【パンアーティスト】「常に目の前の課題をクリアし続ける」パンを愛し、パンの可能性を探る森田優希子さん

好きを仕事にしてる人を紹介するインタビュー記事。
今回は、パンを使ったアート作品を手掛けるアーティスト・森田優希子さんからお話を伺います。

パンアーティストの活動内容

パンアーティストの活動内容を教えてください。

パンの可能性を探る作品を制作、発表しています。

今まで制作してきた作品数は小さなものも合わせると100種類以上あると思います(すべての作品に満足しているわけではありませんが…)。

代表的な作品は、本物のパンからできたインテリアライト『パンプシェード(パン + ランプシェード)』。

最も気に入っている作品の一つです。

本物のパンに特殊な加工と、乾燥・防腐・防カビ処理を施し、樹脂加工した上で、LEDなどの電気パーツを組み込み、ライトにした作品です。

パンの加工方法や適切な照明器具のノウハウなどを全て一から開発する必要があったため、現在の形に辿り着くまでに約8年を要しました。

今でも改良作業を行い続けています。

現在は『パンプシェード』を国内外の雑貨屋さんやオンラインショップでの販売やイベントやギャラリーでの出店するなど、『パンプシェード』の制作・販売をメインに事業を行っています。

2016年から本格的に販売をスタートし、現在までの販売数はトータルで100,000個を超えています。

一つの作品をつくるのに、どれくらいの時間を要するのでしょうか?

パンプシェードの作成には10日程かかります。

大きく項目に分けると、以下の通りです。

【パンを焼く→くり抜き→乾燥→成形→コーティング→バリ取り→LEDパーツの組み立て→完成】

コーティングは1回ではなく何度も、パンの生地によっては8回ほど繰り返し行います。

作品づくりにおいて、どのような想いやこだわりを持っていますか?

パンの美しさ、あたたかさ、風合い、形などを損ねないように気を付けています。

パンはそのままでも十分素晴らしいと思ってはいるのですが、何もしないとカビが発生したり虫がついたりします。

前述でもお伝えしたように、それらを防ぐためにはさまざまな加工を施すのですが、パンの風合いを損ねないように、加工はなるべく目立たなくする。

細心の注意を払って制作します。

また、何年もつくり続けていると、「パンのライト」が日常になり過ぎてしまい、制作し始めたときに感じていた「パンの魅力」が見えなくなってしまいそうなときがあります。

なので、休日に時間をかけて好きなパンを自分でつくって、初心に戻るように心がけています。

そうすると、自然とパンの魅力にまた気づくことができるのです。

パンを活用したアーティストになったキッカケ

幼いころからパンがお好きだったのでしょうか?

幼い頃からパンは好きでしたが、本格的にパンへ惹(ひ)かれ始めた大きなきっかけは、大学生のとき、パン屋さんでアルバイトした経験です。

大学時代の4年間ずっと働いていました。

始めは販売のみの担当でしたが、店長にお願いして次第に仕上げの作業や窯作業(焼く作業)も担当させてもらえるようになったのです。

アルバイト先のパン屋さんのパンはとても美味しく、私はそこで「本物のパンに出会った」と感じました。

働き始めると、ただの固いパンだと思っていたフランスパンが一番好きになり、フィリング(中の詰め物や具材)でパンを買っていたのに、できるだけシンプルなパンを好むようになりました。

毎朝パン屋さんに出勤して、ドアを開けた瞬間にパンの匂いをかいで、深呼吸するのが日課になりました。

そうやって働いていくうちに、だんだんとパンの存在が自分の中で大きくなって。

当時、美術大学に通っていたのですが、自分の作品の中にパンのモチーフを登場させるようになり、最終的にパンそのもので作品をつくるようになりました。

代表作である『パンプシェード』はどのようなアイデアで生まれたのでしょうか?

パンが売れ残ると廃棄しなければいけないのですが、パンが大好きだった私はパンが捨てられてしまうのが耐えられませんでした。

なので、最初は売れ残ったパンをできる限り持ち帰り、冷凍したり、友人に配ったりしていました。

そのうち、自然と中身に具が入っていないバゲットやフランスパンなどは自宅に飾るように(花を生ける感覚に近いと思います)。

そこから、飾るだけではおもしろくないと感じ、大学の課題で制作する自身の作品にパンを取り入れるようになりました。

アルバイト先のパン屋さんで感じる「パンのおもしろさ」を何とかして作品にしたい。

その一心で、さまざまな実験を行っていたある日、偶然『パンプシェード』に出会いました。

というのも、その日、疲れていた私は窓辺の机でパンの柔らかい中身の部分だけを食べながら、ぼんやりパンについて考えていたんです。

そのとき、空洞になったパンに窓から西日が差し込み、光ったように見えたのです。

直感的に「これだ!!!」と感じました。

パンが内側からフワッと光る様子は、私がパンに感じていた「あたたかく、やさしい魅力」にとてもマッチしていると感じて。

そこからすぐに、パンをくり抜き、光源に差して、ライトをつくりました。それが『ランプシェード』の始まりです。

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パンアートが軌道に乗るまでの道のり

『パンプシェード』が軌道に乗るまで、どれくらい時間がかかりましたか?

開発から5年を要しました。

大学卒業後、7年ほどインテリアメーカーのデザイン関連の仕事をしています。

就職して2~3年経って仕事に慣れてきた頃、自分の単なる趣味として『パンプシェード』の開発を再開しました(それまでは仕事に専念していました)。

そして、『パンプシェード』を「欲しい」と言ってくれる人が出てきたことで、販売活動を始めました。

少しずつ販売活動が大きくなるにつれて、本業との両立に難しさを感じ始め、どちらかを選択するしかない状況に。

本業での仕事も楽しかったのですが、「『パンプシェード』は私がつくらなければ、この世から消えてしまう」そんな使命感に駆られて、最終的には『パンプシェード』を制作する道を選択しました。

新しい挑戦は不安になることも多いと思いますが、どのような心持で取り組まれていたのでしょうか。

『パンプシェード』を開発し始めた頃も、今現在も変わらず、「目の前の課題をクリアしたい」という想いで前進してきたように感じます。

良くも悪くも、私には大きなビジョンが昔から特にありませんでした。

ただ、やりたいこと、挑戦したいことは常にありました。

『パンプシェード』もそのうちの一つです。

大金を稼いで会社を大きくすることには興味がないので、最低限自分や周りの人が不幸にならないレベルの稼ぎがあれば十分。

そんなに気負わずに、楽しくポジティブに取り組めたことが、今の自分をつくっていると思います。

パンアーティストのやりがい、つらさ

アーティストの活動をする上で、どのようなやりがいを感じていますか?

自分の作品で誰かが喜んでくださっているのを見た瞬間に一番やりがいを感じますね。

パン屋さんは焼いたパンを「おいしい!」と言ってもらえたときに一番幸せを感じると思いますが、私は自分の作品を通してパンを「おもしろい!」と感じてもらえたときにとても幸せを感じるのだと思います。

また、ここ数年、フランスやアメリカへも進出し、『パンプシェード』の輸出を開始しました。

自分たち以上にパンに親しみのあるパリジャンの方が「最高!!どうしてこれを日本人が!?」と驚き、そして喜んでくれる。

自分の作品が国境を越えて受け入れられるのは、とてもやりがいがあります。

さらに最近はパン屋さんからの看板やディスプレイのオーダーもいただくようになりました。

私はパン屋さんを常に尊敬しています。

パン屋さんに喜んでいただけるのは、最高に嬉しい瞬間の一つです。

逆につらいな、大変だな、と思うことはありますか?

作品の開発は常に苦労の連続です。

なかなか上手くいかず、また専門知識が足りずに思うようにいかないことがたくさんありました。

ですが、大切なのは「行動すること」だと思います。

100%の完璧を目指さず、今できることを精一杯やる。

そうしているうちに、いつの間にかヒントが見えてきて、成功に近づきます。

また、活動を数年続けているうちにスタッフも増えて、今ではチームづくりも私の大切な仕事の一つになっています。

経営や組織づくりに関して、私は全くの初心者なので、失敗も多くあります。

これに関しては、ただただ失敗を繰り返して反省・修正し、チームを大切にする。

そして、自分のやり方を見つけていくのみだと思っています。

パンアーティストとしての目標

森田さんにとってパンはどんな存在でしょうか?

食べておいしいのはもちろん、豊かな香り、やさしい色合い、コロンとした可愛らしい形……見ているだけで幸せな気持ちになる存在です。

パン屋さんに入った途端に気持ちがぐんと上がり、思わず笑顔になります。

そのくせ、パン生地はとっても繊細で、素人仕事ではなかなか人前に出せるような美味しいパンは焼けない奥深さ。

私にとってパンは、知れば知るほどもっと知りたくなる、とても魅力的な素材です。

そんなパンの不思議な魅力を、アーティストとしての独自な視点で人々に伝えることが私の役目だと思っています。

今後、パンを活用したアート活動を通して目指していることを教えてください。

『パンプシェード』を世界中の人に広めること。

世界中のパン屋さんとコラボレートして、さまざまな作品をつくること。

そして、『パンプシェード』だけでなく、ほかの作品にもチャレンジすることです。

また、常に目の前の課題をクリアし続けて、新しいチャレンジを行う。

そこで出会った未来に想いを馳せながら、楽しく生きていきたいと思っています。

好きを仕事にしたい人に向けてメッセージを

最後に、好きを仕事にしたい方へメッセージをお願いします。

自分自身の「好きなこと」が明確に分かっている人は、とてもラッキーな人です。

私もパンに出会えたことはとてもラッキーだったと思ってます。

だからこそ、「好きなこと」を見つけたら、とにかく恐れずに行動してほしい。

しかし、自分の「好きを限定すること」は、とても恐ろしいことです。

「 “好き” 以外のこと」にも前向きにチャレンジするのは同じくらい大切だと思います。

私自身は、7年間の会社員時代の経験が、実はとても役に立っています。

役立てようと働いたわけではありませんが、あのときの経験があったからこそ、今のビジネススタイルがあります。

いろいろな経験や努力は、そのときに目に見えて実を結ばなくても、意外なところで開花するものだと思っています。

諦めず、前向きに、目の前にある課題をポジティブに解決していく。

その先に、自分の新しい「好きなこと」が見えてくることも多いのではないでしょうか。

森田さんが考えるパンの3つの魅力

1. 生き物のようなところ
粉の状態から小さな白い塊になり、それが2倍3倍に大きくなり、焼きあがってくる様子はまるで生き物。

焼く前の生地はさまざまな条件や環境で状態がどんどん変化していきます。

その様はとても奥深く、飽きることがありません。

2. 香り
私はパン屋さんの香りを嗅いだだけで、そこのお店のパンがどんなパンなのか、だいたいわかります…(笑)。

3. 多様な様式
世界中には、さまざまなパンが存在します。

「なぜ、この土地のパンはこんなに酸っぱいのか?」「なぜ、こんな日本人は柔らかいパンが好きなのか?」「なぜ、こんな不思議な形のパンがあるのか?」など、パンにはいろいろな問いが生まれてきます。

知れば知るほど、噛めば噛むほど味わい深いパンの魅力が見つかるのです。

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