繊維業界研究・仕事内容や求人状況、今後の動向を解説
繊維業界とは
繊維業界は、繊維や樹脂、フィルムなどの製造や販売を行う業界です。
総務省の、日本標準産業分類では、繊維工業に分類され、製糸、紡績糸、織物、ニット、網地、フェルト、染色整理及び衣服の縫製など繊維製品の製造を行う事業の中の1つに属します。
衣食住の「衣」に関連する歴史のある業界で、製品を自社開発し、堅実にものづくりをする社風の会社が多いのも特徴の1つです。
繊維の開発・製造を担うことから、研究開発や生産管理、品質管理系の職種がありますが、繊維に関しての知識だけでなく、それらを応用してビジネスに生かす経験やスキルも必要となります。
近年、日本国内の衣料品の売り上げが伸び悩んでいる状況から、繊維需要は縮小傾向にあります。
同時に、中国や東南アジアから安価な繊維の輸入が増大したため、国内メーカーの競争環境は厳しさを増しており、化学繊維を扱うメーカーを中心に、価格競争力のある高付加価値繊維の開発・生産に注力しています。
その結果、航空機の機体に使われている炭素繊維や海水淡水化に使用される水処理膜などの分野では、世界の中でも高いシェアを誇っています。
繊維業界の役割
繊維業界は、古くから日本経済を牽引し、社会生活に必要な「衣食住」の一翼を担う産業です。
国内には100年以上続く老舗メーカーなど、多数の企業が存在しています。
業界で働く人の平均年齢も他の業界に比べると高い傾向にあり、古くから日本経済の繁栄に貢献してきたことがうかがえます。
しかし近年は、繊維と深いかかわりのあるアパレル業界の業績が低迷したため、製品を生産する工場や事業所が減り、繊維業界も業績不振の状況が続いています。
今後の日本の繊維業界は、国内市場の回復だけでなく、海外市場にも目を向けて日本の高品質の繊維製品を海外に広げるなど、業界変革の時期に来ています。
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繊維業界の企業の種類とビジネスモデル
繊維業界の代表的なビジネスモデルとは
衣類製造に使われる、化学繊維や天然繊維は糸や布となり、繊維製品として商品化され、店で販売されるという、大まかな業界の流れがあります。
この繊維製品の供給の流れは、川上、川中、川下と、それぞれの役割に応じて分類されています。
繊維メーカーは、繊維からアパレル製品を作るための原料となる糸や生地を製造しますので、川上に位置します。
同じく、繊維メーカーから仕入れた糸や生地を仲介する商社も、川上に位置します。
そして、糸やを衣服などに製品化するアパレルメーカーが川中、最終的に消費者に販売する小売店を川下といい、区別しています。
川上の繊維メーカーの機能
繊維企業は、それぞれの得意分野が別れています。
繊維には、化学繊維と天然繊維の2種類あり、それぞれの企業がその特色を生かして、研究開発し商社やアパレルメーカーに供給しています。
例えば、質のいいウールやシルクなどの天然繊維を紡績して供給したり、高機能な化学繊維を研究開発して商品化し、アパレルメーカーに供給するなどです。
代表的な大規模繊維メーカー
繊維メーカーは国内外に代表的な企業がいくつかあり規模もさまざまです。
国内の繊維製品の需要が減少し、生産工場や企業が減っていることもあり、外資系の繊維メーカーが日本に参入し、市場でシェアを取ろうとする動きはあまり盛んではありません。
そのため、日本国内は日系企業である、東レ株式会社がトップのシェアを誇っています。
大規模企業の資本力を利用して、さまざまな機能のある次世代型の繊維開発に注力しています。
近年ではユニクロと提携して、素材開発を積極的に行い製品化まで携わっています。
特殊技術を活用した開発に注力する中小繊維メーカー
中小規模の繊維メーカーは、特定の分野に注力した素材開発を行っている企業があります。
例えば、山形県にあるSpiber株式会社は、特殊技術により強度の高い糸を開発し、アウトドア大手ブランドの「THE NORTH FACE」とコラボレーションした、アウターを製品化しています。
多種多様な繊維を開発、供給するのではなく、今までにない機能や性質を持った繊維を開発することで、新しい需要や市場を広げる戦略をとっていることが多いのも、中小繊維メーカーの特徴の1つです。
繊維業界の職種
繊維メーカーは、製造業に属しますが、一般的に「総合職」での採用が多いようです。
総合職の中で、研究開発や、生産管理、品質管理に関わる「技術職」、営業活動や、管理業務を行う「事務職」の2つの職種での採用がされています。
技術系の代表職種:研究開発職
技術系の職種で代表的なものの1つに、研究開発職があります。
まだ発明されていない新しい繊維を開発するために、実験やデータを分析し、研究する職種です。
大手企業ですと、独自の研究開発施設を持ち、設備投資も大規模に行う場合があります。
研究開発から製品化にたどり着くまでには膨大な時間を要すため、大半を研究所で過ごすようになります。
技術系の代表職種:生産管理
繊維企業の中には、研究開発施設のほかに、自社工場を持っている企業が多くあります。
繊維製品の基となりますので、安定的な品質の繊維から糸や生地を大量に生産する必要があります。
そのため、自社工場で完全に管理し、その生産工程の全体を把握し管理する役割が生産管理です。
生産ラインの状況を随時把握し、問題が起こった場合は対処するだけでなく、不良品の発生を抑えて効率的に生産する方法を立案します。
また、決まった納期通りに、必要な生産量を確保するためのスケジュールを立案実行するなど、生産に関わる業務全般に従事します。
事務職の代表的な職種
開発や生産などの技術的な業務以外は、事務職が担当します。
繊維製品は作っただけでは売れませんので、それを商社やアパレルメーカーに紹介し、売り込む営業も繊維メーカーでは重要な職種です。
また、新開発した繊維素材をどのような市場で、何の繊維製品に使用して需要を生み出すかなどの市場調査を請け負う、マーケティングや広報などの職種も事務系の職種に分類されます。
繊維業界のやりがい・魅力
繊維業界のやりがいは、人々の生活の基本となる、「衣食住」にかかわる製品を供給する業務に携われることです。
繊維製品は、私たちの生活には欠かすことのできない必需品でもあります。
当たり前にある繊維製品ですが、新素材を開発することによって、今までにない機能や品質、製法を生み出すことで、人びとの生活を快適にする、よりよい繊維製品を供給できる可能性も多くあるのが魅力のひとつです。
繊維メーカーの平均年収は、500万円から600万円程度とされていますが、繊維を扱う企業の数は多くあり、規模も大中小さまざまです。
知名度があり規模が大きい大手上場企業から、規模は小さいですが古くからある中小企業など、経営形態はさまざまで待遇も差があるようです。
大規模企業ですと、平均年収が700万円以上となる企業があるのに対し、地方にある中小企業ですと、繊維メーカーの全体平均の年収を下回る企業も少なくありません。
また、大幅に市場が拡大したり、需要が急激に伸びることがない業界のため、既存の繊維や素材を扱う企業では、大きな業績の拡大は難しいのが現状です。
繊維はあくまで素材ですので、それ自体に脚光が浴びるということは少ないですが、身の回りには繊維を使用した製品は多くあります。
全く新しい素材を開発し、人びとが魅力を感じ購入するような製品を作ることができれば、収益は大きく伸びます。
加えて、衣料品に限らず、高機能・高付加価値繊維を作り出す動きが活発になっており、自動車や航空機のタイヤや、座席シートなど、様々な製品に繊維開発技術が応用されています。
開発を続けることで新しく製品化された素材が、世の中のスタンダードとなって普及する可能性を秘めた業界でもあります。
繊維業界の雰囲気
繊維業界の雰囲気としては、前述した通り古くからある業界ですので、堅実な社風の企業が多いといえます。
また、日本のものづくり文化を支えた産業でもあり、コツコツと品質がいいものを地道に研究開発する技術力が特徴の業界ともいえます。
そのため、大きな構造変化や、台頭する企業のポジションが大きく変化するなどは、起こりにくく、それぞれの企業の特色を生かした研究開発で各社が特徴を発揮してる状況です。
しかし、近年は、衣料品だけでなく自動車製品などに広く活用される繊維も出てきているため、常に研究心や探求心を忘れずに、最先端技術を開発していこうという流れも盛んになってきています。
今後は、ICT業界と連動するなど、全く異業種との関係を深めるなど、可能性は広い業界といえます。
繊維業界に就職するには
就職の状況
繊維業界全体を見ると、需要は減少傾向にありますが、繊維メーカーは事業進出領域を拡大していることから、求人数は大手メーカーを中心に比較的安定しています。
ただ、大手のメーカーの数は限られることや知名度があるため、就職先として人気となっており、応募者が多く競争が激しいのが現状です。
求人内容としては新卒では、総合職の募集が一般的で、入社後に技術系、営業・事務系などに配属されることが多いようです。
入社前に、繊維や素材に対しての専門的な基礎知識があるなど、他の応募者と差別化できる知識があると、入社に有利に働く場合があるでしょう。
就職に有利な学歴・大学学部
繊維業界で働くために、必ず出なければならない学部や学科は特にありません。
繊維メーカーの仕事は、大きく分けると「技術系」と「事務系」の職種に分けられますが、大きなくくりで「総合職」という名目で募集する企業もありますし、技術系や事務系を区別して募集する企業もあり、さまざまです。
技術系の職種には繊維を開発したり、製造管理をする仕事がありますので、化学や電気、機械といった理系学部の卒業生を求めるなど、あらかじめ募集する学部を絞り込む企業もあります。
しかし、多くの企業では、上記以外の学部であっても応募を受け付けており、適性をみて採用を決める傾向があります。
また、事務職については、営業や社内管理部門の職種に就くことになりますが、こちらも特に学部の指定がなく、志望動機や適性で採用を判断しています。
理系出身だからと言って技術系に採用される傾向が強いということもなく、化学の知識を活かして営業職に従事している人はたくさんいます。
就職の志望動機で多いものは
就職活動時の志望動機として多いのは、アパレルやファッション業界に興味を持っており、それに携わる機会の多い繊維業界を志望するというものです。
衣服のもとになる繊維はさまざまな種類がありますので、それらに携わり、快適な衣服や、ファッション性の高い衣服を作り出すプロセスに関わるために、繊維業界に従事ししたと考え、応募する傾向にあります。
また、少し前まではあまり見かけませんでいたが、近年は、衣服に発熱素材などの機能性繊維がよく使われており、多くの人が着るスタンダードな衣類になっています。
衣服で人々の生活を豊かにしたいという志のもと、このような新しい繊維を開発したいと考え、繊維業界に応募することもあるようです。
加えて、炭素繊維など、近年衣服以外で重宝されている繊維を、世界に広めていきたいという動機もあります。
これには、更なる技術革新や研究開発により、優れた繊維を開発する可能性が広がっており、探求心やチャレンジ精神から、応募する学生が多いようです。
繊維業界の転職状況
転職の状況
繊維業界の転職求人は不定期でありますが、あるようです。
衣料品向け繊維市場の縮小などの影響を受け、業績が大きく成長してる企業は限られていることから、盛んに求人を行っている企業は限られます。
そのため、事業拡大による増員募集というよりは、欠員補充のための募集が多い傾向にあります。
また、転職後は、即戦力人材を欲している企業が多いことから、同業他社からの転職も多いようです。
転職の志望動機で多いものは
志望動機で多いものは、他社の繊維開発における技術革新に惹かれ、転職してその事業に関わりたいというものです。
同業で働いていたからこそ他社の優位性に気付き、転職を希望する人が一定数いるようでした。
また、それぞれの企業の技術力に惹かれる以外の理由として多いのが、日用品に関わる仕事に従事したいと考える人が応募する場合です。
当たり前に使う衣類や生活用品を製造するメーカーで、その魅力を多くの人知ってもらいたいという思いから志望し、応募することもあるようです。
転職で募集が多い職種
募集が際立って多いという職種はありませんが、販売先に自社製品を売り込む営業職を募集している企業の割合が多いようです。
衣服に使用される化学繊維や天然繊維だけでなく、市場シェアを広げている炭素繊維に関しても、さらに事業拡大を狙って営業スキルのある人材を求める企業があるようです。
また、技術系職種においても、繊維を製造する施設の管理を行うエンジニアなど、専門的な知識だけでなく、経験とスキルが必要となる職種の募集がありました。
どんな経歴やスキルがあると転職しやすいか
転職で求められる知識としては、繊維に関しての専門的知識と、繊維業界での経験が重要視されます。
特に技術系の職種であれば、繊維の知識だけでなく、機械の知識など、実際に製品を開発、製造するための即戦力となるスキルが求められます。
そのため、業界未経験者ですと、狭き門となるのが現状です。
しかし、近年大手メーカーが注力している炭素繊維は、海外市場への進出が進められており、海外でのビジネス経験がある場合は、業界経験がない場合でも、採用される可能性があります。
繊維業界の有名・人気企業紹介
東レ株式会社
繊維業界でトップシェアを誇る企業で、東証一部に上場しています。
総合繊維メーカーとして日本の合成繊維ブームを作り出し、ユニクロとの業務提携を行うなど、日本のアパレル業界を牽引してきた繊維会社です。
近年は、軽くて強度が強いのが特徴の炭素繊維の開発、製造に注力しており、主力事業としての存在感が大きくなってきています。
帝人株式会社
業界第2位の規模を誇る企業で、東証一部に上場しています。
事業内容は高機能繊維、複合材料事業、電子材料、ヘルスケア事業、IT事業等、幅広く展開しているのが特徴です。
今後は、自社製品である炭素繊維や、アラミド繊維などの高機能繊維や、フィルム、樹脂などの普及に注力する傾向があり、ヘルスケア領域やIT領域でも活躍が見込まれています。
旭化成株式会社
業界第3位の企業で東証一部上場しています。
この企業の特徴は、技術領域の広さと、技術開発力です。
石油化学、機能性樹脂、繊維、電子部品、電子材料、生活製品、医療機器、医薬品など、幅広い領域で事業を多角的に展開しています。
更なる事業展開を視野に入れて、技術革新を進めており、新素材の開発や、最先端技術を駆使した製品開発などに注力することが見込まれています。
繊維業界の現状と課題・今後の展望
近年、日本国内の衣料品の売り上げが伸び悩んでいる状況から、繊維需要は縮小傾向にあります。
同時に、中国や東南アジアからの安価な繊維の輸入が増えたことにより、日本国内における繊維メーカーの競争環境は一層厳しい状況にあります。
また、日本では人口減少も相まって衣料品の国内需要が急激に回復したり、増加することは難しい状況にあります。
そのため、炭素繊維などの世界的にも評価され、需要が見込める製品に経営資源を注力する傾向にあります。
幸いにも、炭素繊維やアラミド繊維、ポリエステル繊維などの産業用の繊維の海外需要は増加しており、日本の品質の良い繊維や製造技術は一定の評価を得ています。
高付加価値の機能性繊維の研究開発と製品化が業界全体のテーマとなっており、炭素繊維で飛行機の部品をつくるなど、繊維の可能性を広げる技術革新がキーポイントとなります。
大手企業を中心に、海外企業と提携し事業展開を行う企業も増えてきています。
今後は、いかにニーズを反映した繊維を開発、製品化し、いかにグローバルな視点で事業を展開していくかがポイントとなります。
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