管理栄養士が看取りケアを行う上で大切なこと
「人生の最期をその人らしく過ごして欲しい」
管理栄養士として特別養護老人ホームで働いていたとき、看取りケアに携わる機会がありました。
食は生きる喜びでもあり、心の栄養にもなります。
そのため、看取りケアの場面では心の満足度に重点をおくことが大切です。
今回は、管理栄養士として看取りケアに携わった経験についてお伝えします。
看取りケアとは
看取りケアとは、無理な延命治療などは行わずに、利用者さまが自然に亡くなられる過程を見守るケアのことです。
特別養護老人ホームは、介護が必要な利用者さまの生活の場です。
そして、在宅と同じように施設で最期を向かえる方もいます。
そのため、看取りケアをさせていただく利用者さまにとって、残された時間はとても貴重なものです。
看取りケアと食事
私は、利用者さまの思いに寄り添い、管理栄養士として何ができるか常に考えてきました。
栄養士としてカロリー計算など、紙面上でたくさん数値と向き合う場面は多いものです。
しかし、看取りケアでは考え方を変える必要がありました。
数字だけを考えていたら、「これは無理」「あれも無理」と制限が多くなってしまいます。
もちろん、必要最低限の栄養は確保した上での話ですが、食べたいものをいかに提供していくかというスタンスが看取りケアでは大切になります。
とはいえ、疾病のある方など、状況によっては難しい場合もあるでしょう。総合的に考えてアプローチしなければなりません。
看取りケア開始
病気により食事量が低下し、看取りケアを開始したAさん。
最期まで口から食べることを目標とし、医師、看護師、介護士、ケアマネージャー、機能訓練指導員などと協力しながら、利用者さまのためのチームケアが始まりました。
ご家族からの情報は、看取りケアをする上で欠かせません。
ご家族にもAさんが昔好きだった食事を伺い、参考にさせていただきました。
看取りケアでは、食事以外に生活面の支援もしていきます。
「昔住んでいた家を見たい」と希望があれば、医師や看護師に確認し、状態を見ながら外出計画も立てました。
看取りケアは対象者によっても、どこまで対応できるか変わってきます。
無理はせず、利用者さまの意向を尊重しながら、専門職ができることを共有しました。
甘い物が好き!
Aさんは甘いものが好きだったらしく、特にあんぱんは大好物だったようです。
しかし、現状では嚥下機能も低下していたので、あんぱんを提供することはできませんでした。
誤嚥性肺炎のリスクがあまりにも高かったからです。
「そこで、パンは難しいけれど、あんこだったら食べられるかもしれない」そう考え、調理師に提供可能か確認しました。
そして、医師や看護師、多職種でのカンファレンスにて提供することが決定!
しかし、あんことはいえ、誤嚥のリスクはゼロではありません。
つぶあんは固形物が残るため提供せず、こしあんで粘度を調整しながらAさんの元へ運びました。
「甘いものが好き」というキーワードから、ただ単に甘いものを提供するのではなく、さらに細かく確認することで、利用者さまの満足度は上がります。
食事のバリエーションを増やす
あんこ以外にゼリー状の栄養補助食品も試しました。
栄養補助食品は高カロリーであり、適度な粘度で比較的食べやすい形状です。
味もあずき味やバナナ味、いちご味など豊富にあり、日替わりで提供しても飽きません。
食べられるものを考え、バリエーションを増やしたことで、利用者さまに召し上がっていただくことができました。
少量でも食べられたことが、利用者さまにとっては嬉しかったようです。
ミールラウンドからたくさんの情報をキャッチする
ミールラウンドをこまめに行い、利用者さまの様子観察を行いました。
ある日、利用者さまから「もういらない」と言われたことがあります。
時間をおいて提供しても口を開けてもらえません。
そこで後日、「甘いものが好き」という利用者さまの嗜好を考え、あずき味のゼリーから最初に食べて頂くことにしました。
食べる順番よりも、楽しく食べることを優先しようと思ったからです。
結果は大成功で、美味しそうに召し上がって頂くことができました。
看取りケアで本当に大切なのは利用者さまに寄り添うこと
看取りケアを行う上で大切なのは、利用者さまの気持ちに寄り添うことです。
看取りケアは自己満足であってはいけません。
何とかしてあげたい、残り少ない人生を少しでも充実させてあげたい、そう思うのは当然のことです。
しかし、気持ちが先走り空回りしてしまっては、利用者さんのためにはならないでしょう。
人はいつか、人生の幕を下ろすときがきます。
「利用者さまの本当の気持ち」「ご家族の意向」「専門職としてできること」この3つがそろったとき、最高のケアができるのではないでしょうか。