生活相談員の理想と現実・目指す人へのメッセージ
これをお読みの方は、生活相談員になろうと思っている人や生活相談員の仕事に興味のある方だと思います。
生活相談員に限らず福祉の仕事は、「人の役に立った」と感じることができるいい仕事です。
その一方で、志を高く持って福祉の仕事、そして生活相談員という職種を選んだとしても、その現実を知って心が折れてしまうことがあるかもしれません。
ここでは、わたしが実際に生活相談員として働いてきた中で感じた「理想と現実」について、お伝えしたいと思います。
生活相談員になる前に読んでおいて損はありませんので、ぜひご覧になってください。
すべての利用者を助けることができない
生活相談員になりたい動機は人それぞれですが、この仕事を選ぶ人の多くは「困っている人を助けたい」という気持ちを持っているかと思います。
しかし、いくらそういった気持ちを持っていても、すべての困っている人を助けることはできないというのが現実です。
その理由は、たとえあなたがどんなにその人を助けたいと思っても、あなたの所属する介護施設的に「利用NG」を出さなければならないことがあるからです。
例を挙げて説明しますね。
あなたはデイサービスの生活相談員です。
あなたのところに高齢の女性が相談に来ました。
聞くとその女性の夫であるAさんについての相談でした。
Aさんとその妻はふたり暮らし。
Aさんには重度の認知症があります。
今まで数ヵ所のデイサービスを利用しましたが、Aさんは認知症の周辺症状により他者とのトラブルが絶えず、いつも他の利用者に暴言を吐き、迷惑をかけてしまうそうです。
その結果、どこのデイサービスも利用停止になってしまったということでした。そのため妻は一日中Aさんにつきっきりで、休む暇がないそうです。
妻は困り切った表情で、あなたにこう言います。「お願いします。デイサービスにさえ行ってもらえればなんとかやっていけると思うんです。どうか助けてください。」
妻からの話を直接聞いたあなたは、「なんとかして助けたい」という気持ちになると思います。
しかし、複数のデイサービスから利用停止を受けている人です。
あなたのデイサービスを利用してみたところで、他の利用者が嫌な思いをすることは目に見えています。
つまり、Aさんひとりを受け入れることで、その他大勢の人が迷惑を被ることになる、というわけです。
いくらあなた自身が「助けたい」と思っても、施設としては「はい、わかりました」とすんなり答えることはできません。
「そういう状態での受け入れは難しい」と、施設側が利用をお断りしたとしてもなんらおかしくはないでしょう。
このように、「個人の利益よりも介護施設全体としての利益を優先しなければならない」のが、生活相談員のつらいところです。
わたし自身、AさんやAさんの妻に対してどうしても感情移入してしまいます。
生活相談員は相手と直接顔を合わせて話していますので、情が湧いてしまうものです。
だからといってAさんがうちのデイサービスを利用することになったら、それにより他の利用者の人たちが嫌な思いをしてしまいます。
ですから、生活相談員としてAさんが「利用NG」であることを伝えなければなりません。
このとき、「自分は困った人を助けるために仕事してるのに、なんでこの人を助けられないんだろう」と、自分の無力さを思い知らされます。
生活相談員は施設の窓口である以上、こうした仕事の矢面に立たされます。
つまり、「利用をお断りする」というような業務から逃れることはできません。
いくら「困っている人を助けたい」と思っても、現実には助けられないということがあるのです。
相手を不幸にしてしまうこともある
介護の仕事と聞くと、「人を幸せにできるいい仕事」というイメージがあります。
もちろんそれは介護の仕事のひとつの側面ですが、その一方でときには「相手を不幸にしてしまう」こともあります。
代表的な例として、介護サービスの利用中、利用者にケガをさせてしまうということが挙げられます。
骨のもろい高齢者は、転んだだけでも骨折してしまうことが多く、そうなると病院へ入院になります。
手術をして入院前のように動けるようになることもありますが、手術は成功したけど歩行に支障をきたすことや、筋力が戻らなくて寝たきりとなることも多いのです。
このように、せっかく利用者を幸せにするために介護サービスを利用してもらったのに、不幸にしてしまうという真逆の結果を作り出してしまうこともあるのが現実です。
生活相談員は介護施設の窓口ですから、このようなとき施設の代表として利用者や家族と直接関わっていくことになります。
それが生活相談員の役割なのです。
「なんでこんなことになったんだろう…」や「こんなことになるなら利用させなければよかった…」と言う利用者やその家族に直接相対するのは、けっこうメンタルがやられます。
さらにつらいのは、このような転倒事故は完全に防ぐことができないということです。
どんな手を尽くしても、人間である以上ケガをすることは避けられません。
ましてや筋力や認知能力の低下した高齢者です。動けないように拘束でもしない限り、ケガを100%防ぐことはできないでしょう。
もちろんそれは現実的な対策ではありません。
つまり、生活相談員という仕事をしている以上、利用者や家族の悲しい顔を見るのは避けられないということです。
わたし自身、このようなことを何度も経験していますが、正直言って慣れるものではありません。
その都度、心に大ダメージを負います。
「自分たちの提供した介護サービスのせいで、相手の人生を悪い方向へ変えてしまうことがある」ということは、覚悟しておかなければなりません。
そして施設の窓口である生活相談員には、その際に本人や家族の矢面に立つ役割が常について回ります。
つまり、生活相談員は利用者やその家族の悲しみを、一番近くで感じ取ることになるのです。
「生活相談員になってみたけどこんなはずじゃなかった」と思う前に、このことは知っていてほしいと思います。
それでも生活相談員を目指す方へ
どうですか?
「生活相談員ってけっこうしんどい」と思われた方や、「こんな仕事やりたくない」と思われた方、生活相談員の現実を知って様々な感想を持たれると思います。
しかし、逆説的になりますが、利用者やその家族からのネガティブな感情に触れたとき、きちんと心にダメージを負える人こそ生活相談員に向いているとわたしは思います。
ダメージを負い過ぎるのでもなく、ダメージを負わなさ過ぎるのでもなく、“きちんと”ダメージを負うというのがミソです。
生活相談員はモノを相手にしているわけではありません。
人を相手にしています。である以上、人の感情に適度に共感することができないと、この仕事は務まりません。
あなたの持つ「他人に共感できる力」は、きっと誰かの役に立つとわたしは思います。
生活相談員は、理想と現実のギャップにジレンマを感じることはありますが、苦しみもがきながらも「人の役に立ってるな」と感じる機会は多いと思います。
精神すり減らされる仕事ですが、あなたの人間としての感受性を生活相談員として活かしてみてはいかがでしょうか。
頑張ってください。応援しています。