トレードオフとは

経済用語として知られる「トレードオフ」は、私たちの仕事や日常生活の中にもみることができます。

さまざまな状況で生じる可能性のあるトレードオフ。詳しい意味を具体例とともに解説します。





トレードオフの意味

トレードオフとは、同時に満たすことができない2つの条件間で起きる、ジレンマの関係性を示す用語です。

2つの条件がトレードオフの関係にあるとき、1つを満たそうとすると必ず他の一方を犠牲にする必要があり、両立しようとすると目標が達成できないなどの状況が生まれます。

日本には「あちらを立てればこちらが立たず」ということわざがありますが、トレードオフはまさにそのような関係です。

主に経済分野で使われることの多い用語ですが、環境分野、生物・科学分野のほか、日常生活にも多くのトレードオフが存在しています。

トレードオフの具体例

さまざまなシーンでみられるトレードオフの具体例を確認していきましょう。

経済分野におけるトレードオフの例

トレードオフの用語解説では、具体例として経済分野の内容がよく紹介されています。

特に経済政策のトレードオフはとても有名で、失業率の低下と物価の安定は同時にクリアできない目標と認識されています。

具体的には、失業率が0の状態(完全雇用)を進めるとインフレ(物価上昇)が起きるため、物価を安定させることができません。

反対にインフレを抑制して物価の安定を図ろうとすると、失業率が高くなるという関係性です。

これは、ニュージーランド生まれの経済学者アルバン・ウィリアム・フィリップスが発表したもので、2つの関係性を示す曲線は「フィリップス曲線」として知られており、トレードオフ曲線と呼ばれることもあります。

環境分野におけるトレードオフの例

環境分野にみられるトレードオフは、条件となる要素をいくつかの種類に分けることができます。ここでは3つの種類について具体例を紹介します。

環境要素同士のトレードオフ

<自動車>
ガソリン車の燃費向上を追求すると、排気ガスに含まれるNOx(窒素酸化物)が増加し、人体(特に呼吸器など)に悪影響を及ぼす危険性が高まるというトレードオフがあります。

自動車メーカーの企業努力によってさまざまな技術開発が進んだことで、昔と比べて燃費の向上と環境配慮は両立を目指せる時代に突入しましたが、ヨーロッパの大手自動車メーカーによる排ガス不正問題などをみると、トレードオフの解消は決して容易ではないようです。

<水道水>
水道水には再生処理を行う過程で、細菌除去のために消毒剤が注入されています。

細菌が除去できないと感染のリスクが高まりますが、反対に消毒剤を大量に注入するとそれによって生成される化学物質(発がん性物質など)によるリスクが高まります。

防災と環境のトレードオフ

ダムや海岸の施設、河川改修工事などは災害を防ぐために必要ですが、その影響で森林伐採や魚類の死滅など生態系が破壊されてしまう可能性があります。

特に近年の災害は、生態系の破壊によって大規模化が誘発されていることもあり、現在では生態系の活用や管理を強化する、防災・減災に向けた取り組みが進められています。

経済と環境のトレードオフ

経済発展には生産活動が不可欠ですが、大量生産・大量消費は環境汚染や天然資源の枯渇などに繋がり、環境へ高い負荷をかけることになります。

経済成長と環境保全の両立を現代社会の課題として捉え、先進国を中心に持続可能な発展を目指す社会へと移行しつつあります。

生活におけるトレードオフの例

<お金と時間>
自由な時間を増やすと働く時間が減少し、それに合わせて収入も少なくなります。反対に働く時間を増やすと収入は増えますが、自由な時間が減少することになります。

<高品質と低価格>
日常で使う商品のほとんどは、高い品質を求めると高価になり、安さを求めると品質も下がります。

モノを生産するには、材料費、人件費、物流費などのコストが必ずかかるため、品質と価格は比例することが一般的です。

企業努力によってムダなコストを削減して価格を下げることはできますが、それにも限界があります。

仮に高品質と低価格が実現している場合は、生産・流通過程のどこかが大幅にカットされているか、もしくはどこかに大きな負荷がかかっていると考えたほうが良いでしょう。

<ダイエット>

食事制限のダイエットをする場合は、満腹感と減量(もしくは体型維持)が常にトレードオフの関係になります。

満腹感を重視すると食べる量が増え、それに伴って体重も増加します。

反対に減量を追求したい場合は食事を減らす必要があり、満腹感を得ることはできません。

生物におけるトレードオフの例

鳥類に分類される動物の中には、飛べない鳥が存在します。

これは動物が生存するために、進化の過程で飛ぶ能力と引き換えに、飛ぶ以外の能力を身につけたためだといわれています。

例えば、ペンギンは飛ぶ力を失う代わりに泳ぐ力を得ており、ダチョウやキーウィは走る力を得ています。

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優先順位を可視化する「トレードオフスライダー」

生活の中での意思決定は自分自身が行うことが多くありますが、ビジネスにおいては経営者や上司など自分以外の意思決定に従って仕事をすることも少なくありません。

商品・サービス開発などのプロジェクトでは、開始時に決定した方針が途中で変更されることもあり、それが原因となって中途半端な商品・サービスが生まれてしまうということがあります。

このような事態に備えるには、意思決定の基準となるものを可視化しておくことが重要です。

優先順位を可視化できる「トレードオフスライダー」は、ソフトウエア開発者向けの書籍「アジャイルサムライ」で紹介された、プロジェクトの優先順位や判断基準を可視化するツールで、多くの開発プロジェクトで意思決定の基準として取り入れられています。

トレードオフスライダーの使い方

プロジェクトの方針を決定する要素を縦に並べ、それぞれを5段階評価で評価します。

もっとも優先順位の高い要素を5(MAX)、低い要素には1(MIN)を設定しますが、すべてをMAXにすることはできません。

要素はプロジェクトによって異なりますが、「リソース(人/カネ)」「品質」「納期」「スコープ(機能)」などが一般的です。

例えば、[納期]の優先順位が5、[予算(予算をオーバーしない)]が3、[機能]が2、[品質]が4と設定して開始したプロジェクトの途中で、「やっぱり、もっと機能を増やしたい」という声があがったとしましょう。

その場合は、[機能]のスライダーを3以上に移動させることで他の要素に影響がでることになります。

[納期]の優先順位を下げるか、下げることができなければ他の要素の優先順位を下げ、予算や人を増やすか、品質を落とすなどの対応が必要です。

トレードオフスライダーによって優先順位を可視化しておけば、1つの変化によって生じる影響やリスクを意思決定に関わるすべての人が認識できるようになります。

可視化によって不要な方針転換を防ぐことは、プロジェクトの成功率を高めることにもつながるでしょう。

この記事のまとめ

近年では技術の進化やイノベーションによって、トレードオフが解消される事例も増えていますが、何らかの目標を達成・追求する際に生じるトレードオフをすべて無くすことはできません。

トレードオフがあることを前提に意思決定をするためには、十分な検討や判断材料、判断基準などはもちろん、冷静に取捨選択するためのスキルを養うことも必要ではないでしょうか。

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