キャリアアンカーとは
選択の内容や大きさ、難易度はケースによって違いますが、自身の置かれた状況や選択肢などに応じてさまざまな検討を行うことになるでしょう。
キャリアの選択は、たとえ状況や選択肢が同じでも、人によってまったく違う答えを出す場合が少なくありません。
なぜなら、「キャリアアンカー」と呼ばれる自分自身の判断軸によって選択が行われるからです。
キャリアの選択に大きな影響を与える「キャリアアンカー」とはどのようなものなのでしょうか。
キャリアアンカーとは
キャリアアンカー(career anchor)とはキャリアの選択を行う際に、判断の軸となる個人の指標のことです。
キャリア心理学においてもっとも有名な理論のひとつとして知られており、アメリカの組織心理学者エドガー・H・シャイン博士によって提唱されました。
一度形成されると変化しにくく、その指標をもとに希望の地(キャリア)に定着しようとすることから、船のいかりに見立てて「アンカー」という表現が用いられています。
セルフイメージ(自己概念)を支えるキャリアアンカー
シャイン博士は提唱する理論の中で、セルフイメージの重要性を主張しています。
セルフイメージとは、自身に対して認識している自己像のことですが、次の3つの軸における認識がキャリアアンカーを決めていくとシャイン博士は考えました。
(1)得意なこと(自身の能力や才能)
(2)したいこと(欲求や動機)
(3)意味や価値を感じることや、自身の存在が役立っていると感じること(価値観)
セルフイメージは自分自身を見つめなおす行為に近いため、誰もがすぐに「これだ!」と答えられるものではなく、日ごろから意識する機会はないかもしれません。
ところがキャリアの選択が必要な重要な局面では、自分自身も気付かないうちにセルフイメージが選択の判断に大きな影響を与えます。
判断軸自体がセルフイメージをもとに形作られているからです。
シャイン博士はこのセルフイメージの形成を支えるものとして、キャリアアンカーの概念を考案しました。
キャリアアンカーをひとつずつ整理していくと、セルフイメージが姿を現します。
つまりキャリアアンカーは重要な選択を行う必要に迫られたときの判断軸(=セルフイメージ)そのものといっても過言ではないのです。
シャイン博士の提唱したキャリアアンカーは8つに分類されています。
アンカーを1つずつ確認していきましょう。
キャリアアンカーの分類
シャイン博士はキャリアアンカーの研究の中で数百人の社会人にインタビューを行いました。
その内容に基づき、キャリアアンカーを8つに分類しました。
8つのキャリアアンカー
[1] テクニカル/ファンクショナル・コンピタンス(専門・職能別能力)
専門知識・技術を持っている/高めたい、特定の分野に特化したエキスパートになりたい/そうなることが喜びとなる
[2] ジェネラル・マネジメント・コンピタンス(全般管理)
組織をマネジメントする総合的な判断力・リーダーシップを持っている、責任のある仕事がしたい/そうなることが喜びとなる
[3] オートノミー/インディペンダンス(自律・独立)
独立独歩、組織に縛られたくない、ひとりで仕事をするほうが力を発揮できる/そうなることが喜びとなる
[4] セキュリティ/スタビリティー(保障・安定)
リスクは回避したい、計画通りに進ませたい、安定を望んでいる/そうなることが喜びとなる
[5] アントレプレブール的クリエイティビティ(起業家的創造性)
新しいことにチャレンジしたい、創造したい/そうなることが喜びとなる
[6] サービス/大義への献身(奉仕・社会貢献)
社会や誰かの役に立ちたい、社会をよくしたい/そうなることが喜びとなる
[7] ピュアなチャレンジ(純粋な挑戦)
何に対してもチャレンジすることが好き、退屈ではない状態を望む/そうなることが喜びとなる
[8] ライフスタイル(生活様式)
仕事とプライベートのバランスが重要、仕事と家庭(家族)をどちらも大切にしたい/そうなることが喜びとなる
20代で正社員への就職・転職
社会人経験を重ねて30歳前後から自覚
キャリアアンカーは社会人になる時点ではまだ完成形ではありません。
学校での授業で学ぶこと、家族や周囲の状況を見聞きすること、アルバイトを経験することなどを通してある程度は作られていきますが、より具体的で確固たるキャリアアンカーへと形成されるのは、社会にでて働いてからだといわれています。
それも社会人として一定の年数を経て、自身の適性や得手不得手を理解する頃です。
またライフイベントや異動・転職などの転機もキャリアアンカーを考えるきっかけとなることから、30歳前後から自覚を始めるといわれています。
キャリアアンカーの診断
キャリアアンカーの意味について理解できた方は、この機会に一度自身のキャリアアンカーを深く考えてみるものよいかもしれません。
ただ、自分自身のことを熟考する場合、考えすぎてよくわからなくなってしまうことが少なくありません。
そこで活用できるのが診断ツールです。
キャリアアンカー診断ツール
インターネット上に公開されている、キャリアアンカー診断ツールです。
質問に解答するだけで、キャリアアンカーを無料で診断してくれます。
各コンピタンスの割合や特徴、適性の高い仕事・環境などを確認することができます。
※結果を保証するものではありません。診断結果はあくまで参考程度にお考えください
キャリアアンカー 質問票
診断ツール以外にも、キャリアアンカーを考える際に手助けをしてくれるツールには質問表があります。
ツールを使わない方法
ツールを使わずに自分の価値観を明文化する方法もあります。
方法はとても簡単で、[1]尊敬している人の特徴(尊敬しているところ)を思い浮かべ、[2]特徴を書き出せば終わりです。
書き出した内容には、その人が持つ能力、日ごろの態度、仕事に対する考えなどが書き出されているはずですが、それらは自分自身が大切だと考えていることと同じです。
つまり尊敬している人の特徴が自分自身の価値観といえるのです。
反対に「こんな人にはなりたくない」という人がいれば、その人の特徴を書き出すことでも見つけられるはずです。
書き出された特徴の間逆が自身の価値観ということです。
他にも過去の自分を振り返る方法があります。
例えば進学する学校を決めたとき、部活動を始めた(もしくは辞めた)とき、恋人と別れたときなど、何かを決めて行動したときのことを思い出してみましょう。
そのときには「自分が大切にしていること」や「譲れないこと」や「条件」など、決断に至った何らかの理由があったはずです。
その価値観や動機などもキャリアアンカーにつながる自分の中の判断軸といえるでしょう。
キャリアアンカーはこうした方法でも探求することができます。難しく考えず、一度試してみると面白いかもしれません。
この記事のまとめ
キャリアアンカーはキャリアの選択の際に大切な判断軸。
何が正しいか、間違っているかということはなく、個人の能力や意欲、価値観などから形成されていくものです。
その判断軸は「アンカー(いかり)」と名付けられた通り、一度打たれると簡単には動かないといわれています。
キャリアアンカーは社会人経験を経ることで、より具体的になっていくとされてはいますが、年齢に関わらず「現在の自分」のキャリアアンカーを考えてみてもよいでしょう。
経験を経るごとに診断すれば、自身の変化を知ることにもつながります。
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