ワークシェアリングとは
導入が進むと企業だけなく、雇用される側の働き方にも大きな影響を与える可能性がある仕組みです。
ワークシェアリングの意味や目的、また注目を集める理由は何なのでしょうか。
ワークシェアリングとは
ワークシェアリングは、雇用政策のひとつです。
労働に使われる1人あたりの時間を短縮し、1つの仕事を複数人で取り組む手法のことで、社会全体での雇用者数の増加させることが狙いです。
『仕事(=ワーク)を分かち合う(=シェアリングする)』ことから、ワークシェアリングと呼ばれています。
不況や業績悪化などの場合でも、ワークシェアリングが取り入れられると雇用の維持ができます。
勤務時間などの労働形態の自由度が高くなれば、新しい雇用を創出することもできます。
そうすることで雇用の安定が促され、ひいては経済の安定化を図ることができるのです。
このワークシェアリングを社会全体での取り組みとして推進するために、政府は研究結果の発表や事例公開、助成金の支給などを行っています。
ワークシェアリング導入の背景と目的
日本では2000年代前半から取り組みが始まりましたが、さまざまな理由から導入が進みにくい政策といわれていました。
ところが近年、ワークシェアリングがふたたび注目を集めています。
ビジネスパーソンの過剰労働が議論されるようになり、働き方の多様化を希望する声も以前より大きくなっています。
その解決方法として、改めてワークシェアリングにスポットが当たっているのです。
雇用の創出・維持による経済の安定は社会全体で得られるメリットですが、ワークシェアリングによって働き方に選択肢を持てることは、個人にとっても意味のあることといえるでしょう。
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ワークシェアリングの分類
雇用の「維持」と「創出」という点でワークシェアリングの説明をしていますが、厚生労働省が発表しているワークシェアリングには4つの類型で「維持」と「創出」についての解説があります。
1.雇用維持型(緊急避難型)
業績悪化などの際に、緊急措置としてのワークシェアリング。
社内の雇用を維持するために、1人あたりの労働時間を短縮する方法です。
2.雇用維持型(中高年対策型)
中高年層を対象とした雇用維持対策です。
中高年層の従業員の労働時間を短縮して、対象の雇用を維持する方法です。
3.雇用創出型
多くの人に雇用機会を提供するために、国もしくは企業が全体の労働時間を短縮する方法です。失業者の雇用を創出します。
4.多様就業対応型
より多くの人に対して雇用の機会を提供するために、正社員の勤務形態を多様化する方法です。
ワークシェアリング導入のメリットとデメリット
ワークシェアリングの導入には、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
両側面から特徴を把握しておけば、日本の現状についての理解が進むかもしれません。
メリット
<雇用の維持・創出>
仕事を必要としている人に雇用の機会が生まれます。
また企業の経営状態が悪化した場合でも、安心して働くことができます。
<長時間労働の削減>
1人あたりの労働時間を短縮して仕事を分け合うため、労働時間は当然少なくなります。
特に長時間労働をしている人の場合は労働時間の大幅な削減が期待できます。
<経済効果>
余暇時間が増えることによって、個人消費の増加や子育て対策にも効果が期待できます。
また過剰労働を起因としたストレスなどが減少することで、メンタルヘルスケアによる経済損失も抑制できます。
デメリット
ワークシェアリングのデメリットは、日本で導入が進まない理由にもつながっています。
課題点を確認しておきましょう。
<雇用の格差>
現状、正社員とパートでは所得に差があります。
この状況のままパートの雇用だけが増えるようなことがあれば、雇用形態による格差がますます広がります。
また低所得層の増加にもつながるため、経済効果も期待できない可能性が高いといえます。
<生産性の低下>
仕事内容によってはシェアリングの難易度が高い業務も存在します。
特に専門性の高い業務などでは複数人が関わることで、生産性が低下することも考えられます。
<企業側の負担>
企業は雇用者が増えると経費負担も増加します。
企業規模によってはその負担に耐えられない企業がでてくる可能性もあります。
海外の事例(オランダ)
日本でのワークシェアリングは、オランダでの成功例を参考に取り組みが検討されました。
オランダが実現したワークシェアリングの中身についてみてみましょう。
<導入の背景>
オランダでは1960年代に発見された天然ガスによって得た外貨収入をもとに、社会保障制度の整備が進められました。
ところが輸出の拡大を進めたことで自国通貨高となり、製造業の競争力が低下。
産業が衰退する中、社会保障制度が大きな負担となりました。
財政状況は一気に悪化し、低い成長率と高い失業率に苦しみました。
この状況は「オランダ病」と呼ばれています。
そのオランダ病を克服する政策として、ワークシェアリングが導入されることになりました。
<取り組み内容>
ワークシェアリングの導入にあたっては、政府・雇用者団体・労働組合との間でワッセナー合意が締結され、労働法を改正しました。
賃金上昇の抑制やフルタイム労働者とパート労働者の待遇均一化が定められたほか、減税や社会保障負担の削減なども同時に行っています。
政府・雇用者・労働者それぞれの権利と義務を法律として制定したことで、ワークシェアリングが浸透していきました。
<成果>
失業率が大幅に改善されました。
1983年には11.9%まで上昇した失業率は、2001年に2.7%まで低下させることができました。
現在ではワークライフバランスの先進国といわれています。
日本企業の導入事例
日本のワークシェアリングが上述のオランダでの成功事例を参考に始まったことは、すでに説明した通りです。
では肝心の日本での事例には、どのようなケースがあるのでしょうか。
厚生労働省が公開している導入事例を確認しましょう。
京都に本社を置く、東証一部上場の半導体製造装置メーカーの事例
<導入理由>
半導体業界の市場成長が急速に失速し、長期化が懸念されることから「緊急非常事態」への対応としてワークシェアリングを導入しました。
<具体的な内容>
・工場に関連する部門にて週3休制を実施し、月あたり4日間の休日を増加(うち1日は有給休暇の一斉取得)
・有給休暇を除く休業日分は給与の支払いは行われないが、日割給与の8割を補償として支給
・生産量の落ち込みによってできた時間を活用し、OJTトレーニングを実施
・3カ月の予定で開始したが、需要の回復が予想より遅かったため3カ月延長。社員間の公平性に配慮し、対象を全部門へ広げた
<結果>
・リストラをせずに済んだため雇用を維持できた
・雇用維持の方針をとったことで、使用者と労働者間の信頼関係を強めることができた
・需要回復した際、速やかに生産体制に入ることができた
・期間中にOJTトレーニングを実施したことで通常形態に戻ってからの生産性が向上した
厚生労働省が発表では他にも数社の事例が紹介されています。
日本でのワークシェアリングの効果を実証する好事例ではありますが、いずれも10年以上前と古く、雇用維持型の取り組みが中心です。
今後さらなる事例の登場が期待されています。
ワークシェアリングを目的とした求人の状況
時間や曜日を限定して働ける仕事の場合、パートやアルバイト、派遣など正社員以外の募集が求人の多くを占めています。
その傾向が変わるまでには少し時間がかかりそうですが、一部では働き方の多様性に着目したワークシェアリングの試みが行われています。
政府主導というよりも、各業界のリーディング企業が率先して始める傾向がみてとれ、時短正社員や週3日制の導入などはすでにいくつかの企業で実際に行われています。
この記事のまとめ
ワークシェアリングのメリットは社会全体に影響を与えるため、導入には大きな期待が寄せられています。
一方でワークシェアリングの浸透には雇用に関する法整備を同時に行うことが必要不可欠です。
大きな課題が横たわっているのが現状ではありますが、少子高齢化や労働力人口の減少、労働価値観の変化など、日本をとりまく経済環境はワークシェアリングを受け入れやすい状況へと変化していくのではないでしょうか。
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