コロナ禍で活躍した病院薬剤師
日本、いや世界全体の社会のあり方を変えた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。
これはCOVID-19から患者を救うために奮闘した、ある病院薬剤師の物語です。
レムデシビル
2020年5月に、政府はCOVID-19治療薬レムデシビルを特例承認しました。
健康被害の拡大を防ぐために、他国で販売されている日本国内未承認の新薬を、通常よりも簡略化された手続きで承認し、使用を認めること。
そのため、未知の副作用の可能性も高く、注意深い観察が必要。
レムデシビルは当初、世界的に供給が限られており、日本政府が買い上げて必要な医療機関に配分する、という方式が取られていました。
コロナ病棟の薬剤師は、COVID-19患者が入院してくる際にいち早くレムデシビルの適応があるかどうかを調べ判断し、担当医師と協議し、国にレムデシビルを発注する。
そんな重要な役目を担っていました。
そして投与前に患者さんに対する説明と同意の取得。
説明の際には、感染防止のガウンやフェイスシールドを着用します。
投与が始まったら、今度は副作用のモニタリングです。
軽度ではありますが、一時的にALT上昇を来す方が多かったです。
ワクチン
2021年2月には、新型コロナワクチンが特例承認されました。
新型コロナワクチンも政府が買い上げて医療機関に供給する仕組みです。
mRNAという特殊なワクチンで、納品・保管・希釈・ガラス瓶からシリンジへの充填の各プロセスに非常に神経を使います。
病院薬剤師は、医薬品情報をしっかり熟知し、自らの薬学的知識を駆使してこれらの各プロセスを確実に実行しました。
巷ではワクチンを1人分誤って廃棄した、というだけでニュースに取り上げられたほどでしたが、当院では医師・看護師・薬剤師・事務員等が普段以上のチームワークを発揮して、事故もなくワクチン接種を進められました。
抗体カクテル薬
そして2021年3月、抗体カクテル薬、カシリビマブ/イムデビマブが特例承認されました。
この薬も厚生労働省が買い上げて、国内の医療機関に配分する、という形がとられました。
このため、レムデシビルと同様に、病院薬剤師は、COVID-19入院患者に抗体カクテル薬の適応があるか調べ医師に情報提供、そして患者に説明・同意の取得、発注、納品、薬剤調製、副作用のチェックに奔走しました。
カシリズマブ/イムデビマブは、2人分が1箱に入っていて、有効期限は箱を開けてから48時間なので、残りの1人分が無駄にならないように、スケジュール調整するのにも気を使いました。
薬学のちから
当院は透析施設でもあるのですが、思えば、第3波、第4波の頃は、COVID-19の透析患者は酸素・ステロイドを投与しても悪化することが多く、不幸な転帰となる患者さんもおられました。
第5波になると、透析患者さんは既にワクチンを受けられていたので、感染患者となることは少なかったです。
COVID-19感染となった方々も、ワクチン接種歴がある方は症状も軽く済みました。
また、症状の軽いうちに抗体カクテル薬を投与することで、ほとんどの方は悪化すること無く退院されました。
第3波・第4波と比較して、同じCOVID-19とは思えないほど治療しやすい疾患でした。
これも、COVID-19治療薬やワクチンを、これほどの短期間で開発し、世に送り出した薬学のちからのおかげです。
そしてこれらの薬の供給や適正使用に貢献した病院薬剤師の存在も無視できません。
COVID-19は、社会のあり方を変えると同時に、薬学のちからを社会に示した、そんな疾患だと思います。