鉄鋼業界研究・仕事内容や求人状況、今後の動向を解説
鉄鋼業界とは
鉄鋼業界とは「産業のコメ」といわれる鉄鋼を作り、加工し、鋳造して製品として供給する企業群のことです。
鉄鋼は建築資材や自動車や船舶の材料に使われる他、さまざまな工業製品の材料になるため、景気を象徴する製品でもあり、日本では自動車に次ぐ主要工業輸出品目です。
平成28年の総務省の経済センサスでは、その出荷額が17兆8420億円となっており、前年と比較して縮小しているものの、日本の中でも大きな産業としての位置を保っています。
鉄鋼業界では高炉で鉄鉱石とコークスから銑鉄を作り出す高炉メーカーと、鉄スクラップを原料に電気で溶かして不純物を除去して銑鉄を作る電炉メーカーがあります。
また、特殊鋼メーカーはレアメタルなどの副原料を使って付加価値の高い特殊鋼を生産します。
鉄鋼業界は売上や関係企業も多く、たくさんの人が関わっている国内有数の規模を持つ業界です。
鉄鋼業界の役割
鉄鋼業界は、工業において欠かすことのできない鉄鋼を安定的に生産し供給することがその主な役割です。
鉄鋼業界では建設で使われる強度の高い鉄鋼や、自動車や船舶で使われる軽量かつ強度の高い鉄鋼など品質が問われることが少なくありません。
世界でもトップクラスの技術力を持つ日本の鉄鋼業界は、鉄鋼の品質向上への貢献も常に求められています。
加えて、高炉や電炉による環境問題への対応も重要な課題で、各社が常に高効率な炉の運用や生産体制の確立など省エネ・低排出のための努力をしています。
高炉や電炉は一度作れば、10年以上は続けて休みなく稼動し続けるのが一般的であり、多くの人が働くことになるため、鉄鋼業界は地域の発展にも大きく影響を与えています。
20代で正社員への就職・転職
鉄鋼業界の企業の種類とビジネスモデル
大手企業は一貫製造と海外展開に力を入れる
鉄鋼業界における大手企業では、鉄を作る製銑や不純物を取り除いて鋼鉄を作る製鋼、鋼鉄を目的の形状にする鋳造を一貫して行うだけでなく、高炉・電炉を両方とも保有したり、原料確保のために国内外の鉱山の取得したりしています。
また、海外に子会社を作ったり現地企業の買収や提携により、技術の展開と海外販路の確保に取り組んでいます。
鉄鋼業界大手では、日本製鉄やJFEホールディングス、神戸製鋼所などが有名です。
中堅企業は強みを伸ばしつつ経営統合で効率化
中堅の企業では、自社の強みを伸ばしつつ、国内企業との連携や経営統合によって効率化や生産力の強化を計る動きが見られます。
大手のような規模の拡大が難しい中、より付加価値の高い特殊鋼や特定の需要に特化した鉄鋼製品の開発に注力する動きが多くなっており、都市鉱山を活かした電炉による鉄リサイクルなどはまだまだ国内でも成長の余地があるといわれています。
海外に多くの子会社や生産・物流拠点を作る企業も多く見られ、東京製鐵や大和工業などが代表的です。
海外の大企業は低価格の大量販売が多い
世界的なトップはルクセンブルクに本社を持つアルセロールミタルですが、世界のトップ企業には中国の河北鋼鉄や首鋼集団、韓国のPOSCOなどの鉄鋼メーカーが多く入っています。
「鉄鋼はある程度の技術でも資本があれば参入できる業界」といわれることもあり、先行する日本や欧米の企業を研究し、安い人件費と研究開発費を武器に廉価の鉄鋼生産・輸出が行われており、世界の鉄鋼市場に大きな影響を及ぼしています。
過剰生産がたびたび問題になっていますが、消費や輸出の拡大を国や関連業界と一緒に続けながら急速に成長しています。
鉄鋼業界の職種
鉄鋼業界は国内20万人以上の人が勤めており、さまざまな職種の人が活躍し、日本の産業を支えています。
購買
購買は、鉄の原料となる鉄鉱石やコークスなどを買い付ける大事な職種です。
世界各国の鉱山に直接足を運び、どのようなプロセスでどのような品質の原料が採掘されているのかを確認し、より高品質でより安い原料を探します。
おおよそ鉄鋼業では製品価格のうち2~3割は原料の仕入れが占めるため、コストダウンによって企業の利益にも大きく貢献できるやりがいのある仕事です。
研究開発
研究開発は新しい加工の方法や銑鉄や鋳造などの技術を研究して製品の開発につなげる役割をします。
鉄鋼では硬さだけでなく弾力や粘りなど製品の特性を決めるさまざまな要素があり、用途に合わせた鉄鋼をいかに効率よくまた高い品質で作れるかは企業の競争力にも関係する大きな問題です。
研究開発は鉄鋼だけにとどまらず、鉄鋼を作るための工場や設備などの分野についても行われています。
品質管理
品質管理は、製品の品質を高く保ちつつ、不良品ができないようにマネジメントを行う職種です。
定期的に品質をチェックすることはもちろん、問題発生時には原因を追求し再発防止のための計画を立て、技術的にまた組織的に改善を進めていきます。
品質は企業の中だけで決まるのではなく利用する顧客のニーズによっても変わるため、そのニーズを的確にとらえて生産ラインに反映することも大切な役割です。
ITエンジニア
国内の鉄鋼業界では効率化が重要な経営課題になっていますが、その担い手として期待されるのがITエンジニアです。
センサーを利用して製品や設備、外部環境などの情報を集め、それを分析して運用に活かすためのIoTシステム構築を行う企業が増えています。
商社や販売会社の販売管理システムや本社の基幹システムを担当する人や、工場設備を担当する人、物流のためのシステムを担当する人などさまざまです。
鉄鋼業界のやりがい・魅力
産業を支えているという自負心
鉄鋼業界はその圧倒的なスケール感と、鉄鋼という生活の中で目にする機会が多い製品を扱うことでやりがいを感じやすい業界です。
普段の生活の中で、建物や自動車などを見て、自社の製品が使われていると思うと誇らしい気持ちになり、産業を支えていることを実感できます。
営業や購買では海外との取引も多く、また政治における外交の状況や為替なども影響が大きいため、世界の政治や経済の動きにも敏感になるなどグローバルなビジネスに関わっていることを強く実感できるでしょう。
待遇
鉄鋼業界では、都市部から離れた位置にある製鉄所で働く技術職では寮が完備され、家族持ちの従業員は社宅や手当が手厚いことが多いのが特徴です。
高炉や電炉は基本的に24時間稼動しているため、シフト勤務で交代しながらさまざまな時間帯で働きます。
開発職などではテストや設備の設置などで残業が生じることも多く、知識や技術だけでなく体力も求められます。
給与水準は基本的に高めで、技術職は勤続年数に従って安定的に昇給が見られ、営業職では成果に応じて大きく昇給が見込めます。
工場でも女性の技術職が増えつつあり、営業や購買だと海外に出張する機会も多かったりと、女性にとっても魅力的な環境を作る努力が行われています。
将来性への期待
鉄鋼業界は外国企業が過剰生産によって価格を下落させたり、鉄鉱石価格の変化などの外部要因によってその売上規模が下がりつつあります。
しかし、日本企業の技術力は海外でも高く評価されており、国内の古い高炉の停止など設備の新陳代謝が進んでいる中であることを考えるとさほど心配はないと見られます。
海外の状況は気になる面がありますが、鉄鋼需要は世界的に伸びているため安定した需要が今後も見込めます。
プラントや設備の開発などソフト面を含め、日本の鉄鋼業界は高い競争力を維持し続けるでしょう。
鉄鋼業界の雰囲気
鉄鋼業界は体質が古いと言われることが多いですが、少しずつ脱却してきています。
女性従業員の採用を増やしたり、風通しの良い組織にするための組織改革やコミュニケーションの改善などが続けて行われており、体育会系で官僚主義的という雰囲気はだいぶ薄れています。
取扱金額も大きく、工場では取扱いに注意が必要なものも多いため、仕事では厳しく指摘されるところもあるのは体育会的ではありますが、上下関係に厳しいということは特別にはありません。
扱う商品が硬いためか硬いイメージをもたれやすい業界ですが、多趣味で面白い人も多いです。
体育会系の出身者が多いこともあり会社のチームやサークルでのスポーツを行う人も多いのも業界の特徴です。
職種にもよりますが、英語はある程度できないと困るため、英語の学習をしている人も多く見られます。
鉄鋼業界に就職するには
就職の状況
鉄鋼業界では組織の世代交代を見据えた採用が活発になってきており、新卒採用は毎年積極的に行われています。
大手では基本的に四大卒以上の学歴が求められますが、企業規模や職種によっては高卒や専門学校卒でも採用している場合があります。
やりがいのある仕事で、高待遇なこともあって人気の業界ですが、それだけ競争率も高く、選考のステップが他業界よりも多くなる傾向があります。
総合職では全国で募集をしていますが、技術職では製鉄所ごとに募集していることもあり、地域に根をおろして働くイメージをもって就職活動に臨むことが必要です。
選考の内外でインターンやリクルーター面談が行われることも多くなっています。
就職に有利な学歴・大学学部
鉄鋼業界への就職にあたっては、四大卒が事実上のスタンダードです。
リクルーターや大学からの推薦枠がある程度設けられていることもあり、就職するにあたっては企業内にOBが多くいる大学は有利になるでしょう。
学部学科では、鉄を扱うことから工学部で金属や素材を扱う学科の出身であれば、基本知識の飲み込みが早く、志望動機の作成の面でも有利にはたらきます。
設備やITの分野では、機械系の学部学科の出身者や、専門学校、工業高校の出身者にもチャンスがあります。
総合職では大卒以上、事務職では高卒以上の学歴があれば、就職において差はほとんどなく、本人のポテンシャルや企業との相性次第と言えそうです。
就職の志望動機で多いものは
鉄鋼業界はその志望動機を厳しく問う傾向がある業界です。
鉄鋼業界では、その仕事で取り扱う製品のスケールが大きいため、責任感をもってしっかり仕事を行う人が求められています。
志望動機では「産業を支える仕事に携わりたい」「グローバルに活躍したい」といったものが多く見られますが、「なぜそう思うのか」を面接で深掘りされるケースも多く、自分の中でどのような仕事観をもって働きたいのかを明確にする必要があります。
業界の特性上、仕事では鉄鋼にかかわる多くのプロセスの中の一部を担うことになります。
その分、鉄鋼業の全体像が見えないと自分の仕事の価値がわかりにくいため、鉄鋼業全体を俯瞰した上で志望動機を深く考えて作成することが大切です。
鉄鋼業界の転職状況
転職の状況
鉄鋼業界では、現在は経営の効率化が大きな課題となっているため、求人募集はそれほど多くありません。
転職では、地方の製鉄所を中心に各製鉄所が指定された形で募集が行われることが多く、該当地域への転居を考慮した決定が求められます。
総合職や事務職では、欠員が出た場合に募集が行われるのが一般的で、その場合は即戦力が求められるので業界経験者や他業界での職種の経験がある人が有利です。
新たに高炉や電炉が作られる場合、人員の募集が行われることがありますので、興味のある人は新聞などの情報に普段から注意しておくと良いでしょう。
転職の志望動機で多いものは
鉄鋼業界に転職する人の志望動機は「福利厚生も充実しており安定した職場である」「社会への貢献を実感できる仕事に携わりたい」などさまざまです。
鉄鋼の生産では独特の知識・技能や経験が必要となるため、他業界からの転職の場合は学ぶ姿勢や仕事に対する理解度が志望動機から求められます。
鉄鋼業界内からの転職では業務上の実力に加え、企業や製品・サービスへの理解や評価、企業との相性などが問われます。
志望動機を通して、誠実な姿勢や企業との相性をアピールすることが大切です。
転職で募集が多い職種
転職では、営業職や設備のオペレーター、ITエンジニアの募集が多く見られます。
生産に携わる職種では中途採用はあまり多くはありません。
一般の事務職などは欠員があれば募集が行われますが少なめです。
離職率が低めであることや、企業の人員削減のために社内での配置転換などが行われていることが理由と考えられます。
企業や勤務地によって状況は違うため、興味がある企業のホームページを定期的にチェックしてみると求人がある場合があります。
どんな経歴やスキルがあると転職しやすいか
鉄鋼業の転職では、特定の経歴やスキルが役立つことが多いです。
営業や購買なら、英語力があり、商社や貿易関係の会社での経験があれば海外部署への異動も可能と見られ高く評価されます。
また、別分野だとしても工場設備のオペレーター業務の経験者は生産や設備の分野で重宝されますし、IT分野ではセキュリティ技術者や、IoTを使ったシステムの構築に携わった経験のある技術者は重宝されるでしょう。
鉄鋼業界の有名・人気企業紹介
日本製鉄
1950年創業、設立。売上高6兆1,779億円、従業員数105,796名(連結・2019年3月期)
国内の粗鋼生産でトップを走る企業で、2019年に新日鐵住金より商号を変更。
船舶や自動車で使われる厚板、薄板、車軸などに強く、H形鋼や線材なども幅広く扱いつつ、チタンやステンレスなどの非鉄製品も扱う総合金属メーカーです。
海外にも多くの拠点を有する他、エンジニアリングやシステム開発なども行っています。
JFEホールディングス
1912年創業、2002年設立。売上高3兆8,736億円、従業員数62,083名(連結・2019年3月期)
JFEスチールを中心とした機械向け鋼材中心の高炉メーカーで、いち早く海外進出を行っておりインドや中国を中心に海外にも多くの拠点や提携企業を持ちます。
グループ企業には電炉メーカーや商社も多く、総合金属メーカーグループとして製造から販売までを行っています。
神戸製鋼所
1905年創業。1911年設立。売上高1兆9,718億円、従業員数39,341名(連結・2019年3月期)
「KOBELCO」ブランドを展開する国内三番手の大手製鋼メーカー。
製鋼大手の中では鉄鋼の比率が少なめで、アルミや銅などの非鉄にも強く、高付加価値の製品に強く、特に「線材の神戸」といわれるほど線材に強みを持ちます。
海外事業を推進するだけでなく、国内事業の多角化に力を入れており、オンリーワンの製品が多いのも特徴です。
鉄鋼業界の現状と課題・今後の展望
競争環境(国内・国外)
国内市場は自動車や建材などの需要はあるものの、今後は需要の低下が予想されます。
海外市場に活路を見出す企業が多いですが、生産では中国企業が過剰ともいえる生産量を背景に販路の拡大を行っており、単純なシェア争いでは厳しくなりそうです。
また世界的に経済成長が鈍化を見せており、粗鋼の消費への影響も懸念される他、鉄鋼は貿易におけるセーフガード(輸入制限措置)の対象になりやすく、輸出先によっては現地企業との競争が厳しくなる可能性があります。
最新の動向
日本では高炉などのプラントにおける技術開発が行われており、省エネや環境負荷の軽減、製鋼における作業の高速化などが求められています。
JFEが開発しているフェロコークスという原料は、銑鉄工程の速度を高め、また省エネや環境保護にも効果がある期待の技術として注目されています。
各社はハイエンド(高品質)・ミドルエンド製品の開発を中心的に行い、海外企業との差別化を行い競争優位を作ろうと取組んでいます。
業界としての将来性
鉄鋼業界は高度成長期のような成長力を失ってはいますが、今は企業再編やIT化による経営効率化が積極的に行われています。
国内市場は需要の伸びが落ちることは避けられませんが、海外向け輸出では今後も大きな期待が寄せられており、より強くなった利益体質と技術が国際的な競争力を高めるでしょう。
海外市場は世界的な景気や為替、外交上の問題もあり変数が多いですが、日本企業の持つ優位性は高く、鉄鋼業界としては海外部門を中心とした成長が見込まれています。
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