戻って仕事をすることもありますね。

1つの義肢や装具を完成させるまでに、どれくらいの時間がかかるのですか?

ものによっても異なりますが、治療用の装具に関しては、だいたい1週間を目安に納品しています。たとえば、今週の火曜日に病院でオーダーを受けたら、翌週の火曜日に納品するといったイメージです。

ただ、途中まで作って「仮合わせ」という工程を挟み、仕上げ作業を行ってから納品というケースでは、もう1週間程度時間をかけることもあります。

忙しいときは残業もしますが、会社では個々の仕事量を見ながら仕事を割り振ってもらっているので、一人だけに負担がかかるということはありません。

製作工程について、少し教えていただけますか?

まず患者さんの型を取った石膏を基に、必要な形に直すという作業があります。

装具に使用する素材はいくつか種類があるのですが、たとえばプラスチックの場合だったらそれをオーブンで溶かし、石膏のモデルに軟化した状態のまま沿わせ、真空のポンプで引くと、そのモデルにピッタリと成形されます。

うちの会社では、この工程までを専門の人にやってもらい、僕はその後、革を張ったり組み立てたりする作業を行います。「半分業」という形ですね。

進め方は会社によってさまざまで、型取りから石膏やプラスチックの成形、完成まで一人で行う会社もありますし、もっと細かく分業して進めている会社もあります。

社内で義肢装具士の資格を持っていない方もいらっしゃるのでしょうか?

義肢や装具を「製作」するだけだったら国家資格はいらないので、製作をしている人全員が義肢装具士というわけではありません。

国家資格が必要となるのは、患者さんに直接触れて型取りをしたり、義肢や装具の装着などを行う場合。これは、義肢装具士でなければできません。

だから、製作だけに携わっていた人が、ステップアップのために国家資格取得を目指すということもありますよ。

義肢装具士として「一人前」になるまでには、どれくらいの時間がかかるのでしょう?

僕の場合、入社後1年くらいで製作工程が少ないものを一人でこなせるようになりました。いくら国家資格を取っても、学校を出たばかりではできることも限られています。

毎日先輩のやっていることをぬすんで、わからないことは聞きながら、確実にできるようになるために少しずつ技術力を高めていきます。

僕は今年で4年目。まだ全てのものを一人で作れるようにはなっていないですが、少しずつできることが増えていくと、自分でも成長を感じます。ちなみに、うちの会社には73歳で働いている大ベテランの先輩もいるんですよ。

仕事で最も達成感や喜びを感じるのは、どんな時ですか?

患者さんから「ありがとう」と言ってもらえた時ですね。義肢や装具を患者さんに納品して、自分で見て「うまくいった」と思えたときも達成感がありますが、患者さんの口から直接喜びの声を聞かせてもらえるほうがずっとうれしいです。

つらいこと、大変なこともありますが、患者さんの喜びの声を聞けると疲れが吹き飛びますね。

義肢装具士にとって、大切なことは何だと思いますか?

この仕事は、“ものづくり”というよりは“人対人”の仕事です。患者さんや先生とのコミュニケーションは不可欠ですし、サービス業のような面が強いんです。

ただ、忘れてはならないことがあります。それは、義肢装具士が接する患者さんは、体のどこかに悪い部分を抱えているということ。

たとえば、僕は長く料理の仕事をしてきましたが、レストランに来るお客さんは楽しい気持ちの人が多いですよね。でも、患者さんは病気や怪我で落ち込んでいる人が大半です。

だから、接し方にもより気を配らなければなりませんし、患者さんの世代は子どもからお年寄りまで幅広いので、コミュニケーションをとるのは決して簡単なことではないんです。

そのような中、原田さんが普段、気を付けているのはどんなことですか?

どんな時でも謙虚にいることを心がけています。患者さんは診察で長く待たされて、そのうえ、型取りにまた時間がかかる…となると、疲れるしストレスも溜まります。だから、時には患者さんの愚痴や、先生に言えない悩みを聞いたりすることもありますよ。

でも、装具は治療のためにも必要ですから、患者さんから「こんなもの付けたくない!」と言われてしまったときは、その気持ちにばかり寄り添うわけにもいかず、そこが難しいところです。

それともう一つ。オーダーを受ける際は、先生にきちんと確認し直すことを徹底しています。人間ですから勘違いもありますし、僕ももしかしたら思い込みでやってしまう可能性もあります。

万が一、間違った情報を持ち帰って製作してしまったら大変なので、念には念を入れて確認します。それに、いつでも正しいものを作って納品することで、先生との信頼関係も強くなります。

この仕事を目指す若者や、興味を持っている人にメッセージをお願いします。

義肢装具士を目指すのであれば、「手を動かして作ることが好き」というのも大事ですが、仕事では「人と接すること」が大半を占めるので、人とのコミュニケーションも好きでないと難しいですね。

あと、わからないことがあれば自分から先輩に聞いたりすることも大事なので、「積極性」も大事だと思います。

技術は日々進歩していくので、仕事に就いてからも勉強は続けないといけません。でも、学生のうちは基礎を幅広く教わるチャンスです。もし養成学校に入学したら、座学も実習もきちんと受けておいてください。絶対に役に立ちますから。

今後の「義肢装具士」に必要なことはなんでしょう?

「義肢装具士」は、まだ全然知られていない職業なので、現役の僕たちがもっと外部に対する活動を行っていかなければなりません。東京でパラリンピックも開催されますし、義肢装具に対する注目度が上がってくるかもしれません。

日々の業務では、先生に対して時に僕たちから「こういう風に作ることもできます」といった提案を行うことも大切だと思っています。

そのような姿勢によって技術力を伸ばし、強い信頼関係が築けるのではないかと考えています。

原田さんご自身の目標があれば教えてください

大学病院だと診察室がいくつもあって、何人もの先生から同時に呼ばれることがあるんです。その時、患者さんをお待たせしてしまうことがありまして。

患者さんにとって病院で待つことは気分のいいものではありません。自分がもっとうまく立ちまわることができれば、患者さんをお待たせすることもなくなると思うんです。

少しでも気持ちよく利用していただけるよう、ベストを尽くして、スムーズに業務を行うというのが一つの目標です。

そうした努力を続け、患者さんや医師にもっと信頼される義肢装具士になりたいと思っています。

(取材・文:石原 桃子)