ニッチとは
市場の特性を指すことが多い言葉ですが、どのような意味で使われているのでしょうか。
用語の由来にふれながら、ニッチといわれる市場の特性やマーケティングにおけるニッチ戦略、成功事例についてみていきましょう。
ニッチとは
ニッチは「隙間」の意味で使われるマーケティング用語です。
ある市場において隙間程度のニーズに応えるサービスを展開する市場や、大企業が参入しにくい小規模な市場のことです。
ニッチには「マニアック」「メジャーではない」という意味もあり、「まだ誰も気づいていない、有望な隙間」を指すケースが多くみられます。
そのような市場はニッチ市場(ニッチマーケット)と呼ばれ、ニッチ市場で展開する事業のことニッチビジネス(もしくはニッチ産業)と呼んでいます。
他にも、ニッチサービスやニッチ商品などニッチにまつわるものは、「ニッチ○○」と呼ばれることが一般的です。
ニッチの由来と2つの意味
ニッチは英語の「niche」に由来していますが、マーケット用語で使われるニッチはnicheの直訳ではありません。
英語のnicheにはいくつかの意味があり、中でもマーケティング用語は2つの意味からきているといわれています。
1つ目は、生態学のniche。
生態学では、「適したところ」という意味をもつ用語としてnicheが使われています。
「種間競争をせず、生き残るための最適な立ち居地」のことで、この意味が発展して「市場競争の中で生き残るためのポジション」をニッチと呼ぶようになった説です。
2つ目は、建築物のへこみを意味するniche。
建築物に限らず、狭い場所に対して表現する言葉としても使われていたため、そこから発展した説です。
市場に隙間(ニッチ)ができる理由
基本的に大手企業は、十分な収益が期待できる規模の大きな市場で事業を行っています。
その中でも、もっとも大多数の需要に対してサービスを提供していることが一般的。
顧客ニーズは多様ですが、小さいニーズの一つひとつに応える細かいサービスまでは行わないことがほとんどです。
市場シェアをもっとも多く占める企業のことをマーケットリーダーと呼びますが、マーケットリーダーは大多数のニーズを狙っています。
当然、2番手、3番手の企業も大多数のニーズを奪うために競争を行います。
それによって市場に残るのは、少数のニーズ。
他の企業が奪い合わない、市場の隙間が生まれるのです。
もうひとつのニッチ市場
大手企業の特徴は他にも、新しい市場や小さい市場に対して消極的な姿勢であることが挙げられます。
投資に見合う収益が上げられないことは、大手企業にとって非常に大きなリスクになるからです。
仮に参入することになったとしても、時期は収益を確保できる見通しが立ってからでしょう。
それも十分な準備をしてからになるはずです。
たとえ有望でも、潜在的な市場にはしばらくの間は大手企業が不在になるのです。
そういった市場も、まさにニッチ。
いち早く参入した企業が、他社との競争を避けて事業を展開することができます。
ただし規模があまりにも小さい場合には事業の継続が難しいため、たとえニッチでも市場としては成立しません。
有望な市場をいち早く発見し、市場を確立できた場合にニッチ市場と呼ぶことができます。
「ニッチ」の注意点
ニッチは前述のとおり、すでに存在する市場の隙間を指す場合と、他社がまだ参入していない新しい市場(=市場自体が隙間)を指して用いる用語です。
隙間の意味は共通していますが市場としては少し特性が違うため、意味を混同しないように気をつけましょう。
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ニッチ市場を攻める「ニッチ戦略」
同じ市場で中小企業が大企業と戦う場合、大企業と真っ向勝負をすると厳しい戦いを余儀なくされるでしょう。
規模も資本力も圧倒的な差があるからです。
マーケティング論で有名なアメリカの経営学者、フィリップ・コトラーが提唱した市場競争のための戦略論では、戦い方のひとつとしてニッチが着目されています。
ニッチ戦略とは
コトラーが提唱した「競争地位戦略」では、自社の戦略的な地位(立場)を明確にすること、そして地位にあわせた戦い方をする必要性を説いています。
戦略的地位は、「リーダー」「チャレンジャー」「フォロワー」「ニッチャー」の4つ。
ニッチを攻めるのが「ニッチャー」です。
ニッチャーは、大手企業が魅力を感じない、もしくは気づいていない特定の市場を攻め、地位を築くことが戦略。
ターゲットや事業展開の地域、商品、流通チャネルなどを絞る、もしくはある分野に特化して戦います。
ニッチ市場を開拓できれば、競争せずに戦えるだけでなく、独自の地位を築くことができます。
万一、他の企業があとから参入してきても、後発組が市場シェアを奪うことは容易ではありません。
他の企業が参入を避けるほどの市場になれば、ニッチ戦略の完成ともいえるでしょう。
ニッチでも大きな市場「グローバルニッチ」
ニッチが隙間といわれることからもわかるとおり、ニッチ市場は市場全体でみれば規模の小さい市場です。
ところが、ニッチ市場がすべて小さい市場規模かというと、実際はそうではありません。
現代のビジネス環境は、グローバル化が進んでいます。
世界規模でみたときには、ニッチ市場でも非常に大きなビジネス規模になることが少なくないのです。
例えば、焼き鳥に串を刺す「串刺機」を製造する、神奈川県のメーカー。
従業員が十数名の会社ですが、「串刺機」という非常にニッチな市場で世界シェア90%を誇り、業界では圧倒的な地位を確立する有名メーカーです。
世界におけるニッチ市場を「グローバルニッチ」と呼び、企業規模に関わらずグローバルニッチ戦略で戦う企業は多数存在しています。
ニッチ戦略の成功事例
ニッチの意味と市場について、理解できたでしょうか。
ニッチ戦略での成功事例はいくつかありますが、ここではコンビニエンスストア業界にスポットを当てて事例を紹介します。
ナチュラルローソン
健康志向の顧客、中でも女性をメインターゲットとするニッチ戦略で店舗を展開。
コンビニエンスストアを利用する消費者の一部にみられるニーズをつかんで、継続的に成長を続けています。
セイコーマート
事業エリアを北海道に絞ってコンビニエンスストアを運営。
一般的なコンビニエンスストアよりも地域とのつながりが強く、きめ細かいサービスが特徴です。
地域密着型の事業展開によって圧倒的な知名度と信頼を獲得し、大手コンビニエンスストアが参入しにくい市場を作ることに成功しました。
この記事のまとめ
ニッチ市場向けのサービスは、小資本・少人数でも始められるビジネスが多くみられます。
そのため中小企業や個人事業主が開始し、地位を確立するケースも少なくありません。
将来的に有望な市場や、既存市場でまだ満たされていないニーズを発見できれば、成功するチャンスが大きくなるというわけです。
ただし、一時のブームによるニーズや、簡単にマネできてしまうビジネスモデルであれば、継続的に事業を行うことは難しくなります。
また国内では多くの既存市場で成長の鈍化がみられることから、これまでとは違った動きをみせる大手企業が増加しており、ニッチ市場をとりまく環境も時代とともに変化しているようです。
ニッチの発見は簡単ではありませんが、日ごろの生活の中にニッチを見つける視点をもっておけば、身近なところに隠れる有望なニッチをみつけることができるかもしれません。
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