法務教官の仕事内容・なり方・年収・資格などを解説
「法務教官」とは
少年院や少年鑑別所に勤務し、非行を犯した少年が更生するよう教育や訓練、助言を行う。
法務教官とは、法務省の国家公務員として、非行に走った少年に対し、社会復帰ができるようにサポートする専門的職員のことをいいます。
おもに少年院もしくは少年鑑別所に勤務し、少年院では個々の少年らの気持ちに寄り添いながら、教育的な指導や生活態度の指導を行います。
また少年鑑別所へ配属された場合は、家庭裁判所から送致された少年について、法務技官とともに少年らの資質を調査することとなります。
職務の特性上、給与水準は事務などに携わる一般的な国家公務員の給与体系よりも、やや高めの基準が適用されます。
少年の心の安定を図りながら、社会復帰への専門教育を行ったり資質調査を行ったりするこの仕事は、精神的にも体力的にも易しいものではありません。
しかし、それだけにやりがいも大きく、社会への貢献度もある重要な仕事であるといえます。
「法務教官」の仕事紹介
法務教官の仕事内容
非行に走った少年の社会復帰をサポートする
法務教官は、少年院や少年鑑別所に勤務し、非行に走った少年に対して教育、助言などを行う国家公務員です。
罪を犯した少年は家庭裁判所で審判を受けることになりますが、審判の前に行動を観察する必要性があると判断された場合、最長4週間にわたって少年鑑別所に収容されます。
少年鑑別所に勤める法務教官は、少年の資質を見極めながら更生の可能性の有無を判断し、審判に大きな影響を与える「鑑別結果通知書」という書類を作成します。
少年審判の結果、再び非行に走る恐れが強く一般社会内での更生が難しいと判断されると、少年は少年院に送致されます。
少年院での法務教官は、集団生活訓練や教科指導などを実施し、資格取得をサポートするなどして少年を更生させることを目指します。
社会的な意義と責任の重い仕事
少年犯罪の多様化・凶悪化は、現代における社会問題の一つとなっています。
こうしたなか、法務教官は未来ある少年を更生させ、正しく社会に復帰できるようにサポートする非常に重要な役割を担います。
非行に走った少年一人ひとりと時間をかけて向き合い、個々のケースに地道に取り組んでいく根気強さや精神的な強さなどが求められる仕事です。
法務教官になるには
法務省専門職員採用試験(法務教官区分)を受験する
法務省の国家公務員として働く法務教官になるには、まず「法務省専門職員(人間科学)採用試験」のうちの「法務教官区分」を受験する必要があります。
この試験は、いくつかの区分で実施されており、それぞれに受験資格があります。
・法務教官AおよびB:受験する年の4月1日に21歳以上29歳未満の者
・法務教官AおよびB(社会人):29歳以上40歳未満の者
それぞれA区分は男子、B区分は女子を対象としており、試験のレベルは大卒程度のものとなっています。
年齢制限はありますが学歴の制限はないため、広く門戸が開かれているのが特徴です。
採用試験合格後のステップ
法務教官採用試験は、筆記試験の1次、人物試験・身体検査の2次という2段階選抜となっており、双方を突破すると「最終合格者」になります。
この段階では「法務教官採用名簿」に名前が記載されるだけで、そこから採用されるためには、希望管区で実施される面接を受けなくてはなりません。
面接をパスすれば「採用内定」となり、管区内にあるいずれかの施設へ配属され、法務教官として働くことができます。
法務教官の学校・学費
学歴関係なく目指せるが心理学や教育学の学びは役立つ
法務教官の採用試験には年齢以外の制限がないため、学歴は関係なく誰でも受験することが可能です。
中卒や高卒の法務教官も多く活躍していますが、試験自体は大卒程度の難易度であるため、大学に進学しない場合には、人一倍努力する必要があるでしょう。
大学に進学するなら、業務との関連性が高い心理系・教育系の学部学科で学んでおくと、採用試験の勉強の理解が早まったり、業務に就いてからも役立つことがあるかもしれません。
また、少年相手に授業を行う関係上、大学在学中に各学部の教職員課程を履修し、教育実習に参加することも有用な経験といえるでしょう。
法務教官の資格・試験の難易度
倍率はやや高めで十分な受験対策が必要
法務教官採用試験の合格倍率は、年度によって異なるものの「法務教官A(男子)」が6倍~8倍前後、「法務教官B(女子)」が4倍~7倍前後で推移しています。
筆記試験では、公務員に必要な一般教養に加えて心理学・教育学・社会学の知識が広く問われ、選択式だけでなく論述式の出題もあります。
採用人数がそこまで多くなく倍率は高くなりがちなため、十分な対策が不可欠です。
とくに論述式問題と2次の人物試験(面接)は、独学で対策することが困難であるため、公務員試験の予備校に通って専門の講座を受ける人も少なくありません。
法務教官の給料・年収
行政職の国家公務員よりも給与水準は高め
国家公務員である法務教官の給料は、人事院によって定められた「国家公務員公安職の俸給表(二)」に沿って支給されます。
この仕事では心理学や教育学などの専門知識が必要となる分、一般の事務などにあたる職員よりも12%程度高い給与水準となっているのが特徴です。
平均年収は30代で600万円前後、40代で700万円前後と、高めの収入が見込めます。
年功序列で昇給しますが、法務教官として経験を積み、専門官や統括専門官などへ昇任していくことで、より大きな昇給にもつながります。
諸手当や福利厚生も充実
法務教官には、他の国家公務員と同様に、超過勤務手当や扶養手当、通勤手当など諸手当がつきます。
また、年に2回の期末・勤勉手当(ボーナス)も必ず支給されています。
法務教官は異動がありますが、住まいに関しては住宅手当が出ますし、もし勤務先近くの寮に住む際には家賃がかからないため、経済面で負担を感じることはほとんどないでしょう。
法務教官の現状と将来性・今後の見通し
再犯を防ぐためにも法務教官への期待が高まっている
近年は犯罪者の低年齢化が進み、犯罪の内容や手口も多様化する傾向が見られます。
そのため、非行に走った少年の更生を支援する法務教官には、さまざまなケースに対応できる多様な経験とスキルが求められるようになっており、業務の難易度は増しているといえます。
そのようななかでも、少年たちが抱える心の闇から目を背けずに向き合える、強い心や熱意をもった人材が求められています。
少年を若いうちに更生させることができれば、将来的な犯罪の芽を摘み、犯罪被害者を減らすことにもつながります。
法務教官は治安維持のための大きな社会的役割を担っており、難しい仕事に見合ったやりがいと充実感が得られるでしょう。
法務教官の就職先・活躍の場
勤務先は全国に100か所以上ある
法務教官の勤務先は、全国各地に合計100か所以上ある少年院・少年鑑別所のいずれかです。
なお、他の国家公務員と同様に異動は避けられませんが、原則として採用施設を所管する矯正管区の管轄地域内での異動となっています。
大半の地域には近隣に職員向けの寮が設けられており、転居による負担は少なくなっています。
なお、少年院は第一種から第四種までの区分があり、年齢や犯罪の程度、初犯か再犯か、薬物依存の有無などにより、収容される非行少年がある程度分けられています。
人事交流のために、成人を収容する一般の刑務所に2~3年程度出向するケースもあるとされています。
法務教官の1日
毎日24時間を交替制で働く
法務教官は、少年院・少年鑑別所のどちらに勤務する場合でも、少年を収容する寮単位で担当を受け持ちます。
昼間勤務と昼夜間勤務の「交替制勤務」となっており、職員が24時間体制で交替しながら、寮生活の保安にあたります。
ここでは一例として、少年院にて昼夜間勤務をする場合のスケジュールをご紹介します。
法務教官のやりがい、楽しさ
関わった少年と心を通わせ、社会復帰の支援ができたとき
法務教官にとってやりがいを感じるのは、罪を犯してしまった少年が社会復帰をするために、自分が少しでも力になれたと実感できた瞬間です。
かつての非行少年というと、暴走族や不良グループなど悪い仲間でつるんでいた少年が主でしたが、近年は特殊詐欺や違法薬物、売春などの性非行など、犯罪内容が多様化しています。
非行に走ってしまった理由もそれぞれで、家庭環境に恵まれなかった少年もいれば、学校生活でつまづいてしまったケースもあります。
法務教官は、さまざまに事情の異なる少年一人ひとりに寄り添い、信頼関係を築いていかなくてはなりません。
心を通わせるのに苦労を感じることも多いからこそ、自分が関わった少年が無事に社会復帰できた際には、社会に貢献できている実感を味わえるでしょう。
法務教官のつらいこと、大変なこと
少年の心の問題と粘り強く向き合っていく難しさ
法務教官の仕事は、非行に走った少年と正面から向き合うという、決して楽とはいえないものです。
若くして非行に走ってしまった少年は、程度の差はあれど、誰もが心に問題を抱えています。
少年院の基本である集団生活にそもそも馴染めず、自分の殻に閉じこもってしまう少年も珍しくありません。
教育を施す以前に、満足にコミュニケーションを取ることさえ容易ではない少年たちと人間関係を構築するためには、長い時間をかけ、じっくり彼らと向き合っていく必要があります。
その過程で、法務教官も苦しみを感じることも多々あるでしょう。
少年を更生にまで導くことは、深い専門知識と人生経験に加え、根気強さ、熱意が求められる大変な仕事です。
法務教官に向いている人・適性
共感力が高く、他者とまっすぐに向き合う心があること
心に闇を抱えた少年たちは、喜怒哀楽に乏しかったり、コミュニケーションに消極的だったりと、何を考えているのか、何に悩んでいるのかわからないケースが多々あります。
このため、法務教官には、さまざまな境遇にある少年たちの立場でものごとを考えられる、高い「共感力」のある人が向いているといえます。
最初はなかなかうまくいかなくても、粘り強く相手と向き合おうとする姿勢が非常に重要になってきます。
他者と悩みや苦しみを分かち合える人は、少年たちと共に挫折を乗り越えていくことで、自分自身も人間として大きく成長できるでしょう。
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法務教官志望動機・目指すきっかけ
社会的意義の大きさに魅力を感じている人が多い
少年犯罪の発生件数が減少し続けている一方、相手を自殺にまで追い込むような陰湿ないじめ、高齢者を狙った詐欺、凶悪な暴力事件など、少年が起こす卑劣な犯罪は大きくメディアを賑わせています。
そういった報道内容に強く感じるものがあり「少年たちを更生させる」という社会的意義を感じて、法務教官を目指す人は少なくありません。
社会全体に役立つ仕事がしたい、国をよりよいものにしたいといった思いで、法務教官に興味を抱く人も多いです。
また、法務教官は心理学や教育学、社会学などの専門性を求められる特殊な仕事であるため、大学でそれらを学んだ人が、その知識を生かせる職業として志望する場合もあります。
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法務教官の雇用形態・働き方
女性職員に配慮した制度が導入されている
法務教官は、法務省に所属する国家公務員の身分となり、男性も女性も多数活躍しています。
非行に走った少年は、男子は少年院、女子は女子少年院と、別々の施設に収容されます。
女性の法務教官は、全国に9つある女子少年院のいずれかに配属されますが、施設数が男子よりも少ないため、一つの施設のなかで長期収容者や短期収容者など、さまざまな相手に対応しなければなりません。
このため、男子の施設よりも、さらに臨機応変な対応が求められる大変な職場ですが、働きやすい環境にするためのさまざまな制度が導入されています。
たとえば出産・育児休暇が3年間認められていたり、妊娠期間・育児期間は宿直勤務回数が融通されたりと、私生活とのバランスは配慮されています。
法務教官の勤務時間・休日・生活
勤務体系はやや不規則になる
法務教官は国家公務員の一種であるため、勤務時間については国家公務員法で、1週間につき38時間45分と定められています。
しかし、少年院や鑑別所は24時間保安にあたる必要があるため、日勤だけでなく宿直勤務もこなさなければならず、勤務体系はやや不規則です。
宿直勤務の頻度は施設によって若干の差があり、1週間に1度程度のところもあれば、3日に1回のところもあるようです。
休日についても、基本的に週休2日制ですが、必ずしも土日が休みとは限りません。
法務教官には、原則として採用施設を所管する矯正管区の管轄地域内での異動があるため、異動後は、新しい土地で新鮮な気持ちで生活することになるでしょう。
法務教官の求人・就職状況・需要
採用人数はやや減少傾向に
少子化などを背景として、少年院に収容される少年の数は徐々に減少傾向にあり、これに伴って法務教官の求人数も削減されつつあります。
男性法務教官の採用人数は120名前後、女性の採用人数は50名前後ですが、今後さらに減少する可能性もあります。
法務教官は国家公務員の安定性などもあって人気があり、採用倍率は高くなりがちです。
少ない採用枠を争うことになるため、内定を得るためにはできる限り優秀な成績で採用試験を突破することが求められるでしょう。
また、外国人の少年に対応するための語学力を身につけたり、業務に関連性の高い「公認心理師」「臨床心理士」などの資格を取得したりすることも、有力なアピール材料といえます。
法務教官の転職状況・未経験採用
40歳までなら法務教官になる道がある
法務教官の採用試験は、21歳以上30歳未満であれば誰でも受験できるため、民間企業での勤務経験のある人でも、試験に合格すれば法務教官を目指せます。
また、30歳以上40歳未満を対象とした「社会人」区分の試験も実施されています。
ただ、社会人区分の採用は男女合わせて20名程度という少ない求人数となっており、競争倍率はより高くなりがちです。
難関試験を突破するために必要な準備期間を考えても、できる限り早いうちに転職を決断することが望ましいでしょう。
また、働きながら採用試験の勉強を行うのは簡単ではないため、計画的にスケジュールを立てていくことが重要です。
保護観察官とは
非行に走った少年や、罪を犯した成人の社会復帰の指導・監督に携わる
保護観察官とは、法務省に所属する国家公務員の一種で、おもに保護観察所や地方更生保護委員会へ配属される専門職員です。
罪を犯した人や非行歴のある少年に対して、通常の社会生活を送らせながら、その円滑な社会復帰のために指導・監督を行う役割を担っています。
また、必要があれば再犯を防止するために、保護観察を受けている人の身柄を拘束し、矯正施設に収容するための手続きにも携わります。
法務教官とも似た役割をもちますが、保護観察官の場合、非行によって少年院などに入る少年だけでなく、罪を犯した成人の更生にも携わっていくことが特徴です。
保護観察官には、保護観察を中心とした更生保護の責任者として、刑事司法をはじめ、心理学や教育学、社会学などに関する専門知識が求められます。
法務技官とは
心理学の専門家の立場から受刑者や非行を犯した少年と向き合う
法務技官とは、矯正心理専門職のことをいい、法務省で採用される国家公務員の一種です。
少年鑑別所や刑事施設などへ配属され、心理学の専門的な知識を生かして、受刑者や非行に走った少年の社会復帰をサポートする役割を担います。
鑑別所における具体的な業務は、非行を犯し、家庭裁判所から送致されてきた少年らの資質を見極めることです。
少年と面接をし、更生の余地があるのか、少年がどのような性格なのかといった資質鑑別を行い、資質に応じた更生プランを検討します。
刑事施設では、罪を犯してしまった受刑者の資質を調査したり、刑事施設の改善点を提案したりするほか、受刑者の心理的なケアにも携わります。
社会復帰調整官とは
罪を犯した精神障害者の円滑な社会復帰をサポートする
社会復帰調整官とは、国家公務員として、罪を犯した精神障害者が円滑に社会復帰できるようサポートする専門職員を意味します。
この仕事に就くためには「精神保健福祉士」の国家資格や、精神保健福祉に関する一定の実務経験などが求められ、高度な専門知識を生かして活躍します。
社会復帰調整官採用試験を受けて社会復帰調整官として採用された人は、「保護観察所」という法務省の地方支分部局に勤務します。
そこで精神障害者が退院した後の処遇をどうするかについて調査・調整を行ったり、精神障害者が社会復帰できるよう専門的見地からアドバイスをしたりします。
法律にもとづき、精神障害者の円滑な社会復帰を支援する重要な役割を担っています。