コーポレートガバナンスとは
日本における「コーポレートガバナンス」の歴史はまだ浅く、本格的な導入が始まってからわずか数年。導入が進められた背景や目的とは、一体どのようなものなのでしょうか?
コーポレートガバナンスの意味
コーポレートガバナンスとは、企業運営が正しく行われるように監視・監督する仕組みのことです。
経営者が企業を私物化するなど不正が起こらないよう、企業をとりまく利害関係者(ステークホルダー)によって経営をコントロールできる仕組みや考え方を意味します。
日本語では「企業統制」や「企業統治」と訳されますが、「コーポレートガバナンス」と表現されることが一般的です。
コーポレートガバナンスの目的と求められる背景
「会社の所有者は株主である」という考え方が一般的なアメリカに対して、日本では経営者や従業員のものだという考え方も珍しくありません。
ところが株式会社では、経営を行うのはあくまで株主によって選ばれた取締役であり、決して社長の意思だけで運営できるものではないのです。
株主は株を所有することによって経営者を選び、企業の利益を高めるために経営を任せています。
経営者が責務をきちんと果たしているかどうかを株主がチェックすることは、経営陣による不正を未然に防ぐだけでなく、長期的には企業価値を高めていくことにもつながります。
また近年コーポレートガバナンスの重要性が高まる背景には、海外からの投資を呼び込もうとする政府の狙いがあります。
日本における成長戦略のひとつとしても位置づけられており、コーポレートガバナンスの強化は企業にとって避けては通れない重要課題となるでしょう。
コーポレートガバナンスの変化
コーポレートガバナンスの概念が注目されるようになったのは、1990年代。
金融危機や相次ぐ大企業の不祥事の要因として、コーポレートガバナンスの欠如が指摘されるようになり、主要国のほとんどで導入が行われるようになりました。
日本企業では資金調達は銀行から行われることが多く、銀行が管理監督の機能を担うという考え方があったため、このときは上場企業への要請に留まり、本格的な導入にまでは至りませんでした。
ところが資金調達の多様化や、海外投資家による投資が広がったことで、株主から説明責任を強く求められるようになるなど、コーポレートガバナンスのあり方が問われるようになったのです。
世界的な流れを追って、日本でも適用が開始されたのは2015年。金融庁と東京証券取引所によって「コーポレートガバナンス・コード」が発表され、現在では東証一部や二部等へ上場する企業を対象にコーポレートガバナンスの遵守が求められています。
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コーポレートガバナンス・コードとは
コーポレートガバナンスの具体的なガイドラインのことを「コーポレートガバナンス・コード」といい、「CGコード」と略して呼ばれることもあります。
コーポレートガバナンスの遵守は前述の通り、日本に限らず国際的にも標準化しつつありますが、世界共通のルールがあるわけではありません。
日本では、日本のビジネス環境に即したガイドラインとして、「日本版コーポレートガバナンス・コード」が決められています。
コーポレートガバナンス・コード「5つの原則」
日本では、下記の基本5原則をすべての上場企業が遵守するよう求められています。
5つの原則について確認していきましょう。
(1)株主の権利・平等性の確保
個人や外国人投資家を含めたすべての株主が平等に権利を行使できるよう情報開示を行ったり、経営の意思決定を監督するために外部取締役を選任するなど、組織運営体制の整備が必要です。
(2)株主以外のステークホルダーとの適切な協働
株主だけでなく、従業員や顧客、取引先もステークホルダーです。
企業はステークホルダーから支持されてこそ発展が可能であるため、すべてのステークホルダーと良い関係を構築する必要があります。
(3)適切な情報開示と透明性の確保
財務情報以外についても企業に関する情報の適切な開示が求められるため、透明性を確保するための仕組み作りや組織運営が必要です。
(4)取締役会等の責務
上場企業では経営の意思決定や監督を行う「取締役会」が設置されています。
企業が長期的に成長するために取締役会が果たすべき責務を明確化し、また適切に機能するよう運営体制を構築することが求められます。
(5)株主との対話
株主総会やIR説明会などの実施を通して、経営側と株主が直接議論する場を設けます。
必ずしも1つの会場に全員が集合する形式とは限らず、ネット配信やオンラインで質問を受け付けるなど、現在では手法も多様化しています。
(参考:株式会社東京証券取引所)
上記はすべての上場企業に対するガイドラインですが、東証一部、二部へ上場する企業の場合は、さらに全73原則について取り組むよう規定されています。
これまで株主への配当や賃金への反映よりも、内部保留を優先させる日本企業のあり方は、度々批判の的となることがありました。
コーポレートガバナンス・コードの策定によって、日本企業における国際競争力の向上が期待されています。
コンプライ・オア・エクスプレイン(comply or explain)
コーポレートガバナンス・コードは、あくまで企業が自主的に行うものであり、違反時の罰則は設けられていません。
ただし、原則に従えない場合には説明責任が伴うものとされており、実質的には企業が取り組まざるをえないガイドラインとなっています。
この仕組みを「コンプライ・オア・エクスプレイン」といい、日本語に訳すと「遵守する(comply)か、そうでなければ(or)説明責任を果たす(explain)」という意味です。
スチュワードシップ・コード
コーポレートガバナンス・コードが企業の遵守すべきガイドラインである一方、株主となる投資家に対してもガイドラインが設定されています。
そのガイドラインは「スチュワードシップ・コード」と呼ばれ、金融機関など機関投資家を対象に、以下7つの原則が規定されています。
(1)受託者責任の果たし方の方針公表
(2)利益相反の管理に関する方針公表
(3)投資先企業の経営モニタリング
(4)受託者活動強化のタイミングと方法のガイドラインの設定
(5)他の投資家との協働
(6)議決権行使の方針と行使結果の公表
(7)受託者行動と議決権行使活動の定期的報告
(参考:金融庁「日本版スチュワードシップ・コード」
スチュワードシップ・コードもコーポレートガバナンス・コードと同様、違反しても罰則がない代わりに、説明責任が課せられています(コンプライ・オア・エクスプレイン)。
この記事のまとめ
これまでは経営者の方針であらゆる意思決定を行っていた企業も、コーポレートガマナンスの導入が決定してからは、運営体制を変えざるをえない状況が生まれています。
特に東証一部、二部へ上場している企業は、73の原則を遵守することが求められています。
ビジネスのグローバル化が進む現代において、株主をはじめとしたステークホルダーとの良好な関係作りや透明性の高い経営は、企業が持続的に成長していくうえで必要不可欠でしょう。
なぜなら日本企業が国際競争力を高めることは、日本経済の発展とも密接に関係しているからです。
また「会社がだれのものであるか」についての議論は、今もなお日本ではさまざまな声がありますが、今後も企業にとって「株主」は一層強い影響力をもつ存在になっていくのではないでしょうか。
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