ケーススタディとは
すでに経験者がいる場合には、その情報を参考にすることで同じ失敗を回避したり、自分に合った方法を見つけやすくなったりします。
中には「そんなことは気にせずに、とにかくやる!という方もいるかもしれませんが、事例を調べることは実はとても意味のある行為。
専門用語では「ケーススタディ」と呼ばれていますが、実際にはどのようなシーンで役立つのでしょうか。
ケーススタディとは?
ケーススタディとは、実際に起きたできごとを研究することによって、問題の体系化や解決に必要な力を身につけるための学習方法です。
日本語では「事例研究」と表現され、経営や医療、教育などさまざまな分野で用いられています。
分野ごとにケーススタディを取り入れる目的は異なりますが、いずれも過去の事実から学び、役立てる姿勢は共通しています。
ケーススタディの意味と目的
ケーススタディが、過去の事例を研究することだという点は理解できたと思います。
ではなぜ、過去の事例から学ぶ必要があるのでしょうか。
また研究によって何を学ぶことができるのでしょうか。
たとえばビジネスの世界では、新しい課題に直面すると解決策を考えます。
新しいものを創り出そうとするときには、アイデアを探します。
それ自体はごく当たり前のことのように感じますが、ここで重要なのは、課題はひとつずつ順番に発生するわけではなく、アイデアも突然現れたりはしないということです。
取り組むための時間さえ、常に十分とは限らないのです。
このような状況において、ケーススタディは大きな効果を発揮するといわれています。
ここではビジネスにおけるケーススタディの4つの意味をみていきましょう。
リスク回避
ケーススタディでは、過去に起きたできごとの事実を把握するのではなく、結果や原因などについての研究を行います。
自分自身が実際にその場にいたら、どのように考えたか、どう判断したかを疑似体験します。
疑似体験によってビジネスの経験値が高まれば、ノウハウとして自身に蓄積されていきます。
そして何度も経験を重ねるうちに実際のビジネスシーンにおいても、リスクの見通しやリスクへの対策を講じることができるようになるのです。
時間短縮
ビジネスの現場では、頻繁に課題が生じます。よいアイデアはいち早く形にしなければ、競合企業が先に始めてしまうかもしれません。
常に時間との勝負といえるでしょう。
ケーススタディではさまざまな事例を研究することで、方法論を学ぶことができます。
ビジネスに存在する成功・失敗の法則をあらかじめ知っていれば、余計な物事に時間を取られずに済むというわけです。
アイデアの源泉
アメリカの実業家ジェームス・ヤングはアイデアについて、彼の著書「アイデアの作り方」の中で「既存の要素の新しい組み合わせ」と述べています。
ここでいう既存の要素とは、ケーススタディから得る疑似体験そのものといえるでしょう。
ケーススタディから得た知識や気づきが、新たなアイデアを生み出すきっかけとなるのです。
精神面の強化
ビジネスにおける初体験は、どのようなものでも多少の緊張を伴います。
何度も経験することでスキルが高まり、精神面も鍛えられるでしょう。
経験があれば、問題への対処もスムーズにできるはずです。
ケーススタディで疑似体験をすることは、未経験の緊張を体験することとほぼ同じです。
つまり、ケーススタディに取り組めば、その分だけプレッシャーにも慣れることができるといえるでしょう。
「経験したことがある」という状態は、まったく何もしたことがないよりも、はるかにアドバンテージを持っているのです。
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シーン別ケーススタディ
ケーススタディが用いられるシーンはひとつではありません。
ここではビジネス、看護、就活の3つのシーン別にケーススタディをみていきましょう。
MBAの授業で学ぶケーススタディ
ケーススタディは教育手法の用語で「ケースメソッド」と呼ばれ、経営修士の学位であるMBAの授業では必ずといっていいほど取り入れられています。
経営の知識を教科書から学ぶのではなく、課題となるケースをもとに対話形式で授業が進行。
受講生は講師からの問いかけに対して自分で考えた意見をクラス全員に伝えます。
MBAの授業で行われるケーススタディでは意思決定が問われる機会が多く、いくつものケースに取り組みながら経験値を高めていきます。
看護の世界で用いられるケーススタディ
看護の世界でもケーススタディがよく用いられます。
看護の場合には、経験豊富な看護師が行う看護全体の研究(看護研究)が存在するため、ひとつの事例を研究するケーススタディ(事例研究)は、「プレ看護研究」とも呼ばれています。
主に学生や新人看護師が取り組み、看護への深い理解やスキルの向上に役立てています。
就活の面接におけるケーススタディ(例題)
新卒の就職活動では企業の面接でケーススタディが取り入れられています。
ただし就活の場合には、一般的なケーススタディとは違い、グループディスカッションのテーマ(例題)のことをケーススタディと呼んでいます。
例えば、売上や人数など規模を推定するケース、既存サービスの拡大・改善を考えるケース、新しいアイデアを提案するケースなどです。
例をひとつ挙げるとすると、「通勤ラッシュを緩和するために必要な施策は?」といった例題がケーススタディです。
ケーススタディの構成と書き方のポイント
ケーススタディのアウトプットにはディスカッションだけでなく、記述してまとめることもあります。
看護学生や新人看護師の場合には、担当する患者への看護など自身の経験をテーマとして取り扱うことも珍しくありません。
そのためここでは看護におけるケーススタディの書き方のポイントを紹介します。
構成の流れ
構成に絶対的なルールはありません。
基本構成として以下の流れでまとめると、ひと通りの情報を網羅することができるでしょう。
・はじめに(研究の概略)
・研究場所および研究期間
・患者情報
・看護の実際(問題や目標、活動内容など)
・実施内容と結果
・考察
・おわりに(研究を通して学習したこと、気づきなど)
・参考文献や引用文献の出典表記
ケーススタディの書き方のポイント
学んだことを自分以外の誰かに文章で説明するためには、読みやすさが大切です。
読み手を意識して丁寧にまとめることを心がけましょう。
・登場人物が複数存在するため、主語は省略しない
・一文が長くなりすぎないよう、読みやすさを意識する
・書き出しと本文にずれがないようにまとめる
・同じ意味を持つ単語は複数使用しない(「援助」と「介護援助」など)
ケーススタディは本でも学べる
ビジネス(MBA)、看護、就活などシーンごとに多少の違いはありますが、いずれの場合でも事例やテーマをもとに思考を深めるトレーニングである点は共通しています。
またケースに取り組む過程で得た経験は、スキルやノウハウとして自身に蓄積されていく点も同じといえるのではないでしょうか。
ケーススタディに興味を持つ方の中には、実践してみたいと感じている方もいるかもしれません。
トレーニングは特別な環境がなくても、ビジネス書などを利用すれば一人でも行えます。
また何度も反復して取り組めば、各分野で必要なスキルを一層高めていくことができるでしょう。
この記事のまとめ
かつてドイツ帝国を統一に導いたオットー・フォン・ビスマルクは、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉を残したといわれています。
この言葉は、人によってさまざまな解釈ができます。
ただ、ケーススタディが持つ「自身の体験では補いきれない経験値や知見を、過去の事例から学ぶ」姿勢には、ビスマルクの言葉と似た意味が垣間みえるようでもあります。
どの分野においても経験値を高めるための有効な手段といえる、ケーススタディの学習。
過去の事例に触れておけば、課題に直面した際に大きな力になるかもしれません。
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