海運業界研究・仕事内容や求人状況、今後の動向を解説

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海運業界とは

海運業界に属する企業は、おもに「内航海運企業」と「外航海運企業」の2種類に分かれます。

「内航海運企業」は、国内の港と港を結んで貨物を運ぶ企業のことです。

「外航海運企業」は、海外の港と国内の港を結ぶ企業のことで、島国である日本の輸出入のほとんどはこの外航海運によって行われています。

内航海運・外航海運を問わず、海運業界の代表的な存在としては「日本郵船」「商船三井」「川崎汽船」の3社が挙げられ、これらは「3大海運会社」とも呼ばれています。

海運業界では2008年に起きた「リーマン・ショック」を機に、それ以前に発注されていた大量の新造船が売れ残ってしまったことや、燃料価格の高騰が起こったことにより、多くの企業で業績悪化が見られました。

現在は緩やかな回復を遂げていますが、海運業界に影響を与える可能性の高い「米中の貿易摩擦」や「石油産出国の政情不安」といった問題は今もなお続いています。

今後も業界の動向をこまめにチェックしていく必要があるといえるでしょう。

海運業界の役割

海運業界の主要事業である「内航海運」「外航海運」は、どちらも日本経済が成長していく上では欠かかすことのできない重要な産業です。

「内航海運」は国内の港と港を結んで貨物を運ぶことであり、食料品・日用品・産業資材・石油など、あらゆるモノが内航海運によって運搬されています。

普段の生活では鉄道やトラック、飛行機での輸送が目に付きますが、実は国内の貨物輸送の約4割は、この内航海運によって行われているのです。

参照:日本内航海運組合総連合会 内航海運とは

また、「外航海運」は海外の港と国内の港を結んで貨物を運ぶことで、こちらは日本の輸出入のほとんどを担っています。

鉄鉱石・石炭・原油といったエネルギー資源のほとんどを海外からの輸入に頼っている日本にとって、この点でも海運業界が大きな役割を果たしていることがわかります。

海運業界の企業の種類とビジネスモデル

国内大手企業

国内の海運大手企業は「3大海運会社」と称される、「日本郵船」「商船三井」「川崎汽船」の3社です。

これら3社によって市場シェアの大部分が占められている状況で、売上高で見ても4位以下の企業を大きく突き放している状況です。

また、2016年には国際的な競争力をつけることを目的に、3社の「定期コンテナ船事業」の統合が発表され、新会社である「オーシャンネットワークエクスプレスジャパン」が設立されています。

このように「海外の大手海運会社との競争力をいかに上げていくか」という部分が、3大海運会社にとって今後注力していくべきポイントだといえるでしょう。

内航海運企業

国内をメインに事業を行う「内航海運企業」については、現在3,000を超える内航海運事業者が存在している状況です。

内航海運についても、業界トップには3大海運会社が大きなシェアを誇っている状況であり、それ以下では「NSユナイテッド海運」「新日本海フェリー」といった企業が挙げられます。

また、北海道・東北での内航海運に強みを持つ「栗林商船」など、一定のエリアにおいて独自のサービスを展開する企業も出てきています。

外航海運企業

海外との輸出入をメイン事業とする「外航海運」においても、3大海運会社が大きな市場シェアを獲得しています。

それ以外で外航海運を営む企業としては「明治海運」「乾汽船」などがあり、これらの企業では「倉庫業」や「不動産業」も手がけるなど、事業を多角化して経営の安定化を図る動きが見られています。

また、外航海運ではコスト削減を目的に「船舶の大型化」が起こっており、これに対応するためには巨大の資金力が必要です。

そのため、外航海運はある程度の企業規模なければ容易に参入ができない市場ともいわれています。

海運業界の職種

海運業界の仕事は幅広く、さまざまな職種の人たちの力が必要になります。

ここでは、海運業界の代表的な職種を3紹介します。

陸上職(事務系)

「陸上職」の事務系の仕事は、さらに「営業」「運航管理」「総務部門(庶務・人事など)」などの職種に分かれます。

海運業界における「営業」は、商社やメーカーなど他のエネルギー会社と新規の運送契約を結んだり、契約の更新をする窓口となるのがおもな仕事です。

「運航管理」とは、船の燃料補給のタイミングや、目的地の途中で立ち寄る港(寄港地)などに関する航海計画を立てて、担当船に指示を出すのが役割となります。

それ以外にも、一般的な企業と同様に庶務や人事などを行う「総務部門」もあり、こちらも海運会社の運営には欠かせない存在です。

陸上職(技術系)

陸上職には技術系の区分もあり、「船舶調達」「技術支援」「技術開発」などの職種がこれにあたります。

「船舶調達」は海運事業に必要な船を調達する仕事で、外部から中古の船舶を調達したり、新造船を建造する場合は基本仕様の策定や設計などを担当します。

「技術支援」は運航している船から得られる技術情報の収集・分析を行い、今後のトラブル対策や改造支援に活かして安全な運航をサポートする業務です。

「技術開発」は船の性能やコスト評価などを行い、さらに高品質な船舶の作るための新技術の開発を行うのがおもな仕事となります。

いずれも専門的な業務を担当するため、募集の際には船舶工学、機械・電機などの専攻学科出身であることを条件としている場合も見られます。

海上職

「海上職」の仕事としては、おもに「航海士」や「機関士」などの職種が該当します。

「航海士」は実際に船を操縦し、港湾管理者とのやり取りや、船の運航管理など幅広い業務に携わる仕事です。

「機関士」は船内の各種システムやエンジンを取り扱う仕事で、船の全般的な運用・保守点検を行なっています。

これらの職種も、技術系と同様に専門的な業務内容となるため、応募の際には「海技士試験を合格していること」などの条件をクリアしている必要があります。

海運業界のやりがい・魅力

日本経済を支えるグローバルな仕事

海運業界は日本の人々の暮らしや産業を下支えしている業界であり、その点から「日本経済を支えている」といった大きな使命感をもって働いている人が多いです。

取り扱うモノの種類や金額などのスケールが大きいことや、たくさんの関係者と連携して物事を進めていく必要があることから、仕事をうまく進められた時に得られる達成感は海運業界の大きな魅力といえるでしょう。

また、海外とのやり取りが非常に多いことも海運業界の特徴であり、「英語を活用して世界を舞台に働いていきたい」と考えている人にとっても、活躍できる場面の多いおすすめの業界となっています。

給与水準が高い業界

海運業界は給与水準が高いことも魅力の一つです。

海運業界の代表的な存在である3大海運会社の平均年収は、各社の有価証券報告書によれば「日本郵船」が958万円(平均年齢39.6歳)、「商船三井」が986万円(平均年齢37.0歳)、「川崎汽船」が831万円(平均年齢38.2歳)と発表されています(2019年)。

このように、業界大手の海運会社の平均年収は800万円を軒並み超えている状況であり、他の業界に比べても給与水準の高さが見て取れる結果となっています。

業界全体をみても平均年収は高い傾向にあり、就職において給与面を重視している人には魅力的な職場環境だといえるでしょう。

海運業界の雰囲気

海運業界に属する多くの企業はメイン事業である「海運業」だけにとどまらず、資源発掘のための「海洋開発投資」や、「不動産業」「観光業」など、非常に幅広くビジネスを展開させています。

そのため、一つの物事に集中して取り組む気質も大切ですが、それ以上にさまざまな分野においてビジネスチャンスを見出し、積極的に行動していけるような人材が活躍できる業界だといえるでしょう。

また、業界全体の男女比については、現時点では女性の正社員は比較的少ない業界です。

理由としては、業務の性質上体力が求められる仕事が多いことや、既存の船舶の多くが「男性仕様」となっていることなどが考えられます。

しかしながら、「陸上職」を中心に女性の雇用が徐々に進んでいる動きもあり、船員として活躍している女性も少しずつ増えている状況です。

海運業界に就職するには

就職の状況

海運業界は「世界規模で、幅広い分野の仕事に携わることができる」という理由から、学生の就職先としても人気の高い業界です。

「国際的」「スケールが大きい」という共通点から、大手総合商社を志望する場合の併願先として海運会社を受ける人も少なくありません。

求人の状況としては、大手海運会社の場合、新卒採用については毎年実施しているところがほとんどです。

募集職種はおもに「陸上職(事務系)」「陸上職(技術系)」「海上職」などがあり、それぞれの職種によって応募条件に違いがありますので、各社の募集要項をよく確認しておくと良いでしょう。

就職に有利な学歴・大学学部

就職に有利な学部については、どの職種を受けるかによっても変わってきます。

「陸上職の技術系」を受ける場合は、募集の上では「学部・学科不問」としている企業が多いですが、実際の業務は専門的な内容が多いことから、「船舶工学」や「機械・電機」などを専攻している人の方が有利に選考を進めることができるでしょう。

「海上職」については、「海技士試験を合格していること」「乗船実習修了見込みであること」などを応募条件としている場合がほとんどです。

しかし、一部の企業では「自社養成コース」などを設けている場合もあり、船員教育機関以外の出身者も「将来の海上職候補」として受け入れているケースもあります。

「陸上職の事務系」に関しては、一般的な企業の営業や総務などの職種と同じように、出身学部によって評価に差が出ることは基本的にはありません。

また、求められる学歴については、海上職以外の職種では「大卒以上」の学歴が必要となるケースがほとんどとなっています。

就職の志望動機で多いものは

海運業界を受けるときの志望動機としては「日本経済を支える、社会的役割の大きさに惹かれた」といった内容がよく見られます。

また、それ以外では「グローバルに働きたい」「英語力を活かした仕事がしたい」といった理由で受ける学生も多いようです。

これらの志望動機を考える上では、「会社ごとの違い」を明確にすることを意識しながら文章を作っていく必要があり、そこがあやふやな状態では説得力のある志望動機にはなりません。

とくに大手海運会社においては共通して「事業の多角化」を進めていることもあり、会社ごとの違いが見えにくくなっている点に注意しましょう。

そのため、会社ホームページなどの情報だけでなく、社員訪問や各種交流会などにも足を運び、積極的に情報収集していくことが大切です。

海運業界の転職状況

転職の状況

海運業界では、定期的に行われる新卒採用のほか、多くの海運会社で中途採用の募集も行われています。

従業員数が多い大手海運会社では、定年退職などを含めた一定の退職者も毎年出るため、年間を通じて中途の募集をかけている場合も少なくありません。

ただし、新卒採用と比べると、中途採用に関しては少ない採用枠で募集をかけている企業も多く、とくに大手海運会社に関しては相当な高倍率になることもあります。

転職を考える場合には自分のスキルの棚卸しをしっかりと行い、入念な準備をして選考に臨む必要があるといえるでしょう。

転職の志望動機で多いものは

新卒の志望動機と同じように、「社会的意義の大きさ惹かれた」「国際的な規模の仕事に携わりたい」といった理由で志望する人が多く見られます。

ただし、転職者の場合は「即戦力」が求められる傾向があるため、「経験不問」となっている求人に応募する際にも「今までの職歴をどのように業務につなげていくのか」を十分に考える必要があります。

そのため、ただ自分の希望を述べるのではなく、相手の立場になって「どんな人材を望んでいるのか」を意識しながら志望動機を考えていくと良いでしょう。

転職で募集が多い職種

中途採用の募集も「陸上職(事務系)」「陸上職(技術系)」「海上職」といったように、新卒採用と似たような職種区分で募集を行っている企業が多いようです。

ただし、中途採用ではよりピンポイントに募集をかけている企業もあり、「英語を使用した交渉経験があること」「決算の経験があること」といったように、具体的な必須スキルを応募条件に掲げている場合もあります。

全体的な傾向としては、事務系の職種よりも技術系や海上職の求人の方が安定的に出されている状況です。

どんな経歴やスキルがあると転職しやすいか

転職の際に求められる経験やスキルについては、どの職種を受けるのかによって大きく変わってくる部分だといえるでしょう。

基本的には新卒採用と同様、「陸上職の技術系」や「海上職」に関しては、専門的な知識やスキルがあることが前提での募集となっています。

また、海運業界はメールや電話、書類作成などで英語を頻繁に使うことから、職種を問わず英語力が求められる傾向があることに注意しましょう。

応募条件の一つに「TOEICのスコア」を指定している場合もあるので、その点もよく確認が必要です。

海運業界の有名・人気企業紹介

日本郵船

1885年設立、連結売上高18,293億円、従業員数35,711名(2019年3月期)

三菱財閥の中核企業で、運航船舶数、売上高では業界トップを誇ります。

海外を含めて350以上の都市の港へ運航船舶が乗り入れており、世界規模で事業を行う大手海運会社です。

日本郵船 ホームページ

商船三井

1884年創業、1964年設立。連結売上高12,341億円、従業員数8,941名(2019年3月期)

東京都港区に本社を置く、日本の3大海運会社の一つです。

定期船事業、石炭などの資源輸送事業など幅広く事業を展開していますが、その中でもLNG(天然ガス)輸送分野に強みを持ちます。

商船三井 ホームページ

川崎汽船

1919年設立、連結売上高8,367億円、従業員数6,022名(2019年3月期)

東京都千代田区に本社を構える、日本で初めて「自動車専用船」を導入した大手海運会社です。

最新鋭の船を投入するなど、長期的な安定収入を目指した経営が行われています。

川崎汽船 ホームページ

海運業界の現状と課題・今後の展望

競争環境(国内・国外)

現在、国内には3,000を超える内航海運事業者が存在していますが、そのうちの6割が「1隻所有」の小規模事業者という状況です。

3大海運会社である「日本郵船」「商船三井」「川崎汽船」の業界内でのシェアは他社を圧倒しており、今後しばらくはこの勢力図が続いていくことが予想されています。

また、世界全体の海上輸送量は現在も右肩上がりで増え続けていますが、その中で日本企業の輸送シェアは減少傾向にあります。

そのような状況の中、3大海運会社は共同で定期コンテナ船事業を運営する「オーシャンネットワークエクスプレスジャパン」を立ち上げ、海外大手海運会社に対抗する動きを見せています。

事業範囲を広げていく中で海外海運会社との競争は避けられない状況であり、世界におけるブランド力の向上が直近の課題となりそうです。

業界としての将来性

海運業界は物流事業の中でも「景気に左右されやすい」という特徴があります。

2008年に起こった「リーマン・ショック」の時や、石油価格の高騰があった際にも、実際に多くの海運会社で業績の悪化が見られました。

海運業界はおもに「国内間・国際間でモノを運ぶこと」で収益を得ている業界であるため、世界経済の悪化などにより運ぶモノが減ってしまえば、業績にも直結してしまう一面があるのです。

今は景気回復とともに全体的に業績を取り戻していますが、今後も日本の景気や世界経済の動向次第では、業績が大きく左右する可能性が十分にあります。

そのような状況の中、今後さらに需要の伸びが期待できる「シェールガス」の分野に備え、LNGを燃料とする船舶の新造にも力を入れる企業も出てきています。

景気動向の影響を極力抑えつつ、安定的に成長していける環境をいかに構築できるかが、海運業界各社に求められているといえるでしょう。