【豆腐マイスター】「その時の価値観で働き方を選択する」大学院を中退し“豆腐の道”へ ーー工藤詩織さん
今回は、豆腐を日本の食文化として未来へ継承する豆腐マイスターの工藤詩織さんからお話を伺います。
「豆腐マイスター」について
「豆腐マイスター」とはどのような意味の肩書きでしょうか?
「豆腐マイスター」とは、豆腐を選び、料理に使い、豆腐を手作りする。
そして、それらスキルを活かして食育活動を行う人材を指します。
豆腐を日本の食文化として未来へ継承することを目的に活動しています。
現在は、一般社団法人「日本豆腐マイスター協会」が認定した豆腐マイスターが、全国に3,000名程います。
私はこの資格で得た知識を活かしながら、食育以外にも業務範囲や活動領域を広げ、フリーランスとして働いています。
具体的な活動内容について教えてください。
食育活動や豆腐の魅力を啓蒙するイベントやワークショップの企画・セミナー講師、豆腐販売のコーディネートや売り場のセレクター 、メディアの出演・ロケ地コーディネート、豆腐をモチーフにした雑貨グッズの企画開発 ・取材活動・コラムなどの連載執筆、ショップカードやリーフレットのなどのデザインやブランディングのサポート、「全国豆腐品評会」の運営サポートなど。
オファーをいただいて仕事をお引き受けすることが多く、業務はかなり多岐に渡ります。
どのようなスケジュールで豆腐マイスターのお仕事をされているのでしょうか?
フリーランスなのでスケジュールは不定期ですし、業務量も波があります。
連載の執筆などのルーティンワークの合間に、豆腐店の取材や撮影をすることも。
また、メディア出演のオファーが発生した場合、リサーチや豆腐製造者さんとのやりとり、企画書作りなどの準備が加わります。
お世話になっている各地の豆腐店さんに会いに行ったり近況を伺うなど、コミュニケーションと情報収集の時間も作っています。
「豆腐マイスター」を志したキッカケ
子どもの頃から「お豆腐」がお好きだったのでしょうか?
幼少期から豆中心の食生活を送り、豆腐は生活の中心にありました。中でもお豆腐は大好きでした。
ただ、「豆腐に関わる仕事をしたい!」と思っていたわけではありません。
海外で現地の方に日本語を教える日本語教師を目指し、大学院まで通っていました。
日本語のクラスでは、日本語だけでなく日本の文化を扱うことが多く、「近い将来、豆腐の知識は日本語教師として海外勤務する際に役立つかも…」と考えていたところ、豆腐マイスターという資格が出来たと知り、講座を受講しました。
しかし、豆腐マイスターの資格を取得する過程で、豆腐製造事業者が年間500軒減少している事実を知りました。
日本の伝統食材の一つでもある豆腐の作り手が減少し続けていることにショックを受け、自分に何かできることはないかと考えた末、豆腐の魅力を発信するFacebookページを作成、友人や知人の豆腐店を紹介、イベントの開催、豆腐職人さんの集まる勉強会や交流会に参加させてもらうなど、さまざまな活動を始めました。
そこから少しずつ、テレビ番組で「豆腐」の解説をするといった、豆腐店を紹介する仕事をいただくようになりました。
また、知人を通じて「手作り豆腐教室」の講師を頼まれることも。
仕事として豆腐の魅力を発信する機会が増えてきたため、大学院を自主退学することにしました。
そこから「豆腐マイスター」としての活動を本格化していったのですね。
日本豆腐マイスター協会の事務局スタッフと資格講座の座学講師として業務を請け負い始めました。
月に10~15日程度、全国に出張しながら資格講座を開催。
さらに、メディア出演も増えていきました。
20代前半は目まぐるしい日々を送っていたので、20代後半は試してみたかった暮らし方や働き方を実験的にやってみようと25歳で休職。
職業訓練校に通い、アートディレクションや撮影、デザインを学びました。
また、山梨県の有機農場と東京の2拠点生活をしながら農業を学んだり、都内の飲食店でアルバイトをしたり……時期によっていろいろなことに挑戦していました。
いまとなっては、それら経験すべてが「豆腐の仕事」に還元されているように感じています。
現在も枠に捉われ過ぎず、関心を持った仕事は積極的に受けるようにしています。
現在の働き方に行きついた経緯
さまざまな経験をされていた結果、なぜ現在の働き方に行きついたのでしょうか?
私は幼少期から仕事に対する将来の夢がありませんでした。
「何になるか」より「どう生きるか」への関心が強かったようです。
幼いころから仲良しな祖母と、気兼ねなく会える環境は譲れなかったため、一定の場所で働くのではなくどこでも仕事ができるような「持ち歩ける仕事がしたい」と思っていました。
生き方から具体的な仕事や働き方に落とし込んでいったのですね。
はい。なので、仕事を決める上で「消去法」は役に立ちました。
例えば、毎朝満員電車で通勤したくない、性別や年齢に縛られたくない、誰かと激しく競う環境は向いていない……自分のどうしても避けたいことを考え、それが叶う働き方を模索しました。
なので、現在のフリーランスという働き方は“志した”というより“辿り着いた”感覚ですね。
この先もその時々の価値観に応じて、働き方の模索と変化を繰り返していくと思います。
とはいえ、他者の役に立たなければ仕事として成り立ちません。
そのため、豆腐にまつわる知識や執筆、デザイン、最低限の語学スキルなど、都度必要なスキルを身につけてきました。
自由な働き方を選ぶからこそ、責任を持って仕事ができるように自分自身も柔軟に変化させていきたいと考えています。
「豆腐マイスター」の楽しさ、つらさ
「豆腐マイスター」の仕事をする上で、どんな場面に楽しさややりがいを感じていますか?
ご縁があって仕事を任せていただけることに、いつもやりがいを感じています。
フリーランスは組織に属さず“個人”として働くことを指しますが、決して“独り”で成り立つ仕事ではありません。
プライベートでかかわりを持った方から「こういう仕事やってみない?」とオファーされることもあります。
人生はいつチャンスが転がっているか分からないと感じる瞬間は楽しいですね。
また、テレビやラジオ出演、執筆した記事を通して「近所の豆腐屋さんに行ってみます!」「子どもが豆腐をパクパク食べるようになりました!」と反響をいただいたり、お豆腐屋さんから「お客さんが来たよ!ありがとう!」と連絡をもらえるとき、とてもうれしいです。
逆につらいな、大変だな、と思うことはありますか?
仕事を請け負う際、報酬金額が提示された上でのオファーもありますが、自分の仕事に自分で値段をつけて「この仕事はこの金額でやります」というお話をすることもあるので、最初は苦労していました。
ライフワーク(生涯続けたい仕事)とライスワーク(生活のための仕事)の境目があまりないことに関して苦痛に思うことはありません。
とはいえ、趣味の延長のような感覚で仕事が成立することや仕事をしているつもりなのにお金になっていないことがあるので….…不思議ですね(笑)。
「豆腐マイスター」としての目標
今後、「豆腐マイスター」の活動で目指していることを教えてください。
大きな夢はありませんが、豆腐屋さんのある町を残すためにも、豆腐屋さんの利益につながるような仕事ができればと思っています。
豆腐をはじめとする大豆加工食品は、日本の食卓を支える伝統食材です。
“健康食品”というよりも“食文化”としての魅力をお伝えすることが私の役割だと考えています。
全国各地に美味しい豆腐を作ってくれる豆腐屋さんがいて初めて成り立つ仕事。
作り手の皆さんへの敬意と感謝を忘れないよう、今後もさまざまな取り組みをしていきたいです。
10~20代の方が、楽しく豆腐を選んで帰るお店があったら面白いですし、職人さんの豆腐を集めてイベント出店などもやっていきたいですね。
好きを仕事にしたい人に向けてメッセージを
最後に、好きを仕事にしたい方へメッセージをお願いします。
私は「豆腐」に関わる仕事をするために大学院を中退した際には、賛否さまざまな意見をもらいました。
それでも、自分で悩んで決めたことだから、この選択で良かったのだと思えます。
いろんな意見や選択肢があるのは当たり前、その中から自分自身が決断して進むことが大切なのではと思います。
“好き”を仕事にするために努力する人もいれば、“好き”を自然と極めているうちに仕事になった人もいます。(私は「豆腐の魅力を発信したい」という想いを汲み取ってくださった方たちから仕事を与えてもらってきたので、どちらかというと後者寄りです)
また、「豆腐に関わる仕事」といってもさまざまな仕事があります。
豆腐を実際につくる仕事、販売員としてお店に立つ仕事、パッケージをデザインする仕事、豆腐料理を考える仕事、多くの人へ豆腐を広める仕事、本当にたくさんの選択肢があります。
何になりたいか具体的に分からない方は、まず「どんなことに携わりたいか」「どんな風に働きたいか」をじっくり考えてみると良いかもしれませんね。
工藤さんに聞く、豆腐の3つの魅力
1. 守備範囲の広さ
小さいお子さんの離乳食からご年配の方の介護食にまで豆腐は活用されているので、誰にとっても(アレルギーの方以外)生涯お付き合いできる食べものだと思っています。
また、菜食主義といったポリシーを持っている方や、宗教上の理由で特定の食材を食べない方などにも受け入れられているボーダレスな食材なので、「豆腐」を通じて世界中の人々と繋がることもできます。
2. 存在の身近さ
決して誰もが憧れるような高級品ではありませんが、みなさんが手を伸ばしやすく、当たり前のように根付いているものです。
その分“ブーム”などの流行り廃りにも左右されない普遍的な価値があると思います。
3. 多様性
原料の大豆だけでも、日本国内に300種以上あると言われています。
白くて四角くてどれも同じ…に見えても、実は地域や豆腐店、メーカーさんによって繊細な個性が宿っているところがすごく面白いと思います。
沖縄の「島豆腐」、鳥取県の「とうふちくわ」のように、特定の地域に根付いた商品も多くあるので、旅をしながら各地の豆腐を味わうのも楽しいですよ。
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