【映像クリエイター/ドッター】「真面目に不真面目」をモットーに作品づくりへ向き合う山下諒さん

好きを仕事にしてる人を紹介するインタビュー記事。
今回は、数多くのアニメ・ゲーム・映像などの作品を手掛け、自身もパフォーマーとして活躍されている、クリエイターの山下諒さんからお話を伺います。

映像クリエイター/ドッターの仕事内容

映像クリエイターの仕事内容について教えてください。

ざっくりと分けると、 『ディレクション』『脚本』『絵コンテ』『Vコン(ビデオコンテ)』『素材制作』 『編集』『BGM・SE選定』...など。

映像は総合芸術ですので、幅広く仕事しています。

クライアントさまのご要望に沿って、私自身の作業する項目を増やしていきます。

作品の規模が大きいほど、さまざまな人たちが関わり、分業して作業することが多いです。

最近では、YouTube用の映像の需要が高く、全ての業務を一人で行うことも少なくありません。

素材制作だけ、編集だけ、というケースもあります。

続いて、ドッターの仕事内容についても教えてください。

1.レトロゲーム風の映像を制作する
2.ドット絵の素材提供をするが
主な業務内容でしょうか。

1は映像業務の一つですが、2はかなり幅広いです。

例えば、ノベルティやプライズのデザイン、アプリ、コンシューマーのドット絵素材……最近では、VTuberのモデルなど。

「映像はこちらで制作するので、ドット絵の素材だけください!』といった依頼もあります。

これまで、どれくらいの作品をつくってこられたのでしょうか? また、代表的な作品を教えてください。

ミニマムな仕事も受けているので、作品数は数えきれないですね(笑)。

代表的な作品は『ポプテピピック(Pop team 8bit)』です。

精神的にも、技術的にも、認知度も自分を大きく躍進させた作品でもあるので、 かなり思い入れが深いです。

また、自主制作の『DOT BIT BEAT』という映像作品。

全てのキッカケを与えてくれた作品であり、いくつか賞をいただいた作品でもあるので、思い入れも深いですね。

作品づくりのスケジュール

一つの作品の制作スケジュールについて教えてください。

案件やクライアントのご希望にもよります。

例えば、アニメ『ポプテピピック』は1~12話分で約10ヵ月でした。

大学在学中に制作したので、実制作時間はもっと短いかもしれません。

MV『フィガロの結婚』『ドグマクエスト』は、大体1ヵ月半ほどでした。

さまざまな創意工夫で納期内に済ませることを実現しました。

映像関連のお仕事は休みがあまりなく「激務」のイメージが強いのです。実際は
いかがでしょうか..….?

私はフリーランスなので、働き方が少し特殊です。

アイディアに行き詰ったら仮眠やシャワー、散歩、ゲームをしています。

この生活ができるのはフリーランスならではだと思います。

一方で、オンオフが曖昧な状況になりがちです。

仕事と休日をハッキリさせたい人には少しつらいかもしれません。

映像業界の働き方は良くなったと聞きますよ! 

フレックス制の導入から、以前より自由に働けるようになったとか。

とはいえ、クリエイティブな業種である以上、無理しなければならないときはあります。

テレビのお仕事は、初回放送直前や放送中、切羽詰まっていますし、納期前も忙しいですね(笑)。

作品づくりのこだわり

どのような想いやこだわりを持って作品づくりをしていますか?

「芯を持つこと」「イースターエッグを忘れないこと」です。

「芯を持つこと」は、制作する作品に“一本軸(テーマ)を持つこと”を意味します。

今までの作品を例に挙げると、MV『ドグマクエスト/カル × ピン』は「短い期間でクオリティの高いものを創る」。

『ポケットにファンタジー 幸子とミク version/小林幸子&初音ミク』は「ゲームボーイの質感や色合い、グラフィックを完璧に再現する」。

同じようなドット絵でも毎回別のテーマを決めて取り組んでいます。

原作を壊さなければ、どんな芯でもいいと思っています。

とにかく芯を持つことによって判断基準を明確にして、アイディアの取捨選択をしやすくすることが重要だと考えています。

例えば、幅広い層にウケるコメディアニメをつくると決めたとき、「パロディや過度な下ネタはピンポイントに刺さるけど、幅広い層には刺さらない」「シュールなネタは面白いけど、子どもにウケない」、と必要・不必要の判断ができるわけです。

すると、作品が洗練されて、一貫性のある作品をつくれます。

逆に軸がブレていると、納得のできる作品に昇華できません。

「イースターエッグを忘れないこと」はいかがでしょう?

「イースターエッグ」とは、作中に関係ない遊び心やユーモアの一つを指します。

この「イースターエッグ」を取り入れつつ、原作のある案件を引き受けるときは「すでに作品のファンがいる」を忘れないように心掛けています。

例えば、アニメ『ポプテピピック』は多くのパロディが詰め込まれていますが、原作に登場するキャラクターやモノ(『ベーコンシャムシャムくん』『サブカルクソ女』など)が登場しています。

MV『ポケットにファンタジー 幸子とミク version/小林幸子&初音ミク』も、ポケモン初代を知っている方にはたまらない映像に仕上げています。

作中の草や木のグラフィックは、クライアントから素材をもらわずに、ゲームボーイと睨めっこしながら制作しました!

私は、幼少期から任天堂のゲームが大好きなのですが、任天堂のゲームにはそういった遊び心のある小ネタを入れていることが多いんです。

そんなサプライズに喜び、楽しんでいたため、同じように私が皆さまへ提供したい!と、勝手に義務感を抱いています(笑)。

ポケットにファンタジー【幸子とミク version】

ポケットにファンタジー【幸子とミク version】

映像クリエイター/ドッターになったキッカケ

もともと、映像作品やドット作品がお好きだったのでしょうか?

好きでした! 映像作品は音MAD(※)から、ドット絵はゲームから、といった過程を踏んで好きになりました。

特に、小中学生の頃に初めて見た音MADは影響と衝撃を受けました。

身内や友人の動画を面白おかしく編集したのもいい思い出です(笑)。

アニメ『ポプテピピックSP(Pop team 8bitパート)』は、音MADのエッセンスがかなり色濃く反映されていますよ。

友人の俳優・水石亜飛夢くんに制作した映像をよく見せていました。

稚拙な出来ではありましたが、見たときの反応を見るのが楽しくてたまらなかった。

「視聴者の反応を予想しながらつくる」ことを昔から意識しているかもしれません。

※音MAD…個人が既存の映像を編集・合成・再構成し、音楽のリズムを合わせた映像作品

いつ頃から現在のお仕事を目指そうと思われたのでしょうか?

すごく夢のない理由ですが、目指していた”ゲームプランナーになれなかったから”なんです。

高校3年生の6月頃まで進路を「キャラクターデザインか、演劇の道にいくか」くらいの心持で、漠然としか考えていませんでした。

本気で美術大学や短大を目指している人は、とっくに予備校へ通って死に物狂いで勉強をしています。

「デザイン系の進路を目指す!」と決めるにしても、時すでに遅しだったのです。

絵がちょっと上手くてクラスでチヤホヤされるレベルの私には到底無理な話で。

さらに、金銭的な理由で予備校に通うことすら難しかった。

そして、現実を突きつけられたのが、とある大学説明会で開催された『デッサン講座』でした。

技術的に私の2,3歩…いえ、100歩は前を歩いている生徒がたくさんいました。

鉛筆の芯をカッターで削ることすら知らなかった私は「美術大学は難しい」と悟りました。

完全に心が折れた状態で帰宅すると、QUOカードがもらえるキャンペーンで注文した、とある大学のパンフレットが机に置いてありました。

正直、そのときは大学名もキャンペーンに応募したことすらも忘れていたのですが、その大学こそ母校である東京造形大学だったのです。

パンフレットを読み進めていくと、徐々に惹かれていき、運命的な何かを感じました。

最初から東京造形大学を目指していたわけではなかったんですね。

そうなんです。

そして、説明会が近いことを知り、大学へ足を運びました。

そこで、技術がない私に、優しくユーモアのある対応やアドバイスをしてくれたのが、私の恩師である教授でした。

デッサンができない私を受け入れてくれる大学は東京造形しかなかったため、説明会がない日も顔を出し、ポートフォリオのアドバイスをもらい、教授へ必死に熱意を見せつけたのを覚えています。

そして、無事に合格することができました。

私が今の職に就けたのは、大学で楽しく学び、『DOT BIT BEAT』をつくったからだと思っています。

この作品をキッカケに『ポプテピピック』や『ドット絵ミステリー』などの映像に携わることができ、映像業界で活躍できています。

大学4年生では「ゲームプランナーになる!」と志し、就職活動を開始したものの、あえなく撃沈……。

結局、今まで大学で培った技術を活かせる映像会社へ内定が決まりましたが、会社に勤め始める前に『ポプテピピック』の放送が開始。

そこからさまざまなご縁や出会いがあり、フリーランスとして独立しました。

目指していた仕事に就くことはできなかったものの、今の仕事に運命的なモノを感じていますし、今の仕事で良かったと思っています!

映像クリエイター/ドッターのやりがい、つらさ

クリエイターの活動をする上で、どのようなやりがいを感じていますか?

3つあります!

1.作品が完成した瞬間
どんなクリエイティブでも、完成したときの快感は何にも勝るものがあります。

制作初期は「これ面白いのか?」「本当にできるのか?」と暗中模索な時期が続くのですが、ふとした瞬間に「あ、これ絶対面白い!」と確信に変わる瞬間があります。

それが溜まりません(笑)。

つくっている最中に、面白いと思うわけですから、完成したときは楽しくないわけがないのです!

2.視聴者・クライアントの反応を見たとき
視聴者さんやクライアントのみなさんが笑ったり、関心したりする姿は見ていて心が踊ります(笑)。

演劇をやっていたこともあり、観客の反応にはかなり敏感なのです。

3 過去の作品を見返すとき
半年に一度くらいの周期で、学生の頃から現在の作品にかけて、過去の映像を見返したくなるときがあるんです。

「成長したなぁ」と感じられるときもあれば、「なるほど!この手があったか!』と過去の自分に学ぶこともあります。

そういう懐かしい思い出や余韻に浸る瞬間がたまらない(笑)。

逆につらいな、大変だな、と思うことはありますか?

アイディアが思いつかないときは、本当に地獄のように苦しいです(笑)。

地図がない中、砂漠を歩いているような感覚で……

「納期が迫っているのに何も思いつかない」この現実が突きつけられると、逃げたくて仕方ないです。

また、企画や演出をスタッフや制作チームに伝えることは本当に大変です。

一人ひとり生きてきた環境も違えば、感性も違います。

「Aの案はめちゃくちゃ面白いけど、Bの案は全く面白くない…」と思っても、「B案が面白いから、そちらで制作お願いします!」なんてことも多々ありますし(笑)。

特に、『ポプテピピック』は企画がかなり特殊で、コアなファンにしか分からないネタや演出をたくさん入れ込んだため、理解いただくのに一苦労でした(自分のワガママに寄り添ってくれるスタッフの皆さまにはいつも大変感謝しています……)。

基本的に大変でつらいことが多いのです。でも、上手くいったときや完成したときの喜びが勝ります!(笑)

(C) ⼤川ぶくぶ/⽵書房・キングレコード

クリエイターとしての目標

今後、クリエイターの活動を通して目指していることを教えてください。

中・高・大と続けてきた演劇を活かした、新しいクリエイティブやイベントをしていきたいと思っています!

また、多くのクリエイターや企画者の皆さまに支えられて、今の自分があると思っています。

そんな方たちへ恩返しの意を込めて、さまざまなクリエイター支援活動をしていきたいです。

「自分よりすごい作品をつくるのに、なぜ評価されないんだろう」と感じる方も多いので、作品紹介や自己紹介の場をもっと増やしていきたいですね。

現在活動している『てぃーなずラジオ(※)』もその一環です。

「クリエイターが作業しながら聴くのにちょうど良いラジオ」を目指しています。

自分がクリエイティブの発起人になり、知見や経験、ご縁を増やし、そこで得たさまざまなモノを使って、クリエイターの支援活動を行っていく。

それが今の私が目指したい境地です。

※『てぃーなずラジオ』…山下諒扮する『まこってぃーな』を中心とした、ティーナ族が毎週火曜日 20:00- に行っているYouTubeラジオのこと。

好きを仕事にしたい人に向けてメッセージを

最後に、好きを仕事にしたい方へメッセージをお願いします。

クリエイター向けのアドバイスになってしまいますが……

私の座右の名は「真面目に不真面目」です(某児童書の言葉をお借りしています)。

私は、大学入学当初、相当な落ちこぼれでした。

アニメーションを学ぶ学科に在籍していましたが、前述の通りデッサンを全くせずに入学したため、周りと比較して絵の技術は致命的にありませんでした。

真っ向から絵の上手さで勝負すると、確実に周りに負けてしまう、劣等性として4年間過ごすことになってしまう、と感じました。

そこで、端から絵の技術勝負の土俵に上がらなかったのです。

自分の得意分野を織り込んで勝負しようと考えました。

私の得意分野は、“演劇”と“ゲーム”でした。

やや捻くれたやり方で同級生と差をつけました。これこそが「不真面目」です。

とはいえ、このやり方だけだと「捻くれ者」のレッテルが貼られてしまいます(笑)。

そのため、まっすぐひたすら「真面目」に課題や仕事をこなしました。

「真面目」に作品を完成させました。

「この作品はどうすれば楽しんでもらえるか」「問題をどう解決できるか」「納期まで最大限できることは何か」このような悩み、苦しみ、考え抜いた経験は、「真面目」に作品を完成させることでしか得られません。

例えそれが失敗だとしても、「失敗した経験」と「成功する方法」を得ることができます。

このように「不真面目」なコト・モノ・考え方で、「真面目」にこなす。

これが私の生き方であり、今の仕事に就けている理由だと思っています。

ただ、全員が納得する生き方ではないですし、間違いなくある程度の基礎技術は身につけた方がいいと思います。

過信はほどほどに!

「真っ向から勝負する方法もあるけど、少し考え方を変えてみると新しい世界が見えてくるかもよ!」という話でした。

山下さんの考える映像クリエイターに必要な3つのスキル

1. 大胆な心配性
私はかなりの心配性です。

「このクオリティで提出して大丈夫かな?」と疑問を常に抱きながら制作しています。

「クライアントや視聴者に愛想をつかれないように」といい緊張感を持つことは大切です!

一方で、心配性になり過ぎて、「これに挑戦するのは今はやめておこう」と新しい挑戦を諦めてしまうのはもったいない。

時には大胆な決断が成長を促すこともあるので、程よいバランスで仕事をするのが良いでしょう。

2. サプライズ精神
どうすれば視聴者やクライアントの度肝を抜けるか、面白いと感じてもらえるか、笑ってくれるか、驚いてくれるか、納得のクオリティか……

見た人の顔を創造しながら企画やアイディアを盛り込みましょう!

意識的に盛り込んだアイディアが思った通りの反応をもらえたとき、嬉しさは倍増。

逆の場合でも反省点として次の作品づくりに活かせます。

3. 誇りを持ちつつ、謙虚であれ
人に好かれるような誠実・謙虚な人間でありつつ、自分の業務に誇りを持てる人間になりましょう!

私の経験上「私はまだまだ」と自然に言える人は、「私よりすごい人が沢山いますから」と言っていることが多いです。

要するに高い向上心を持っている人が多いのです。

逆に「自分すごいから!」と軽率に発言する人はいくら技術力があっても白い目で見られます(本当に技術力があれば上に伸し上がれますが…)。

私は、人並み以上に謙虚・誠実であるべきと思います。

しかし、あまりにも実績を否定すると魅力は伝わり切りません。

実績はクライアントからいただいたものですし、誇りを持って紹介しましょう。

作品はクリエイターの名刺ですから。

映像クリエイターは技術的な面に目が行きがちですが、それ以外で大切にすべき点があります。

スキルというよりは心掛けに近いかもしれません。

いろいろ書きましたが、クリエイティブには正解も不正解もありません。

多くのベターが存在する世界と感じます。

自分の信じる道を突き進めば良いのです。

ただ、そこへ視聴者・クライアント・スタッフ・仲間・家族……自分以外の人間が多く関わっていることを忘れないようにしましょう。

自分よがりにならないことを意識しながら、楽しくクリエイティブ活動をしてみてください!これを読んでくださった皆さまの夢が実現しますように!

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