生活相談員の仕事をするうえで大切にしていること
わたしは生活相談員としてデイサービスで働いています。
介護施設を利用される方やそのご家族の相談に乗って利用の手続きをし、よりよい生活が送れるようにお手伝いをするのが、生活相談員の主な仕事です。
生活相談員としてご利用者やそのご家族と接するうえで、わたしが大切にしていることが3つあります。
① 相手の話を”聴く”
② 専門用語を使わない
③ 説得よりも納得
以上の3つです。ひとつずつご紹介していきます。
① 相手の話を”聴く”
ご利用者やご家族が「何に困っていて何を希望しているか」を知るために、まずは相手の話をよく聴くことを意識しています。
たとえば、はじめてデイサービスを利用するAさんがいるとします。
お風呂の時間になりスタッフがAさんに声をかけると、Aさんは「入りたくありません」と言って入ろうとしません。
どうにかして入ってもらおうと必死になるスタッフ。
しかし、結局入浴してもらえませんでした。
Aさんとそのご家族に詳しく話を聴いてみると、「お風呂はいつも家で入っている」とのことでした。
「わたしは家だと何もすることがないから、デイサービスでみなさんとお話がしたかったの」と話されるAさん。
Aさんはお風呂に入ることよりも、お話をすることの優先順位が高かったのです。
あらかじめ生活相談員がAさんやご家族から話を聴けていれば、「お風呂には入ってもらえなくてもいいから、そのかわりにお話する時間をたくさんつくろう」と、Aさんのご希望通りに過ごしてもらえたはずです。
ご利用者やそのご家族によって、デイサービスに求めるものはそれぞれ違います。
ですから、生活相談員としてその方たちの求めを丁寧に聴くことを意識しています。
ここで、相手の話を聴くときのポイントをひとつご紹介します。
それは、相手が話しているときに口をはさまないことです。
人は相手の話を聞いていると、ついつい「わたしの意見」を言いたくなるものです。
ですが、「わたしの意見」を言ってしまうと相手の話をさえぎってしまい、相手は気持ちを十分に吐き出せなくなってしまいます。
話を聴く段階では自分の意見をはさまず、相手に最後まで話し切ってもらうことをぜひ意識してみてください。
② 専門用語を使わない
「以前よりもADLが低下しています」
「たまに異食行動がみられます」
「車イスからのトランスは全介助です」
・ADL…食事・排泄・入浴など、日常生活を送るために必要な動作のこと。
・異食行動…食べもの以外のものを口に運ぶ行為。
・トランス…トランスファー。ベッドから車イスへ移るなど移乗動作のこと。
このように、介護業界で働いているとさまざまな専門用語を耳にします。
専門用語は、専門職の間で話をするときにはとても便利なものです。
しかし、ご利用者やそのご家族と話をするときにも専門用語を使ってしまうと、話が相手に伝わりません。
たとえば、「以前よりもADLが低下しています。」とご利用者やご家族へお伝えしても、理解してもらえないのです。
「以前よりも体の動きがよくありません」とわかりやすい言葉に変換すると、相手の目線に立った伝え方になります。
とはいえ、専門用語を覚えたてのころはつい使ってみたくなるものです。
何を隠そう、わたしがそうでした。
「専門用語を使っているわたしって専門職っぽい」と思っちゃうものなのです。
しかし、それでは相手目線ではありません。
もちろん、専門職として専門用語の知識は必要不可欠です。
ですが、専門用語がわかったうえで相手にわかりやすい言葉で話ができる人こそ、本当の専門職だと思います。
それなので、わたしはなるべく専門用語を使わず、わかりやすく表現するように心がけています。
③ 説得よりも納得
ここで言う説得とは、理詰めで相手を言いくるめることです。
たとえいくら論理的に説明しても、人はなかなか納得してくれないものです。
以前こんなことがありました。
デイサービスを利用しているKさん。
ある日、Kさんのご家族から怒り口調で電話がかかってきました。
電話の内容はこうです。
「うちのおばあちゃんがデイサービスから帰ってきて、おなかが痛いと言っている!おかゆを出してほしいとお願いしているが、ちゃんと作ってないんじゃないですか!!」
確認するとちゃんとおかゆで出されていたため、こちらに非はないことがわかりました。
この事実をはやく説明して誤解を解きたいと思ったわたしは、すぐにKさんのご家族へ連絡して、事情を説明しました。
ところが、Kさんのご家族の怒りは収まりませんでした。
それどころか、かえってKさんのご家族を怒らせる結果となってしまいました。
うまく対応ができずに落ち込んでいたわたしに上司が教えてくれた言葉が、「説得より納得を」です。
人は感情の生き物です。
論理よりも感情で人は動きます。
つまり、相手に納得してもらうためには、理屈で説明するのではなく相手の感情に寄り添って話をする必要があるのです。
Kさんのご家族は、きっとKさんが腹痛でつらそうにしていることを、わたしにわかってほしかったのだと思います。
わたしはKさんのご家族の気持ちに共感することなく、こちらの言いたいことだけを伝えていました。
その結果、わたしの言葉はKさんのご家族に届かず、いくら事実をお伝えしたところで納得してもらえなかったのです。
このことがあってから、わたしは理屈だけでなく相手の感情に寄り添ったコミュニケーションを意識するようになりました。
相手に共感を示したうえで話をすることって、とても大切なことだと思います。
ここでは、わたしが生活相談員として大切にしていることを3つご紹介させていただきました。
これから生活相談員を目指す方の参考になれば幸いです。