【酢ムリエ®】「酢にまみれた60年。酢を売るのが定めでした」ソムリエブームの先駆者 内堀 光康さん
今回は、ソムリエブームの先駆者である酢ムリエ・内堀 光康さんからお話を伺います。
酢ムリエ®の活動内容
『酢ムリエ®』とはどのような職業でしょうか?
定義は「酢の選び方、楽しみ方のご案内役」。
「酢って、美味しいもの、楽しいもの」と語っていただけたら、あなたも立派な『酢ムリエ®』です。
酢の普及運動を「酢ムリエ®活動」としようとしています。
ただし、プロの酢ムリエ®として営利活動が伴うものは、私の方で審査しています。
また、プロの酢ムリエ®は新しい酢の味も造らなければなりません。
それには、酢にするためのアルコール発酵という免許が必要です。
自宅で簡単に許可なく酢は造れないのです。
簡単にプロの酢ムリエ®と名乗ることはできないのですが、酢の楽しさを語ってくれる人はみんな『酢ムリエ®』と思ってください。
酢ムリエの具体的な活動内容について教えてください。
1. 月1〜2回以上は酢ムリエ®セミナーを開催
酢は、アルコール分に酢酸菌が働いてできています。
その原料となるアルコール分は、甘い物に酵母が働いているのです。
つまり、甘い味をどうやって造り出すかが、美味しい酢を造り出すコツ。
そういった酢の造り方をわかりやすく説明したり、酢の使い方のコツ・味わい方のコツなどを紹介したりしています。
2. 酢の原料となる甘い味の新素材の開発
フルーツの果汁は、甘みを持っているものが多くあります。
そこで、世界中のフルーツを酢に発酵させて見たいと思っています。
写真は、カカオ豆を包むカカオパルプと呼ばれる果肉をしぼって、果汁を入手しようとエクアドルに行った時のものです。
その他、オーストラリアへマスカット・オブ・アレキサンドリアを探しに行ったり、
酢の原料となる蜂蜜の養蜂場をカナダまで訪問したり、
タスマニア島のレザーウッドハニーを探しに行ったり、
マンゴスチンの収穫に行ったりと、
酢の原料の産地まで世界中を訪問し、原料となる甘い味の新素材の開発に取り組んでいます。
3. 酸味をつけることを目的としない酢の使用方法の開発
3年ほど特に力を入れている酢の使用方法は、スパイスの味を引き立てる使い方です。
4. 塩を全く使わないで美味しい料理を食べることができる「ソルトフリークッキング」の提案
酢が塩の代わりをする使い方ではなく、素材の味を引き出す酢の使い方の紹介であり、素材が素材を味付けする新しい概念の料理方法です。
酢ムリエ®のモットーは、「酢は酢の上に酢を造らず、酢の下に酢を造らず」です。
私は酢であれば、それぞれの酢の役割を見つけることが大事だと思っています。
良い酢、悪い酢、普通の酢はないと思っていますので、酢の序列をつけることは基本的に行っておりません。
酢ムリエ®の収入
上記の活動内容が現在の収入に結びついているのでしょうか?
収入に繋がる活動を大きく分けると3つあり、その中に上記の活動内容が含まれるというイメージです。
1. 酢の魅力を紹介する
酢の魅力を紹介することで、お店での商品販売につながります。
よって収入に繋がります。
2. 新しい酢の魅力を発信、新しい品種の酢を製造する
新しい酢を製造し、その酢が売れたら収入になります。
3. セミナーを開催する
最近、酢ムリエ®セミナーの依頼が多岐の分野からくるようになりました。
一番多い依頼先はデパートなどの商業施設ですが、住宅ハウス業界からの引き合いもたくさん経験しました。
金融機関のセミナー依頼もあります。
奥様の意見が大事になる業界では人気です。
また、公的機関のセミナーも多くなりました。
医療機関の事務長会議で酢の店を作ってきたマネージメントの話や教育委員会でのセミナー依頼も増えています。
どのような想いを持って、酢ムリエ®の活動をおこなっているのでしょうか?
私は「世界で一番酢を愛している」と自負しています。
「酢の味が好き」という愛し方ではなく、「酢が私の人生を作っている」といっても過言ではありません。
常に酢を考え、常に酢の魅力を紹介したいと。
そのため、「酢の文化を創造しよう」と思って取り組んでいます。
酢は酸味をつけるだけを目的とした調味料ではありません。
酢は世界最古の調味料と言われています。
人は酸味を感じると、自然に腐敗の危険を察知して、身を守るために食べないようにしようと脳が働きかけます。
しかし、酸味は食べ物の味を美味しくまとめる力が備わっています。
だからこそ、本能的に避ける味の酸味ではありますが、人は酢をつくってきました。
人間の舌にとって、酢の酢酸は、果物の酸味のクエン酸や、乳酸の酸味よりも甘く感じます。
自然界に存在するどの酸味よりも酢は美味しく感じます。
一口に“酸味”といっても奥が深いです。
酢の魅力を多方面から紹介することができるのは、数々の酢を造り続けて来た酢ムリエ®でなければできない仕事と思っています。
酢を売ることよりも、「酢の美味しさを紹介したい」と思ってする仕事だからです。
酢を好きになったキッカケ
そこまで「酢」を想うようになったキッカケを教えてください。
私の生まれた家が、酢を造っていたからです。
酢の試作品は、幼いときから毎日のように食卓に登場していました。
「どっちの酢がこの料理には美味しく感じる?」「この酢はどんな味がすると思う?」と毎晩聞かれながら、酢を食べて育ちました。
田舎だったため、小学生のころは工場によく友達を引き連れて「かくれんぼ」をしました。
酢の桶のうしろに隠れると、それぞれ酢の違う香りがして面白かったです。
そんな生活だったため、生まれた時から酢の会社に就職していたと思っているぐらい。
この2月で満59歳、数えの60歳になります。
酢にまみれた60年というところでしょうか?
これまで、酢の仕事をしたいと思ったことはありません。
自然に酢を造り、酢を売るのが自分の定めと思って生きてきました。
「酢」以外に好きなことはなかったのでしょうか…?
旅行が好きなのですが、それも酢の原料探しの旅に役立っているんです。
どこに行くのも負担に思ったことはありません。
夜行の飛行機で果物の産地に行き、夜行の飛行機で帰国したことも何度かあります。
その時間が一番贅沢と思っています。
アルゼンチンやチリも北海道に行く感覚で訪れます。
産地訪問に気軽に行くことができるのも私の特技の一つです。
世界規模で酢の原料を探します。
日本はお米を主食とします。
だから、食べるお米とお酒用のお米と同じお米でも細分化されています。
特に欧州では果物をたくさん食べますから、加工用のフルーツの世界も日本とは比べ物にならないくらい様々な果物があります。
そして、しぼり方にもたくさんのノウハウがあります。
産地を訪れることは発見の連続なのです。
楽しくてたまりません。
酢ムリエ®を名乗り始めた経緯
酢の仕事の中でなぜ『酢ムリエ®』を選んだのでしょうか?
「酢ムリエ®」という言葉は、私が最初に思いついたのではありません。
売り場に立って毎日酢の説明をしていたところ、たまたまネクタイを蝶ネクタイに変更したとき、いろいろなお客様から「まるでソムリエのように感じます。酢のソムリエだから、酢ムリエ®と名乗ったらいかがですか?」と言われたことがキッカケになりました。
名付け親がいたということですね。
そうなんです(笑)。
最近では「何々のソムリエ」と表現をすることが日常化されていますが、実はソムリエブームの先駆者が『酢ムリエ®』だったんです。
酢ムリエ®を名乗ると決めたとき、ソムリエ協会に問い合わせをしました。
「ワインの勉強家たちが真剣にその資格を得ようとして勉強している『ソムリエ』の資格がある中、『酢ムリエ®』を名乗り、酢の普及活動をすることが、ソムリエの皆さんの活動を冒涜するものにはならないか心配です。いかがでしょうか?」と。
すると、ソムリエ協会からは「ワインでなくとも商品の普及にソムリエを連想していただけるような活動はむしろ歓迎です。頑張ってください。」と返事がきました。
そのため、自信を持って商標申請をし、登録が認められました。
2003年9月号の週刊文春にも取り上げられています。
酢ムリエ®の楽しさ、つらさ
酢ムリエ®の活動をする上で、どのような楽しさを感じていますか?
酢の美味しさを紹介する仕事は発見の喜びの連続です。
新しい酢ができて、新しい用途が見つかったときの喜びは一入(ひとしお)。
でも一番は、お客様から「美味しかったわ」と言われると、どんなに身体が疲れていても、元気になります。
お客様の「美味しい笑顔」を見ることができたら、最高に幸せの気分にひたれます。
そして何より「ありがとう」と言われたら涙が出ます。
「全てこの一言のために生きていた」といっても過言ではありません。
多くのお客様が、酢は美味しいとは思われておりません。
それだけに酢が好きになる機会を自分が作ることができるこの仕事にむしろ感謝しています。
好きなことをすることが仕事になるわけです。
逆につらいな、大変だな、と思うことはありますか?
「絶対にこの酢の使い方は新しい!美味しい!」と自信を持ってお客様が喜んでくれると出しても、外れるときがあります。
また、その多くの時間と労力をかけた割に、お客様の感動をたくさん得ることができない時もあります。
その時は凹みます。
たくさんの時間とたくさんの人の協力を得て新しい酢が生まれ、新しい用途が登場します。
自分一人の力ではできることは限られています。
たくさんのお金も使います。
美味しくできるまで新しい酢を作り続けていきたいと思っていますが、先の見えない開発にはみんなモチベーションが落ちていきます。
情熱と粘り強さをスタッフと共有し続けることは本当に難しいです。
でも、その先にお客様の笑顔があります。
まだ完成途中の商品もたくさんあります。
諦めるわけにはいきません。
開発にはチーム力が必要だと常に感じています。
酢ムリエとしての目標
今後、酢ムリエの活動を通して目指していることを教えてください。
お客様が「酢の新しい種類や新しい用途を体験できる場」を用意してみたいと思っています。
酢が減糖に役立つと説明を受けても実際に食べないと、イメージが掴めません。
塩を使わないでも美味しく食べることができると説明しても、食べてみないとその実感は掴めないのです。
セミナーを受けてみないとその体験はなかなかできない現状があります。
なので、将来的には酢の新しい機能を体験できる場を作り上げていきたいと考えています。
もっと酢を身近な物にしていきたいです。
「普段の暮らしにいつも酢がある」
と思ってもらえるように、酢をもっと自然なものにしていきたいと考えています。
ただ、飲み物には普通に酢が使われるようになってきました。
デザートにも普通に酢が使われ、やがて酢は塩と同等のようにどんな食材にも必ず使われる時代がやってくると予測しています。
酢の味は年々進化しています。
もう「鼻にツンとくるのが酢の味」というイメージは、あと少しでなくなることと思いますよ。
好きを仕事にしたい人に向けてメッセージを
最後に、好きを仕事にしたい方へメッセージをお願いします。
好きなことに打ち込むためには、周りの人の協力が必要です。
いつも自分を支えてくれる人がいたからこそ、いまの私が存在できます。
その協力を得るためにも、好きなことを誰よりも、人一倍深く考えて生きる必要があると思います。
大事なのは、「情熱を持ち続けること」「全て好きなことを中心に考える暮らしを実際にしているかどうか」です。
また、好きなものには、おおよそ嫌いな人も現れます。
そのときに、嫌いな人の存在にも感謝できる、心の大きさを持つことも大事だと思います。
そして、一番になっても開発意欲を持ち続けることも大切です。
しかし、常にさらに上を行く人が出てきます。
そのときは、同じように高みを目指すか、好きなことの延長線で違う角度の一番、を目指します。
常に一番を取り続けるコツは、「競争しないで自分の畑を作り続けること」だと思います。
好きなことを仕事にすることは私の場合、常に自分との競争だと思っています。
内堀さんから教わる3つの酢の魅力
1. 香りを自由に操ります
人にとって、好ましいと思う香りを引き上げます。
そして嫌な香りは消してくれます。
青魚(コハダやサバ)に酢をかけると青臭い香りは消えます。
しかし、オレンジに酢をかけるとオレンジの香りを引き立たせます。
こんなことができるのは酢を置いて他にないと思っています。
2. 学習効果の味
酢は酸味を持つことから、初めて酢を味わう時には自然に拒絶反応を示すことが一般的に人間の持つ本能と言われています。
ところが、酸味を直接的に感じない酢の食べ方に慣れると、段々と酸味の役割を理解できるように、やがては酢が好きになってきます。
こうして、慣れ親しむ程につれ、好きになる味を学習効果の味と言います。
そして徐々に酸味の奥に隠れている酢の持つ味わいがわかるようになってきます。
すると酢の味の違いが理解できるようになり、ますます酢が好きになってくるようになり、やがて何にでも酢をかけて食べたくなるほどです。
飽きることなく、酢に近づけば近づくほど、酢が好きになってくる。
それは酢特有の持つ魅力だと私は思います。
3. 健康に貢献します
酢の血液の流れを良くする機能は、人間の細胞に血液をよく流し代謝を良くすると考えれば、それは生まれたての赤ちゃんと同じ状態に近づくと考えることもできるのではないか?と思っています。
人間が本来持っている治癒力を高め、肌のコンディションもよくなるとすれば、酢を飲むことはアンチエイジングを高めることにつながると考えています。
つまり若さをできる限り持続する方法の一つに、酢を食べることがあるような気がしています。
そして、酸味はリフレッシュに貢献してくれます。
酸っぱいを食べてリフレッシュ!それは心の健康に繋がると考えています。
身体と心に貢献できる食品。
それが酢の良いところではないでしょうか?
補足:酢が好きになるコツ!それは少しずつ何にでも使っていくことです。
酢の苦手な人は酢をたくさん使いすぎているような気がします。
ほんの少量をあらゆる食材に箸で塗るような量を使ってみてください。
酢の味は酸っぱい酢です。
つまり酢パイスとしての使い方を試してみて下さい。
酢の新しい味わいを発見できると思います。
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