放射線治療の患者さんの看護でやりがいを感じたとき
看護師として働いていて、忙しさに嫌気がさしていても、残業続きで疲れ切っていても、やはり患者さんから感謝の気持ちを向けられることは嬉しいものです。
お仕事ですし感謝されるためにしているわけではないのですが、患者さんから信頼されている、感謝されていると感じると仕事に対してのやりがいを感じることができます。
今回は私がとても看護師の仕事にやりがいを感じる事ができた1人の患者さんとの関わりについてお話したいと思います。
本当に痛くない?我慢している?治療の痛みを我慢しているかもしれない患者さん
今回ご紹介するのは、放射線治療をしていたAさんとのエピソードです。
私はAさんの受け持ち看護師でした。
Aさんは放射線治療の影響で日に日に口内炎の状態が悪化し、とても痛そうでした。
しかし、このくらいの状態になると医療用麻薬を使用する患者さんもいるというほどになってもAさんは「痛くない」と一番弱い鎮痛薬も飲もうとしませんでした。
いつも穏やかな顔で看護師にも優しく接してくれ、食事も全部召し上がっていたことから最初はみんな痛くないという言葉を信じていました。
驚くべきことに、口内炎かどんなに酷くても実際に本当に痛みをほとんど感じることなく過ごされる方も実際にいるからです。
けれど私は痛みを隠しているのではないかという気持ちが消えませんでした。
みんなが「まだ痛みは出ないですか?」という質問をする中、私は「今本当はどのくらい痛いですか?」とばかり聞いていました。
今考えると患者さんが嘘をついているのだという態度の質問だったととても反省しています。
けれど痛いはずなのにそれを隠すのは何故なのか、痛むなら鎮痛薬を使って良くなってほしいという気持ちでどうしたらいいのか医師やリハビリスタッフも含め周りに相談していました。
しかしどのスタッフにも「痛くない」と答えるので結局何もできていませんでした。
患者さんの家族との関わりでわかったこと
治療前のインフォームドコンセントの時からAさんのご家族とは顔を合わせていました。
家族の方、特に奥様がとてもAさんを心配されており、よく患者さんの様子を知りたがって病棟に連絡をくださる方でした。
ある日、「本人に聞いても大丈夫としか言わないから。」という奥様の言葉を思い出し私の方から連絡してみました。
奥様ならAさんが痛みを我慢しているのかそうでないのかわかるのではと思ったからです。
「ご本人は痛くないとおっしゃるんですが、奥様には何か話されますか?」との私の質問に奥様は「私にも大丈夫としか言いません。でも痛いと思いますよ。普段から我慢強い人でしたけど特に痛みに関しては絶対に痛いと言わない人なので」と答えられました。
痛み止めを飲んでもらうにはどうしたほうがいいと思うかという質問には、「薬が増えるのが嫌だと思うので難しいかもしれないです。」と答えられ電話は終わりました。
そこで、奥様が言うならやはりAさんは痛いのだと確信しましたが、痛み止めを飲んでもらう方法は思いつきませんでした。
周りのスタッフからも食事はとれているのたし本人の好きにしてもらったほうがいいのでは?と言われるようにもなり、どうするべきなのか更に悩んでしまいました。
患者さんから痛みがとれた喜び
Aさんは確かに毎食間食されていました。けれど流動食です。
流動食になったのは放射線治療の前にした手術の影響で、痛みのためではないのですが、本来なら普通食を食べ始めてもいい時期になっているのに本人からの希望で流動食のままでした。
それもあって本当は痛いのだろうなと思っていました。
あることを思いついた私は、ある日Aさんの食器を下げながら何か食べたいものはないかを聞いてみました。
先生から差し入れのもの何でも食べていいと許可をもらったことを伝えるとAさんは真剣に考えてくれて、フライドチキンが食べたいと話されました。
でもどうせ食べられないと言われたので、Aさんにそれを食べる時だけ痛み止めを使ってみることを提案したら少し考えてみるとのことでした。
それとは別に、Aさんが普段飲んでいる血圧の薬を減らせそうだと先生から聞いたため、先生に「先生からAさんに血圧の薬を減らす代わりに痛み止めを飲まないか提案してほしい」と頼んでいました。
Aさんはそれに対しても考えてみると返されていたようです。今まで「いらない」の一点張りだったことを考えると進歩です。
その日の夕方にAさんのほうから「まずは寝る前に試したい」との返事がありました。
嬉しくて、夜勤の看護師に絶対に渡すのを忘れないでほしいと申し送って帰りました。
次の日の朝、Aさんから「思ったより眠れた。2時間しか効かなかったけど効くんだね。」と言われました。
私はAさんの状態で弱めの痛み止めがこれだけ効くなら痛みをもっとなくすことができると言いましたが、Aさんはこれでいいと言われました。
でも続けて飲むことになったのが嬉しかったです。
それから奥様が持ってきたチキンも少し食べることができ、普通食へのやる気を出してくれたAさんは食前にも痛み止めを飲んでくれるようになりました。
ある日、いつもの問診の際に「病院での時間は長くて仕方なかったけど、今は色々やりたいこともあるし退院へのやる気も出たよ。ありがとう。」とAさんに言われました。
今までしつこく痛みのことを聞いたり痛み止めを勧めてきたことに不安もあった私は、その言葉を聞いて本当に嬉しかったです。
色々私のやり方にも反省点はありましたが、それは次に活かすそことで何かを我慢している患者さんの役に立てたらと思うようになりました。