【帽子職人】「ワクワク、楽しい気持ちを忘れないように」30歳で帽子職人の道に進んだKENTさん
今回は、キャラクターデザイナーとして9年間活動後、30歳で帽子職人の道に進んだKENTさんからお話を伺います。
帽子職人の活動内容
帽子職人の活動内容について教えてください。
オリジナルの帽子の制作・販売・運用を行なっています。
主にオンラインショップで注文を受けた帽子を受注生産で制作し、お客様にお届けすることがメインの活動です。
また、帽子を知ってもらうためにSNSやYouTubeでの発信にも力を入れています。
これまで手掛けてこられた作品(帽子)のコンセプトや代表的な作品は?
【ハットミクスチュア】をコンセプトに遊び心をミックスしたほかにはない帽子づくりを心がけています。
これまでに100種類以上、オリジナルの帽子を制作してきました。
代表作を一つ選ぶとしたら「メロンハット」ですね。
帽子づくりのテイストや方向性が定まった分岐点となる思い出深い帽子です。
作品づくりのスケジュール
一つの帽子の制作スケジュールについて教えてください。
新しい帽子をリリース(販売)するまでに、約3~4ヶ月ほどの時間をかけています。
また現在、販売後は注文から約1ヶ月ほどで完成、発送を行っています。
どのような工程で帽子を制作されているのでしょうか。
①制作する帽子のモチーフを決め、②ネットを中心に資料収集を実施します。
ここで、完成までのイメージを頭の中ですべて完結できるくらいに帽子づくりの流れを落とし込んでいきます。
そして、③帽子の型を制作していきます。
帽子の制作には、型がないと形にすることはできません。
シルエットを何度も調整しながら、1~2ヶ月かけてつくっていきます。
型が完成したら、④生地や装飾・色付け加工の方法を決め、⑤サンプルを1ヶ月ほどかけて完成させていきます。
帽子が完成したら、⑥販売用とプロモーション用に写真と動画の撮影をし、⑦オンラインショップで販売していくのが一通りの流れになります。
職人さんや作家さんは休みなく創作活動をしている印象があります。どのような割合で仕事とお休みの時間を取っていますか?
イメージの通り、あまりオンオフの境目がないかもしれません。
なので、丸一日お休みすることはほとんどないですね。
ただ帽子づくりは手仕事なので、作業にしっかり集中できるように「徹夜をしない」というルールを自分の中で決めています。
できるだけ規則正しい生活のサイクルを心がけています。
そうすることで集中力やモチベーションにバラつきが減りましたよ。
また、夜の時間は睡眠だけではなく、少し余白の時間を持つようにしています。
映画を観たり友人に会ったり、最近は運動不足解消のためにパーソナルジムに通ったりしています。
帽子職人になったキッカケ
幼少期から創作をするのがお好きだったのでしょうか?
幼少期の頃は絵を描くことがとても好きでした。
好きになったキッカケは単純で、学校の絵画コンクールのようなもので金賞をもらってからです。
その後、「平面で描いた絵を立体にしたらどうなるのだろう?」という好奇心から、自分がデザインしたキャラクターを紙粘土を使って形にすることが増えていきました。
いつ頃から帽子職人の道を目指されたのでしょうか?
もともとはキャラクターデザイナーになりたくて、帽子職人を目指す前はキャラクター制作会社に9年勤めていました。
そこでは主に自分の分身となるキャラクター「アバター」をWEB上でつくり、着せ替え人形のようにして遊ぶといったサービスを担当していました。
サービスを始めた当初は多くの人が利用していましたが、ブームが終わるにつれて自分が担当していたサービスが終了。
今まで取り組んできた自分の作品が全て消えてしまう経験をしました。
9年間情熱を注いできた作品が一瞬で消えてしまう出来事は、自分の中でとても大きく、本当にショックでした……。
そこから仮想空間だけで存在する「デジタルな作品」ではなく、現実空間に形に残る「リアルな作品」をつくりたいと強く思うようになりました。
リアルな作品にはさまざまな選択肢があると思いますが、その中でなぜ帽子を選んだ理由は何でしょう。
アバターの制作経験からトータルコーディネートを学び、そこで帽子の重要性を実感するようになったんです。
キャラクターの着せ替えなのでファンタジーな世界観のアイテムも多くありましたが、プロのスタイリストの方や美容師の方を招いて本格的なファッションの企画も実施していました。
帽子を変えるだけでコーディネートの幅が広がり、大げさかもしれませんが頭にポンと乗せただけで魔法がかかったように印象が変わります。
そんな楽しいアイテムである帽子をもっと広めたいと思うようになりました。
最初は帽子職人になるというよりも、SNSを通して帽子を取り入れたコーディネートを発信し始めました。
そこで、サイズ展開が少ないなどの理由から「かぶりたいのに、かぶれない人」が多いことが分かりました。
そんな方たちに向けて、「僕が帽子をつくることができたら…」と思い、30歳という節目で会社を辞めて、帽子の世界に飛び込みました。
帽子職人の道のり
「パンやスイーツなどをモチーフにした帽子」を制作するに至った経緯を教えてください。
中折れハットやベレー帽などの一般的な帽子も大好きで普段からかぶっていますが、帽子の形にはある程度フォーマットが決まったものしかありません。
オリジナル性を出すのは難しいジャンルのファッションアイテムなのです。
僕は帽子職人として活動をしていく中で、既存の帽子と同じようなものをつくる必要性や意味があるのだろうかと考えました。
そして、「見たことのない新しい形の帽子をつくりたい!」「帽子に苦手意識のある人、興味のない人が思わずかぶってみたくなる帽子は何だろう?」と方向性を固めていった結果、「自分の好きなもの(スイーツ)と帽子を掛け合わせたら楽しそう!」とシンプルなアイデアに落ち着きました。
好奇心が先行し気づいたら手を動かしていた部分もありましたが、本当に好きと思える形にしたい帽子なら長く活動できるのではないかという思いもあり、現在の形に辿り着きました。
実はアバターを制作していた時から、パンやスイーツをモチーフにした帽子のデザインもしていたんです。
まさか今、それを形にしているとは……人生面白いですね。
これまでにない形の帽子だと思いますが、最初の反響はいかがでしたか?
最初は「言われてみれば。何となくスイーツかな…?」というレベルの帽子をつくっていたので、SNSでの反応もあまり良くなく、デザイン面で迷走していた時期が一年ほどありました。
そんな中、パンを題材にした映画『しあわせのパン』を観た影響で、誰にでも優しく寄り添う中で静かに存在感を放つパンを帽子に落とし込めたら素敵だなと感じました。
毎日パンを食べるように、毎日帽子をかぶってもらいたいという想いで日々制作しています。
いつ頃から帽子職人として稼ぎを得ることができましたか?
活動を始めた当初は友人に帽子をつくっていたのですが、2015年頃から「SNSに載せた帽子と同じものをオーダーしたい」と全く知らない方(フォロワー様)から帽子のご依頼をいただくことが増えてきました。
活動の記録をSNSで発信することによって、仕事の依頼に繋がると実感できたのは驚きでした! その成功体験がキッカケで、今でもSNSの発信を継続できているのだと思います。
当時は今と異なり、オリジナルの帽子を販売するのではなく、個人オーダーで帽子を制作していました。
しかし、収入面で考えると帽子だけで食べていけるレベルでは全くなかったので、アルバイトで前職のお仕事を続けながら帽子を制作をし、2017年頃から徐々に帽子職人としての稼ぎが前職の収入を上回るようになっていきました。
帽子職人のやりがい、つらさ
帽子職人の活動をする上で、どのようなやりがいや楽しさを感じていますか?
帽子を身につけることがキッカケで会話や笑顔・新しい出会いが生まれる、コミュニケーションツールになればいいなと考えて活動を続けています。
その想いが購入してくださったお客様のSNSを通して伝わってくるところにやりがいを感じています。
通常の帽子づくりと比べると作業工程が多く、完成するまでにとても体力を使います。
しかし、お客様の喜びの声をいただくことで、その疲れも一瞬で吹き飛ぶのです。
つくり手として本当に幸せな瞬間だと思います。
逆につらいな、大変だな、と思うことはありますか?
何をするにしても全て自分次第のため、常に行動をしなければ前に進まないことを日々痛感しています。
会社員としてキャラクターデザインの仕事をしていたときは仕事があって当たり前でしたが、帽子職人の道に進んでからは自分自身でゼロから仕事をつくらなければなりません。
作品の方向性や収入面、作業環境が整うまでは試行錯誤の連続。
軌道に乗るまでは楽しさもあると同時に大変な時期でもあり、乗り越える苦労も感じていました。
とはいえ、今ではそれもいい経験だったなと思えるので、メンタル面が強くなれたと感じています。
帽子職人としての目標
どのような想いを持って作品づくりをしていますか?
前述した「帽子を身につけることがキッカケで会話や笑顔・新しい出会いが生まれる、コミュニケーションツールにしたい」という想いがまず軸としてあります。
ほかにも、工場生産では表現できないハンドメイドならではの新しい帽子を形にすること、自分自身も常に「ワクワク」「楽しい」気持ちを忘れないように帽子づくりをすること、ですね。
子どものときの好奇心は大人になっても大切だと思っているので。
今後、帽子職人の活動で目指していることを教えてください。
2019年から徐々に海外の方からも帽子のオーダーをいただく機会が増えています。
2019年12月には台湾で開催されたイベントにも出展することができました。
2020年はまさかこんな一年になるとは思いもしませんでしたが、安全な世界に戻ったらもう一度海外でイベントができるようにチャレンジしていきたいと感じています。
好きを仕事にしたい人に向けてメッセージを
最後に、好きを仕事にしたい方へメッセージをお願いします。
僕は30歳で帽子の世界に飛び込みました。
好きなことは年齢とともに変化する可能性もありますが、どんなときもまずは「一歩足を踏み入れる勇気・行動力」が必要です。
悩んでいるだけでは前に進みません。
一歩また一歩の積み重ねを繰り返して、少しずつ結果に繋がるのだと感じています。
そして、一歩踏み出す原動力はやはり「好きなことだから」だと思うんです。
逆に迷いがあったり失敗が嫌だからとすぐに動けなかったりすることは、もしかしたら長く続けられないことなのかもしれませんね。
KENTさんが手掛けた作品お気に入り3選
1. メロンパンハット
この帽子のおかげで今の自分があると言えるくらい、大切な帽子なので1番に選びました。
2. アップルパイハット
個人的に普段から一番かぶっている帽子です。
ポークパイハットという帽子があるのですが、「なんで他のパイのハットはないのだろう?」という疑問から誕生しました。
3. まるごとリンゴハット
2020年にリリースした新作の中で、一番反響のあった帽子です。
この帽子をキッカケに、りんご業界の方からお声がけをいただき、イベントに参加することができました。
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