介護施設の「生活相談員」の4つの仕事を解説
わたしは介護施設の「生活相談員」という仕事を、かれこれ10年以上やっています。
介護関係の仕事のなかでも「生活相談員」という職種は、あまり世の中に知られていない職種ではないでしょうか?
名前は聞いたことがあったとしても、その仕事内容まではご存じない方がほとんどだと思います。
そこで、ここではわたしの経験をもとに、生活相談員の仕事について詳しくご説明したいと思います。
生活相談員とは?
生活相談員は、特別養護老人ホームやデイサービス、ショートステイなどの介護施設で働いています。
介護保険法という法律によって、「それらの施設には必ず生活相談員を配置しなさい」と義務付けられているのです。
生活相談員の仕事を簡単にまとめますと、それらの介護施設を利用される方やそのご家族の相談に乗り、よりよい生活ができるようにお手伝いをすることといえます。
といってもまだ抽象的でわかりにくいと思いますので、主な業務を4つに分けてご説明したいと思います。
4つの業務とは次の通りです。
② クレーム対応
③ 営業
④ 「何でも屋」としての仕事
以下の章でひとつひとつご説明します。
① 施設利用者の相談に乗ること
生活相談員の仕事のうち特に重要なことは、施設を利用される方やそのご家族の相談に乗ることです。
たとえば、Tデイサービスに通いたいと思っているAさんがいるとします。
このとき、Tデイサービスの窓口となってAさんの相談に乗るのが、生活相談員の仕事です。
生活相談員はAさんのお話を聴いて、Tデイサービスを利用するための調整を行います。
具体的には、
・デイサービスを利用するための契約を行う
・デイサービスでどのような介護をするかといった計画を立てる。
などです。
Aさんがデイサービスを利用するようになってからも、生活相談員の仕事は続きます。
たとえば、お昼に出る食事が硬くて食べられなければ、どのくらいの硬さなら食べられるかを管理栄養士に相談して食べやすいものにします。
足腰が弱って歩くのが大変になってきたら、介護職員と相談して杖やシルバーカーの利用を提案します。
トイレの不安があるようなら、「そろそろ紙パンツを使ってみてはどうですか?」と提案することもあります。
こういった相談は、Aさんの口からはっきりと「○○に困っている」「○○したい」と言ってくれるわけではありません。
ですから、生活相談員はAさんの様子から気持ちを汲み取り、悩みの解消に向けて一緒に取り組んでいきます。
また、「Cさんのことが嫌いで顔も見たくない!どうしたらいいと思う?」といった人間関係の相談や、「実は…利用料金が支払えないんです」といった比較的重めな相談を受けることもあります。
こういった相談はすぐに解決できません。
また、生活相談員ひとりの力では解決できない問題です。
ひとりで解決しようとせず、まずは問題を施設内で共有するところからはじめていきます。
② クレーム対応
施設の窓口となってお話を聴くのが仕事である生活相談員にとって、ご利用者やそのご家族からのクレームにお応えすることも大切な仕事のひとつです。
介護施設ではご利用者の転倒やケガといった、いわゆる「事故」がよく起きます。
事故が起きると、「施設へ預けているのにケガをさせるとは何事だ!」と、ご家族からクレームをいただくことがしばしばあります。
言い訳のように聞こえるかもしれませんが、介護施設を利用するなかで転倒やケガといった事故が起きるのは、実はやむを得ないことなのです。
むしろ、まったく事故のない施設のほうが問題だったりします。
そういった施設は、ケガをさせないために必要以上にご利用者の動きを制限して、その結果ご利用者の自由を奪っている可能性があるからです。
さらに、まったく事故がないということは、事故が起きたことを施設側が隠している可能性すらあります。
施設は人が生活する場です。
生活の場である以上、転んだりケガをしたりすることは避けられません。
もちろん、施設側としてはご利用者に転んでなんてほしくないですし、わざとケガをさせることは許されない行為です。
施設として防げる事故は防いでいけるよう、日々の努力は必要でしょう。
しかし、それでも避けられない事故があるということを知っていただきたいと思います。
話がそれましたので、クレーム対応の話に戻ります。
先ほど、事故は避けて通れないと言いましたが、それはあくまでも施設側の事情です。
施設へお預けしているご家族としては、「なんでそんなことが起きたの?」と施設側の対応に疑問を持ち、ときに感情的になります。
そのため生活相談員は、まず事故が起きたことを謝罪し、次にそのときの状況を丁寧にご説明します。
連絡が遅くなってしまうと不信感を与えてしまいますので、すぐに連絡をします。
起きたことを隠さずに、わかりやすい言葉で伝えます。
それでも、ときにはきつい言葉を受けることがあります。
施設の窓口として、ご家族からのネガティブな感情を受け止めなければなりませんので、人によってはつらい仕事かもしれません。
クレーム対応が嫌で、生活相談員をやめる人もいると聞きます。
もちろん、わたしもきつい言葉を受けると嫌な気持ちになります。
ですがそれは仕事として、割り切って対応しています。
③ 営業
福祉の仕事を”ビジネス”としてとらえることに違和感のある人もいるのではないでしょうか?
ですが他の仕事同様に、福祉の仕事であってもお金を稼がなければ事業が成り立ちません。
当然、お金を稼ぐ努力が必要になります。
介護施設がお金を稼ぐためには、多くの人に施設を利用してもらわなければなりません。
多くの人に施設を利用してもらうことで収益が上がり、事業が成り立ちます。
そのためのキーとなる職種、それが生活相談員です。
なぜ生活相談員が多くの人に施設を利用してもらうためのキーになるかというと、生活相談員は介護施設の窓口として最初にご利用者やそのご家族と関わるからです。
どの施設を利用するか決めるにあたって、その施設の第一印象はとても重要です。
生活相談員は最初にご利用者やご家族と接するため、施設の第一印象を左右します。
まさに施設の顔といっても過言ではありません。
そこでもし生活相談員の印象が悪ければ、たとえその施設がいい介護をしていても、利用する側としては不安を感じてしまうものです。
このように、生活相談員次第で施設の第一印象が決まるため、営業のキーとなるのです。
生活相談員が営業をするうえで欠かせないのが、ケアマネジャーという専門職の存在です。
特に、デイサービスやショートステイといった在宅介護サービスの生活相談員にとって、他事業所のケアマネジャーは生活相談員が営業をするうえで重要なポイントとなります。
介護を必要としている人は、介護サービスの利用手続きをケアマネジャーへ依頼するのが一般的です。
どこにどんな施設があるなんてわかりませんから、ケアマネジャーは介護を必要としている人たちへ介護事業所を紹介します。
たとえば、ケアマネジャーのBさんが介護を必要としている人Eさんへ、新しくデイサービスを紹介するとします。
Tデイサービスは、Bさんがよく知っているデイサービスです。
Bさんは担当している人を何人も紹介していて、みなさん楽しく通っているようです。
窓口の生活相談員の人も話しやすくて、Bさんは好感をもっています。
一方、Lデイサービスは名前を聞いたことがありますが、どんなところだかわかりません。
一度問い合わせしてみましたが、電話に出た生活相談員の対応が悪くて、Bさんはよい印象をもっていません。
さて、BさんはTデイサービスとLデイサービス、どちらをEさんに紹介したいと思うでしょう?
Bさんの心情としては、Tデイサービスを紹介したくなるものです。
ケアマネジャーのBさんとLデイサービスのような関係性をつくることができれば、多くの人に自身の施設を利用してもらうことができそうです。
そのために生活相談員は、まずはケアマネジャーに自身の施設を知ってもらうためのPR活動を行います。
顔見知りとなったケアマネジャーに対しては、関係性を大切にしながら信頼されるような仕事を積み重ねていきます。
この一連の流れを、わたしは生活相談員の営業としてとらえています。
④ 「何でも屋」としての仕事
これまで上げた仕事のほかにも、生活相談員の仕事をあげれば切りがありません。
たとえばわたしの場合、以下の業務を行っています。
・毎日の送迎ルートの作成
・介護請求業務
・ご利用者ごとの介護計画書作成
・サービス担当者会議への出席
・毎月のモニタリング報告書作成
・かんたんな介護業務
・ご利用者の急変時対応
・施設設備の修繕、環境整備
施設によって業務内容は若干異なりますが、このように、生活相談員はいろいろな業務を行っています。
まさに介護施設の「何でも屋」です。
なぜ生活相談員はこんなにいろいろな業務を行うのでしょうか?
その理由のひとつは、そもそも生活相談員の業務内容というものが明確に決められていないからですからです。
デイサービスや特別養護老人ホームには、生活相談員という職種の配置義務が定められています。
しかし、生活相談員という職種が何の仕事をするのか、その業務内容が明記された法律等はありません。
介護職員であれば“主に利用者の日常生活の介護を行う”、看護職員であれば“主に利用者の健康管理を行う”というように、業務内容が明確です。
ですが、生活相談員の業務内容は介護業務や看護業務のように明確ではないため、業務が多岐にわたっていくのです。
つまり、何でも屋になります。
何でも屋というと、「雑用ばかりで誰でもできるような仕事」というようにネガティブなイメージをもたれるかもしれません。
しかし、何でも屋であるということは、「自身の介護施設のことを知り尽くし、何でもできる」というポジティブな面もあります。
ひいては、介護業界に精通した人材になれる職種でもあります。
もちろん、先に述べたように生活相談員の業務は大変なことも多いですが、介護業界の酸いも甘いも噛み分けられることは生活相談員という仕事の魅力のひとつです。
以上、生活相談員の仕事内容についてご説明させていただきました。
生活相談員の業務は世の中にあまり知られていないと思いますので、少しでもイメージをつかんでいただけたら嬉しいです。